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いまさらだけどカイジの地下チンチロ編が傑作すぎる件

家族全員一日外出録ハンチョウが大好き!フォンドです。

きらら日常系ギャグ漫画の「カイジ」。わりと最近までギャンブル漫画だったそうです。やっぱり秀逸なパートとして呼び声高いのは「地下チンチロ編」だと思います。

もはや万人が傑作と認めているのは周知の事実ですが、改めて絶賛したいと
思います。


ネタバレ注意!基本のあらすじ

1996年からヤンマガ一筋で連載されているカイジ。地下チンチロ編と沼編は
2000年22号~2004年9号の賭博破戒録カイジに収録されています。僕が2001年生まれです。

以下あらすじ。ご存知の方は読み飛ばして下さい。1000文字ぐらい。

前作・賭博黙示録カイジで1000万円ほどの借金を背負ったカイジは、金融会社に身柄を確保され地下の強制労働施設で働くことに。つらい土木工事に従事する間は利息が無しになる神制度。しかし日当は3,500円。そのうち2,000円が借金返済に充てられ、施設利用料でさらに1,150円が抜かれ、実質日当は350円。月に26日で給料は9,100円。円の1/10の価値である「ペリカ」という地下でのみ使用できる通貨で支払われ、91,000ペリカを娯楽に使用できます。

勤労奨励オプションとして設定された景品の一つ、1日外出券。50万ペリカという大金を貯め、外の世界に出て、借金を返済できるほどの額をギャンブルで手に入れ地下生活からおさらばしたいカイジ。しかし半年はほとんど娯楽に使わずに、つらい労働に従事しなければなりません。カイジらをまとめるE班の班長大槻にそそのかされ、ビールやおつまみを購入してしまうカイジ。あっという間に残金が尽きる。大槻から翌月分の給料を前借りし、60,000ペリカを得たカイジは地下での賭博「チンチロリン」に参加することに。大槻、石和、沼川の大槻グループに自身の親番を狙われ大金を張られます。一度は勝利するものの、二度目で大敗。給料の前借り分を失ったため、翌々月の給料を前借りする状態に。正規の給料の半分、45,000ペリカを毎月受け取る人物はカイジを含めE班に6人。先の大敗に敵のイカサマが絡んでいると気づいたカイジは、この「45組」で逆襲を誓い合います。

持ち金を出し合い、給料を受け取らずに3ヶ月わずかな娯楽で耐えようとする45組。1ヶ月受け取らなければ60,000ペリカ、そして2ヶ月受け取らなければようやく正規の給料がもらえます。大槻グループのいやがらせにも耐え、ついに彼らは正規の給料を受け取ります。そこで開かれた賭場。給料日後ということもあり大賑わい、そんななか、カイジと大槻の因縁の対決がスタート。金額の上限を撤廃し、青天井で受けると豪語する石和に対し、上限そのままの2万ペリカで勝負するカイジ。しかしあっさりと負けてしまいます。大槻の親番で勝負をかけたカイジは、45組を呼び6人の持ち金全額「507,000ペリカ」を賭けます。

ここでイカサマを指摘して、大槻グループ相手に大勝。1,800万ペリカほどを得たカイジたちは、45組の他のメンバーの意向により、カイジ1人で80万円の現金を手に20日外出。「沼編」で一発逆転のパチンコに挑むことになります。

地下チンチロのルール

最後え~らい駆け足でしたが、ここからは自分がなぜ傑作だと思ったかについてを発表して、地下チンチロの話について深堀りしていこうと思います。

敵が自分たちのために作ったルールを、カイジが逆に全て利用して勝つ。

ここがこの地下チンチロのすごい部分だと思います。E班大槻グループの3人が自分たちのイカサマをバレないようにするために作った穴の無いルールを、逆に利用して大槻に致命的なダメージを与えたのです。

チンチロのルール
・親と子、1対多の勝負。
・3つのサイコロを同時に振って、出た目の大きさを争う。
・113なら3の目、665なら5の目。
・目が出なければ3回までサイコロを振れる。
・特殊な出目として、123(ヒフミ)は賭けた額の倍払い、456(シゴロ)は賭けた額の倍もらえる。
・333、666などのゾロ目は3倍貰い。111(ピンゾロ)のみ5倍貰い。
・サイコロが外に出てしまうと「ションベン」となりもう振れない。目無しとションベンの場合目無しが勝つ。親で123を出しても子がションベンの場合引き分け(大槻談)。
・親と子で同じ目が出た場合引き分け。

地下チンチロの追加ルール
①親番はスルーできる。
②賭け金の上限は2万ペリカ。両者の合意があればこの限りではない。
③親がどんなに強い目を出しても、子も振れる。逆も然り。
④親は2回。1の目、123、ションベンの場合、1回で終了。

大槻のイカサマの手口は「出目が456しかないサイコロ(シゴロ賽)」をここ一番で使用することでした。カイジが親の場合、「カイジ→他→石和→大槻→沼川→他」とサイコロを回し、大槻が親の場合は「大槻→沼川→他」と回します。石和と大槻がシゴロ賽を使い、沼川が回収してふつうのサイコロに戻す連係プレー。

シゴロ賽は確かめれば余裕で気づくものですが、サイコロはひとりの視点からは三面しか見えないため、周りの目からは正常なサイコロのように見えるのです。大槻グループが3人固まっているのも、大きく回り込まれてチェックされないようにしたいという思いから。

カイジは最初の対決ではこれに気づかず、大敗してしまいました。それでも一度目は自身は5の目を出し、2万ペリカずつ賭けた石和と大槻は「466」「455」で4の目となり、勝利しています。二度目も6の目を出したものの、石和の「456」と大槻の「555(5ゾロ)」の前に玉砕。

これがすごい部分で、シゴロ賽を使うと必ず勝てるわけではありません。これがいい目くらましになっています。ただし、使うと必ず一度目に目が出るようになっています。これもシゴロ賽の特徴。45組のうちのひとり、三好のメモによってこれに気づいたカイジは、シゴロ賽を使っていると確信。逆に利用してやろうと計画を企てます。

507,000ペリカの賭けを前にした大槻は、カイジにイカサマがバレていると思い、通常のサイコロで二度振ります。出目は二度とも目無し。ここで45組の安堵の表情や、動かないカイジを見た大槻は、「なにか怪しいことに気づいているがその内容までは気づいておらず、この大張りと周りの目によってそれを止めさせているのではないか、杞憂なのではないか」と勘繰ります。

三度目でついにシゴロ賽を使い、もうカイジに目もくれません。これに気づいたカイジはシゴロ賽を使ったととっさに判断。サイコロが回っているときに丼を押さえ、A班班長の小田切の立ち合いにより全員にバラすことに成功。

ルールを全て逆に利用する

ここで「回ってる途中だったから出目は確定していない、イカサマをしていない」「ノーカン!ノーカン!」とMAD語録ばかり喋ってゴネる大槻に対し、「やり直しではなく続行」。大槻の目はこの特殊賽の最弱の目「4」とし、カイジらも特殊賽を仲間内で使用することを条件に続行することを提案。

シゴロ賽であれば最高でも3倍払いで済む。なんなら引き分けすらあり得るとほくそ笑む大槻。それに同意してしまいます。

するとカイジは、Tボーンステーキの骨を削り、自分の血をすり込み、前もって作っておいた「1の目しかないサイコロ」を振ってピンゾロを出します。特殊賽=シゴロ賽ではなかったのです。イカサマを使用した大槻への因果応報だと、周りはカイジの味方につき、勝負は決着。2,535,000ペリカを得ます。

しかし、親は2回。青天井というルールに加え、「大槻の出目は4」とし、大槻の逃げ道を潰したカイジの頭脳プレーにより、507,000+2,535,000=3,042,000ペリカの勝負が強制的にもう一度。大槻は通常のサイコロで3の目を出し、6連続ピンゾロの前に敗れ、1521万ペリカをさらに奪われることに。カイジたちは50万ほどを元手に、1800万ほどを得たのでした。

またあらすじを書くだけになりました。てへ。
それではルールについて、いろんな視点から振り返りましょう。

大槻のためのルール、それを突いたカイジ

大槻のための特殊ルール

①親番はスルーできる。
②賭け金の上限は2万ペリカ。両者の合意があればこの限りではない。

(大槻の建前)
みんなが少ない金でやりくりしているなか、2万より上はやりすぎ。親番も1対多でリスクがあるため、自由に選択できるようにした。

(大槻の本音)
シゴロ賽が使えない沼川に親を強制的にさせてしまうと、大槻グループが青天井を受けざるを得なくなったときに大変。

③親がどんなに強い目を出しても、子も振れる。逆も然り。

(大槻の建前)
みんなが少ない金でやりくりしているなか、親が6以上の目を出したときに総取りはあっけなさすぎてつまらないし、引き分けのチャンスもあることから、子も振れるようにした。

(大槻の本音)
大槻グループ以外の親が強い目を出しても、シゴロ賽を使えば勝ちうる。さらに大槻が親の場合、シゴロ賽が晒されたまま総取りとなると金の受け渡しが発生してしまうので、子の沼川にすぐに振らせてシゴロ賽を回収したい。

④親は2回。1の目、123、ションベンの場合、1回で終了。

(大槻の建前)
親のバカ勝ちを避けるため。

(大槻の本音)
大槻グループのバカ勝ちの印象を薄めるため。そして、前借りをするような人物は大勝ちを狙い親を受けるため、そこを潰すチャンスは増やしておきたい。

特殊ルールを踏まえたカイジの視点

最初、この特殊ルールにカイジは翻弄されます。

親の三好が1の目を出したのに、子も振るルールにより123を出してしまい倍払い(③)となってしまう。親を受けたとたん、負けたら借金となる2万×2人の賭けを挑まれる(②)。そこで勝利を収めるも親は2回受けないといけないルールで終わることができず(④)。そこでも6の目を出したのに石和のシゴロと大槻の5ゾロで大敗(③)。

しかし…

ここ一番で回収する大槻の異常さ(③)からイカサマの内容を特定でき、45組にイカサマを使っていることを示すことができた。沼川が青天井を受け入れられない(②)ことから弱点を確信。自分は親を受けず、大槻に親を受けさせることで(①)、自分たちの目いっぱいの額を賭けて、シゴロ賽を暴いたうえでピンゾロのサイコロを後に使える状況に持ち込めた。さらに大槻の親を1回で終わらせないために、「大槻の出目は4」として(④)さらなる勝負を仕掛けることができた。

完璧です。

特殊ルールによってカイジは負け、特殊ルールによってカイジは大勝ちを果たしたのです。

というか神視点の福本先生がスゴい。最初にピンゾロで勝つ構想を思いついたのか、シゴロ賽を思いついたのかは分かりませんが、敵のためのルールをこれでもかと逆利用したカイジを描けたのはものすごいことです。よく「ルールの穴を突いた」という感想をみかけますが、穴ではないような気がします。それほど大槻側の手口がうまく、そしてカイジたちの勝利を際立たせているような気がします。

おわりに

以下大槻の敗因。

・沼川の遠回しのメッセージに気づかず、三好にメモを取らせてしまった。
・いやがらせをして、土壇場で自分たちの敵を増やしてしまった。
・普通のサイコロで2投目までに普通の目を出せなかった。
・ゴネるタイミングを間違えた(2回目のときに普通のサイコロ勝負に持ち込めばよかった。ゴネても周りが許さないだろうけど)。

沼川は初めてシゴロ賽を見せられたときに、そのデメリットに対して大槻に指摘をしたり、かなりの慎重さを持った切れ者であると思います。やめさせるように言った沼川に対して大槻が寛大な心(笑)を見せて許してしまった三好のメモが無ければ、カイジにやられることもなかったでしょう。

チンチロのルールはあくまで土台。お話として追加された特殊ルールが完璧に絡み合い、伏線としても機能しました。だからカイジの地下チンチロは傑作なんです。

平等である必要はないが、公平感は客に与えねばならぬ。
大槻は帝愛でカジノを任されていたら、いい支配人になっていたかもしれませんねw

炭酸無理なのでビール飲めないです…とハンチョウの差し入れを断るフォンドでした。またね!



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