ずっと友達だったのに...。
中学3年生の春に、小倉さんと出会った。小倉さんは、容姿端麗の運動部所属で、友達も多かった。恋人を途切れさせたことが無いと噂も聞く、絵に描いたようなクール系優等生だった。
まさか、こんなにカーストの高い優等生と凡人な私が、友人として関係を築けるなどと思ってもみなかったことで、自分でも、とても驚いていた。
私と小倉さんとは、友達の友達として関わったことがきっかけで、いつの間にか、その友達よりも長い時間を一緒に過ごすようになっていた。
話していると気さくなのだが、時に「あの人、目立ち過ぎて嫌い。」「あの子、話しが面白くない。」といった発言が増え、真面目な印象から裏表のハッキリした正直な人、という見方に私の中で変わっていった。そのことを私は気にも止めず、むしろ裏を見せて貰えていることが信頼されている証拠だと感じ、安心に繋がっていた。
秋、文化祭の準備で係や部活動に所属するメンバーが招集され、体育館の支度を行っていた。私もその中に混ざり、セットの配置確認をしていたところ、たまたま同じクラスのBに、「誰?ここの区分を指揮している人。段取り悪すぎて小一時間は帰れないよ。」と、ある程度の声音で独り言を発した。私も、その発言に気づき、乱暴な言い回しを少々不快に感じていた。
その日、解散になると、小倉さんと帰路が同じになり、共に学校を出た。その際、私は、「今日、Bがさあ…。」と一連の流れを小倉さんに話した。小倉さんは、「Bってそういうところあるよね。」と共感してくれた。私は、Bとの関りはあまり無く、そうなんだと返事をし、いくらなんでも伝え方に棘があったと、言葉を重ねた。小倉さんは相変わらず親身になって聞いてくれ、本当に良い人なのだと感心していた。
次の日の登校の時間、私は教室に入ると、どこかざわついているクラスメイトから、殺伐とし重い雰囲気を感じた。入室と同時に、軽蔑の眼差しを向ける者やさげすんだ冷たい目をする者、スキャンダルを手にしてしたり顔を浮かべる者まで、クラス中が私を見ていた。私は、何も知らないまま立ちすくんでいると、「言いたいことがあるなら、直接言えばいいじゃん。陰口とか陰湿にも程がある。」とBがこちらへ詰め寄って来た。そこに、仲の良かった友人が割って入り激昂したBを引きはがしてくれ、一時の難を流れた。
私は戸惑いを隠せず、その場で固まってしまったが、Bの「陰口」という言葉に思い当たる節があった。それでも、まさかそんな筈はと、とある可能性を頭の中で打ち消し、他責へ逃れようとする自分をひどく責めた。Bを落ち着かせ、退出を促した友人は歩み寄ると、私に事の次第を話してくれた。一言目から実際に起こって欲しくなかったその可能性が、事実として私にのしかかり、固まった身体から根が生えたかのように、重ねて私の動きを封じた。
友人からは「元々、そういう人だったんだよ。私さんは知らないで付き合っていたんだと思うけど、友達が多いように見えて、顔が広いだけ。みんな、ある程度割り切って距離を置くの。悪い人じゃ、無いんだけどね。大丈夫、私さんはBを悪く言うような人間性じゃないって、皆ちゃんとわかっているから。」と慰め混じりの言葉をかけられた。
しかし、友人の励ましは、より私をみじめにさせるだけだった。決して友達の多くない私が、人を見定めることも出来ずに今度の結果を招いてしまった。
この時私は、人は泥を食べて大きくなるのだと、涙も流れない深い悲しみの中、この先の人生を悟ったのだった。