「ちゃんと話したことすらないよね。」
高校の教室でこんなに熱く話している。
今後の現代文の授業、何をしていきたいか真剣に語っている。
それは白熱し鼻血をも垂れ流しながら討論している。
ティッシュもしてなければ誰も注意すらしない。
血を吐き続けながら議論は続く。
ゴンゴン(あだ名)が異様に自分に反論を続ける。
普段穏やかなゴンゴンからは到底想像つかない姿だった。
自分が平気で床に血を吐く姿を見てゴンゴンの顔は更に曇っていった。
多分これが今回彼の反論の引き金だろう。
具体的には答えられないが、なにわともあれ彼には耐えられない状況。
これこそが自分への大反論に追い風を吹かしているのだ。
「ゴンゴンのこんな顔久しぶり見たな。」
そんな事を思いながら討論は続いた。
話していくうちに自分の言い分は否定され続けていったのであろう。
終いには
「じゃあ何がしたい?みんな意見が違うのは当たり前。分かり合えないのはしょうがないよ。
今まで生きてきた環境が違うんだから、
みんな違う考えを持っているよ。あなたは何がしたい?」
と普段飲みの場で口論になったら使おうと思っていた、あくまでも自分は冷静ですよアピールを含めた渾身のフレーズを堂々と同級生に披露している。
正に奥の手。自分でもそう思っていた。
しかし現実は周りの反応関係なく自分の痛さに
自分が耐えかねていた。
自分の想いってもんは口に出してようやく世で
役に立つか否か分かるもんなのか
あんなに切り札として隠し持っていたはずが
口に出した途端効力を失っていくではないか。
心に秘めたままだったらいつまでも自分の中で
最終兵器として居座っていたろうに。
今後このフレーズを使うのはよそう。
自分の今後のスクールカーストが揺らぎかねない大博打の甲斐あってか少し風向きが変わり、
ようやく自分の流れになり始めたところで1人の生徒が言った。
「四通しがいい」
自分に悩みを打ち明けたかのように真剣な眼差しでその生徒は答えた。
この子の名前は思い出せない。
健三と雅之を足して一晩寝かしメガネをかけさせたような顔だった。
だが実際健三も雅之も時にはメガネをかける奴だった。
雅之に関しては中学生になってからは9割6分メガネだ。
真剣に答える彼の顔を見てなにか返さなければと思った自分は咄嗟に
「いいねっ!それ!それだよっ!」
とかなり深みのない返事をしてしまった。
今までのあの勢いはどこに行ってしまったのか。
今こそ自分の底の計り知れなさ、そして器の大きさが現れるアブノーマルな返事を誰もが期待していたであろう。
だが淡白な答えになるのも仕方がない、
自分は「四通し」なんぞ1ミリも知らないのだから。
聞いた瞬間
どこの誰の名作?
短歌集かなんかか? まず名作なんか?
ここ数年で1番頭を使ったのではないだろうか。
どちらにせよディープな作品に違いない。
しかしこれだけ熱く討論をしておいて、
「それは知らない。」
それだけは全俺が許さなかった。
あの鼻血はアドレナリンゆえでなく、もう既に
活動限界が近かった証拠だなんて死んでも誤解されたくなかった。
「あ!それ、あれだよね、パズドラのキャラでもいるよね!」
パズドラに出てくる四君子というキャラと四通しを間違えているふりをして知らない事を濁した。
あまりにも無理があった。
だが乗り切った。なんとか乗り切った。
今思えばこの時点で夢だと気付くべきだった。
そして1人の生徒、比屋根に
「よかったよ、本当によかった。まさに口を動かしなんとかの如くだね」
と知ってそうで知らないことわざで一連の行動を讃えられた。
そうしているうちに授業が終わったのか先生が
いないにも関わらず号令をし、熱く語っていた
勢いで自分が黒板を消していた。
なんなら号令も自分発信だった。
もう片端から誰かが消すのを手伝ってくれている。
「別に一人で消すのに。」
と思いながらも消している文字にふと目をやると
うっすらと
「〇〇部長には話しかけるな」の文字。
黒板はその文章の羅列だけで成り立っていた。
心がぎゅっとなった。その時何故かこれは自分の事なんだろうと思った。
自分が部長かどうかも知らないのに。
消してるうちに、何か違和感を覚えた。
「ん?まてよ、実際もう26歳なのになんで俺いま高校にいるんだ?」
夢と現実が入り混じりもう醒める寸前になっていた。
同級生のみんなもそうだ。本当に同級生なんだからここに居るのはおかしい。
自分は黒板消しを一旦止めて教壇に立った。
「頭がおかしくなったわけではないんだけど」
と前置きをし、
「今ってさ、20⚪︎⚪︎年の何月何日か分かる?」
と尋ねた。
2000年代ではあるだろうという変な根拠はあった。
皆はそれを聞いて、
「何って」
「今は2011年」
「8月」
「6日」
とまるで自分のセリフがあるかのようにテンポ良く生徒が一人ずつ答えていった。
「6日」を答えたのが塔麻だったのだけは覚えている。
相変わらずきれいな坊主。野球部のキャプテンだ。
野球部の最後の夏は彼のエラーをきっかけに散っていったらしい。
普段はあんまり見ない、人を小馬鹿にしたような顔で本人はどこか楽しそうに6日と答えていた。
いざそれを聴いた自分はもっと確信的なものが欲しく
「証拠、証拠、証拠を出してよ」
とどめの一発を求めた。笑顔で偉そうだったに違いない。
なぜなら、それはタイムリープという言葉が頭をよぎっていたからだ。
最近のアニメでよく聞くタイムリープ。
リープ系のアニメにハズレは無い。
なんなら自分の今年一のアニメはタイムリープ系だったから。
それも踏まえて少しワクワクしていたんだろう。
もしかしたら、もしかしたらあるかもしれない。
先ほどの醒める寸前の感情は何処かに消えていた。
自分の言葉を聞いた真ん中の席の女の子、沙織が鞄からプリントを出し指差した。
それは学校側が月一で配る予定表みたいな物だった。
沙織は8月6日を指差し
「今はここよ、この時間までにお昼を食べ終えて音楽室に行かなきゃ行けないんだけど、」
と気まずそうに答える。
そこには14:00 音楽室と書かれていた。
教壇の上の時計に目をやると今は14:10
完全にアウトだ。
なんだこの緩さは。と思ったが、それより気になったのはこの予定表。
かなり綿密にスケジュールされている。
こんな物を月一で学校は配っているのか、、?
不思議に思い、なんなら今さっきまで昼休みの時間だったのか?
と自分の今までの行動も含め疑いたくなったが
そんなんはともかくこんな紙切れじゃタイムリープなんて信じられない。
タイムリープは自分の憧れでもあるんだから。あの現実離れした超常現象に身を任せたい。
こんなうだつの上がらない生活はもう勘弁。
その一心だった。
「んーこれだけだとなぁ、やっぱりあれだよ。
携帯、携帯しか俺は信じないね。誰か見せてよ!」
授業に平気で遅れる奴らだ。今この時間が授業中だとしても携帯くらい出してくれるだろうと思い発破をかけた。
が、実際は予想外の反応だった。
それを聞いた途端みんなが目配せし始め、誰一人携帯を見せようとはしなかった。
今思えば自分に夢だと気づかせない為故の行動だったとも考えられるが、あからさまに携帯を出す事を皆が嫌がっていた。
急に本当の高校生みたいになったな、、、
不覚にもそう思い次の策をなんとか考え出そうとしているその時だった。
マフラーをし始め今にも帰りそうな女の子がスッと携帯を取り出した。桐花だ。
それを察知した周囲は明らかなざわつきを見せ桐花から露骨に離れ始める。
桐花は俺に日付を見せるかと思いきや、
避けるみんなを選別するようにカメラで写真を撮り別のマフラーの男の子、氷太にむけてこう言い放った。
「これ、氷太が授業中伊達メガネかけてる時にチラ見してた女達。」
と氷太に半分怒りを込めて写真を送り付けていた。
付き合っているのだろうか、
少し寂しくなった。
しかし何故今こんな行動を取ったんだ
伊達メガネしてる時にチラ見していた女達?
別にいいじゃないかそれくらい。。
こんな謎のやり取りを続けているにも関わらず先生誰一人様子を観に来やしない。
普通の先生であればクラス全員が10分以上もの遅刻をしてたら流石に様子を観に来るだろう
さすがにこれは何かおかしいと思い廊下に出ようと入り口の扉を開ける。
そこはもう知らない夜の道だった。
「やっぱりこの流れは夢って事か。。。」
少し街灯が灯っているが、夜道なのに純粋な青と認識出来るほど、画家が描きそうな夜の道。
少し先のT字路を覗くと自分はここから来たんだろうなと思わせるような地元にも似た道が続いていた。
学校側を振り返るともう教室はなく自分の手にはなぜか桐花の携帯らしき物だけが残されていた。
Fin.
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