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こんな本はいかが⑥ トキワ荘の青春 石ノ森章太郎

トキワ荘絡みの本が好きだ。
事実は小説より奇なりと言うが、戦後漫画黎明期に、漫画をただただ描き続けた人々の悲喜こもごもの人間模様が下手な漫画より面白い。

トキワ荘絡みの本は色々と読んできたが、この本が(石ノ森イズムたっぷりのロマンチックさ、ポエム感はあれど)トキワ荘の人々を一番誠実かつ虚を少なめに描写したのが本書かと思う。
(他のトキワ荘絡みの本もいつか紹介したいですね)

本の前半は自身のデビュー前から上京後の様々なエピソード。
レコードプレーヤー欲しさに読み切り単行本を描いてお金の足しにして、食費は底をつき空きっ腹でレコードを聴いたこと、銀座の寿司屋で何気なく食事をして目が出るような料金を請求されたこと、銭湯が苦手かつ金欠なので、アパートの共同炊事場で深夜に風呂代わりにこっそり水浴びしたなどなど…当時の赤裸々な物語が次々と語られる。

後半は、石ノ森章太郎氏の創作の根源とも言えるお姉さんへの想いが、当時連載していた雑誌の廃刊や世界旅行の件とともに詩的に綴られ、そして一緒に過ごした仲間たちの紹介、そして終盤にはトキワ荘を出るまでの経緯が語られる。

個人的には前半の、描きたい漫画が描けず(あるいは石ノ森氏のアシスタントばかりしていて)自信喪失し貯金も尽きかけ漫画家を諦めかけていた赤塚不二夫氏のもとに、雑誌の穴埋め原稿依頼が飛び込み、念願のギャグ漫画を渾身の思いを込めて描いたところ、本人に告知なく連載が決定し(届いた見本雑誌に描いてあり仰天して編集部に確認の電話をした とのこと。時代ですね)泣いて喜んだ、というエピソードが非常にドラマチックで大好きだ。
(石ノ森氏のエピソードじゃないのかよ!)


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