FF10の新作歌舞伎が大変素晴らしかったという話について(※ネタバレ有り)。

はじめに

新作歌舞伎ファイナルファンタジー10とは、その名の通りFFXの世界を歌舞伎で表現した新作歌舞伎です。

発売してから数十年経過しているゲームを歌舞伎化すると聞いたときは耳を疑いましたが、FFシリーズの中では最も好きな作品でもあるFFXの新しい試みには興味があり、休暇をとって観劇に伺うことにしました。

ただし同ゲームはプレイ済みでも、歌舞伎についてはまったく知見のない素人です。そんな自分が休憩込みで9時間近く上映される歌舞伎を見て楽しめるかどうかは不安でしたが、これは杞憂でした。

感想を一言で言うと、歌舞伎に詳しくない人でも引き込まれてしまうFF10の新世界が広がっていました。

※以下ネタバレ有り

後編の休憩時間に撮影した外観

1.原作再現とオリジナルのバランスが適切

攻略に多くの時間を要するFFXを歌舞伎に落とし込んでいるため、当然ながら原作の全シーンを演じているわけではなくストーリーに細かい調整が入っています。しかし抑えるべきところは外していない印象を受けました。

一例を挙げると、原作でとある出来事がきっかけでリュックがアルベド族と気づいたワッカが「反エボンの〜」と口撃するシーン。エボンを信仰する人々がアルベド族という人種に対してどのような心情を持つのか、教えを信じるあまり思考が止まってしまっていることを印象付ける重要なシーンだと思っています。
歌舞伎ではこのきっかけとなる出来事こそカットされていますが、リュックの加入時に上記のやりとりが発生します。演者の熱演もあり近距離での言い争いは非常に迫力があり、ここで持ってくるのかと舌を巻きました。

加えて、原作ではあまり語られていなかったシーモアの父との確執や、キマリ達を通した後のロンゾ族なども演じられています。特にシーモアに関する深掘りは多めで、本歌舞伎の中でも重要な立ち位置だったことが窺えます。

個人的に最も素晴らしいと感じたのは中村獅童氏(アーロン役)です。普段はクールに立ち振る舞いつつも本当は熱いというアーロンが良く表現されており、太刀を使った大立ち回りも演出と相まって映えていました。前編でのシーモアとのやりとりや、後編の対ユウナレスカでの快演はぜひ見ていただきたいと思います。

2.光とCG、回転ステージが合わさった演出

原作では水の表現に力が入れられたと言われますが、本歌舞伎では光の表現が大変素晴らしかったです。壁に映されるCGと床に浮かび上がる光の表現により、南国で緩やかな雰囲気のビサイド島、雪積もり厳しい寒さのガガゼト山、神秘的なマカラーニャの森など、今どのような場所にいるかをセリフなしに感じ取ることができます
戦闘シーンでの魔法のエフェクトとして利用する、プリッツボールの軌道を表現するなど演出でも活躍しており、「今のシーンよくわからなかったな」ということがありませんでした。

また本舞台となるIHIステージアラウンド東京は360度回転するステージですが、これにより移動するシーンなどの演出がより派手となります。照明、演出、音源、ステージの回転など、舞台裏では一体どれほどの人数でこの歌舞伎に参加しているのかと驚かされました。

3.初めて歌舞伎を見る方への配慮

これは本編とはずれますが、前編の開始前に歌舞伎の基礎的な動きを解説していただき、歌舞伎に詳しくない人にも楽しめるような配慮がありました。
前編の開始前に、物語の語り部となる中村萬太郎氏(23代目オオアカ屋/ルッツ役)が「見得(みえ)※」について解説くださりました。歌舞伎といえばこのような動きくらいの認識しかなかったのですが、実際に解説をいただいてから観劇すると演者の動きをよく見る意識ができたと感じています。

原作のゲームと異なり、観劇時の我々は定点視点のため場面に応じたズーム機能などはありません。それでも動きにハリをつけ、印象に残る動きができる秘訣はこのような細かな技の積み重ねなのだろうとも思います。

※歌舞伎特有の動きを一瞬止めて印象付ける演技方法
参考:歌舞伎なんでも用語集(歌舞伎公式総合サイト歌舞伎美人)
https://www.kabuki-bito.jp/lets-kabuki/words/#cts_04

最後に

原作FFXへのリスペクトを残しつつ、歌舞伎という別ジャンルでの新しい表現を目指したとても良い試みだったといえるでしょう。
本当は書きたい感想が残っているのですが、要点を絞ると上記の通りになります。ザナルカンドに到達したシーンやマカラーニャの森など、演者の熱演に思わず涙が溢れました。ここ数年で野外で涙が出るほど感動するのは久しいことのため、大変満足しています。

原作の声に慣れてしまっている人は最初こそ演者の声に戸惑うかもしれませんが、キャラクター自身の想いに変わりはないため徐々に慣れてくるはずです。
原作好きな人なら行って損はしませんし、歌舞伎を知らない人でも楽しめますのでなおさら初の歌舞伎として見にいくことをお勧めします。

私はこのFFX歌舞伎の出会いがなければ、人生で歌舞伎に触れることはなかったでしょう。この機会を活かし、近いうちに歌舞伎座にも伺う予定です。一幕見が再開されていないという話もあるので少し先になるかもしれませんが…。

最後までお読みになっていただきありがとうございました。

新作歌舞伎 FINAL FANTASY X 公式サイト
https://ff10-kabuki.com/#top


おまけ


お土産はこちら。原作ではリュックが好きでした。

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