中の人はブルドーザー
企業のTwitter公式アカウントのフォロワー数は、多いところでは数百万を超えます。フォロワー数だけで比較すれば上位は「超」が付くほどの有名企業ばかりです。
これら企業は、なにもしなくてもネームバリューでフォロワーが集まります。
その一方で、製品やサービス自体は比較的地味で、それほど消費者の関心を引くことがないような企業が数十万のフォロワーを擁していることがあります。
たとえばキングジム。
アカウントを担当する中の人が「三姉妹」という設定になっていて、それぞれにキャラクターが立っています。
次にタカラトミー。
こちらは、比較的新しいアカウントでありながら、他企業と積極的にコラボレーションすることで認知度を上げています。
三つめはタニタです。
商品は地味で、それだけでは消費者の目に留まることはあまりなさそうですが、こちらも他企業との関わりで認知をつかみ取っています。
ここに挙げた三企業の他にも決して大企業ではないものの多数のフォロワーを獲得してTwitterユーザーの心をがっちりと鷲づかみににしているアカウントがいくつもあります。
このようなアカウントが多数のフォロワーを獲得できているのはどうしてでしょうか。
一言で表現するなら
“中の人の馬力”
これに尽きます。
積極的にコミュニケーションを図ることで認知を獲得しているアカウントのほとんどに共通するのは、企業そのものではなく中の人に企画力があり、それを社内で通して自ら実行できるブルドーザー並の馬力を有しているということです。
一例を挙げましょう。
「森アルさん」として親しまれた森田アルミ工業の元中の人です。
森アルさんは、多数のTwitter発信コラボ企画に関わっていましたが、特に話題となったのが「ニッセン× SHARP × パインアメ × キングジム × セブンティーン× 森田アルミの『激怒 T シャツ』発売」があります。
これは、Twitterで交流中に起きたニッセンの「誤字」から始まり、それをきっかけに商品化が実現したスピード商品化コラボです。
最初のツイート発生から約4時間ほどで実際に誤字をきっかけにした落書きの T シャツがニッセン製品として発売が決定。雑誌セブンティーンのモデルが T シャツを着て井村屋のアイスなどを食べ、シャープの洗濯機で洗い、森田アルミの物干しで干すという無理矢理な流れを作りだしました。
ここに登場したアカウントの中の人は、みなさんとてつもない馬力の持ち主ばかりで、わずか4時間で企画を通してしまいました。
この手の人材をバーノフ(※)は「HERO」と呼んでいます。
HERO(Highly Empowered and Resourceful Operatives)とは、みずからの力でテクノロジーを使いこなし、顧客の問題を解決する従業員のことを指します。つまり、大きな力を与えられ、臨機応変に行動できる従業員です。
このHEROに求められる能力は、基本的に知識やノウハウよりも人間性が重要で次のようなものです。
1 複雑な社会環境の中で上手く立ち回れること
2 リスクやプレッシャーからも逃げないこと
3 すぐに怒らないこと
4 タイムライン上で交わされている会話の内容だけでなく、雰囲気についてまで瞬時に理解できること
5 その上でマニュアルや上司に頼らずに自分で対応を判断して実行できること
6 瞬時にやわらかい顧客サービスモードから、広報モードや危機管理モードに切り替えられること
公式アカウントには、厳しい質問や否定的なコメントが押し寄せてきますが、ちょっとしたことで大騒ぎするような人では、企業の中で消費者と対峙する立場にふさわしいとは言えません。
お分かりになりますでしょうか。ここに挙げた能力は、ほとんど経営者に必要とされる素養といってもいいものです。
それもそのはずです。企業の看板を背負って不特定多数に対して発言をするのですから、経営者並の覚悟と慎重さが必要とされるのです。
これだけの資質と能力が必要とされる「中の人」ですが、「広報担当だから」「若いから」「誰でもできるだろう」というような安易な考えて担当者をあてがっている企業が少なくありません。
その結果がどうでしょう。無理にゆるい運用を行ったことで失言により炎上に晒され、アカウントの閉鎖に追い込まれる例が後を絶ちません。
公式アカウントの中の人という業務は、それ自体がひとつの職能です。ただの広報とは一線を画します。
誰に任せてもいいというものではありません。
Twitterを効果的に運用するのであれば、しっかりと適性を見極め、経営トップから明確に権限を付与した上で担当者を決める必要があります。
(※)【参考文献】
ジョシュ・バーノフ、テッド・シャドラー共著「エンパワード ソーシャルメディアを最大限活用する組織体制」株式会社翔泳社、2011年