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あの子はだれ?_③謎めく鍋パの七不思議
③謎めく鍋パの七不思議
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【あらすじ】
大学生の真美は、友人である沙也加と凛と鍋パーティーを開催することに。
いざ会場に着くと、「スペ子」という謎の人物がいる。
真美は全く面識がないはずなのに、沙也加や凛はまるで昔からの友人のように接している。
鍋の準備中、真美はスペ子が捌いた魚の血を舐める姿を目撃し、戦慄する。
スペ子の異常さを伝えようとする真美。しかし、沙也加と凛は疑わない。
鍋パーティーの間も、スペ子の怪しさは増すばかり。ついには、スペ子を疑う真美が責められてしまう。
自分を信じられなくなってしまった真美は、とうとうスペ子を受け入れてしまう。楽しい鍋パーティの時間が過ぎる。
解散後、どこかに電話をかけるスペ子。そのスマホ画面には、真美の顔写真が表示されていた……。
(ペラ35枚)
【登場人物】
真美… (20)、大学生
沙也加…(20)、大学生、真美の友達
凛… (20)、大学生、真美の友達
スペ子…(20?)、謎の人物
【シナリオ】
○沙也加の家・玄関・中
沙也加(20)、ドアを開く。
ビニール袋を持った真美(20)が立っていて、
沙也加「お、真美やっと来た。いらっしゃーい」
真美「おっすー沙也加」
と、中に入って袋を置いて、
真美「あー重かった」
沙也加「ヘヘヘ、筋トレ筋トレー。中入ってて。凛とスペ子、先来てるから」
と、台所へ去って行く。
真美「あ、うん」
と、靴を脱ぎつつ、
真美M「スペ子……?」
○同・リビング
真美、入ってきて、
真美「やっほー……」
こたつに入ってババ抜きをしている凛(20)とスペ子(20?)、振り返り、
凛「あ、真美。遅かったねぇ」
スペ子「……」
真美「え……あージュースめっちゃ重くてさぁ……」
と、スペ子を見つめ、
真美M「いや、誰!?」
ババ抜きに戻る凛とスペ子。
真美「凛……その子は?」
凛「え? 今日来るって言ってたじゃん」
と、カードを捨てて手札が2枚に。
真美「えっ……」
スペ子、真美に微笑みかける。
苦笑いする真美。
スペ子、凛の2枚の手札のうち1枚を抜き取る。
凛、手札を開くとジョーカーで、
凛「あー、また負けた。10連敗だ。スペ子強いなぁ」
微笑んでいるスペ子。
凛「じゃあ次は神経衰弱やろう」
とカードを切って、床に並べ始める。
「……」となりつつこたつに入る真美。
凛「私からねー」
と、適当に2枚めくる。
カードを2枚めくるスペ子、同じ絵柄。次も、その次も同じ絵柄で……ついに全てのカードをめくる。
凛「わぁ、スペ子すごぉい。トランプ最強だ」
訝しげな真美。
沙也加、ガスコンロを運んできて、
沙也加「あっ」
真美「どした?」
沙也加「肝心の鍋の元忘れた……」
と、ガスコンロを置いて、
沙也加「ちょっと買ってくるわ」
真美「何かやっておこうか?」
沙也加「えー、真美、不器用だからなぁ」
真美「ちょっと切るくらい出来るし」
沙也加「じゃあ残りの野菜切っといてー」
と、凛を指さし、
沙也加「凛は前科アリだから、何もしなくてよし!」
凛「はーい」
沙也加「あ、スペ子さー魚捌けるよね? お願いしていい?」
うなずくスペ子。
「……」となる真美。
○同・台所
台の上で、ぎこちなくニンジンを切っている真美。
後ろから手が伸びて来て、「!」と振り向く真美。
スペ子が立っていて、
スペ子「貸して」
真美M「しゃべっ……」
包丁を取るスペ子、異常な速さでニンジンを極薄切りにする。
愕然としている真美に、微笑んで包丁を返すスペ子。
流しの横、まな板に魚を乗せるスペ子。
ダンッと魚に突き刺さる包丁。じわ……と血が広がる。
包丁を抜くスペ子、刃についている血を舐める。
「……!」と青ざめる真美。
何事も無かったように捌いていくスペ子。
ドアが勢いよく開く。
ビクッとなる真美。
沙也加「ただいまー」
ホッとする真美。
沙也加「え、顔青いよ。どしたの?」
○同・リビング
こたつに入っている真美、向かいにスペ子。両隣に沙也加とリン。
鍋の蓋から湯気が上がり始めている。
沙也加、取り皿にポン酢を入れつつ、
沙也加「みんなポン酢でいいー?」
凛「いいよぉ」
うなずくスペ子。
真美「え、あ、うん……」
と、立ち上がりつつ、
真美「沙也加、ちょっとさ……」
沙也加「なに?」
真美、廊下に向かいつつ手招き。
「?」となりつつついていく沙也加。
○同・廊下
沙也加「なになにー?」
真美「おかしくない?」
沙也加「なにが?」
真美「スペ子……ちゃんだよ。誰、あれ?」
きょとんとなる沙也加、笑って、
沙也加「なになになに、いきなりちゃん付けってー!」
真美「え……」
沙也加「そういう面白いことは、コソコソ言わないでみんなの前で言ってよー。やっぱウケるなー真美。アハハハ」
と、リビングへ戻って行く。
「……」と立ち尽くす真美。
○同・リビング
こたつに入っている沙也加・凛・スペ子。
ふらふらとやってくる真美。
沙也加、鍋を取り分けていて、
沙也加「真美ー早くー」
「……」とこたつに入る真美。
沙也加、真美の前に皿を置いて、
沙也加「はい! じゃあー後期もお疲れ様でしたーカンパーイ!」
乾杯する4人。
凛、はふはふと鍋を食べて、
凛「うわぁ、美味しい」
沙也加「やっぱ××の鍋の元は美味いわー」
凛「沙也加、いっつもそれ言ってるぅ」
沙也加「アハハハ」
沙也加、ニンジンを箸でつまんで、
沙也加「え? 何これウケる。薄すぎだろー真美」
真美「や、それは……」
黙って食べているスペ子。
沙也加「あ、そうだ」
と、おたまで鍋を混ぜつつ、
沙也加「スペ子が捌いてくれた魚ー良いやつだから美味しいよ。食べて食べてー」
と、自分の皿に盛って座る。
凛「スペ子すごいよね。私、魚とか絶対捌けないよぉ。ね、真美」
真美「え、えぇ? うん……」
沙也加「真美、魚好きじゃん。食べなよ」
スッとおたまを手に取り、真美に手を差し出すスペ子。
真美「えっ……」
沙也加「スペ子マジ優しいなー」
凛「ねー」
真美「じゃ、じゃあ……」
と、皿を差し出す。
スペ子、容赦なく山のように魚を盛る。
真美「や……多くない?」
沙也加「魚好きだからって盛ってくれたんじゃんかー」
と、気にせず食べ続けている。
凛「お残しはゆるしまへんでぇ」
「……」となって受け取り、食べる真美。
凛「さっきさぁ、スペ子にババ抜きで10連敗してぇ」
沙也加「弱すぎでしょ」
凛「え~」
ニコニコしているスペ子。
真美「いや……おかしくない?」
沙也加・凛「なにが?」
真美「強すぎでしょ」
「……」となる沙也加・凛。
スペ子、無表情で、
スペ子「凛は顔に出るから」
沙也加「アハハ! そうそう、凛が弱すぎるんだってー。なんか真美、さっきからおかしくてさ……」
真美「いや!」
沙也加「え?」
真美「それはいいから……!」
沙也加「……あ、うん」
凛「スペ子って家でも料理したりするのぉ?」
スペ子「うん。兄弟が56人いるから、よく手伝う」
凛「そうなんだー偉いねー」
真美「いやいやいや、待って。56人って、おかしくない?」
凛「なんで?」
真美「なんで!?」
沙也加「まーまー、食べなよ」
と、真美の皿に具を盛る。
泣きそうにうつむく真美、「……」となってスペ子を睨み、
真美「スペ子……って、この間の休み何してた?」
スペ子「散歩……」
真美「だけ?」
スペ子「して、人間観察」
沙也加「私もよくやるー人間観察」
スペ子「と、鳩狩り」
真美・沙也加・凛「はと?」
× × ×
イメージ。
「ぽっぽー」と鳴いている鳩。
× × ×
しばしの沈黙。
スペ子、えへっと笑って、
スペ子「あ、紅葉狩りだった~」
沙也加「あー紅葉狩りねー良いね」
凛「今ちょうど綺麗だしねー」
真美「まってまってまって、鳩って言ったよね!?」
凛「言い間違いだってばぁ。私もよく間違えるよ」
真美「そん……」
沙也加、棚を開けつつ、
沙也加「紅葉狩りと言えばさー、去年みんなで行ったよねー箱根」
と、アルバムを取り出して広げる。
真美「み……3人で行ったやつだよね」
沙也加「? 4人で行ったじゃん」
と、アルバムを指さす。
そこには、笑顔で映っている真美・沙也加・凛……と、スペ子。
青ざめる真美、冷や汗が頬を伝う。口元を押さえて立ち上がり、
真美「ちょっと、トイレ……」
沙也加「大丈夫?」
去って行く真美。
○同・トイレ
便器から白い顔を上げる真美、冷や汗だらけ。ペーパーで口元を拭いて水に流し、ドアを開ける。
目の前に、スペ子が立っている。
真美「わっ!」
と、後ろに転びそうに。
サッと手を伸ばして助けるスペ子、ニッコリと微笑む。
「……」となる真美。
トイレに入っていくスペ子。
バタン……とドアが閉まる。
○同・リビング
小走りに戻って来る真美。
沙也加、ケラケラ笑って、
沙也加「どうしたどうした」
真美、こたつに入らず、
真美「ねえ、おかしいよ。おかしいでしょ!?」
沙也加「なにが?」
真美「スペ子! 私、会ったことも無いし、紅葉狩りも一緒に行った記憶無いし」
凛「忘れたの? 写真見たよね?」
真美「そもそも、ほら、兄弟多すぎだし、鳩狩りって、何? 沙也加と凛は知らないかもだけど、魚捌いてるときにアイツ、包丁についてた血を舐めてたんだよ! 怪しすぎでしょ!?」
沙也加「いや……真美? 本気?」
真美「だからっ……」
と、ハッと振り返る。
ホールケーキを持って立っているスペ子。
真美「……!」
沙也加「……ほらほら、真美座ってー」
と、こたつの上から鍋をどかす。
困惑しつつその場に座る真美。
こたつの上にケーキを置くスペ子。
沙也加、パンッと手を叩いて、
沙也加「誕生日サプラーイズ! おめでとう、真美」
真美「(愕然と)……」
沙也加「テストで忙しかったからねー。あ、ロウソクロウソク! スペ子、袋の中に入ってるはずなんだけど」
うなずくスペ子、台所へ。
沙也加、「……」と見送って、
沙也加「真美。さすがに酷すぎるよ。誕生日サプライズしようって言ったの、スペ子なんだよー? なのに……冗談きつすぎるって……」
凛「(うつむいて)……」
真美「え……」
沙也加「そんな奴だと思ってなかったよー」
真美「……!」
と息が荒くなり、沙也加と凛を見る。
悲しそうにこちらを見ている沙也加と凛。
頭を抱えてうつむいてしまう真美。
しばしの間。
真美、パっと顔を上げ、
真美「は……あ……ご、ごめ~ん……ちょっと酷すぎたよね。やぁ……テスト、大変だったから、なんか面白い話しようと思って……なんも思いつかなくってさ……ほんと、ごめん……」
沙也加と凛、ふわっと微笑んで、
沙也加「だよね。気をつけなよ?」
凛「うんうん」
真美「……うん、ごめん。はは……」
ロウソクを手に戻って来るスペ子。
凛「ありがとー」
ロウソクをケーキに立てて火をつける凛とスペ子。
沙也加、立ち上がりつつ、
沙也加「電気消すよー」
と、電気を消す。
沙也加・凛「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー……ハッピバースデートゥー真美~ハッピバースデートゥーユー! おめでとー!」
火を吹き消す真美。
× × ×
ケーキを食べている4人。
沙也加、笑って、
沙也加「真美、ほっぺにクリームついてる」
真美「えー?」
腰を浮かせるスペ子、真美の頬に手を伸ばし……一瞬、不自然に腕が伸びて真美の頬のクリームを拭う。
真美「!」
スペ子「(笑って)取れたよ」
真顔になる真美。
しばしの間。
真美、アハハッと自然に笑って、
真美「ありがとースペ子」
○同・玄関(夕)
玄関で手を振っている沙也加。
「じゃあねー」と、帰って行く真美・凛・スペ子。
○道(夕)
歩いているスペ子、口の中に手を突っ込み歯に挟まった魚の骨を取って捨てる。
スペ子「……」
とお腹をさすり、あたりを見回す。
○同・台所(夕)
沙也加、台所でゴミをまとめていて、
沙也加「あれー? 魚の骨……捨ててくれたのかな」
○道(夜)
公衆電話ボックスへ入るスペ子、小銭を入れて番号を押す。
呼び出し音が鳴っている。
壁に映った自分の顔を見て、頬についている血を拭うスペ子。コートを見て、ついている鳩の羽を払う。
呼び出し音が止む。
何かを話しているスペ子。受話器を肩ではさんで、鞄からスマホを取り出し画面をスクロール。
スマホに映っているのは、真美の顔写真。
(終わり)
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