- 運営しているクリエイター
#キリスト
この存在のすべて (短編)
*この小説は作り話であり、実際の団体や人物とは何の関係もありません*
あの日の記憶を、始めから終わりまで筋立てて話すことは出来ない。ふたりで常念岳に登った日の記憶は、もう薄れかかっている。映像のように、あの日撮った一連の写真のように、静止画のようにしか思い出すことは出来ない。
黙々と暗闇を歩いてきた田口と真木は、ようやく朝日の射してきた頃、沢のほとりで休んでいた。朝の森はオレンジ色に輝いて
逃げたいという願望 (短編)
*この小説は作り話であって、実際の団体や人物とはなんの関係もありません*
《A desire to get away》
ある思いに取り憑かれていた。それは逃げたいという願望だった。突然だった夫の死の後、まだ心の整わないうちから、相続だの事業継承だのの手続きに追われて、いつしか八枝はすべてを捨てて逃げてしまいたい、と思うようになっていた。
昨日と今日とに境はなかった。あるのは手続きの