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パワーカップルは消費を変えるか?

1.     最近注目を集めるパワーカップル


最近パワーカップルというキーワードをよく耳にします。

先日ある経済番組でコインランドリーを日常的に利用する共働き夫婦が、取材を受けていました。
自宅で洗濯するよりも数倍高いコストを支払ってもコインランドリーを利用するのは、時間を購入しているとのことで、パワーカップルの消費特性としてまとめられていました。
毎日自宅の洗濯機で洗濯して乾燥させ畳むという作業よりも、週1回コインランドリーで1週間分の洗濯を一遍にすることによって家族との時間を捻出できるということのようです。

もともと英語圏で使用されていたパワーカップルは、オバマ元大統領夫妻とか、ジャスティン・ビーバー夫妻など夫婦2人とも輝かしいキャリアを持っている夫婦などのことを指していたようです。

日本で使われている「パワーカップル」は、少しダウンサイジングです。
夫婦2人でよく稼ぎ、よく消費する、令和の小金持ちカップルを指しています。だいたい2人合わせて年収1000万〜1500万円の消費意欲の高い世帯のようです。

三菱総合研究所の調査(2018年)によって定義されたパワーカップルの世帯年収は、合計1000万円以上(夫600万円以上、妻400万円以上)です。このタイプのカップルが住宅市場を牽引し、1カ月のお小遣いからの消費支出額が全体平均の2.5倍と、最も多いことがわかっています。また時短につながる家電やサービスの大得意様としても知られています。前述のコインランドリーや、自動掃除ロボットを持っているパワーカップルの割合は24%と、既婚者全体を2倍以上上回るという調査結果も出ています。


2.     パワーカップルはどれくらいいるのか?

ニッセイ基礎研究所の基礎研レポート「パワーカップル世帯の動向―コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の約6割は就労

によるとパワーカップルの定義として夫婦ともに年収700万円以上の世帯と記述されています。この定義に従って、総世帯に占める割合を求めると0.62%、就業者夫婦世帯に占める割合でも2.1%ということです。消費を牽引する家庭としては少なすぎて物足りない気がしますが、このレポートで触れられている「妻の年収階級別にみた夫の年収階級分布2020年」からは興味深い示唆を与えています。

ニッセイ基礎研究所の基礎研レポート「パワーカップル世帯の動向―コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の約6割は就労」より


①共働き夫婦の格差問題

妻の年収200万円以上の世帯では、妻の年収が高まるにつれて、夫の年収も高まっていきます。妻と夫の年収が大体同じになっています。低年収同士、高年収同士の組み合わせです。世帯間の経済格差が垣間見られます。

原文は少し細かいので以下に年収範囲を狭めたグラフを掲載します。

②扶養家族内に収まるように収入をコントロール

妻の年収が200万円未満の世帯では、夫の年収700万円以上の割合が21%と、妻年収200~400万円未満世帯(17%)よりも高いのは、妻が扶養家族内に収まるように就業時間を制御している世帯があることを示しています。

なんとなく共働き世帯の実態が掴めてきました。

大きな括りとしては3つ。①低所得夫婦 ②パワーカップル(共働きで世帯年収が高い) ③高所得の夫と扶養控除内に収入を抑えている妻 ④中流家庭(マジョリティ)

ただこのニッセイ基礎研究所の定義に当てはまる共働き世帯は前述のように極めて少数なので、定義を引き直した方が良さそうです。

ニッセイ基礎研究所の基礎研レポート「パワーカップル世帯の動向―コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の約6割は就労」より

夫婦合計年収で1000~1500万円前後以上とすれば、総世帯に占める割合は合計で4.12%、就業者夫婦世帯に占める割合は合計14.07%となります。

最初に述べたコインランドリー世帯も恐らくこの範囲内であれば、身近にいそうな夫婦というイメージが沸き、説得力も増すのではないでしょうか?

  

3.     パワーカップルの消費スタイル

NRIが3年に1度実施している「生活者1万人アンケート」では、時系列に消費スタイルを4つに分けて分析しています。その消費スタイルの中で前回18年調査よりも伸びているのが、「プレミアム消費」24%と「徹底探索消費」11%です。

NRI「生活者1万人アンケート」より

プレミアム消費の説明として、自分が気に入った付加価値には対価を払うと記載されています。

また同アンケート回答者の世帯年収の推移をみると1000万円~1500万円未満が2ポイント、700万円~1000万円未満も2ポイント増加しています。

NRI「生活者1万人アンケート」より

これらの層の所得増加が背景となってプレミアム消費が押し上げられたのではないかと推測することができます。

多少高くても気に入った商品を購入する消費スタイルが、パワーカップルの特徴として見出せます。

 

4.     高所得世帯の消費の実態

家計調査では年収を5分位して、それぞれの消費金額を公開しています。年収5分位とは、世帯年収を昇順に並べ替え、世帯数で5等分したものです。5分位最上位のグループは世帯年収で平均1243万円ですので、ちょうどパワーカップル定義に当てはまります。共働き世帯という条件は付けられなかったのですが、Excelでグラフ化しましたので掲載します。

2019年家計調査より筆者加工分析

年収1200万円以上世帯の特徴を見ると、パワーカップルの消費実態が類推できます。
2020年はコロナ禍なので、影響のない2019年の家計調査用途分類で、特化係数を算出しました。

特化係数はそれぞれの消費支出全体に対する各支出の構成比を算出し、世帯平均との相対比を特化係数として算出したものです。
特化係数が1を超えるものは、全体の構成比よりも顕著に高い傾向があると読むことができます。

仕送り金(1.75)や補習教育(1.39)、教育(1.36)が高いということから、子供に対してかなり教育投資をしていることが分かります。
宿泊料(1.41)、パック旅行費(1.4)、交通(1.33)から「旅好き」なライフスタイルが垣間見えます。
そして男子用洋服(1.27)、男子用シャツ・セーター類(1.2)から「夫のお洒落」具合が高いことが見えてきました。
反対に特化係数が低いものとして、まず、たばこ(0.53)が目につきます。グラフには出てきていませんが、酒類(0.84)も低率です。健康に留意する「意識高い系」の人物像がみえます。
さらに他の光熱費(0.64)、ガス代(0.75)、光熱・水道(0.79)が低いのが目につきます。麺類(0.73)、穀類(0.79)など食料が低いことと合わせて、基礎的な生活コスト以外にも消費している余裕の大きさが類推できます。

 

5.     まとめ

1.収入の面から夫婦の形態として4分類できる。
①低所得夫婦 ②パワーカップル(共働きで世帯年収が高い) ③高所得の夫と扶養控除内に収入を抑えている妻 ④中流家庭(マジョリティ)

2.そのなかで共働き世帯の約15%を占めるパワーカップル(年収1000-1500万円)は消費意欲が旺盛

3.パワーカップルは、教育熱心で、お洒落で、意識高い系の消費特性がある(ありそう)

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