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経営層が納得するマーケティングデータの揃え方、見せ方

 

1.経営層が納得する事業性評価裏付けデータ

新事業企画に納得性をもたせるには、経済性と論理性が必須と考えています。

経済性とは、戦略をコスト面から分析する考え方です。事業の経済性には、①規模の経済(単位当たり固定費低下)、②経験効果(累積生産量と生産コストの低減効果)、③範囲の経済(コスト共有による利益率改善)、④速度の経済(スピードアップによる効率向上)、⑤連結の経済(ネットワーク効果)といった5つの要素があります。新事業企画がきちんと収益を上げていくことができる裏付けとして経済性を有しているかどうかが鍵となると考えています。

一方の論理性とは、立てた企画の実現可能性を感じさせられるかということです。とりわけ新事業企画においては、設定したテーマにおける需要予測や事業コンセプトに対する顧客受容性について論理的に納得できることが企画突破の鍵となります。「画に描いた餅」となっていないか、という観点が重要です。

本稿では、後者の論理性について客観データである定量データを使った事業評価のアプローチについて解説していきたいと思います。

 

2.統計オープンデータの種類と活用

論理性の第一歩は事実に基づいた着想であることです。企画の前提が不確かであると、共通認識を醸成することができずに、最初から企画はガタガタになってしまいます。

マクロデータからの事実を確認するのには、統計オープンデータが有用です。新事業企画では、新たに展開する市場がどの程度の規模であるのかを明らかにすることが求められます。市場規模を把握するには、業界団体の統計資料や政府が実施する統計を探索します。

たとえば食品メーカーが新事業企画として冷凍食品事業を企画している場合で考えてみましょう。

情報源としては、①業界団体の発表資料、②経産省の調査、③家計調査などが挙げられます。

大事なのは複数の情報ソースを確認し、その妥当性を検証することにあります。その金額規模はどの程度なのか、今後成長していく市場であるのかという2点に集約できます。未来は正確に把握することは不可能ですが、過去データの流れを見ることによって類推することは可能です。これまで伸び続けているのであれば今後も期待できますし、過去3年程横ばい状態が続いているのであればそろそろ加工曲線を描いていくだろうと予測できるでしょう。

冷凍食品市場の市場規模を把握するには、商品の供給側と需要側、両面から情報収集していきます。

まずは供給側です。①業界団体がある市場であれば、ホームページに統計データを掲載していることがあります。冷凍食品では、日本冷凍食品協会のHPに統計データが掲載されていました。


②経産省では、毎年「工業統計調査」を実施しています。

 前項の業界団体との金額が大きく違います。これは日本冷凍食品協会のデータは、会員企業420社(令和4年12月1日現在)に対する調査であるのに対して、経産省「工業統計調査」では日本国内の全ての事業所を対象としている全数調査によるものです。

③一方で需要側からは総務省が毎月実施している「家計調査」を探索します。

 冷凍食品の購入者である生活者の消費動向を把握することで、エンドユーザーのどの属性に需要があるのか、高まっているのか(成長性)を把握することができます。

この例では、食べ盛りの子供がいるファミリー世帯である40代が最も購入金額が高く、次いで50代世帯となっています。注目すべきは、60代70代以上のシニア世帯の増加傾向です。10年前の2012年最下位であった70代は20代世帯に追いつき、ブービーであった60代は20代30代を追い抜き50代に次ぐ消費となっています。背景として冷凍食品に対する抵抗感の希薄化や、高齢者就業率の高まり、夫婦2人暮らし世帯の増加などが考えられます。

 

3.アンケート調査で聞くべきことと、分析・加工方法

統計オープンデータは無料で情報収集できるという点で、かなり有用ですが、データの性質上、聞きたいこと全てを網羅しているわけではありません。(2次データの調査目的は別にあるので)

自社の新事業企画を展開していくには、ターゲットとする生活者や顧客企業に対して直接聴取することで、そのビジネスに対する受容性を把握していきます。そこで活用できるのがアンケート調査やインタビュー調査です。

BtoC事業であれば、ターゲット属性を絞り込んで新規事業に対する受容性(購入したいかどうか)を確認することができます。対象者が不特定多数となるのでアンケートによる定量調査が適しています。最近では、インターネットが大分普及(全年代で83%の利用率)していますので、ネットを使ったアンケート調査が一般的となっています。

こうしたネットリサーチを実施する際の留意点としては以下の3点です。

①スクリーニング(調査会社の調査モニターから調査協力者を選定)
②生活意識と購買行動(購入顧客となり得る人のプロファイリング)
③企画に対する受容性(新事業企画に対する購入意向)

①スクリーニングは、新事業の提供する新商品や新サービスがどのような顧客属性に合致するのかを検討していきます。そのものズバリの属性から範囲を広げることが肝要です。例えば60代の有職男性向けに食品宅配サービスを企画していた場合、60代有職男性だけでなく50代単身男性や年金受給者などにも調査対象者の範囲を広げておくことです。こうすることによってメインのターゲットの受容性と他の属性との比較が可能となります。新事業企画の説得力を高めることが可能となるからです。

②については、日常生活による意識や行動を知ることによって、より詳細な顧客像(ペルソナ)を描くことが可能になります。それは新事業企画のマーケティング実行段階、特に価値を伝達するプロモーションや流通チャネルの選択に役立ちます。
BtoBについても同様で、業種や職種などのデモグラフィックな情報だけでなく、業務における課題や働き方を知ることでより詳細な顧客像を描くことが可能になります。BtoBの場合は企業ペルソナからキーマンの個人ペルソナに展開していきます。

③は受容性テストの本丸です。最終的には購入意向をもって意思決定(新事業を進めるか否か)すべきですが、その思考プロセスの前段階である魅力度についても聴取することをお勧めします。魅力に感じていても何らかのボトルネックがあり購入まで至らないというケースがあるからです。ボトルネックについてあらかじめ仮説をたてておくと別設問で確認することも可能となります。新事業はこれまで世の中に存在していないものが多いですから、企画案がそのまま受容されるというケースは稀であり、顧客(見込顧客)との対話を通して精度を高めていくという意識が重要となります。
更にBtoC商品では新規性についても聴取することがあります。BtoC商品では特に「これまでにない新しさ」が購入決定に寄与することがあるからです。

これらの軸で設問を設計し、回答は5段階で聴取していきます。
1.大変魅力 2.魅力 3.どちらともいえない 4.魅力でない 5.まったく魅力でない といった選択肢を用意します。BtoCの場合は3.どちらともいえない を挟むのがポイントとなります。対象者によっては判断つかない場合があるからです。ちなみにBtoBで購買部など購買のプロに対するアンケート調査では3.どちらともいえない を除いて4段階で聴取することが一般的です。購買のプロは少なからず一定の判断基準を保有していると考えるからです。

設問の順番は、1新規性 2魅力度 3購入意向が適切と考えます。調査回答者が答えやすい順番に設定するとストレスなく回答いただけるからです。

一方でBtoB企業における新事業企画については、リサーチ会社によっては、BtoBモニターを用意しているものもあるので対象顧客が広い範囲であればインターネット調査が活用できます。例えばオフィスで使用する情報機器や、オフィス家具、リモート会議を活性化するツールのように業種業態に関わらずどのような会社であっても、またどのような職種であっても使用する商品やサービスに関する企画が該当します。対して食品製造業に対する食材廃棄削減サービスなど業種や担当部署が限定されている場合には定量的な受容性調査が困難(対象者の母集団が少ない)ですので、インタビュー調査に切り替えます。

アンケート調査では多くの対象者に対して、受容性を聴取するので、大数の法則が成り立ちます。
大量の調査回答を得ることができれば、誤差(標本誤差)を小さくでき実態に近い知見を得ることができるからです。

インタビュー調査では調査工数や時間、かけられるコストにもよりますが、調査対象は少数であることが想定されるので1対象者(企業)の意見が結果に大きく影響します。
従って1対象者毎に回答結果をじっくりと聴取し考察する必要があります。例えば新商品に対して魅力に感じるかどうか、魅力度を聴取したとします。その回答に対して「なぜ魅力に感じたのか」、「どんな機能が追加されれば魅力度が高まるのか」など回答の要因や背景、改善の方向性について深掘りしていきます。そうすることで回答結果がどのような論理構造になっているのかを明確にすることができます。対象顧客(企業)の潜在ニーズを探索することができ、当該新商品がそれを充足するものであるか検証可能となります。

 

4.データの見せ方の定石(パワポ編)

新事業企画では、統計オープンデータやアンケート調査で得られたデータを使ってグラフやチャートを作成し、PowerPointやKeynoteに貼り付けてプレゼンテーション資料を作成することが一般的です。

PowerPointもKeynoteも直観的に操作できるので我流で資料作成している方も多いと思います。どのような方法であれ印刷物や液晶プロジェクターに映写できれば問題はないのですが、プレゼンテーションの定石を知っておくと、受け手が意思決定しやすくなります。説得力を増すプレゼンテーション資料の3つの定石

①人は視線を左から右へ移す特性を活かしたレイアウト
ノイズカットフォーカス
ポジティブフレームに則った数字を使う

①はヒトの特性上の問題で、資料が目の前に見えたときに、左から右の順に視線が動くというものです。ですから1枚の資料(スライド)の中で、起承転結を①起:左上、②承:中央上、③転:中央下、④結:右下と配置すると自然と内容が頭に入ってくるというものです。グラフを掲載する際にも、左にグラフを呈示し、考察やメッセージ(文字情報)を右に配置すると良いでしょう。

②は1スライドに目いっぱいオブジェクトやチャートなどをごちゃごちゃ入れないということです。特に数表を掲載する際にセルの四方全てを線で囲むのではなく、横線だけにしてノイズを低減すると見やすい表となります。文字を左揃え、数字を右揃えといったように法則をもって整えれば、見えない線が区分表示の役割を果たしてくれます。
重要な事柄や数字は太字やフォントサイズを大きくしてフォーカスすることで、伝えたい情報を明示することができます。

③人間は、表現の違いによって無意識に心理的な解釈の枠組みが変化するものです。プラス面を強調(ポジティブフレーム)とマイナス面を強調(ネガティブフレーム)があります。企画を通すにはポジティブフームを活用することが肝要です。
A:ヘビーユーザーの80%が支持 B:20%は反対意見 
AもBも同じ事象を表現していますがAの表現の方が採用されやすいというのは感覚的にご理解いただけると思います。

 

5.グラフ作成の留意点

グラフの作成ですが、大原則として、飾らず、分かり易いグラフを作成することを念頭に置きましょう。

基本は、円グラフ・積み上げ100%縦棒グラフ・折れ線グラフ・棒グラフ・散布図の5つです。レーダーチャートやウォーターフォールなどは、グラフィカルで人目を惹くものもありますが、グラフの見方を説明するようなものはプレゼンテーションの受け手に余計な負担をかけるだけです。
Excelのグラフ機能は様々なデザインを展開できますが、3Dや影付きなどは意思決定のバイアスとなりますので控えた方が良いと考えます。

最後にもう一つポイントをお話します。事実から何を言うべきか、考察は非常に重要なことなのですが、私が密かに大事にしているのは、「主張は、皆まで言うな!意思決定者に考えるスペースを与える」です。人は誰しも他者から指摘されたり解説されたりするより、自分で発見したことに喜びを感じるものだと考えています。プレゼンテーションの相手は上席者であることが多いので猶更です。発見した知見がどんなに素晴らしくてもプレゼンテーションの相手に花を持たせてあげましょう。

以上

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