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耳を傷めつけない音楽

 以前モスキート音の話を書いたと思うのだが、私はもうあまりモスキート音を聴きとれない。16kHz辺りまでは聞こえるが、17kHzぐらいになると何か鳴ってる?ぐらいにまでなってしまった。

 正直これがほぼ聞こえなくなったら、私のミキシングエンジニアとしての仕事は終わりにしようかなと思ったのだが、よくよく考えてみると他のエンジニアはちゃんとモスキート音が聞こえるのか?という疑問も出てきた。

 これに関しては確認しなくても答えはノーだろう。そもそも、私なんかより長時間の作業をしているし、長時間大きな音を聴いているし、何より私なんかよりも長年それを続けている。

 幾ら何らかのケアをしたとしても、どう考えたって職業病として耳は悪くなっていくだろう。

 実際専門学校に通っていた時に、現役でプロの音楽家として活動をしていた講師陣も、結構酷い聴力になっている人が多かった。しかし、それでも未だに現役で音楽活動が出来ているし、中にはエンジニアを続けている人もいる。つまり、モスキート音が聞こえなくなっただけで仕事が出来なくなるか?といったらそんな訳はないのだ。

 しかし、聴きとれる聴力を持っていた方が、削った方が良い音、削ってはいけない音の聞分けは出来るというのは確かだと思う。

 とはいえ、音色を変える範囲の音である16kHz以上の音はガッツリ削ってしまうとMP3のような音質になる。これはフォーマットにもよるが、しっかりした環境で聴くと結構差が出てくる一方、それは16kHz以下の音まで削ってしまっているからだと思っている。

 ここで新たに思った話として、そもそも16kHz以上の音って鳴らしていいのか?という話である。

 先ほど音を構成する為に必要な要素は16kHz以上にも存在しており、そこを削ると音が籠りやすいという部分がある。実際音が籠ってると言う人の大半は高音域の音を出したがる傾向にある。そしてそこを上げておくと大体納得する人が多いので、その辺りの音が聞こえる事は、聴き心地がいいのだと思う。

 どちらかと言うと、私は削った方が良いと思っている側であり、モスキート音のほとんどが聞こえなくなったからこそ、よりそれを感じる事がある。

 確かに若い頃は高音域ってやっぱ大事だし、実際高音域が鳴っていると心地よく感じていた。しかし、一方で16kHz以上のモスキート音というのは耳を傷める音であり、基本的に耳に良い音ではない。

 そんな高音域を多用に含まれた音を、現代の音楽機器の、それも昔より性能の上がっているもので、音量も大きく聴こうとしたら、それはもう音の刃物を突き刺すに等しい状況なので、若年性難聴を引き起こす事は想像に難しくない。

 それでも良い音楽、良い音を作ろうと思った時に無視の出来ない高音域なのだが、リスナーの耳を守る事を考えた時、その16kHz以上の音をいくら心地がいいからと、音が派手になるからとバンバン上げてしまう事は、果たして本当に音楽的に正しい事なのだろうか?

 勿論年を取るほど聴力が衰えるからこそ、若いうちに色々な音楽を聴いておいた方が良いという事で、高音域の鳴っている音楽を聴く事は悪くないのだが、音楽を長く楽しんでもらうことを考えた時には、やはり大事にするべきなのは16kHz以下の聴きとれる音域の音の方で、高音域はあくまで艶感を出す程度に抑えるのが一番良いのではないか?と思っている。

 実は元々優先するべき音という意味ではボーカル以外の高音域はカット目にしている。というより、ガッツリ削っている。その方が温かみのある音になるというのもあるし、やはり耳を傷める音楽にしたくないという気持ちもある。

 尚、そんな考え方になっているので、もうクラブミュージックを作る事は出来ないだろう。あのジャンルは今では聞こえなくなっている高音域も、バンバン鳴っているし、実際クラブノリなバーで流れている音楽は10年前なんてとてもじゃないけど、耳が痛すぎて聴いていられなかった。今も聴きたいとは思わないが、恐らく今そのクラブミュージックを聴いたら耳の痛さを感じないだろう。

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