正しいピッチとは何だろう?ってなった話

 私たち音楽家は歌ものを作るとき、切っても切り離せないのがピッチ修正。特にミキシングを行う人であれば絶対避けることが出来ない作業だと思う。

 私は音楽家としては作曲家というより、ミキシングエンジニアの方が仕事があって、今まで色々な人の楽曲のピッチ修正を行ってきた。すごく簡単に作業が終わる案件もあれば、ピッチ修正だけで2時間を超えてしまう案件も正直ある。それはまあ依頼主の提出するデータによるので仕方のない部分ではあるのだが….

 時にはピッチを外しているのかどうかよくわからない楽曲が出てきてしまう。昨今のボカロ系楽曲に特に多い傾向ではあるのだが、音楽理論?ナニソレ!?みたいな作り方をしているような曲がどうしても多い。

 ピッチ修正をする時というのは、大体オケを聞いてキーとコードを把握する。そしてそのキーとコードが分かれば、メロディーのピッチが合っているかどうかが分かるようになっているのが、普通の楽曲なのである。何故なら音楽理論で行けばコードと合うメロディーを作っているハズであるから。

 しかし、時々それがどっちに移動させても違和感がそんなに無いような楽曲も出てきてしまう。音楽理論が全てとは言わないし、時にはすこしズレていた方が良い楽曲になるケースも存在する。それだけにエンジニアからしたらそれがどっちなのか?というは分からない。どっちとも取れる場合だと頭を悩ませてしまう要因となる。そういう経験をしているからか、やはり私としてはある程度音楽理論とまでは行かないが、コード上問題の無い音は意識してあげてほしい。そうでなければ、自分でピッチ修正をするしかないとは思う….

 これはまあまだ良い方で、時には音を外したパターンの方が本当は正解という楽曲も世の中にはあって、しかもそれがメジャーアーティストの楽曲だから驚く。

 今回書きたいことはそのメジャーの楽曲の話なのだが、もう20年以上も前でそれも90年代の曲なので今更どうこう言うのは可愛そうなので、具体的なアーティスト名は伏せさせて頂く。90年代後半に音楽を聴き漁っていたのであれば確実に耳にしたことがあるだろう。そしてしっかり聞き込んだわけではないのだが、改めて今回聴いてみると当時は全く違和感のないメロディーも言われて初めて滅茶苦茶違和感になってしまった楽曲である。

 音楽理論上では確実にFを抑えなければならないメロディーも、ボーカル的にはEのまま歌うのが正解という楽曲なのだが(多分これで何の曲の話か分かった人がいると思う)、もしこの楽曲のミキシングを私が担当する事になった場合、まず間違いなくその該当する部分はピッチが届かなかったものだと何の疑問も持たず即行Fに修正を入れて終わらせてしまう案件だろうなと思った。

 しかし、それで納品をしてしまったら、間違いなくリテイクになるだろう。そしてその該当する部分のピッチが違う!って言われながら「いや、合ってるからぁあ!!」みたいな押し問答になるだろう。そりゃそうだ。音楽理論的に依頼主の通りにしたら確実に音がぶつかってしまうので、音がぶつかっている部分を直すのがピッチ修正の仕事の一つでもあるので、曖昧な表現を悪くは言わないが、エンジニアにはちゃんと直していい部分と直してはいけない部分、出来ればどういう意図でこのピッチにしなければならないのか?を伝えなければ、基本エンジニアのジャッジは音楽理論を参考に直してしまう。少なくとも共通認識は音楽理論であり、作者のニュアンスは常識ではないという事はどうか知っていておいてほしい。

 と、ここまで書いて思ったのが、あのピッチ修正ゴリゴリにやるぐらいプライドの無いレーベルが、当時の音源でピッチ修正をゴリ押さなかった事は驚いた。しかし、スコアを発行した会社のスコア上ではやはりFを抑えていたので、ミスではなくて音楽理論的には残念ながらこれが正しかったんだと思う。可哀そうだけれど実際にそのスコア通りに弾いた方が綺麗に鳴ってしまった事も確かだ。

 本来正しいと言われるメロディーと、スコア上のメロディーを弾き比べて動画にすることも出来るが、それは流石に晒し上げの状態になるし、そもそも音楽理論がどうとか言っても結局最終的にそれを「正しい」と決めるのはアーティスト側なので、例え音楽理論上間違っている音源だとしても、アーティストの作った音源としてはそれが正解である以上、この手の話は不粋ではあるのだが….

 ミキシングエンジニアからすると滅茶苦茶トラブルの元になるので、ピッチ一つの拘りがあるのであれば、直してもらう側の責任も請け負うべきで、指示書でも添付した方が良いだろう。

 とは言え、優秀なエンジニアであれば、この部分のここはこのコードなので、このメロディーのまま行ったら音がぶつかりますが、それでもいいですか?と聞いてくれるが、そこまで気の利くエンジニアはかなり少ないので正直拘りが強い人はエンジニアには頼らず、自分でミックスをする方がやはりトラブルは少ないのかもしれない。

 私は可能な限りヒアリングと共に、相談しながらミキシングを行うように致しますので、もし自分でミックスをやってみたけどしっくりこなかった。或いはミックスまでやる時間が無いという人は、是非私に仕事を依頼してください。歌ってみたでもパラデータでも私、ミキシングしますので。

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