そのノイズ、必要じゃないの?

 昨今のDTM環境では、ノイズ処理の可能なプラグインや機能が備わったDAWが多く、私が使っているNUENDOにも最初から付属されている。オーディオブックの制作なんかは、ノイズ除去技術は当たり前に使われているし、音楽でも環境音を取り除く為に必ずと言っていい程に使われている。だが、そのノイズって果たして本当に消してしまっていいのだろうか?今回はコラムに近い話でミックステクニックとはちょっと違うような話ではあるのだが、音楽にとってノイズとは?という観点で考えを綴ってみたい。

そもそも録音環境を見直す

 身も蓋もない話に聞こえるかもしれないが、本来音楽スタジオは防音加工がされており、ミキサー卓とは違う別室に録音ブースがあって、基本的に隔離された状態で録音をする。出来るだけ環境音の少ない状態で収音をする。だが、昨今は宅録環境で録音をした音源を使ってミックスをする事もあり、私も実際仕事でミックスをする時は音楽スタジオで録音された音源ではなく、宅録環境で録ったデータを元にミックスをする事もある。だからこそ、ノイズ除去プラグインやツールを使ってノイズを消していく作業が必要となる場面もあるのだが、スタジオでも宅録環境でも、そもそものノイズの発生源を徹底的に見直して作業をする事を勧めたい。

ノイズが音楽的に重要なものもある

 よくノイズとして消したいと言われる音として、ブレスやフレッドノイズを挙げられる。リップノイズなどもあるが、気になる音であればソフトを使って除去をするのも悪いとは言わない。しかし、例えばボーカルや管楽器の演奏では呼吸をする事は当たり前だし、それが人である。呼吸も演奏だと私は思うのだが、そのジャンルの音に呼吸は邪魔なのだろうか?バンドサウンドやアコースティックな作品であれば、生演奏をしている雰囲気というのは必要だと考える。フレッドノイズも同じく、ギターを弾いているとスライドした時の音は絶対的に出てくる。というか、そういう楽器だから。それをノイズと捉える事は本当に正しいのだろうか?

そのノイズ処理が音楽的な作品じゃなくしてしまう

 これも表現と言ってしまえばそれまでなのだが、正直な話として私は昨今の音作りの中で、ノイズ処理が一番嫌いな所は、その処理をした事が露骨にわかるようになってしまった事。

 ピッチ修正が重要視されるようになった頃にも同じようなジレンマを抱えた事があるのだが、ノイズ処理に関してもやはり一度考えた方がいいのでは?と思う音源を度々耳にする。

 最近Youtubeでカバー曲をアップしているバンドの音が気になって仕方がない。確かに演奏力のあるバンドである事は認めるのだが、ピッチ修正とノイズ処理が露骨にやりすぎており、オケと馴染んでいるようで浮いてしまっている音源を見つけてしまった。

 まずその状況の音源をきっと今の子は「クリアなサウンド」としてとらえてしまうので、きっと私のエンジニアとしての考え方とはもう相容れる事は出来ないと思っている。

 その上で書いていくと、ピッチが徹底して揃い過ぎているのだ。少しの揺らぎもない。ボーカルの音量感もVocalriderでガッツリ揃えすぎており、強弱がほとんどない。そして一番の違和感はまさにノイズだ。このノイズ処理が一番の問題だと個人的には考えており、ノイズを何が何でも除去しなければならないと考えるのか、空気感まで除去されてしまっているボーカルになっていた。ノイズって空気感も含まれるんだよ?その空気感も含めて「音」なんだよ。それを削るという事は、音を削る事そのもの。つまり、劣化とも言える事に疑いを持った方が良い。

 と、ここまで書いてみたのだが、数十年前のミックスの考え方としては音楽的に必要な事は何か?という事が重要視されていたようにも思えたのだが、それは今でも変わっていないようで、実際に上がってくる音源は容赦なくあらゆる処理をとりあえず行い、徹底的に修正された音源だ。そしてそれが受けてしまっている現状が酷く悲しい。だが、それが流行というのであれば、きっと私はもう時代には成れないし、これからも染まる事はないだろう。が、全ての音楽がそういう音になっている訳ではないので、オッサンながら私は「音楽」を作っていきたい。

 皆様の作ろうとしている「音楽」って何だろう?その答えがハッキリしなくても、ある程度目指したいと思うものがあるのであれば、あらゆる処理は必要なものを精査していけるのではないだろうか?

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