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演劇実験室◉万有引力『疱瘡譚または伝染する劇』 感染備忘録

4ヶ月ぶりに劇場で観た芝居がすごくよかったので、忘れないように書き残します。

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3月ごろ、市街劇でツイッター検索をかけていたら(市街劇の情報を探す手段がわからないのです)、熊本で寺山修司の疫病流行記を上演するというツイートを見かけた。

ちょうど感染症がニュースで毎日出るようになってきた頃だったので、「疫病流行記」という脚本にすごく興味を持った。

そして7月、寺山修司主宰の天井桟敷の解散後できた演劇実験室◉万有引力が「疫病流行記」を下敷きにした演劇をやるというので飛びついた。

今、あらゆる舞台公演の形態は、変化を求められている。この先、いずれ演劇も以前の状態に戻れるかもしれない。では、このCOVID-19の世界的大流行の状況下にある現在、出来ることは何だろうか?客席の形態はどうするべきなのか?舞台上での俳優の演技は?どのような表現方法を持ちうることができるだろうか?折しも万有引力の本公演70回目の節目となる今回、我々はあらためて「関係性(引き合う孤独の力)としての演劇」を問い直すところから、これからの演劇の新たなる可能性を模索しようと考えている。
万有引力公式HPより)

万有引力の公演を観るのはこれで2回目。最初は2018年秋に同じくスズナリ行われていた『狂人教育』である。

(『狂人教育』もサイコーだった。舞台セット、役者の発声、衣装、歌、宣伝美術・・・当日パンフの雰囲気まで好きで、人に見せびらかしたりした。
内容としても、自分の過去小説に家庭内での仲間はずれを描いたものがあったので一層面白かった。
(『狂人教育』に影響や元気をもらって1年後、その小説を『あく魔憑き』という名で演劇化したりもした…… )

寺山の『狂人教育』の脚本も観劇後読んだけど、万有引力オリジナルの操り手たちが話す「狂人」とはなんぞや?のくだりがすごく好きで、あそこだけでもメモりたい。「狂人」や「気狂い」について笑いを交えつつ知識を与えてくれる巧さが好きだった。(気狂いから発展して「釣りキチ三平」なんてワードまで出てくるんですよ)
脚本を……買わせてくれ……頼む…(吐血)と今でも思っている。

狂人教育も今の疱瘡譚も、上演映像、ほしい……難しいなら脚本、どうか脚本。劇中曲、ゲネ写真集・・・ウギャア、オギャアと欲望ばかり生まれる。どうにも私は終演後物販を探してしまう。だって手元に欲しいじゃないですか。)

70回本公演としては『眼球譚または迷宮する劇』と合わせて2演目あったのだけど、私は疫病流行記をベースとしている『疱瘡譚または伝染する劇』を観にいった。

疫病患者の出た家の扉は、すべて釘づけにされた。そして釘づけにされた扉の中では、新しい世界がはじまっていたのだった。
−−− ダニエル・デフォー

「疱瘡譚または伝染する劇」は、アントナン・アルトーの「演劇とペスト」と、その演劇論を寺山修司が大胆に意訳作品化した「疫病流行記」を題材に、疫病と演劇、観客と演劇、劇場と演劇との関係性(引き合う孤独の力)を改めて問い直そうというものである。この作品は、その過程に於いて現在の我々自身をも見つめ直し、そこから寺山演劇の普遍性と新たなる演劇世界の夜明けを目指そうとする《新奇な改革劇》となるだろう。
万有引力公式HPより)

開場!

今回は平日昼の回を予約した。
チケットを交換すると、左手側に案内された。
スズナリの左手側の入り口は、通常入らないところである。新しくできたのであろう、凝った内装の店が開いている。(↓これは終演後で閉まってる)

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へ〜と思ってみて前を見た次の瞬間!

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ギャーーー白塗りが!!!!いる!!!二人も!

白塗りの人が日常にぬっと現れる時に感じた、恐怖。
いや、市街劇好きな自分にはむしろ歓迎で、全然いいんです嬉しいんですけど、正直体がびっくりしていた。たじろぐたじろぐ。
えっ、そこ制作(スタッフ)さんじゃないの?ぐあ〜〜油断してた〜〜〜
黒マスクしてるから表情の半分見えない訳ですけど、ギン!!って瞳の圧ね。

遠隔で測る体温計をすっと掲げらた時の、こんな丸腰できてすみません感。
消毒液を差し出されて、ヒャッかたじけない、と思う感じ。
一言も発してないのに存在だけで圧がある。わぁこれがオーラってやつですか死。

体温をみて細い板を裏返しメッセージを伝える二人は、異世界へ繋げる地獄の門番の鬼かのよう。喋らないのは感染予防のため当たり前なんだけど、文字を通したコミュニケーションあたふたした〜〜

衝撃的すぎてぜってえ絵にでもして伝えねば!と思ったけど、スズナリさんのツイートにバッチリ写真ありましたありがとう。


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検温と消毒のため立っているだけなのに、なぜか役者二人に査定されている気がした。おそらく今まで、観客という個人を見つめられない立場によって油断してたからだろう。気が緩んでる私と演技中の役者さんなら、そりゃ押し負ける。
でもこの二人によって気が引き締まった。

へどもどして裏口の階段へ。

そもそもスズナリの裏口というのも不思議なところで、事前情報なしに行った私は、階段を登って現れた異世界に驚愕した。

ぴちゃんぴちゃんという音響、間近にあるステージ、「チケット半券をちぎっておいてください」という箱。
そして近くにいる金棒を携えた鬼(それは見間違いで「携帯電話の電源を切ってください」と書かれた板を持った役者さんである)。

リアルタイム授業をイヤホンで聞きながら入場(失礼!)した私には、軽いパニックだった。開演ギリギリまで授業聴きたかったけど、現代アートの講義には身が入らなかったから開演5分前には切った。

(別日にはこんな光景もあったらしい↓素敵〜〜)

4ヶ月ぶりに入った劇場の観客席のパイプ椅子は、一席ずつ三面が囲まれていた。蓋のない椅子付き棺桶。
黒いプラ板(プラ段ボールっていうやつ?)で囲まれ独立した長方形の座席が無数の段になっていて、墓のひな壇であった。圧巻。

圧倒されたものの、どう席にたどり着けばいいのかわからず、横から入ってしまったが、のちに客席中央から入れば良いことがわかった。
座席はありがたいことに本当にセンターだった。客席横の壁を見ると、アングラっぽい絵画が飾られている。四人くらいの人物がテーブルについているようなものだったと思う。

舞台には透けたスクリーンが3つ。その後ろでうごめいている役者さん、はっきりと見えない、ああ気味が悪い(褒めてる)。おどろおどろしく、最高。

もしやずっとスクリーンを通して観劇するのかなと思った。クァー感染予防!
いや待て、外したりもありえるか!と期待する。いずれにしろ万有引力なのだから効果的に使うはずだと思った。(予想は的中した)

開演!

【注意】
ここからは次の日あたりに忘れまいと書き散らしたことを、覚えてる限りの上演時系列に並べたもので、信憑性は低いです。主観盛りだくさん。

開演時間になって、奥から黒い帽子を被った女性がゆっくり登場。
「私はあなたの病気です」うお〜聞いたことある台詞!
口元には透明のフェイスガード。この人だけ口を隠すマスクではなかった。口紅綺麗だな〜

ペスト当時の混乱を伝える映像がスクリーンに映し出される。困惑したラジオのような音声も流れる。
そこで、モチーフはペストのことかと知る、課題のためにカミュの「ペスト」を読んでいる自分にぴったりだ!包帯男二人による舞踏みたいなのを交えつつ、帽子の人はデカいカバンをテーブルに置いてた。

二人の包帯男たち、増加する死亡者を「食中毒よ!」と言い張るキャバレー商船パゴパゴ女主人、痒がるキャバレーの二人の女性(見てるとこちらも痒くなるようであった)。
感染者の家の扉を金槌で釘付けにした、ということから、互いを打ち合う包帯男。キン!という金属音が響く会場。

正方形の箱が三つくらい舞台上にあった。
中央の箱からでん!って飛び出る肢体。いろんな意味でびっくり箱ってこのことね。下着一丁で横たわるおそらく死体役、キャバレーの女主人に踏まれて痛そうだけどもちろんピクリともしない。腹筋でガードしてるんかなあ。
直後に確認しましたが女主人はヒールのある靴を履いている。わー。

感染流行に伴って現れた広告たち、オーバーな宣伝文を言いながらセリフに沿った動きをしていく。また、板に広告文がぎっしりと書かれている。スクリーンには新聞広告の模様を写す。あれ本当の広告か……?
医者を名乗りながら、患者がきたら迷惑そうに板で追っ払う。「しっし!」医療崩壊だなあ、まあ本当の医者か怪しいけど。

ハエ叩きの女の頭につけられたハートやスペードの形のハエ叩き、ちょっといいな。トランプの柄全部あるのかな。
ハエ叩きで叩かれる音を外の唯一の音楽とする箱に閉じこもった男。確かに一人静かにいたらなんでも外界の音は音楽になりえるだろなあ。

箱を持って線香花火を二発楽しむ女たち。線香花火、舞台上で見るの格別だなあ・・・火薬の匂いがよかった。嗅げるところがいいですよね劇場は。

役者がスクリーンの後ろにいることが最初続いたのち、キャバレー女主人がスクリーン前で生歌してた!えっ、来てくれるんですか、ってか近!!ってなった。
2019まではその程度の距離なら、近いとすら思わなかったけど、今はわー遮蔽物がないなーありがてーって思う。腹筋が動いてて美しかった。

なんかを口に入れられているのか、口中が黒く見える集まった3人の顔。台詞がなければマスクをしなくてもいいので、口元が露わになっている。

しかし、「わたしはあなたの病気です」の女以外、台詞ある人は何かしらで口元が見えない。マスクの威圧ったらない、怖い。白いマスクをつけている人はいなかった、暗転のためかな。

役者さんはそれぞれ特徴的なマスクをしている。衛生院?消毒人の空気の通る銀のグネグネとしたやつ(調べたらダクトホースというものらしい)のマスクが良い。じゃばら動かすの楽しそう。

この3人に限らず、ものをいう訳じゃないけど舞台上に役者が存在してる場面がいくつかあって、俯瞰してみるのが面白い。舞台上の情報量が多いので、目が少し忙しい。
フラッシュバックする暇もなく、スペクタクル、圧倒される。舞台上のあちらこちらで役者が動いていて、眼球全体で捉えようと頑張る、広く広く、と。

頭から板が垂れている男が数える感染者数。キョンシーのお札みたいだった。
病気になりたがる閉じ込められた女。この病気になりたがりの女の台詞好きだった。罹りたがり少女を目にして、箱を開けたものの困惑してる男たち。そりゃもう一度閉じますよね。

場転中、キャバレーパゴパゴのネオンがチカチカしていて良い、舞台の右上にかかっている。奥には色々絵もありましたな。
しかし変わった名前のキャバレー。

歯磨きしないので怒られて箱に閉じ込められるキャバレー内のいじめ。歯磨かなきゃ。
いじめっ子の箱に投げ入れる歯ブラシの保管場所がイカす。確かスカートの下、太ももあたりにベルトがあって5本くらい差し込まれてました。女スパイのナイフの隠し場所じゃんカッコよ〜。

テレビに夢中で操られていることに気がつかないおじいさん、苦しそうに口に手を入れる。声を出さないけどおじいさんと一緒にいる人だけ音声のおかしさに気づいてるなあ・・・メディアの混乱。はひふへほ。

箱に閉じこもる人々、どういう仕組みだろう、裏は空いているのかしら。
そしたら観客席の私たちが入ってる長方形と似てる構造だろか、三面を封じられているような。
人々が感染を恐れ1m四方の箱に閉じこもった、という劇の出来事と、3月からの自室にこもる生活と、今観客席にて三面黒いダンボールに囲まれる自分を少し重ねる。
しかし役者さん、箱にいるのにさすが声が通る。

後ろでゴムパッチン?の用意をされた女と引っ張る男。パッチンされるかと思って目が離せなかった。パッチンはされなかった安心。

脳みそに釘を打つ人、病気の解説してる博士みたいな人の脳みそとリンクしてるのか、打ち込まれるたびゲホゲホ苦しがってた。身体距離を保ってても影響させることはできる。

浣腸男、結局浣腸せずに帰るなあ。スズナリは右手側、観客席と舞台の間からもデハケするのでおお、って思う。

黒い紙でゆっくりと折り鶴を二つ作る謎の少女。丁寧な所作で美しい。折り紙を作る過程をゆったり見るって惚れ惚れしますね。

包帯男たちが包帯を飛ばして引っ張り合う引力、引き付き離れあい。
包帯をヒュルーって飛ばすのにはなぜか既視感があった。
後々、一度ストリップで見たリボン投げと判明。本当に綺麗に飛んでました包帯。役者同士の身体の距離が近く、ぶつかるシーンって包帯男たちぐらいな気がする。守られたディスタンス。

魔法使いみたいに火を操る人々。マッチのパフォーマンス。火をつけたまま暗闇で円を描いたりする。綺麗〜〜〜
『狂人教育』でも驚いたけど、火って本能なのかすごく見てて興奮する。
マッチらしいけどさ、指先に火を灯してんのか?って思う。訓練を積んで爪から発火できる魔術師集団なのでは?と勘違いする。
本当に瞬時に火がつきます、大興奮!
火が使える劇場って他に知らないけど、本当にいいなあ。かっこよすぎる。私がやればすぐ火傷すんだろな、かっけえなあ〜〜

あと暗転が本当に暗闇なので最高です。星のごとき蓄光テープを万有引力では知らない。闇夜に音楽だけが響いてくる。釘を打つ音が響く。

最後集まって狂い出す人々、あれは万有の伝統?バトルのような赤い照明。舞台奥スクリーンの後ろだったからギリ心臓破裂しなかった危なかった。

ラスト、スクリーンに映る文字!文字!文字!!!
覚えたくて4周くらい読んだけど、今ほとんど覚えてない。無念。

上演中、恐ろしく時間が経つのが早かった。

終演後もらえる当日パンフレット。

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観劇を終えて

感染症の中、劇場での観劇が3月からできていなかった。その間、野外パフォーマンスにちらほら行って劇場からどんどん縁遠くなってたけれど、改めて、劇場のパワフルさを知った。音が体に響く感覚をいつぶりに味わったことか。「√ー何か面白いことはないかと劇場に出かけるー」と「劇場」が題に入っていることを改めて重く感じました。

万有引力さん、スズナリさん、上演ありがとうございました・・・忘れずにいておきたいです。とりあえず「疫病流行記」の脚本を読みます!

拙い記録ですが、お読みいただきありがとうございました〜

(直接作品と関係のない、この観劇で起きた自分の身体的反応を別記事に書きました↓ 自分の受けた衝撃をなんとか覚えておきたい……)
P.S.
日替わりの「眼球譚」の其の後に市街劇特集があったのに見逃しました。喚いても悔やんでもどうしようもないので、なにか情報があればお待ちしています・・・一体、眼球譚では何が起きていたんだ・・・!情報求ム!

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さふしゃ
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