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ファッションテックの現在と未来

近い将来、ファッション産業向けのソリューション群が出揃い実用化されれば、一方通行のモノの流れをオムニチャネルへと繋げていくことが出来る。例えば、製造から小売りまでの、いつ、どの段階においても、さらには他業界からでも、ファッションビジネスのスタートを切ることが出来る。
そして、商品企画の段階で現物サンプルを製作せずに、シミュレーション画像・映像を使う等、無駄を省くワークフローが確立されたり、建築土木業界の様に3次元モデルを活用するBIM/CIMを構築し、データの分析結果をもとに課題解決を行うデータを重視したワークフローを行い、AIマーケティングにより価格競争を事前に予測するといった革新的なフローが出現したりするだろう。

例えば、CGで作られた「バーチャルインフルエンサー」は、人間のモデルを撮影した画像にCGの顔をはめ込む方法で作られているタイプが多いが、全身がCGのバーチャルインフルエンサーが3DCGの衣装でPRをするということも可能になってきた。現実の人では表現できない演出でバーチャルインフルエンサーが洋服を着用し、コンシューマーの実商品を購入したいという欲求に結び付ける広告が実現される。そしてここでも、商品企画段階から継承した3DCGの衣装データが利用され、リアルな衣装制作を可能にするパターンと連動し新しい産業構造のリテールになる。「バーチャルヒューマン」の様にリアルなCGモデルやメタバース、XR等、広告やエンターテイメントの「X-Tech領域」でファッション企業の躍進も期待される。

 21世紀に入り次々とリリースされたファッション3D・CADとそこから広がるシステム群だが、産業活用レベルの高度なオペレーションができるようになってきたのは2015年頃からだ。しかし、国内アパレルではファッション3D・CADの活用はあまり進んでいない。ユーザーが、いくつかあるCADシステムの個性やそれぞれの得意領域を理解できず導入時の選択を誤ったり、リアルな表現ができないと思い込んでいたり、オペレーション出来る人材を育てきれていなかったりと、要因は幾つかある。それぞれのCAD毎に特徴が有るため、導入ユーザーは自社の業務とCADの機能をじっくり比較し見定める必要がある。
また、ファッション3D・CADの開発が進み高度な表現が出来る様になった反面、必要なツールが増え、ファッション3D・CADでリアルな3D表現をするためには、パタンナーとCGクリエイター両方のスキル・知識が必要となり、この様な人材とそれを活用できる社内外での見識も必要である。
つまり、テクノロジーの発展と共に、我々人間の方も進化が求められる。今、我々は第4次産業革命に直面している。
IT業界用語でファッションテックを説明するとすれば、「サプライチェーンのリテールをDXしてオムニチャンネル化する事により効率を高めてサスティナブルなエコシステムを構築するソリューション群」という言い方ができる。横文字専門用語の羅列で、大げさな表現に見えるが、アパレル・ファッション業界に限らず他業界でもこれらの単語はよく耳にする。IT関連だけでなく、機械や繊維化学のビジネスモデルにおけるファッションテックの記事も目に付く。この場合「テクノロジー」の「テック」だけでなく、「テクニック」の「テック」の意味も加味される。「ウェアラブルデバイスを装備したホールガーメント・ジャケットにより、ユーザーの状態をモニタリング共有出来るハードウェアとコンテンツを提供」等々、技術の連鎖によるイノベーションをファッションテック用語で表現できる、この様な語彙列は人類の知能の集大成と言える。様々な機関や業界で、多くの基礎研究や過去の事例が個別に積み上がり、それが研究枠や業種を越えて多数結びつき新しい技術や方法に纏まる。そして、効力を発揮するプロセスに繋がるそれぞれのキーワードが並びこういう表現が出来る様になる。
 X‐tech(エクステック・クロステック)と言われる、既存産業と先端技術の融合によるイノベーションは他業界で目立つ。アパレル・ファッション業界では、ファッションテックと言われるこの潮流で、その先端技術をどうマネタイズするのかが業界内での課題となる。他業界と比べ着目すべき点は、無駄の改善による収益増の領域が大きい業界であるという事だろう。先端技術を駆使して販路やニーズを開拓するだけでなく、生産品が半分売れ残るアパレル業界内で、自社の無駄を省くだけで莫大な利益に繋がる余地が有り、更に販売域を拡大するとマネタイズ領域は広がる。
先端技術をユビキタス的に活用し新カテゴリーの製品開発や新旧製品の販路拡大による売り上げの増進と、商流を直売からコラボに、そしてマルチチャネルに広げ、更にはクロスチャネルを越えオムニチャネル化して行くことで、無駄と損失の低減と、リテールの拡大による純益の向上作用がファッションテックに求められるところであり、社外の見知や、業界外のシードをどう取り込むか、これがファッションテックの課題である。
 
文責:小畑正好


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