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シン・特許出願の目的
前回のnoteに自分なりの特許出願の目的3つを書きました。
3日で前言撤回
コメントを何人かからいただいたり、弊所内で再度議論をして早くもアップデートしたくなったので、その内容を改めてさせていただきます。
抜け漏れ・ツッコミ箇所を塞ぐためのアップデートですので、前回「これが結論!」みたな顔をして投稿したことに関して修正が早いことはご容赦ください。
なお、前回のnoteがベースになっていることには変わりなく、今回のnoteでは説明を端折っている箇所も少なくないので、両方読んでください。
シン・特許出願の目的
早速ですが、シン・特許出願の目的はこれだ!!
(1)他社に真似を止めさせる
(2)他社への牽制
(3)実施権の確保
前noteでは偉そうに「中小・スタートアップの特許出願の目的は実施権の確保だ!!」と言っていたのに、実施権の確保は3番目に降格です。
だってこうしたほうが流れがいいんだもん。
なぜ流れがよくなるかはこれを最後まで読んでください。
他社に真似を止めさせる
第一の、そして最終的な目的は他社に真似を止めさせる、です。
旧:他社に真似をさせない
新:他社に真似を止めさせる
目的(1)においても若干表現を変えました。
新では差止め感を出しました。
また、「旧:他社に真似をさせない」の一部を目的(2)に含ませました。これはまた後ほど。
前noteでも書きましたが、目的(1)を(強制的に)実現するためには訴訟を行うことが必要ですが、中小・スタートアップにとっては金銭的・時間的・人的リソース的に訴訟をするのは厳しいです。
最終的には「他社の真似を止めさせる」が特許出願・権利化の目的になるのでしょうが、中小・スタートアップは最初からここを目指すことは止めるべきで、特許権侵害による損害額が甚大等の本当に仕方がないときだけの選択肢でしょう。
他社への牽制
新サービスに関するプレスリリースで「特許出願中」と書いてあったら特許出願が公開されるまではその内容がわからないので同業他社は嫌なものです。
また、一定以上の特許調査ができ特許請求の範囲を読んで権利範囲を理解できるような同業他社であれば、定期的な特許調査によって自社の特許権を発見してくれ、勝手に止めてくれる(例えば、設計変更する)ことも期待できます。
自社も実施している技術に関する他社特許権を自社知財部が見つけてしまった場合に、上司や経営陣に「他社特許権を侵害している可能性が高いです」と報告しますが、知財部の立場では「そのまま実施していいよ」とは言えないでしょう。
クロスライセンスの弾を持っている等の理由があって経営判断としてそのまま突っ走るということはあるかもしれませんが、見つけてしまったら一旦はブレーキをかけるはずです。
弊所で実際にあった例ですが、ある特許権について「今色んな同業者がやっていることがこの特許権の侵害になるのでは?」と業界内で噂になり、そのうち1社から弊所へ鑑定の依頼がありました。
検討すると見事に技術的範囲に入っていたため、その会社は一時的に工場を止め、最終的には設計変更をしました。特許権者から何らの連絡をもらってないけれど、その会社は経営判断として自主的に設計変更しました。
まさに特許権の牽制効果バリバリです。
牽制効果によって、旧目的(1)の「他社に真似をさせない」が実現する場合もあることがこれでもわかります。
また、自社特許権に対して異議申立てがあったら、それは同業他社がその特許権の存在を嫌がっていることに他なりません。
異議を掛けられたら特許権者としては嫌なものですが、気持ちを切り替えて「おっ、牽制として効いてる効いてるwww」と思ってもいいかもですね。
そして、同業他社がいない業種は無いでしょうから、BtoBでもBtoCでも他社への牽制は特許出願・特許権取得の目的になり得るでしょう。
仮に超画期的な商品・サービスであり自社1社しか市場にいない場合でも、特許権は参入障壁=他社への牽制になります。
同業者同士が共存し一緒に市場を広げるということももちろん重要ですが、一方の手で握手をしつつ反対の手には銃に手をかける、という強かさは必要です。
なお、「他社への牽制が弊社の特許出願の目的です」と対外的に言ってしまっては牽制になりません。
「真似してくるならいつでも訴訟やったるで!!」という態度でいましょう。
そして「他社への牽制」は「他社に真似を止めさせる」へ地続きであるはずです。
だから今回は「他社への牽制」を目的(2)にしました。
実施権の確保
目的(2)のために審査請求して権利化までしていたら、おまけで実施権も確保できます。
工場やサービスが止まることは絶対に避けなければいけませんが、他社への牽制である特許出願及び権利化をしていたら実施権も確保できるので、目的(2)と目的(3)も地続きであり、相反するものではありません。
まとめ
中小・スタートアップは自社の技術の特許出願・権利化を行って同業他社に対して牽制しその同業他社には自主規制でブレーキをかけてもらい、自社は実施権を確保して事業計画通りビジネスを進めて利益を上げ、訴訟は原則として避けるけど、どうしても看過できないものに対しては事前に仕込んでおいた武器を使って訴訟を行う、という方向性がいいのではないでしょうか。
今回は出願の目的ということでしたが、ノウハウ管理や契約でコントロールすべき点はまた別の機会に。