25年ぶりの再会と郷愁
6月は個人的に卒業シーズン
6月といえば、日本では梅雨のイメージが強いが、私にとって6月は「卒業シーズン」でもある。私は中学3年生でベルギーのインターナショナルスクールに転校し、高校卒業まで在校した。海外では一般的な「9月入学・6月卒業」の学校だったので、中学と高校の卒業式はいずれも6月だった。
25年ぶりに再会したあの帽子
実は、昨年から両親の暮らす実家の荷物の整理をしている。偶然にも先月のこと、私は高校の卒業式で被った鮮やかなブルーの帽子を見つけた。インターの高校の卒業式は、いわゆる海外式の帽子とマントが正装で、卒業生全員がそれを着用する。帽子とマントの色は卒業年によって異なり、私が卒業した1998年はブルーが採用されていた。
本帰国のパッキングで慌ただしい中、荷物に入れて戻ったことは覚えているが、実家に置いたまま東京の大学に進学し、帽子のことはそれきり忘れていた。同布のマントは、スーツケースの中で思った以上にシワシワになってしまい、早々に処分した記憶がある。
以前のnoteでも触れたことがあるが、14歳からスタートした私のインターでの生活はなかなか厳しいスタートだった。欧米からの生徒達がヒエラルキーの頂点に君臨し、圧倒的な存在感を放つ環境の中、アジア人というマイノリティーの立場の転校生で英語もうまく話せなかった私は、自分の居場所を見つけるまでに少し時間がかかった。英語の上達とともに徐々に友達も増え、2年目頃からは学校生活が随分と楽しくなってきて、高校の卒業式は晴れやかな気持ちで迎えることができた。しかし、卒業してからもずっと、「本来、多くの人が楽しく過ごすのであろう思春期を自分は伸び伸びとは過ごせなかった」という劣等感に近い気持ちが、心の隅っこにずっとあった。
突然の高校の同級生からの連絡
昨年末のこと、高校時代のフランス人の同級生から、Facebook経由で突然連絡が来た。彼女は高校時代から中心的な存在で、受けている授業も異なり、ほぼ接点はなかったが、苗字のアルファベットが近かったことからロッカーが隣同士で、放課後などにたまに話をすることがあった。私はもちろん彼女のことを覚えていたが、逆はないだろうと思ったので正直驚いた。
唐突なメッセージに戸惑いつつも内容を読んでみると、2023年6月に25年ぶりにベルギーで1998年卒業生の同窓会を行うというのだ。彼女はその幹事をしていて、私のことを覚えていてくれて個別に連絡をくれたのだという。その後、彼女は「高校卒業後の25年記念を祝うコミュニティ」に招待してくれた。
コミュニティに参加すると、高校時代の懐かしい顔ぶれが落ち着いた大人になった姿で次々と登場し、再会の喜びと懐かしさを覚えた。四半世紀という月日が嘘のようにスーッとあの頃の記憶がよみがえってきて、一瞬高校生の自分に戻ったような気もした。そして、そのコミュニティを通じて私は、自分の過去に対する考え方を一新する事実に出会った。
きっかけは幹事の女性の投稿だった。実は、決して少なくない数の同級生たちが、私と同様にインターでの数年間を人生で一番困難な時代だったと考えていたことを私は知った。あの頃、本当にキラキラして見えていた彼女や彼も、親の都合で母国を離れ、さまざまな人種が集うインターナショナルスクールで学ぶという特殊な環境の中で、内心ではさまざまな葛藤や痛みを抱えていたことを。
特殊な事情に加えて、みんな10代の思春期にあったわけで、大人に向かう途中の未熟な精神年齢の中で、配慮のない言葉で相手を傷つけてしまったり、必要以上に孤独を感じて悩んでしまったり、色々あったのだ。「あの時代のことを少しほろ苦く振り返っているのは自分だけではなかった」という事実を25年ぶりに知って、私はなんだか安堵に近い気持ちを覚えた。あの頃の自分が初めて自分の中で、屈託のない笑顔を見せた気がした。
「私たちは若くて歳を取っている。今からでも遅くない、再会して新しく幸せな思い出を作りましょう」という彼女の投稿に「いいね」を押した。さすがにベルギーは遠すぎるが、私はこの帽子を家に飾って、久しぶりに卒業アルバムをめくりながら、6月の日本からあの頃のことを思い出してみようと思う。
天井に向かって投げた帽子
ちなみに、6月のベルギーはいわゆる白夜で夜も明るい。そのため、卒業式は夕方から夜にかけて行われるのだ。ちなみに、ベルギーは日本よりも飲酒の年齢制限は日本よりも低く16歳以上からOKなので、高校の卒業式では卒業生やその家族にお酒もふるまわれる。生徒たちも、卒業式の正装である帽子とマントの下はスーツやドレス(インターには制服はない)なので、卒業式というよりはパーティーに近い雰囲気である。そして卒業式の最後に、卒業生全員で同時に「おめでとう!」と叫んで、被っていた帽子を天井に向かって高く放り投げるのだ。毎年恒例のその儀式をもって、卒業式はお開きとなる。(その後、個々で投げた帽子を拾いに行く・・笑)
私も40歳を少し過ぎた。100点満点の人生ではもちろんないが、ほどほどに幸せな状態で25年ぶりにこの帽子と再会できたことは、喜ばしいことだと思っている。
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