本気の検証「大吉原展」@東京藝術大学が教えてくれた江戸吉原文化
杉浦日向子先生の江戸時代を描いた漫画で、歴史の教科書ではわからない江戸文化の奥深さを知り、この手の展覧会には目がない私としては、前売り券を買い、満を持して鑑賞の時間を2時間以上確保して行きました。が、足りなかった!17:00閉館と他よりも早めなことも失念していましたが、本気で時代考証しており、見応え・読み応えが凄い。またもやショップは最後の5分駆け込みに。
本展については、開催前に「吉原を美化している」という批判があったこともあり、冒頭で非常に丁寧に展覧会の趣旨を説明しており、広報って難しいな、と再確認。批判の点は認識した上で、展覧会そのものを見ると、ここまで吉原を文化の視点から系統だって紐解いた展覧会は見たことがない!
まず第一部は、入門編として、吉原の文化、しきたり、生活などを、厳選した浮世絵作品や映像を交えてわかりやすく解説。大判の浮世絵を更に映像で拡大して、登場人物が誰なのか説明をつけてくれることで、「花魁」「幇間」「遣手」「禿」といった吉原独自の役割と外見が初めて一致。今でも「遣り手婆」とかいいますが、吉原用語だったのでしょうか?
下の絵の道中先頭が花魁。次が振袖新造(禿上がりの見習い遊女)、その次の黒い帯が番頭新造(花魁の専属マネージャーみたいな人。年期明けの遊女)。小さい二人が禿(花魁について雑用をこなす役。花魁ひとりにつきふたりいるらしい)で、最後尾が、たしか遣手(遊女の総監督者)と若い衆(年寄りでもこう呼ばれる)。右のお茶屋奥で花魁が来るのを待っているのがお客?若旦那?扇子持ってお酒飲んでいるのが幇間(たいこもち)でその横が芸者だったかな。なお、お茶屋の縁先に座っているのも花魁でした。お客の到着待ち。お茶屋の女将さんとお話し中。
こういう吉原独自文化を、実際の浮世絵を元に解説してくれているので、1つの解説映像は2分程度ですが、興味深くて全部見てしまうんですよ。いつも気になるがよくわからない浮世絵の登場人物を初めて解説してもらった感じです。
そして第二部は、風俗画や美人画を中心に、吉原約250 年の歴史をたどっています。
これは、花魁がその髪型や装束を記録に残そうとして描いてもらったらしいのですが、出来上がった絵を見て「こんな顔じゃない」と泣いたそうです。高橋由一と言えば「鮭」。これも東京藝大が持っている超有名作。でも、この「鮭」のタッチ見ていたら、私だったら依頼はちょっと迷うな。妙にリアルな肖像画を描かれそう。うーん、「鮭」の方が後なのかな。いずれにせよ、まだ洋画が一般的になる前なので、浮世絵の美人画みたいなものを期待していたらショックでしょうねえ。
そして第三部は、展示室全体で吉原の五丁町を演出するという意欲的な試み。「浮世絵を中心に工芸品や模型も交えてテーマごとに作品を展示、吉原独自の年中行事をめぐりながら、遊女のファッション、芸者たちの芸能活動などを知ることができます。」と展覧会サイトにもありますが、まさにそうでした。
大門から両側に町に見立ててテーマ展示があり、一番奥には、江戸風俗人形で吉原を再現していました。小さいお人形なのですが、辻村寿三郎のお人形だけあって、拡大して見たら妖艶で悲しくて粋な吉原の女性達が箱庭の中に閉じ込められていました。ここだけ写真撮れたのですが、とても大きな箱庭で一場面ずつしか収らなかったです。
お正月に始まり、春の「夜桜」、夏の「玉菊燈籠」、そして花魁達も参加して芝居などを繰り広げる「俄」など、年中行事の華やかさが浮世絵の中に描かれていて、この背景も初めて理解。毎年、花の咲いた桜を植えて夜桜を楽しむ贅沢さ。ため息。日本の四季が吉原という人工の町で消費されながらも、文化として成熟していったことがよくわかります。
最後の展示に、火事で焼け出された際の「仮宅」営業の様子の浮世絵が展示されていたのですが、そこで、吉原は何十回も火事になっているが、多くは吉原の女性が逃げ出したくて付け火したものだった、ということが書いてありました。幕府公認の遊郭という場所で、江戸時代最高レベルの文化が生まれ、流行を作り出していたのと同時に、その悲しさも教えてくれる展覧会です。
<余談>展覧会の帰り道、上野公園の桜が満開の日でした。曇り空でしたが、人出も凄かった!
<余談その2>もし杉浦日向子先生の吉原を描いた漫画に興味があれば、お薦めは「二つ枕」です。
この漫画の中で「吉原江戸町一丁目内」とか「吉原伏見町」とか書いてあった住所は、ちゃんと吉原五丁町に存在していたことを今回の展覧会で地図を見てようやく理解しました・・・
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