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目も、耳も、脳も、坂本龍一の音に浸る 

  気になっていた「坂本龍一トリビュート展」へ。昨年3月頭頃、アーティゾン美術館で「ダムタイプ」を偶然見て(元々は同時開催の「アートを楽しむ」のついでだった)、様々なメディアやジャンルがミックスした不思議ワールドにどっぷり浸かり、坂本龍一も参加しているのか、と知ったのが始まり。その直後に亡くなられたので更に記憶に残りました。

  タイトルにあるように、音楽とアートとメディアがミックスされたインスタレーション。坂本龍一ならではの創造の世界を表現しようとしています。音楽ではなく、綜合メディア。まさに目から耳から脳まで音に浸る、としか表現できない。音楽のイメージを伝えるのは難しいですね。音楽会のパンフレットは書けないな・・・

坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ2023」不可視・不可聴ICCバージョン
坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ2023」不可視・不可聴ICCバージョン

  これは、通常、人間が知覚できない電磁波をセンサーが感知して、可視化・可聴化したものだそうです。坂本龍一は「音」や「モノ」の元々の姿にとてもこだわった人なのかもしれないな、と思わせる作品が揃っていました。様々なアーティストとのインスタレーションが紹介されており、音が常に流れているのですが、その作品の根底にあるものが「静」だからなのか、会場の雰囲気は静謐な感じです。ダムタイプとかは街の音が流れているのに、雑踏のざわめきも静けさを伝えるのが不思議。

Dumb Type + Ryuichi Sakamoto
Dumb Type + Ryuichi Sakamoto
毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)

  心惹かれたのは、次の「設置音楽2|IS YOUR TIME」展(2017)で展示された、東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノを、スキャンするように対象物を写し取る方法で撮影した作品に寄せられた坂本龍一の言葉:

《Piano 20110311》

もとはモノだったものが,人によって変形され,時間とともに,あるいは巨大な自然の力によってまたモノに還っていく.
都市もそうだ,都市の素材も鉄,ガラス,コンクリートなど,もとはみな自然のモノ.それらを人は惑星各地から集積し,あたかも彫刻のように形を与えていく.しかしそれも時間の経過とともに,モノに還っていく.

自分が住んでいるマンハッタンを見ていて,以前からそう思えて仕方なかった.これは単なる個人の妄想ではないんだと最近は思うようになった.

坂本龍一 ——「設置音楽2|IS YOUR TIME」展覧会に寄せて(2017年12月)

展覧会公式サイト作品解説より抜粋

  モノだけでなく、ヒトもあらゆるところから集まってきて、最後はまた還っていく、当たり前なんですが、そのことを「モノが還っていく」ことを「作品」として見せてくれた坂本龍一自身が亡くなることでじわっと感じました。

  最後まで常に新しいメディア、未知の音、コラボレーションを探求していた坂本龍一の音に浸った一日でした。帰宅して展覧会サイトを見ながら振り返っていたら、「The Sheltering Sky - remodel」の制作者が坂本龍一の音楽を語っていて、そのコメントがストン、と腑に落ちました。

「Resonant Echoes」坂本龍一の音楽を通じて,いかにリスナーが時間を横断することを可能にするかを探求した作品
「Generative MV」AI技術を活用して,観客の入力したテキストに応じてリアルタイムに背景が変化するミュージック・ヴィデオ
「The Sheltering Sky - remodel」音楽と視覚的なイメージを通じて,坂本の話す「言葉」を探求したオーディオ・ヴィジュアル・コンポジション

坂本龍一の音楽を聴くと,私たちはいつもとはちがった方法で,すなわち,視覚ではなく,音を通して,世界を知覚し始めます.坂本の音楽は,まるで私たちがその音楽の宇宙の一部になるかのように,空気の振動を感じさせてくれます.彼の音楽は,聴く瞬間に,私たちの世界の認識を変えるのではなく,空気そのものになり,より微細で儚いレベルで,世界を感じさせるのです.
    “The Sheltering Sky - remodel” フォーオーフォー・ドットゼロ

展覧会サイト作品解説より抜粋

  たくさんの音に満ちていながら静謐な空気感があったのは、そういう世界観を坂本龍一の奏でる音が持っているからなのかもしれないなあ。こう書くとかなり静かな会場に思われるかもしれませんが、実際は映像と一緒にしっかり音楽流れていますので、誤解なきよう。
  あと、alva notoとのコラボレーションの映像(Liveと制作過程)があったりして、全部ちゃんと見るとなると1時間では足りませんのでご注意を。「音楽を見たり聴いたりする」インスタレーションなので。

  最後に、李禹煥のドローイングを2つ。1つ目は、坂本龍一の生前最後のオリジナル・アルバムとなった『12』のジャケットのために描き下ろされたもの。ジャケットでは、李のアイデアにより、ドローイング部分のみを13度の角度に傾けて完成されているそうです。

「遥かなるサウンド」アルバムジャケットになった李禹煥のドローイング

  そして2つ目は、「祈り」。坂本龍一の病気平癒を祈って描かれ、李より個人的に贈られたドローイング。裏にはメッセージがあるそうです。

「祈り<Prayer>」

坂本龍一さん

このdrawingは 時計まわりと
反対に描いたものです
従って 見る時も左回りに目を
回しながら見ます
そうすれば力が湧いてきます
時々10分程やってみてください

李禹煥
2022.8.15

展覧会サイト作品解説より抜粋

  坂本龍一への尊敬と愛に満ちた、インスタレーションでした。

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