目も、耳も、脳も、坂本龍一の音に浸る
気になっていた「坂本龍一トリビュート展」へ。昨年3月頭頃、アーティゾン美術館で「ダムタイプ」を偶然見て(元々は同時開催の「アートを楽しむ」のついでだった)、様々なメディアやジャンルがミックスした不思議ワールドにどっぷり浸かり、坂本龍一も参加しているのか、と知ったのが始まり。その直後に亡くなられたので更に記憶に残りました。
タイトルにあるように、音楽とアートとメディアがミックスされたインスタレーション。坂本龍一ならではの創造の世界を表現しようとしています。音楽ではなく、綜合メディア。まさに目から耳から脳まで音に浸る、としか表現できない。音楽のイメージを伝えるのは難しいですね。音楽会のパンフレットは書けないな・・・
これは、通常、人間が知覚できない電磁波をセンサーが感知して、可視化・可聴化したものだそうです。坂本龍一は「音」や「モノ」の元々の姿にとてもこだわった人なのかもしれないな、と思わせる作品が揃っていました。様々なアーティストとのインスタレーションが紹介されており、音が常に流れているのですが、その作品の根底にあるものが「静」だからなのか、会場の雰囲気は静謐な感じです。ダムタイプとかは街の音が流れているのに、雑踏のざわめきも静けさを伝えるのが不思議。
心惹かれたのは、次の「設置音楽2|IS YOUR TIME」展(2017)で展示された、東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノを、スキャンするように対象物を写し取る方法で撮影した作品に寄せられた坂本龍一の言葉:
モノだけでなく、ヒトもあらゆるところから集まってきて、最後はまた還っていく、当たり前なんですが、そのことを「モノが還っていく」ことを「作品」として見せてくれた坂本龍一自身が亡くなることでじわっと感じました。
最後まで常に新しいメディア、未知の音、コラボレーションを探求していた坂本龍一の音に浸った一日でした。帰宅して展覧会サイトを見ながら振り返っていたら、「The Sheltering Sky - remodel」の制作者が坂本龍一の音楽を語っていて、そのコメントがストン、と腑に落ちました。
たくさんの音に満ちていながら静謐な空気感があったのは、そういう世界観を坂本龍一の奏でる音が持っているからなのかもしれないなあ。こう書くとかなり静かな会場に思われるかもしれませんが、実際は映像と一緒にしっかり音楽流れていますので、誤解なきよう。
あと、alva notoとのコラボレーションの映像(Liveと制作過程)があったりして、全部ちゃんと見るとなると1時間では足りませんのでご注意を。「音楽を見たり聴いたりする」インスタレーションなので。
最後に、李禹煥のドローイングを2つ。1つ目は、坂本龍一の生前最後のオリジナル・アルバムとなった『12』のジャケットのために描き下ろされたもの。ジャケットでは、李のアイデアにより、ドローイング部分のみを13度の角度に傾けて完成されているそうです。
そして2つ目は、「祈り」。坂本龍一の病気平癒を祈って描かれ、李より個人的に贈られたドローイング。裏にはメッセージがあるそうです。
坂本龍一への尊敬と愛に満ちた、インスタレーションでした。
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