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【脚本】壁とやってろ
所属している劇団のクラウドファウンディングの240万の個人ストレッチゴールでモノローグを書きました。
こんなご時世ですので画面越しにも楽しめることを想定してみました。画面の前の観客と楽しむつもりで読んだら楽しいと思います。
本編
【男性がこちらに走ってくる。高校生のようだ。】
あ、待った。オッケー?オーケー。何も言わないでいいから。ちょっ。ね?聞いたよ。お前別れたんだろ。あ、ストップ。もうちょい聞いて。もうちょい。ね。うん。ありがとう。別に、別れたことをどうとか言いたいんじゃないんだよ。弄りたいとかそういうんじゃないから。うん。で、なんだけど。聞いたよ。もっと話聞いて欲しかったって言われたんだって?わかってる。傷ついたよな。いや、わかってるって。でも確かに、お前ちょっと自分の話多めだなって思うことは、ある。あ、ちょっ。もうすぐ本題だから。ね。あん、ようはさ、もうチョット、聞き上手になればいいと思うんだ。そしたらワンチャン復縁とか、さ。この先もねぇ。需要あるとおもうし。これお前のための話しでもあるから。よーしよーしいい感じ。それでなんだけど、聴き上手になりたい、聴き上手になりたいお前に聴いて欲しい話があるの。俺の話。相談?的な?でもさ、普通に相談なんてしたら、そのなんていうか、反論とか?出てくるわけじゃん。もっとこうした方がいい。とか。でも今俺それいらないんだよね。聞いて欲しいだけ、みたいな。ほら、お前の元カノと一緒だよ。だからさ、今から俺がお前に俺にとっても個人的な、とってもセンシティブな相談をする。そこで聴き上手なお前はウンウン。これだけだ。一回やってみようか。ウンウン。俺昨日エビフライ食べたんだよね〜。ウンウン。沢尻エリカはむしろああ言う路線で行けばいいとおもうんだよね〜。ウンウン。
そんな顔するなよ。嫌々って言うのが滲み出てるよ。それじゃ聴き上手じゃないよ。いい?聞き上手ってのは「肯定していますよ!」て言う姿勢が大事らしいんだ。その姿勢の現れがウンウン。これ。わかった?ウンウン。そう!それ!俺の相談を聞いてくれるかなー?よっし!よく堪えた!よくいいともを出さなかったな!あのな、別にお前の個性を奪いたい訳じゃない。お前の頷きはとっても個性的だ。俺なんかにゃ真似できないなぁ。うんうん。
さ、よし、準備万端だな!あのーですね。実はさ、俺、キューティクルの女神の事好きなんだよね。…あ、西川さんの事ね。同じクラスの。知らなかったとおもうけど。
え?何?知ってたの?なんだよ恥ずかしいな。え?恥ずかしいっ事じゃないって?だよな。人を好きになることって誇らしいことだよな!うおー!いいな!肯定してもらえるって!それで、な。もうすぐクリスマスなわけじゃないですか?冬休みにもなっちゃうわけだし。だからさ、告白しようとおもうんだよね。
おおおおおおお!お前もいいとおもうか!そうだよな。それでさ、誰にも、本人もまったく勘付かれないように、そのなんと言うか思いをね寄せていたわけなのよ。まあお前には気付かれてたみたいだけどさ。だからさぁ。まったくの未知数なわけよ。告白してどうなるもんか。いやね、俺だって闇雲にってわけにはいかないわけじゃない。気まずくなりたくないし。それにほらあと2年以上も同じクラスなわけだし。嫌だよ。毎回の席替えで冷や冷やするのも、なんかの活動でペアになった時微妙そうな顔されんのも、バレンタインで西川さんからは貰えない確実性を毎年体感するのも。わかる?振られたら「余白」がなくなるんだよ。余白は青春には欠かせないんだぞ。席が隣同士になったことをきっかけに仲が深まる、かもしれない。行事でペアになって楽しい以上の思い出になる、かもしれない。バレンタイン当日、下駄箱を開けると西川さんからの本命チョコが入っている、かもしれない。そんな可能性をこの学園生活は秘めているんだよ!何が出てくるかわからない卵を今開けるべきか否か、俺はその瀬戸側に立っているんだ。
ウンウン。俺は嬉しいよ。俺のこんな不躾なお願いをそうやって真摯に守り続けてくれているなんて。ウンウン。こんないいやつなのになぁ。お前はもう立派な聞き上手だよ。その調子でお願いね。
こんなに急がなくてもいいじゃないか?と言うのは俺も思った。わざわざまだ温まっていない卵を割る必要があるのか考えた。でも、俺は耐えられない。あんなに素敵な西川さんが、クリスマスを他の誰かと過ごすかも知れない事が。いくら青春にかかせないとはいえ、この余白は、かもしれないは、俺の邪推な想像力を刺激する。
クリスマスよりおおよそ1週間前、学校も冬休みへの支度を始める頃。クリスマスを西川さんと過ごしたいと密かに思いを寄せていた男子が、放課後に彼女を人気の無い、そうだな3棟2階東側階段に呼び出して告白するかもしれない。迷った西川さんだったが‘、その日は例年に比べると寒かった。そのいつもより感じる寒さに人肌恋しくなりオーケーするかもしれない。毎日夜更かししてラインしたり一回くらい電話なんかしちゃって。そして、クリスマス当日、夕方、日も落ちた頃に、どこだろーなー。イオンモールに集合してウインドーショッピングを小一時間ほどして回り、その男は「レストラン予約しているんだ」なんて言いながら同じ施設内の串家物語に。初めてのデートではじめての食事。同じ机を囲み、串を通じて二人の中はますます親密になるかも知れない。おいしかったね〜、俺50本も食べちゃったーなんて言いながら駅前のクリスマスツリーの前でお約束のプレゼント交換。クソ男は高校生なりの予算で、でもオリジナリティを出したくって、パワーストーンを選んで作ってもらったブレスレットをプレゼント。西川さんはそんなまだあんまり知らない彼氏の為に、友達に相談したりネットで検索しながら、ありきたりだけど貰えたらやっぱり嬉しい、そうだな灰色の手袋を。この後どうする?なんてやましいことは高校一年生なんだからない。彼女も帰らなきゃ行けない。お父さんが帰りを待っているからだ。クソ男もそんなことはわかっている。だから離れたく無い気持ちでそっと彼女を抱き寄せて!チューをする。かもしれないんだ。
そんなことが耐えられるか?俺は耐えられない。そのクソ男が俺じゃなきゃダメなんだ。わかってくれるよなこの気持ち。ウンウン。ありがとう。こんなことを考え出したら夜も眠れない、見ろほら、クマになってるだろ。授業中もダメなんだ。ずっと頭から離れ無い。彼女に視線は釘付けだ。ガン見だガン見。
あ、そもそも西川さんに彼氏がいないことはバッチリ調査済みだ。ほら、太田いるじゃん?あいつが彼氏の話してるの聞いて「いーなー」なんて言ってたし昨日。それによく帰り際を見かけるんだけど、誰かと待ち合わせてる感じでも無いし、少なくとも学校にはいない。今のところは。休日の行動の余白までは、チョット手が回らない。そこまでしたらストーカーだ。まあ、そこが一番怖いのは確かなんだけどな。でもさ、西川さん彼氏いないとおもうよな?そうだよなぁ。
ねぇ、なんか変な顔してるよ。いや、そんな顔しないでくれよ。わかるだろ?恋心はチョット気持ち悪いくらいがちょうどいいんだよ。ね?ほら、ウンウン。そう。いいね。あの、俺の彼女に対して実践している隠れアプローチも聞いてくれよ。そんな疲れた顔すんなよ。な。ほら、聞き上手さん。
とっておき、もうこれだけ。と言うかこれに全てを注いでるんだ。題して「ハピハピ笑顔でおはようキャンペーン!」知ってるか?西川さんな、だいたい08;25〜27分の間に来るんだよ。それに合わせて下駄箱に行くの。これがまた難しくって、チョット早かったり遅かったりするだけで俺の存在が不自然になるんだ。そこでな、こう上手く下駄箱でバッタリ感を演出できたとする。そしたらこう。
「おはよう」
これだけだ。「おはよう」でも「おはよう」でもない「おはよう」。それ以上話しかけることはしない。「今日は寒いねー」とか「夜更かしみた?」何て絶対に聞かない。彼女の世界に入るのは片足だけ。ここがミソ。クラスメイトなのに毎日必ず挨拶をしてくるだけの男子。しかも「おはよう」。これ、素気なくも愛想良くも聞こえる。ねぁ、ミステリアスじゃない?俺はこうやって俺自身を余白だらけにしてるんだよ。彼女に想像する余地を多分に残しているんだ。どう?逆にさ、こうやってウンウン聞いてると俺の人物像は固まって全然余白なくなってきてるだろ?
あ、聴きたくなるだろうから先に言っておくけど。俺と彼女のコミュニケーションは今のところほとんどない。とても業務的な範疇に収まってるの。ただ、ね、一度だけ、一回だけちゃんと話したことがあんのよ。あれだよ5月の遠足あったじゃん?あの雨が途中からすごくなったやつ。で、帰りのバス西川さんと隣だったんだよね。そん時はさ、なんも思ってなかったから普通に話したんだよ。クソどうでもいいような事だったなぁ。で、だよ。疲れたみたいで、俺いつの間にか寝ちゃったんだよ。そんで1時間くらいかなぁして起きたら、みんな寝てて。あ、お前の寝顔も見たよ。で、勿論西川さんも寝てたわけで、なんかぼーっと見てたんだよね。そしたらふわっと。ふわっとシャンプーの匂いがしたんだよ。雨で濡れてたからさ。ふわっとくるシャンプーの匂いってよくない?いいよね。後から調べたらアジエンスだったから俺も今。ほら。西川さんの香り。んでよ。うわぁいい匂いだなぁって思いながら髪見てたら艶々なの。全盛期の仲間由紀恵みたいにツヤッツヤなの。だからそれ以来西川さんのコードネームはキューティクルの女神になったわけで。そんでさ、寝てるからだとおもうけどほっぺたがまた赤いのよ。それで気がついたんだよ。西川さんって肌真っ白。最近も寒いから、登校時はちょっとピンクなんだよ。いやー、その日からだよね。完全に惚れ込んだの。俺の中の西川さんの余白がこう、グワーって輪郭を得て綺麗な肖像画になった感じ。どう?伝わるよね?この感じ。
んーあー。言葉で伝わらないとおもうけど俺とにかく超好きなんだよね。ほら、窓際座ってると光集まってきて後光差すじゃん?知ってる?トイレ行った後必ず白いハンカチ持ってんの。白いハンカチなんてそうそう似合わないから。それからスカートの長さも膝よりちょっと上くらいで、しかも西川さん足長めだからそれが絶妙で、あれはもう黄金比!ダヴィンチコード。文化祭の時やってた人形役。台本的にはモブだったけど俺のスポットライトは彼女を照らしていた。そうだよ、あれはミスなんかじゃない。俺が照らしたかっただけなんだ。俺にだって西川さんの余白はまだまだある。きっと知らない一面しかないだろう。まともにちゃんと声が聞ける英語のスピーチの時、俺は何度録音をしようと思ったか。何度も何度も。けれどしなかった。俺は直接俺に向けられてる。アイラヴュー、アイニージューが聞きたかった。俺の中のフィクションに収めたら。なんか違うと思ったんだ。俺は欲しいんだ。俺の肖像じゃない、妄想じゃない西川さんが。
あー、西川さんの横の余白に俺、俺が入りテェなぁ。なぁ、こんだけの愛があるんだ。行けるよな?あああああああありがとう。お前ほんといいやつだよ。あーもーダメだぁ。俺行ってくるわ!ほんとありがとう。
【一旦去るが戻ってくる】
あ、もう話していいから!
【再び去る】
【壁とやってろ(終)】
最後までお読みいただきありがとうございます。
こちらの作品
・俺が作ったぞー!と言い張る(盗作的な)
・極度な改編
以外はフリーに使用していただいて構いません。
映像作品
リモート演劇
読み合わせ
など広くお使いください。
読み合わせなどのクローズな使用以外のオープン(映像作品、リモート演劇)などに関しましては、どのように演じられるのか観させていただきたく思いますのでご連絡いただければ幸いです。
最後になりますが、ストレッチゴールとして二作品目。こんなに短期間で作品を作り上げるのは初めてで、やりがいとともにとても大変な作業だと改めて実感しております。
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ありがたいことに250万円の達成もしたようですので、今夜三作品目の執筆にかかります。またよかったら覗いてみてください。
ここまで読んでくださりありがとうございます。とってもありがとうを貴方に。