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ウォルズはアメリカを救うか?~"温かな中西部"のアイコン~

米大統領選まであと80数日。
6月末から今日に至るまで、アメリカ大統領選挙は過去例がないほどドラマにあふれた展開となっている。

6月 討論会でのバイデンの自滅
7月 トランプ銃撃事件
   共和党大会で指名受諾演説、副大統領候補にバンスを指名
   バイデン撤退、後継にハリスを指名
8月 オンライン投票でハリスが民主党の大統領候補に正式指名
   ミネソタ州知事のティム・ウォルズを副大統領候補に指名

銃撃事件の後、もはや「確トラか?」とまで言われたが、
バイデンの機を得た撤退劇とカマラ旋風により、風は民主党に吹き始めた。
そんな中で、ハリスがランニングメイトに指名したウォルズ。
ミネソタ以外での知名度は0で、多くの有権者にとっては「初見せ」の状態で早速激戦州の選挙遊説をスタートさせている。
youtubeでウォルズの演説を聞いているが、率直な物言いと時折ジョークも混ぜて笑わせたり、短いフレーズを数回言って観客にコールしてもらったりと、場を盛り上げる(温める)のがうまいな、という印象を受けた。
ここに、アリゾナ州で開催された最新の演説があるので、下にリンクを貼っておく。

ウォルズの演説は内容は毎回ほぼ同じだが、遊説を重ねるごとに章立て、話し方、ジョーク(緩)の入れ方が洗練されている。また、そんなウォルズの評判を聞いたのか、聴衆の中に「Coach!」プラカードを掲げるファンも出てきた。熱心に話を聞き、合いの手を入れたり、熱狂を作り出せるようになってきている。

まず、自らの出自の話。ネブラスカの500人の片田舎で生まれて、州兵から社会人のキャリアをスタートさせたこと、そして高校教師になり、アメフトのコーチとして州大会で優勝したこと、その後政界入りして”普通の人々”の生活向上に尽力したこと。これらを時折、トランプ陣営との比較もしながら導入として話していく。
次に、お決まりの「トランプとバンスは奇妙(weird)なやつら」を言って、トランピスト達の掲げる政策が、あなたたちの生活と尊厳を破壊すると強く主張する。
一方で、民主党は人々の「自由(freedom)」を守るために戦う。その中でも「人工妊娠中絶」と「銃規制」は必ず自由と絡めて言及し、人々の生活と尊厳の自由を守ると約束する。
ウォルズは「自分のことは自分で決める、が俺たちアメリカ人の信条じゃなかったのか?」と語り、今こそ自由のために、暴力ではなく投票しよう。周りにも呼び掛けて自由の連帯を作ろうと呼びかける。
最後に、「自由を求めるアメリカ人をまとめるのか誰か?それはカマラ・ハリスだ!」と絶叫して演説を締める。

話している内容はハリスとさほど変わらない。選対の用意した原稿を忠実に読んでいると思うが、とにかく盛り上げるのがうまい。相手は攻撃するけど、ズタズタには傷付けない。本当に人好きのする優しいおじさんなんだろうな、と聞いている人に思わせるイメージ戦略に長けた人だなと感じた。
そして、それは2016年から続く分断の時代にあって、久しく忘れていた「普通の良識ある良きアメリカ人」をあらわすアイコンであって、今まさに中道よりの投票態度を決めていない有権者が求める人物なのではないかと考えている。

中西部の労働者層はMAGA支持者や「ヒルビリー・エレジー」の影響で、思想面や生活面などマイナスの文脈で語られがちだが、圧倒的多数は生活は苦しいかもしれないけど、まっとうに働いて生活しているごく普通の市民である。トランプ・バンスでは、そうしたサイレント・マジョリティを救い上げる効果はない。できる可能性があるのは唯一ウォルズだけ。私はそう見ている。
彼の正統派な中西部の市民としての経歴、穏健で快活な性格、そして人々を鼓舞し勇気づける演説力、これは副大統領として大統領を支えるにこれ以上ない才能だと思う。

選挙戦は100日を切り、民主党は共和党を追う立場にあることは変わりない。民主党大会が終わればハネムーン期間も終わり、激しいネガティブキャンペーンに打ち勝ち、失言やスキャンダルを起こさないように最大の注意を図り、具体的な政策を磨いていく・・・こうした無数の努力を爆速で積み上げる非常に困難な日々が待っている。
必死に努力しても最後は共和党が勝つかもしれない。しかし、私は選挙権を持たない外国人だが、このウォルズであれば温かな中西部魂の風を吹かせて、傷ついたアメリカを再建してくれるかもしれない。そこに希望を見出したい。

<アリゾナ州での民主党選挙遊説(提供:MSNBC)>


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