心つづれおり〜44 Coloring Musical Indigo Tomato〜
2019年の再演で北海道公演が開催され、初日を観劇しました。Wキャストは、彩吹真央さんと川久保拓司さんの回。
まず、座席に着いて目の前に広がるセットが異空間でした。いくつもの正六角形を組み合わせたデザインの黒板に、数字や数式が書き込まれています。主人公は、数字や記憶の能力に優れたサヴァン症候群の青年タカシ。セットから、タカシの雰囲気が感じられました。
日本オリジナルミュージカルで、初演時の反響を知り気になっていた作品。人と人との繋がりから、日常のちょっとしたきっかけや心の持ち方によって、世界は広がっていく・・・平間壮一さん演じるタカシが一歩を踏み出すまでを見守りながら、自分の日常を反省した、そんな作品でした。
タカシと弟マモルの関係が苦しくて、長江峻行さん演じるマモルの葛藤が強く伝わりました。タカシにはタカシの世界が見えているけれど、マモルには兄タカシを支え続けるという生き方しか見えない。あどけなさが残る雰囲気の中に、自分の境遇を受け入れなければならない苦悩が滲み、マモルという人物にとても共感しました。(この兄弟の関係性、何処かで見たような・・・と思い出したのは、映画『ギルバート・グレイプ』。兄弟の立場は逆ですが)
安藤聖さん演じるあやは、日々自然にポジティブにタカシとマモルを見守っています。あやは、作品のタイトルを象徴するような、ありのままを認めることができる素敵な存在でした。あやがいてくれて、兄弟も救われたと感じました。
また、様々な女性を演じた彩吹真央さん。一番心をえぐられたのは、タカシとマモルの母と、おばあさん。どちらも兄弟に大きな影響を与える役でした。さらに、心がほぐれるコミカルな女性(男性)の役もチャーミングで、演じ分けに魅了されました。
このような繊細なテーマをミュージカルという表現で観られたことに、じわじわと感動しました。
パンフレットの中で、作・演出の小林香さんが述べていましたが、日本発のオリジナルミュージカルはなかなか浸透しない、と。そうした中でも、この作品は、再演がされ歩みを進めています。あたたかく素敵な作品に出会えて心から嬉しかったです。コロナ禍により、日本オリジナルミュージカルの存在は、切実なものとして感じます。より多様な作品が誕生することを願い、劇場に観に行くことや配信での観劇によって、少しでも支えになれたらと思います。
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