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不屈のレジリエンス

#73|フライフィッシング/FlyFishing 
2024年9月12日(木)/新潟県上越地方/午前7時過ぎ~正午過ぎ/水温16℃

まだまだと油断していたら、もう目と鼻の先にちらつく禁漁の二文字。1年の経過が早く感じることを「ジャネーの法則」というが、刺激の薄いマンネリの日々に甘んじてしまっている証だ。年のせいにはしたくないのだけれど、加えて言えば、フットワークや体力、頭のキレや柔軟性、感覚的なところまで、衰いを隠し切れなくなっている。まだまだと鼓舞してはいるものの、これが現実……。

禁漁後、遅ればせながら、やっと筆を進める気になったシーズン釣り納めの備忘録。気が向くままに、縦横無尽に筆を進めてみた。

禁漁間近の9月中旬。混雑必至の3連休を前に、我先にイワナの顔を拝もうと、ふんどしを締め直し、真夜中の林道を走り抜けた。

車止めに到着し、釣支度を終えた午前4時45分。薄ぐら闇、朝月夜に照らされる山道に、積もる落葉を踏みしめながら川辺へと急ぐ。残暑厳しくも、移ろう景色のグラデーションやひんやりとした空気感に長月の気配を感じた。

秋の水辺を代表するツリフネソウ

静かに終わりを迎えつつある晩夏の渓は、暑さが和らぎ、ほどよく心地よいのだけれど、魚の反応はいかんせ渋い。足元に目を向ければ、いたるところに残された往来の足跡。

渋い時間がこれでもかと続くさなか、釣り上がるべきか、退渓するべきか、自問自答を繰り返しながら、時間だけが過ぎていく。

五里霧中のさなか「次の淵が最後」、「次が最後」と口ずさむ一方で、リアルな心の叫びは「次の淵は釣れる」、「次こそ釣れる」と不撓不屈のレジリエンス。可能性を信じ、体は前のめりだ。

しばらく無反応の流れを釣り上がると、縦長の深い淵に浮かぶヒレの白筋が鮮明な大イワナの魚影が目に入った。残念ながら、魚に気づかれすぐに身を隠してしまったのだけれど、鮮烈なインパクトに、山を降りる選択肢は消えた。

ギアを入れ直し、再び無我夢中の境地へ。気が付けば、もう目と鼻の先は魚止めの滝。いよいよラストとあきらめ半分も、滝から一段下がった、流れ込みからの小さな淵に期待を寄せる。冷静に丁寧にと一呼吸おいて、心を落ち着かせた。毛鉤を手繰り寄せ、気持を込めて息をひと吹き。水気を切って丁寧に水面に乗せる。

33センチ

毛鉤が流れになじむと、黒い影が下からガバッと突き上げ、フライが消えた。手ごたえは十二分、尺越えとわかる抵抗力だった。興奮のさなか、魚の引きを愉しむ余裕はなく、身振り構わず我武者羅にラインを手繰って一気に魚を引き寄せた。

ずぶとく色濃い、個性あふれる尺超えイワナ。体にちりばむ斑紋が、より際立って見える唯一無二の1尾だ。待ち焦がれた魚との対面に、疲れはどこへやら。緊張がほぐれ、体中から喜びがにじみ溢れた。

きょうはもう、これ以上の魚はない。

一喜一憂のとにかく長い一日。ごく稀にドラマチックが幕切れがあるから、踏ん切りがつかないというか、やすやすと退渓できないんだよなぁ。困ったもんだ。

さてさて、来シーズンはどんなドラマをつくろうか。取り急ぎ大怪我無く、真剣に魚と向き合えたことに感謝し納竿。

車止めを午前4時45分出発
午前6時前に川辺に到着
午前7時過ぎに釣り開始
正午過ぎに魚止め折り返し
午後4時前に駐車場着

復路は途中から霧の中

<TACKLE>
■ロッド:fenwick イエローグラスⅡ トリプルアップル FF733-3J
■リール:Hardy Marquis #4
■ライン:DT #3
■リーダー:TIEMCO LDLリーダー 13FT 4X


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Profile
1979年生まれ。2007年に新潟県上越地方に移住。自由と孤独を愛する西洋式毛鉤(フライフィッシング)釣師。いかにして豊かな人生を歩むか、模索の日々を邁進中。
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