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おさけとさいとう
齋藤はとにかく酒を呑む。酒を呑まずにはいられない。ずっとイライラしてた世界がアルコールに滲んでボヤケて、なにもわからなくなり、幸福感だけになるのがたまらなく好きだ。箸が転んでもおかしい。無敵である。
一方で、酒乱である。所構わず、人を捕まえては支離滅裂な話を繰り返し、先輩には抱きつき、キスをせがむ等、とにかく迷惑をかける。
明けない夜はない、いつか酔いは覚める。これが最悪である。揮発したアルコールで空中をプカプカ浮いていた昨夜の(自らが行った)暴虐無人が少しずつ自分の脳に降り注ぐ、加害者のくせに自分の非道ぶりに怯え震える。日常のちょっとしたきっかけにフラッシュバックし、また震える。怖くてまた酒を呑むのである。
呑みながら気づく。減っていく酒瓶の中身のように、人間のテンションの総量は決まっているのではないか…と。気分が良いからと言ってテンションは高く持続されるものではなく、酒を呑み気分をブーストしたところで、あくまでテンションの前借りに過ぎない。テンションが尽きれば、後には陰々鬱々とした自分だけが残される。
呑んでも地獄、呑まぬも地獄。酒地獄である。酒地獄を彷徨う酒に飢えた餓鬼のように、出っ張った腹を撫でて泣きながら寝るのだった。最悪である。