山奥で10日間ひたすら瞑想した話③
-プログラム終了の翌日-
瞑想による効果と、執着から解き放たれた生活による多幸感に包まれ、心と体が一体化しているのがわかる。
もう終わりか。
あれだけ地獄だと嘆いていた修行もいざ終わってみると寂しいもので、瞑想ホール、この部屋ともお別れだ。
布団を畳み、荷物をスーツケースにまとめた。
参加者が敷地内にある離れのような建物の小部屋に集められた。
みんな真っ直ぐ前を向いている。
過酷な瞑想修行を乗り越えた穏やかで力強い顔つきだ。
ここで初めて1人ずつ軽い自己紹介と今回の瞑想プログラムの感想を伝え合った。
非常に辛く、途中心が折れかけたこと
プログラムに挑戦して良かったこと
最後まで完遂出来た喜び
みんな感じていることは同じだった。
参加者全員の番が終わった後、参加者の取りまとめや、食事の配給を担当してくれていた奉仕者の番が回ってきた。
メガネをかけた細身の20代男性である。
この奉仕者は感極まって号泣しており中々話すことができない。
みんな真剣な心持ちで彼の言葉を待つ。
しばしの沈黙を経て、奉仕者は口を開いた。
「.........ありがとうございました...皆さんとご一緒できて良かったです」
内臓からえぐり出された言葉だった。
彼がどんな思いで、何を背負って奉仕者として参加したのかはわからない。
ただ、たった一言であるが十分に気持ちが伝わってきた。
10日間自分たちをサポートしてくれた方だ、感謝したいのはこちらの方だった。
自分も今回の瞑想を通じた体験を支えてくれたことへの感謝を伝え、あとで話を聞きたいと伝えた。
施設から帰りのバスが出るまでしばらく時間があり、自由時間となったので他の参加者と交流した。
共に壮絶な修行を乗り越えた仲だが、実質全員が初対面である。
・庭師
庭は更地から設計するのが一般的だが、逆に、もともとある自然から不必要なものを削って庭にするという概念を持っている庭師。
・ビートメイカーアメリカ人
都内でミュージックバーを開いている。
Sound Cloudのアカウントを教えてくれた。
・神奈川で農作業員をするベトナム人
自然が大好きで都会の喧騒は苦手。
山奥での瞑想に興味があった。
・鹿児島の旅人
日本をバックパック1つで旅していて、面白そうなところに足を運ぶ生活をしている。
・摂食障害から起業した猛者
摂食障害を患い、コンビニに置いてある食べ物が一切食べられず、自分で食べ物を作ろうと畑で作物を育て始めた後、起業。
・奉仕者
イギリスとのハーフで幼少期はイギリスで生活。
次参加することがあれば是非奉仕者をやらないかと勧めてくれた。
・不登校児童相談所の職員
35歳までサラリーマンをしていたが、親戚の小学生が不登校になり、今の学校教育の問題を感じ小学校教員に転向。
その後、児童相談所の職員。
このプログラムに参加するくらいだ、尖っていて面白い人たちばかりだった。
自分もポーカーで海外を旅するという生活をしていたので興味を持ってもらえて会話は弾んだ。
愛すべき戦友たちとの有意義で貴重な交流も束の間。
現実世界へ帰るバスの時間がやってきた。
みんながバスに乗り込む中、数人からこの後の集まりの誘いをいただいた。
行きたい気持ちは山々であったが、自分はバスに乗らなかった。
漠然と、まだこの場所にいたいと思ったからだ。
施設の管理人にもう少しこの敷地内にいることの許可をもらい、あのベンチに腰掛けて辺りを眺めた。
この世界は素晴らしく、全ての出来事に深い意味がある。
そう確信し、今この瞬間を味わった。
木々の自然の匂いを感じた
風が肌に当たる心地よさを感じた。
鳥のさえずりが響き渡る音を感じた。
同じ形をした雲が存在しない事を感じた。
僕は一人ゆっくりとベンチから立ち上がった。
完