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知らぬが仏

ケンジのターン
「ああ、ナオ? ナオとは別れた。なんかさ、これまでの女と違って、真面目なタイプっつーの? そういうのと付き合ってみるのもいいかなと思ったんだけど、クソ真面目すぎてつまんねぇの。最初は新鮮だったよ? でもさ、飽きんだよね。やっぱ、ちょっとハメ外したり、大胆になったりさ、そういうオレだけにしか見せない姿っつーのが欲しかったわけ。全っ然ハズレだったわ」

ナオのターン
「ん?ケンジのこと? 彼とは別れたよ。これまで職場恋愛ばっかりだったから、ちょっと雰囲気の違う人と付き合ってみるのもアリかなーと思ったんだけど、全然ダメだった。だってチャラすぎるんだもん。最初はそういうチャラチャラしたとこも面白いかなって思えたけどね。でも、お金にルーズでかっこつけたがりだし、社会人としてどうなの?ってところが多くて。だいたい話が合わなくて。ファッションとサッカーの話しかしないし。いい大人なんだから、もうちょっと社会問題に目を向けなさいよって、心の中でいつも思ってたんだよね」

ケンジのターン
「もうさっさと次に行きたくて別れ話したわけ。そしたら、最初は素直に納得したくせに、次の日に泣きながら電話してきて、もう一回会ってくれっつーの。マジめんどくせぇ。けっきょく、会ってグシャグシャに泣いてるナオをなんとかなだめて、ようやくあいつ帰ってったわ。マジでダルかったわー。で、泣いた顔がすげぇブサイクでさ、超ウケる。思わず吹き出しそうになるのをめっちゃ必死で我慢したんだぜ。でも、女に別れたくないって言わせるオレ、すごくね? あーあ、なんであんなめんどくせぇ女と付き合ったんだろ。オレの人生の最大の汚点だわ」

ナオのターン
「ものは試しで付き合ってみたけど、こんなに話の次元が違う人とはもう無理だなぁって思ってて。そんなときにケンジの方から別れ話をしてきたの。これはチャンス!と思ったんだよね。だってこっちから別れを切り出せば、私が悪者になるじゃない? 逆恨みとかされたら怖いし。だから、向こうから言ってくれて正直ラッキーと思ったよね。それでね、彼、なんて言ったと思う? 『オレたちは住む世界が違うんだ。別れよう』だよ? 何それ。ひどくない? 語彙力ゼロ。いつのテレビドラマのセリフですかって、呆れちゃった。それで「うん、わかった」ってすんなり受け入れるのも癪に障るから、ちょっと悪戯で一芝居打って困らせてやれと思って。次の日、彼にもう一度会いたいって連絡したの。そしたらね、彼、ノコノコ現れて、『もう泣くなよ、オレたちの住む世界は違うんだ』だって。また同じセリフかよ! 私、ウソ泣きしながら笑いをこらえるのに必死だったんだから。でも私の演技力もなかなかのものよね。きっと今頃、ケンジは『別れた女が泣いて縋りついてきてさー』ってどこかで自慢してると思う。バカな男。あーあ、あんな男と付き合ってたなんて恥ずかしくて言えない。記憶から抹消したいよ」

リョウのターン
「ケンジ、ナオちゃんと別れたらしいよ。今度は長続きするのかなと思ったけど、駄目だったらしいわ。アイツ金遣い荒いもんな。それに、ナオちゃんてすごく真面目じゃん。やっぱり合わなかったらしいよ。オレさ、てっきりあいつがフラれたんだと思ったんだけど、あいつの方からナオちゃんをフッたんだって。で、ナオちゃんに泣きつかれたらしいよ。でもナオちゃんてクールな感じじゃん。男に縋りつくようなタイプじゃないと思ったんだけどな……。ケンジの妄想じゃね?」

ミチルのターン
「ナオ、彼氏と別れたんだって。まあ、彼といると疲れるって言ってたから、こうなることは予想してたけど。だって、どう見たって性格合わなそうじゃん? でさ、ケンジくんだっけ? 彼の方から別れを切り出してきたらしいよ。でもナオも意地があんじゃん。『はい、わかりました』って素直に応じるのはムカつくから、別れを切り出されてもわざと納得せずに縋りついてケンジくんを困らせるっていう暴挙に出たらしいよ。超イヤな女じゃん。まあ、ナオは演劇部出身だからね。劇団の養成所にも通ってたから、ほんとに一芝居打ったんじゃない? あーあ、間近で見たかったなぁ。で、ナオがね、きっとケンジくんは『オレってそんなに別れたくないような魅力的な男なのか』って自己陶酔するだろうから、それを遠くからバカだなぁって眺めるのが楽しみって言ってた。怖いよ、ナオ」

ケンジのターン
「まあ、思い返せばナオは、料理はうまいし、なんでもやってくれるし、いい女だったと思うよ? オレとはうまくいかなかったけどさ。だからナオには幸せになってほしいと思ってんだよね。え、オレ? オレにはほら、カナちゃんがいるじゃん。大通り公園のキッチンカーのあの子。昼メシ買いに行くと、あの子、すっげぇ笑顔でさ。何も言わなくても大盛りにしてくれるし、『仕事頑張ってね』ってさりげなくボディタッチしてくるし、絶対オレに気があると思うわ。あ、おまえ、絶対に手ぇ出すなよ、オレが先だからな」

ナオのターン
「きっとケンジは次の女の子に行ってると思うよ。彼のそういう切り替えが早い点だけは尊敬する。私? 私は当面、恋愛はいいかな。それよりもまたお芝居やりたくなっちゃった。だから友達の劇団に参加することにしたんだ。明日も仕事が終わったら稽古なんだ。あ、悪女の役をやると思った? 残念。聖母マリアのような慈愛に満ちた役よ。え、似合わないって? それどういう意味よ!」

 男が手玉にとられているのか、はたまた女が強がっているのか。しかしこれだけは言える。女は天性の役者だ。

 

※日本テレビ系列のドラマ「あぶない刑事」第23話「策略」における「女は天性の役者なんだ。だから男は振り回されて苦労する」のセリフから着想を得て創作。

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

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