夢を再び。ファシリテーションルーム6
ーなんのはなしですかー
なんのはなしか、聞かせてください
物語 通称 #なんはなルーム です。
これはスタジアムに打ち上げたジェット風船、その夢の続きのお話 第6話
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同郷といってもその生き方は灰原と大きく異なっていた。物静かである、という点では同じようにみられることもあったが、その行動はいつも雄弁で大胆であった。自分の行動で語るのである。
俺もベルも彼には学ぶところがたくさんある。
いち早くスタジアムの外で、ジェット風船を飛ばすことを始めたのは彼である。しかもゲリラ的に。人を誘ったりしない。むしろ、来ないでくれ、と懇願するかのように、しかし彼の思惑が外れてか、思い通りなのか、続くものが後を絶たない。コニシさんが熱狂させるカリスマタイプだとしたら、彼はともに語りあう友のような存在だ。たまにふらっと立ち寄る事務所でもいつも彼の周りに人が集まってくる。
やはり俺とは違う。比べることはなんの意味もなさない。ただ彼という存在に出会えたことを幸運に思う。
彼のライブは人をひきつけ、松明をくべる。彼の周りにいる人間の心を温め自らの内にある小さな灯が徐々に行動を起こすエネルギーに代わる。やがて同じようにライブをする仲間が増え今度は合同フェスをすることを企画しているようだ。
彼の見せてくれるものは夢である。みんな夢が見たいのだ。
それに比べて、ベルの企画書は理想だ。理想的ではあるがそこに人をひきつけワクワクするものがない。理想的な結果に向かって、プロセスの一部となってしまう。単に線の一部であるか、点のあつまりが線となるか、その差は歴然で大きく隔たっている。
彼から届いたフェスの計画をみてもうスタジアムから飛び出しているのだな、と実感する。そちらはもう随分と支持されているようだ。皆その日を楽しみにしている。
ベルもその一人なんだな。
改めてベルの企画書を読み直した。フェスをゴールとして朗読のリレーを完成させたい。でも時間を逆算してリレーは敵わないから、走者を増やしてなんとか間に合わせたいというところか。しかしそこに想いをひとつにする”個”がいない。それに、どこかのテレビ局のマラソンのようだな。あれに指名されるタレントの心境はいつもどのようなものだろう。認知度を上げたい、人気を得たい、事務所からの要望、ギャラ、いろんな要素の中に、純粋に走りたい、と思う気持ちの割合はいかほどであろうか、と思う。計算や兼ね合いが透けて見えると、周りにいるものは冷めて白けていく。
夢が松明を温かく灯しつづけるのに比べ、理想は冴え冴えと冷たく人を寄せ付けない。
そういえば、彼のフェスの内容も、徐々に決まってきていたな。
差出人 灰原 雄三
要 件 フェスの内容
Seedさんへ
次に東京に立ち寄ったとき、フェスの企画を詳しく教えてほしい。ライブではないが、朗読についての企画の相談が来ている。君の意見を聞かせてほしい。
送ってものの10分もしないうちに、チャットが届く。
彼は、いつも書き言葉も話し言葉も一つ一つ丁寧で思慮深い。
そうか、彼もまたコニシさんの書き記したものを、と考えているのだな。方法は違うだけで、想いは一緒だ。そしてその方法も、色々多岐にわたって考え練られている。彼の計画を知ることでベルにも、何か変化が起こるといい。
灰原は部屋に貼りだしてあるカレンダーに一番大きな付箋を貼った。
12月14日(土)
路地裏フェス(仮)
この話あとがき
炎上企画を鎮火して頂くべくSeedさんにご出演が頂きました。ベルの物語は残りわずかですが、Seedさんの物語はひとつずつ着実に拡がりを見せております。お忙しい中ですがこの物語の中でもう少しご出演お願いします。
(他のお名前にする予定でしたがSeedさんとさせて頂きました。ありがとうございました。)
朗読プロジェクトは小さく小さく縮小しました。
すみません〜。