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夢を再び。ファシリテーションルーム5



ーなんのはなしですかー


これはスタジアムに打ち上げたジェット風船、その夢の続きのお話 第5話

これまでのお話はこちら


  ベルはパソコンに向かって彼女との出会いを思い出していた。保健ルームは、カウンセリングを受けに来る社員の事を考えて人の出入りが多い部署とは離れた場所に置かれている。窓の外には大きな木がまっすぐに立ち大きく枝を伸ばしている。階段の踊り場を出たところにはベンチも置かれており、土に足を置き、空と緑を眺めることができる。

 目標を高く掲げ頑張りすぎたものは、上ばかりみて疲れてしまうのだ。そんなとき、動くことをやめてじっと自然の中に身を置くこと、それがなにより大事だった。ベルは直接カウンセリングに関わることはないが、それでも一人ひとりの思いつめた感情と雰囲気に飲まれそうになる。そんなときは大きな木の前で風を感じながらベンチに座って心を落ち着けるのがベルの習慣になっていた。手には通い始めたばかりのボイストレーニング教室の先生に勧められたハーブティを持って。

 そこに、風に乗って本を読む彼女の声が聞こえてきた。階段を挟んで反対側に設置されている資料の保管庫、そこに営業部の古い日誌を運んできたのが彼女だった。本ではなくて、誰かが書いた資料なのかしら。彼女の一つ一つ言葉を大切にしながら読む様子に思わず保管庫に足が向いて小さいドアのガラス部分からのぞき込んだ。驚かすつもりはなかったけれど、その気配で彼女は慌てて手に持った冊子を閉じて振り向いた。

 「ごめんなさい。驚かすつもりはなかったの。風にのって優しい声が聞こえてきて、それに何を読んでいるのか気になってしまって。」

「私は保健ルームの降谷 玲花、ベルって呼んで。」

「私は営業部の水木です。水木栞里です。」

「はじめまして。水木さん。早速なんだけどその手にしている冊子、日誌のようだけど。それを読んでいらっしゃったの?」

そう尋ねると、
「はい。コニシ課長の日誌です。まだあの風船が全然売れてない頃に訪れた先で書かれたもので。
単なる仕事として綴られてなくて。なんのはなしをしているのかよく分からないところもありますがひとつひとつが、大切に記されていて。ページをめくると鎌倉の紫陽花のことも書いてあって。
以前、鎌倉にいたことがあるんです。その懐かしさもあってつい。」と伏し目がちに俯いた。

「そうだったの。」
あのコニシさんがね、と不思議に思った。
「そうだ、売れてない頃のといったわね。ジェット風船の。良かったら貸して頂けないかしら。」

「分かりました。もう部署での保管期限を過ぎたので、ここに移しにきました。ここから借りるという形なら問題ないと思います。」

  そういって借りてきた日誌が目の前にある。彼女はこれを声に出して読んでいたわね。
声に出すこと。自分から出た声に驚くことがあり、心理的な面からいっても単にストレス発散に留まらないセラピー効果があるように感じている。目にはみえないけれど、自分のうちから外に出て感じることができるものだ。そして創作物、これも自分の外、表に出して現すことができるもの。文章はその人の想いや想いの源泉から湧き出てくる考えやイメージをその人なりの表現で綴るもの。そこにはその時のその人の情熱も美学も哲学も欲望にその人が伝えたいと思った方法で形になる。

   発案者であり、あのジェット風船がスタジアムいっぱいになるまでに広めた功労者、そのジェット風船にかけた思い、ブランドヒストリー、創始者のフィロソフィーをみんなで声に出して読むことができたら、それもまたひとつの形として残せるんじゃないか、とベルはそんな気持ちに囚われていた。そして、その勢いそのままに朗読プロジェクトのレポートを書き上げ、灰原に送信した。
   きっと彼のなんはなルームも活気づくわ、そんな希望で胸がいっぱいだった。

 


ピッコン、
部屋に帰って1時間もしないうちに長いレポートが届く。

送信者  ベル
要    件   朗読プロジェクトについて

レポートのURLを開いて、灰原はやれやれと椅子に背中を持たせかけた。1人で熱くなって突っ走ってるのは誰だ。変わらないな。
このままだと、お前が詰むぞ。ベル。
 
 真っ向から否定したら、俺たちの関係はおそらく完全に終わってしまうな。かと言って反応しなくて放置もできないし。
   
しかし、このままの形では目指す形、ファシリテーションとしては成立しないだろう。
  ちょっとあいつに相談してみるか。

灰原は同郷で、課長と仲の良い男の顔を思い浮かべた。


続く


この記事あとがき

昨日の朗読プロジェクトが勢い良すぎて空回り。
朗読(ボイトレ教室)向かう前に1回クールダウンして方向性練り直します。
コメントまだ出来ておらずすみません。
ボイトレのお話協力ありがとうございます。
その回楽しくなりそうです。


色々お話聞いてくださって聞かせてくださった皆さんありがとうございます。 
迷走気味ですがよろしくお願いします。

なんのはなしですか


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