夢を再び。ファシリテーションルーム4|保健ルーム
ーなんのはなしですかー
これはスタジアムに打ち上げたジェット風船、その夢の続きのお話。
前回のお話はこちら
「灰原さん、ちょっと保健ルームに来てもらえるかしら。」
受話器から聞きなれた声がする。今日は機嫌が悪そうだ。灰原は部屋を出て右、階段を下に降りて週に1度産業医に相談ができるカウンセリングコーナーを設けた安全衛生スタッフの常勤する一室をノックしてからドアを開ける。今日は産業医のこない火曜日、部屋の主である彼女は腕組みをして呆れたような眼差しをむける。
こういうときは、こちらから切り出す方がいい。
「コニシさんは、先週もファシリテーションルームでまどろむぐらい暇にしてたし、今週は休暇を取っているよ。大丈夫だ。」
言い終わる前にかぶせるように彼女は語気を強めて言葉を発する。
「大丈夫じゃないわよ、まどろんでるなんて、ろくに寝てないに決まってるじゃない。彼の社用端末の使用時間を知っているの、あなたは。さすがに休暇中は持ち出してないようだけど。」
普段、ハスキーだが柔らかい声でこのルームにくる従業員たちに笑顔で接し”ナイチンゲール”などと呼ばれている彼女は、灰原とは学生時代からの付き合いで一時期、一緒にバンドを組んでいたことがある。世の中全てに憤り尖った感情を声に載せる”デスボイス”の”バード”それが彼女だ。
「端末を持ち出してないなら大丈夫じゃなか。」
「ええ彼はね、でも彼の話で呼んだんじゃない。あなた、note でファシリテーションルームの投稿始めたでしょ。」
「見てくれたのか」
「見たからここに呼んだんじゃない。」そういって、彼女は続けた。
問題は二つあるわ。
ここのカウンセリングの常連を知っているの?恋の悩みから育児の悩み、それで来ることもあれば、度々長時間勤務で問題になるあの”彼”よ。
コニシさんが休暇になってから拍車がかかったわね。あなたはそれを止めなかった。なんのためのファシリテーションルームなの?
単独行動 は 詰むわ。
一人でなんでもしようなんて考え方は捨ててみんなで成功させましょうよ。
そうやって立ち上げたルームでしょ。それを忘れてあなたは、”彼”の行動に肩入れして熱くなったわね。グレイなんてクールな名前を付けてたくせに熱いところ、全然変わってないんだから。
それから、もうひとつ、その”彼”を讃えるのに『The Greatest Showman』の動画をnoteに載せた。
「おいおい、まだ怒っているのかい。」
灰原はそう言った。あの頃、確かに俺たちはいい感じだった。あの映画も一緒に見に行った。エンターテイメントが凝縮されたような1時間45分に胸が熱くなり夢中になった。そう彼女の存在を忘れるぐらいに。もう一度観よう、と誘ってもそっけない態度を取られた俺は、この素晴らしい映画を一人でも多くの人に見てほしい、そう思って違う女性たちとも見に行った。それがきっかけでだんだんと離れていった。
「なんのことを言っているの?もうほんとに男の人ってどうしてこうなのかしら。ロマンティストで後先考えない。」
私が言いたいことはこうよ。
私たちはあのスタジアムいっぱいにジェット風船を飛ばす素晴らしい経験をした。でも今はもう、あんなにスタジアムにみんな揃ってなんてことは出来ないの。だからみんなで商品の魅力を高めてきたんでしょ。
今私たちが、みんなに広めようとしているものはただのジェット風船じゃないのよ、そのときの気持ちの温度、そのときに口からでた呼気によって、色がかわる画期的な風船なのよ。ブルーな気持ちのときもある、ピンクの気持ちのときもある、それをふんわりと透けてみえるぐらいの薄さの風船のうちに包み込んで高く高く舞い上がって空に溶けるの。きっと、みるみるうちに、広がっていくわ。
でもね、もとはあのスタジアムいっぱいのジェット風船からだった。いいえ。違うわね。そのもっと前は、コニシさんが考えて、きっと空に舞いあがるこれはすてきだと何度もなんども空に飛ばしてみてたことが原点なのよ。
発祥元への敬意あなたの行動にあったかしら。
あなたは、映画になったらいいと言っていたじゃない。制作者、版権を持つ配給会社の意図にそぐわない行為があればそれだけで却下だわ。会社名が入ってなくて良かったわよ。
それに固い、ファシリテーションルームって。
名前だってもう少し短くできないのかしら。
ファシリテーションルームってどういうところかもう一度考えてみなさい。
「プロジェクト自体は、各部署で行われているから、それをみんなに教えてもらって、共有して何かが生まれてくるのを待つところ、かな。」
灰原がそういうと目を輝かせて彼女は言った。
そうよ、待つのよ、このルームは待つところなの。自分から出向いていったりしないの。
「なんのはなしですか、
なんのはなしか聞かせて下さい、なの」
略して、なんはな、なんはなルーム
「これでどうかしら?」
にっこりと笑う彼女には必ず従うと決めている。
「いいね、なんはなルーム。最高だ。ただ待ってるだけだと、本当になにもプロジェクトが集まってこないかもしれない。」
続けて彼女はいった。
「私がプロジェクトを持ち込むわ。手伝ってくれないかしら?」
灰原は、肩をすくめた。
「さっき君は、一人に肩入れしちゃいけないといったばかりだよ。」
一瞬、目がキッと上がった気がするが、彼女はまた何か考えだした。
「企画書はレポートでURLをメールするとして、なんはなルームのニックネームが必要ね。ベルカント、”ベル”にするわ。」
「”カント”ってあの”カント”かい。君は哲学書から良く好んで作詞した。」
「違うわ、”ベルカント”<bel canto>イタリア語で『美しい歌』よ。」
コニシさんもロマンティストだからね、ひとりでジェット風船を飛ばすとき、いつも日誌に記していたの。この画期的なジェット風船がうまれたブランドストーリーとしてその日誌を朗読するっていうのはどうかしら?
スタジアムのあの熱狂しか知らない社員は、あの場所でないと売れないかもしれないと心配してるわ。でもひとりで3年間もジェット風船を飛ばしてたんですもの。それ自体に魅力がないとできないことだわ。これは、私たち社員一人ひとりがその魅力を新たに発見して胸に刻む、そんなプロジェクトよ。もちろん、コニシさん自身もね。
「あなたは、早く動画を削除して、名前を変えなさい。」
そういって彼女は早速パソコンに向かい始めた。
つづく
お願い
”彼”にお心あたりのある方、確認ですが、ニックネームはnote名と同じでいいかお知らせ下さいますようお願いいたします。きっとまだまだ出番があります笑。
また、今のところ、この物語はリアルの活動のパラレルワールドとして進めています。もし、こちらにもご登場いただける方は、参加プロジェクトやニックネームをお知らせ下さい。新しい参加者も大歓迎です。ここからはプロット公開しつつ方向性やセリフも相談できると嬉しいです。
『The Greatest Showman』
(邦題 グレイテイスト ショーマン)
日本劇場公開 2018年2月16日
20世紀フォックス映画
エンターテイメントが題材の胸が熱くなるミュージカル映画です。
紹介した動画記事はお蔵入りとします。すみません。(*- -)(* _ _ )
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回収なしの、コメント待ちのスタンスです。
マガジン名も『業務日誌 灰原』より『なんはなルーム 灰原』に変更です。よろしくお願いします。