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巽くんと今日子さん 第4話



前回のお話 
巽くんとはライン交換後メッセージしてみたものの挨拶どまり。その一方で職場の集まりのお誘いが。

第4話 


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            眺めるだけの外の世界
       きっと上手くは泳げない

          でも沈まないよう
         見守ってくれる
           そんな気がするから
             勇気を出して…

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「今日子さん。これ、案内です。」
         

      
               降谷さんを囲む会
     -ずっと囲っていたかった!-
     10月31日木曜 18時30分~   
     場所「Roku」QRコード参照
     会費 5000円( 当日 )
   ハロウィンコスプレ参加も大歓迎(ウソです)
 

巽くんが案内を配ってまわる。
「コスプレって。しかもウソって。」
思わず笑ってしまう。

「コスプレするよりみたい願望はありますけど、コスプレ縛りにするとキャンセル多くなりそうだから。」
「でもここの制服、今日子さん似合ってますよ。」

時々、巽くんはドキッとするようなことを真顔でいう。その度に私はぎこちなくいつも俯いてしまう。
「…ありがとうございます。足、自信がないのでここの制服はパンツなの、嬉しいです。」
「パンツ姿   似合ってます。じゃあ月末に。」

火照る顔を隠すようにして案内を二度見三度見する。

「あっ、今度の送別会?」
不意に声をかけられて上ずった声で答える。
「真由。そっ、そういえば真由はLINEグループ入ってなかったね。月末はどんな感じ?」

「ワルいけど、私はパス。学生といっても私は服飾デザインの方だし今度の課題提出に賭けてるから。ここのお店、学生もOLも来るからファッション観察には持ってこい。制服もかわいいしね。」
とニヤリと笑う。

さっきのやり取り聞いてたかな。
ほんと、巽くんは女の子の扱い慣れてそうでいつもドギマギして困っちゃう。
そんな様子は気にも止めず真由は続ける。

「今日子も断るタイプだと思ってたから行くの意外。彼の誘いだから?」
「違う、違う。降谷さんだから。」

降谷さんは昼のシフト終わってからお客さんとしてデザート注文してイラスト描いてるのをじっと見ててくれて、お店のポップ描くようチーフに薦めてくれた人だ。夜のシフトにだって引っ張ってくれて、そのおかげで少し馴染めた気もする。

「降谷さんにはイラスト認めてもらった恩があるの。」

「そっか。今日子センスあるよ。色使い、服飾も参考にしたいもん。そろそろイラスト本気でやってみたら。」

真由は真由でストレートにいいとこ誉めてくれるし、なんだか今日は参っちゃう。

自分を信じてデザインの道に進む真由も眩しい。
これから社会人になる降谷さんも眩しい。
社会人出戻りフリーターには眩しすぎる。

はあああーあ。
今日は頑張ってパンプキンフェアのイラスト書こう。

カボチャを使ったシチューパイにプリンにモンブラン、パフェだって美味しそう。
んー、お客さんがじっと眺めて選んだメニューを美味しそうに食べる瞬間が待ち遠しい。

さぁ、頑張って仕事だ、仕事。


それから2週間
パンプキンフェアも好評に終わり、降谷さんを囲む会当日は、降谷さんだけ張り切ってコスプレして登場した。

「降谷さん、マツケンサンバは濃いー。今日はハロウィンですよー。」
どこからかそんな声がして
「どうせなら職場の忘年会で使える方がいいだろ。」
降谷さんが答える。
「新入社員歓迎会ではまだ堪えて下さいよ。」
「我慢できるかなぁ。」
「ほんっと変態なんですから。」

そんな風にして会話が途切れることなく、笑いで目尻が潤いっぱなしの120分、降谷さんを囲む会が終了した。
「横手さん、イラストほんといいから頑張ってな。」
ふざけ倒したあとの降谷さんの一言には本当に泣いた。

社会人になる降谷さん、励ますのはこっちなのに励まされた。きっといろいろあるけど降谷さんなら大丈夫です。言えるような立場でもなく心の中でエールを送る。

最後に降谷さんから挨拶があって巽くんが締めて解散となった。

「二次会行く人お茶してかえる人、あとは自由です。
気をつけて。」

お店を出たあと、ふわっといくつかの固まりができて楽しそうにおしゃべりしながら動いていく。

途中まであとをついて歩いてみるけど、反対方向の駅の方が乗り換え便利だし、と思い直して踵を返した。
大通りから少し外れた脇道。
『明日は新月かぁ。月明かりはないけどいつもより星がきれい。』
もう11月になる。火照った頬にひんやりとした夜の空気が気持ちいい。目線を上げて歩いた先の駐車場にジャケット姿の男性が目に入る。

「巽さん?」
「あっ、今日子さん。あれ、どうしてこっちに。」
「私、路線こっちからが近いんです。」
「よく分かりましたね。」
「だってほら、今日はスーツ着てどうしたんだぁなんて云われてたから。服装覚えてたんですよ。」
「そっか。そりゃあこうやって集まるときは服も気を遣います。駅まで送っていきますよ。」

「でもいいんですか。お煙草。ゆっくり吸われたら。」
「ん。いいです。お酒は飲まないんですが、昔から年上の人と遊ぶ機会多くって。煙草は吸います。」

そういって携帯灰皿に吸い殻を押し込んだ。

「じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願いします。」

右側に立って歩き始めると少し困ったような顔をする。
「出来たらこっち側歩いて欲しいです。危ないから。
ちょっとかっこつけさせてくれたら嬉しいです。」

巽くんの左側を歩く。
右肩にかけたカバンが当たらないように左手に持つと変な感じがする。空いた右手は歩く度に前後に揺れてたまに巽くんの手に当たってしまう。なんだか上手く歩けない気がするのはさっきお酒を飲んだせいかも。

ふわふわした気分で、流れのままにおしゃべりしてあっという間に駅についた。

「送って頂いてありがとうございました。」

「こちらこそ、おしゃべりできて楽しかったです。えーと、今日子さん、今度オムライス食べに行きませんか。今日子さんのイラストほんと美味しそうで。オムライスのイラスト見てみたいです。オムライス好きですか。」

「オムライス…。はい、好きです。」

「じゃあ、今度、行きましょう。」


帰りついてお礼をLINEする。
グループラインにも個人のトークルームにも。
幹事役だけあってグループラインは今日のお礼に感想にひっきりなしに通知が入る。いつも人気者の巽くんとふたりの時間が持てたことが夢みたいだ。

お酒の余韻に浸りながら、ふたつの新札を眺めている。

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     封筒に入ったままの北里さん
         優しく目が合う梅子さん

       梅子さんはきっと好きかも
       北里さんはどうなんだろう
 
       封筒の外 出会ってしまったら
      きっともう目を逸らせない   
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第5話に続く



なんのはなしですか

昨年(2024年)7月25日から10月26日まで投稿した巽くんと今日子さんのショートストーリーを加筆修正して再掲しています。第4話は新エピソード。

前回もお読み頂いた方、今回はじめましての方、読んで頂いて嬉しいです。ありがとうございます。

途中まででストップしてたお話。
(下書き稿として置いておきます。)

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