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メイキング|村焼き(仮題) #17 執筆:転【6】

 さて、腕輪は作って湖とのパスも繋がったので、あとは数年経過させて魔力中毒を起こしましょう。同時に新たな村人も迎え入れます。順番としては時間経過→新たな住人→体調不良(魔力中毒)にしましょうか。

 それから数年が経ち、ついにルカには背を抜かれてしまった。声も心なしが低くなっている。細身ではあるけど筋肉質で、力仕事は全部任せるようになってしまった。私がやろうとするとどこからともなく現れて荷物を取られてしまう。本人としては鍛錬の一環だそうで、やる気があるのなら邪魔はしないでおくことにした。
 魔法使いとしてはまだまだで、周囲の魔力を使った魔法は少しずつ規模が大きくなっているものの、自分の中にストックするのが難しいらしい。内頬から細胞を拭って調べてみたけど魔力の合成や貯蔵する臓器に関連する情報は特に見当たらなかった。でもエレナの教えの通り自分の身体を経由して出力しているおかげか、流れはとてもいいとのことだった。循環系も、本来の形でないにしろ少しずつ形成されているように見える。このやり方は間違いではなかったのだな。
 朝の日課である植物への水やりをしつつ、部屋の中の魔力計を確認する。ほとんどが沈んでいるけど大きな薄い結晶が浮いているから、室内の濃度は良好のようだった。買った時のような濁りは今のところない。まあでも、あの時は私が直接触って魔力が濃くなり過ぎただけだし。日常生活でそこまで魔力変化が起こることもないだろう。
「いい天気ねぇ」
 天窓から差し込む太陽の光を植物たちは全身に浴びている。私も今日は何も仕事がないし、散歩にでも行こうかしら。
「先生、おはようございます」
 リビングへといくとルカが朝食を作っているところだった。集落でもらった家畜の卵と燻製した塩漬け肉に火を通して皿に載せ、山で採取した薬草を盛り付ける。婦人会で分けてもらった自家製のドレッシングをかけたら完成。どれもとても美味しかった。薬草も魔力がしっかりと蓄えられていて、身体の中にエネルギーが満ちていくのを感じる。身体の中で生成される魔力のほとんどは湖へと流しているけど、残った一部と食事からの摂取、そして大気中に豊富に存在する魔力を使えば魔法の実行になんの影響もなかった。むしろ身体が軽いくらい。
「僕はコルさんと一緒に周辺の見回りに行こうと思いますけど、先生はどうされますか?」
「私は今日はお休みしようかしら。外れの湖でゆっくりすることにするわ」
「分かりました。念のために魔除けの糸をお借りしてもいいですか?」
「もちろん。調剤室の棚の中にしまってあるから持っていってね」
「ありがとうございます」
 まだ子供の年齢だというのにすっかり大人びてしまっていて少し寂しい。普段は村の人たちと一緒に過ごしているからなのだろうな。もう少し甘えてくれてもいいのに、しっかり者であろうと振る舞っている。
 それはそれとして、見回りと同時に魔除けが機能しているかを確認してもらえるのは正直助かる。ルカの目があれば魔法が実行されているかのチェックはできるし、魔法を込めた糸で補強するくらいなら彼でもできる。その結果はあとで確認しておこう。

 時間はうまく経過させられましたね。具体的な年齢を提示したくないのでふんわりとさせておきます。自分の年齢も数えられないような魔法使いが正確に何年経過したかを把握しているとは思えないので。
 仮住まいのあった湖へと遊びに行きますが、そこでは特に何もしません。帰ってきた時に
新しい家族が引っ越してくるところを書きたいがために外に出しただけなので。でもすぐ行って帰ってでは急なので、魔力の濃度変化については少し触れておきましょうか。

 家が建った後は一度全てを引き上げてしまったけど、気まぐれにこの湖に来ることもあったからと数年前にテントを張っておいた。おかげで今では別荘のように第二の寛げる空間になっている。そんな豪勢なものではないけれど、心を休めるにはちょうどいい場所だった。揺れる椅子に深く座り、目の前の景色をぼんやりと視界に入れる。
 天然の日陰から漏れ出す光が足元にまだらの模様を作っていた。風にそよいで常に変化するのが見ていて面白い。水面も揺れて波紋がぶつかり合っている。私たちの手の届かない、自然による変化はどこか心地よかった。どうにもならないくらい荒れることもあるけれど、その時はその時。
「(眠くなってきたわね……)」
 街から取り寄せた本でも読もうと思ったのだけれど、そんな気分ではなくなったので傍の机に置いた。目を閉じて椅子を揺らし、自分の輪郭を曖昧にする。世界の中に溶け込んだような意識で眠りの中へと落ちていく。
 その中で、少しだけ奇妙な感覚があった。星空に投げ込まれたような無重力感。ふわふわと浮いていて心地いいのに、押しつぶされてしまいそうな心細さがあった。遠くで煌めいている時は綺麗だった星々も、近くで見ると目を閉じても分かるくらいに強い光を放っている。飲み込まれて、私の形がなくなって、でもそこには自分がいて、ひどく輝いていて、周囲をさらに強い光で上書きしていく様を自分で見ていた。止めたいのに止められなくて、やがて夜は朝になって、私の光はかき消されて、何もなくなった場所で、私は泣いていたのだろう。でも涙は落ちずにすぐに蒸発してしまう。夜を変えてしまった私を責める人はもういない。この罪は誰にも打ち明けられない。私は──。
「──っ!」
 何かから逃れるようにして目が覚めた。影の中にいるというのに全身汗まみれで、服がぐっしょりと濡れている。気持ちよく眠っていたような、変な夢を見ていたような、なんだか頭の中が空洞になったような気分だった。汗を拭き、テントに予備で置いておいた服に着替える。湖で顔を洗った。水面に映る私の顔はまるで別人のようにやつれている。朝ごはんはちゃんと食べたのにな。
「(……家に帰ろう)」
 休むつもりで来たのに、むしろ身体が重たかった。お茶を飲んでちゃんとしたところで寝よう。もう何もしないほうがいいだろうな。

 魔力の話をしようと思ったのですが、変な夢のことしか書けなかったですね。意図したものではなかったのですが、これから起こる村焼きに通づるところがあったのでこのまま活かします。ルカが魔力を光として知覚しているという認識と、自分の中で溢れてしまって魔力を合わせて制御できない状態を示し、周囲を全て焼いてしまってひとりぼっちになるところまでは決まっているのですが。その後の[私]がどう対応するのかはまだ分からないです。自死することも出来るでしょうが、きっとそれは逃避と捉えるのでしょうね。ここはまた次の章で考えます。
 さて、村に帰ったら新しい家族が来てザワザワしています。状況としては最初にこの村に来た時に似ていますね。ただ相手は普通の人間なので、[私]の時ほど不穏な空気にはならないです。

 村に着くと村長の家の前に人だかりができていた。若頭と村長が何かを話し合っている。その近くで見かけない顔の大人が二人と女の子が一人立っている。なるほど、新しい人が来たのか。村人たちもどちらかというと好奇心で集まっているようで、私の時とは大違い。仕方ないとはいえちょっと凹むけど、今ではもう皆と良い関係を構築出来ているので良しとする。
「それでは、この方達を迎え入れることにします。みなさん、支えてあげてくださいね」
 村長の人声にぱらぱらと拍手が湧く。移住者は軽く会釈をし、村長の家へと入っていった。群衆が散り散りになる中、棟梁と若頭が話をしている。新しい家を建てるための段取りを組んでいるのだろうな。人々の中をちょっと探して帰ろうとした時、ちょうど居たルカと目が合った。
「先生! 戻られたんですね!」
 向こうのほうから走って来る。まるで犬のようだな。尻尾がついていたらきっと左右に大きく振っていただろう。そのエネルギーの塊みたいな姿を見て少し気持ちが解れる。
「さっきの人たちは?」
「見回り中に出会いまして。住む場所を探しているということだったので、コルさんと話してディウ村長に相談してみようと」
 道すがらその経緯を教えてもらう。とはいえどうしてこの山に辿り着いたかは不明だけど、あまり深刻な様子もなさそうだったし、困っているなら助けるべきと男衆で意見が一致したとのことだった。新しい村人に慎重な姿勢を示していた棟梁と若頭も、相手が普通の人間だから害意はないと考えたのだろうな。
 魔除けについての報告も聞く。どこも異常はなく魔法も機能しているとのことだった。仕掛けてから結構経つけど、結構長持ちするんだな。
「先生、ちょっと元気ないですか?」
 帰宅して食事の用意をしていると、ルカが声をかけてくれた。魔力量は一定になってるはずだから、光によって判別はできない訳だけど。単純に顔色が悪いからだろう。あまり心配はかけたくないから適当に誤魔化す。
「ああ、まあ、ちょっとね。私はお茶を飲んでそのまま寝るから、ルカはこれ食べおいて」
 一人分だけ皿に盛ってテーブルに置く。何か聞きたそうな顔をしていたけど、深追いをせずに見送ってくれた。

 新しい村人たちも迎え入れられましたね。まだ言及はしていませんが、やってきた子供は女の子です。ルカと同じくらいの年齢で、名前はスペス(spes:希望)と言います。お母さんはリリウム(lilium:ユリ)で良いですかね。今まで同世代の異性と接したことがないルカなので、それについて[私]が揶揄ったりもするでしょうね。恋愛話はやりませんけど。
 あとは魔力中毒を起こさせて体調不良にし、その過程でいろんな本で調べさせましょう。だんだんと最初の村焼きと同じような状況を作っていきます。
(体調不良に効く薬草を調べるための薬学の本、人間の魔力中毒を緩和させる方法を調べるための解毒や解呪の本、世界の変化に原因があると仮定して歴史や天体に関連する本)

 移住者の家は集落の中ほどに建てられていた。引越しをする頃には皆と打ち解けたようで、明日の婦人会に奥さんと娘さんが遊びにくるとのことになっている。旦那さんも男衆の会合──という名目で集まってお酒を飲んでいるだけ──に参加して親睦を深めているようだった。私の時はあんなに警戒していたのに、とまた寂しさを感じつつ、でも実際彼らの人柄はとても良くて、それに引っ張られるようにみんなが集まっていくのだろうな。
「(それはつまり私には不安を上回るほどの人柄の良さがなかったってこと……?)」
 考えるうちに段々と惨めになってきた。でも、私は魔法使いという先入観があったから尚のこと遠ざけられていたのだろうし。今では住人たちとの信頼関係も築けていて、私個人がどうしようもなくダメというわけではないのだから。心の中で自分を慰めて目の前の鍋に集中する。
 婦人会のお土産にするお茶を煮だしているところだった。最近は日差しも強くて暑いから、淹れたての熱いお茶よりは冷たいもののほうが好まれるだろうし。疲労回復の薬草を多めに、お裾分けでもらった果物の皮を削って爽やかさをプラスして、沸騰しないぎりぎりのところで匙を掻き回す。十分な濃さになったところでポットに移した。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 陽の当たらない場所に移動させて簡易的な結界を作る。中がひんやりとするように熱を遮断させて、かつ雑菌が繁殖しないように水分量を調整する。ここまで厳密にやる必要はあんまりないのだけど、初対面の人には好印象を持ってもらいたい。村人からの後押しがあるとはいえ、魔法使いに会うのは初めてだろうから。
 翌日、ポットを持って棟梁のお家にお邪魔した。奥さんのローザさんが出迎えてくれて、若頭の奥さんのヴィオラさんと移住者の二人が向こうの部屋から手を振ってくれる。想像以上の友好的な雰囲気に少しだけ安心した。
「アリシアさん、こちらは先日この村に越してきたリリウムさんと、娘のスペスさん」
「はじめまして」
「こちららこそ。よろしくね」
 二人と挨拶をしてローザさんにお茶を渡す。カップを準備しているうちに他のメンバーが集まり、あっという間に賑やかになった。手際よく注がれるお茶をそれぞれに分配して、スペスちゃんが作ったというクッキーをみんなでいただく。
「あら、美味しいじゃない!」
「上手ね〜!」
 村にこの子くらいの年頃の女の子がいないせいか、村の女性陣がこぞって世話を焼いていた。最初はどうしたら良いか分からないと言った様子で困っていたようだけど、今ではすっかりその扱いに慣れて、みんなの子供として過ごしている。ルカも似たような立場だけど、やっぱり同性の方が盛り上がるらしい。彼はなんというか、もう大人として振る舞っているから少しだけ寂しさがあるのだろうな。
 私のお茶も皆気に入ってくれて、また来月の婦人会に持っていくことになった。暖かく迎え入れてくれていることに感謝しつつ、でも皆の話すパートナーへの愚痴や日々感じる体調のことについてはあまり共感できなくて疎外感がある。遠巻きにお茶を飲んでいると、隣に小さな影があった。
「お姉さんは魔法使いなんですか?」
 スペスちゃんが私の隣の席にちょこんと座る。お姉さんって呼ばれたのいつぶりだろう。
「ええ、そうよ」
「すごい! お空を飛べたりするの? お薬作る? もしかして、ご本みたいに人間を食べたりする……?」
 目を輝かせて話すうちに怖い物語のことを思い出してしまったのだろう。目を逸らしながらも誤魔化さずに聞いてくる。勇気があるんだな。
「私はどちらかというと治癒と調剤がメインの役割だから、他のことはあんまり得意じゃないのよね。空はしばらく飛んでいないし。人間は美味しくないから食べないのよ」
「た、食べたことあるの?」
「実はね……って、冗談よ。人間は食べたことないし、魔女はそもそも人間を食べないわよ。魔力がないから栄養にもならないし」
「よかったぁ」
 心底安心したように息を漏らした。手元のクッキーを齧り、母親たちの賑やかな会話をぼんやりと眺めている。
「あたし、どうしてここに連れてこられたのかは分からないんだけど、聞いたらきっとお父さんもお母さんも困ると思うし。お友達もいないから不安だったんだけど、お姉さんがいてくれてよかった」
 まだ子供として甘えていたいだろうに。親の事情なのに自分から合わせて良い子であろうとしているなんて。
「……偉いのね」
 頭を撫でてあげると、視線を下げて俯いてしまった。さらさらの髪が手のひらを滑っていく。心がほぐれるようにと癒しの魔法を優しく流し込む。彼女は驚いたようにこちらを振り向くので、笑顔を返してあげた。
 クッキーもお茶も全て無くなった頃、陽も陰ってきたので婦人会はお開きとなった。各々が帰る中、スペスちゃんがこちらに手を振ってくれる。
「じゃあね! 魔法使いさん!」
 山に響くほどの元気な声に圧倒されつつ、私は手を振ってそれに応える。ローズさんとヴィオラさんと一緒に後片付けをして私も家に帰った。

 魔力中毒の話の前に、少しだけ場を混乱させるための状況と移住者との交流を書きました。体調不良の誤った原因を伝染病によるものにしようと思ったのですが、それだとちょっと扱いづらそうだったので食あたりにしました。婦人会と男衆の会合で大勢が集まって食事をして、かつ移住者たちが何かを振る舞っている描写をすることでそこに原因があったのかも、と推測できるようにします。うっかり[私]もお茶を持って行ったので、それが原因だったかも、と言わせても良いですね。ただ移住者たちに体調不良はないので「おかしいな」ポイントは残しておきますが。男衆の会合でも似たような状況になるよう、移住者(ピクム、picum:キツツキ)が手料理を振る舞ったことをルカ経由で聞きましょう。それを踏まえて体調不良の話をします。
 あとスペスちゃんと少しでも仲良くしておいた方が焼かれるとき辛いかもしれないですよね。

「先生、戻りました」
 ポットを洗って夕飯の支度をしているとルカが帰ってきた。そういえば今日も男衆の会合をやっていたんだっけ。みんな陽が出ているうちからお酒を飲む口実を作りたくてしょうがないんだろうな。ルカは流石にお酒は飲んでいないだろうけど、一緒になってご飯を食べてジュースを飲んでいるはず。そしたらもうお腹いっぱいかな。
「ルカ、今日は夕飯どうする?」
「すみません、お腹いっぱいで……。ピクムさんが振る舞ってくれた料理が美味しくてみんなでたくさん食べちゃったんです」
「そう。よかったわね」
「はい!」
 ピクム、というのはおそらくスペスちゃんのお父さんのことだろう。どんな料理かちょっと気になるところではあるけど、また今度本人と聞いてみよう。それをきっかけに関われるかもしれないし。
 それから数日後、体調不良で私の家を訪れる人が増えた。男女問わず、それこそ年齢も皆違うけど、症状はだいたい腹痛や吐き気、頭痛と似かよっている。原因は分からないけど、ひとまずそれらの症状を緩和できるようにいくつか薬草を選んでお茶を作ってあげた。あまりにも多いので、住人たちにも自分でケアできるよう本を使って薬草の説明もする。念のためと思って巡回すると、個人差はあれどほとんどの村人が何かしらの体調不良があるとのことだった。不思議なことに、スペスちゃんのところだけはなんともないらしい。エレナにもこの状況を話してみるけど、実際に診ないことには分からないと言われてしまった。
『でも、もしかしたら食中毒かもしれないですわね』
「あー、確かに。この前、村人が集まって食事をしてたし。でも移住者だけがなんともないっていうのも不思議なのよね」
『そうですわねぇ』
 二人して考えても原因の特定には至らなかった。もし食あたりなら、私が婦人会に持って行ったお茶も何か病原体が潜んでいたのかも、とも思うけど。女性陣しか飲んでいないし、男性陣が症状を訴えるのもおかしな話だった。ひとまず私が原因では無さそうでよかった。
 とはいえ私自身も同じ場にはいたはずだけど、特にこれといった体調変化もないし。魔法使いだからと食中毒を回避できるわけではないと思うのだけれど。ルカも大丈夫だと言っているし、いまいち釈然としない。

 と、言うことで住人たちの体調不良と「食中毒かも?」の話はできました。移住者との魔法使い組はその対象から除外されているので「原因が別にあるかも?」と考える余地を残しています。この後はいよいよ魔力が溢れて住人たちの体調不良も悪化し、[私]の魔力も溢れて村焼きに進んでいきます。初期の行動指針では体調不良を2回起こす予定で、2.3.2の終わりで『1回目はカットしてしまおう』と書きましたが、意外と書けそうなので当初の予定通りに行きましょう。



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