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メイキング|村焼き(仮題) #10 執筆:承【6】

2.2.2.4

 ここでは手帳より得られた情報から新しい村に移動するまでを記載します。手帳が使えるようになるまで数日かかるので、この街での暮らしを満喫してもらいましょう。かと言って細かく書くほどの余裕もないため簡潔に書きます。
 また、【承】が思ったよりもボリュームが出てきてしまったのでこの後に予定していた「村に移動した後の村人との生活」と「弟子との対話」は【転】に組み込みます。

 それからというものの、街のいろんなところに顔を出して情報を集めた。ここに住んでいる人間たちも元は別の集落で暮らしていたようで、出身にばらつきがあった。とは言っても行商の最中にここに留まった人とか、追われるようにここに逃げ込んできた人もいて理由も様々。だからあんまり大したことも聞き出せず、移住先の候補は挙げられなかった。
 手帳も言われた通りに携帯している。あれから数日経ったからそろそろ使えると思うのだけど、お爺さんからの連絡もないからまだ機能は十分ではないのだろう。エレナのような装飾はできないにしても、表紙を少し加工した。青の生地はそのままにして、枠を描いて魔力を刻み銀色に光らせる。夜空に瞬く星のような、流星が駆けていくような形になって満足した。
「──それでですね、ここをこうして……」
「なるほど」
 エレナのところにも通うようになった。驚いたことに彼女はお城のすぐ近くで診療所を開いていて、主にお城のスタッフやそちら側の住人の治癒を行なっていた。診療を見学させてもらったけど、あの無邪気な面影はどこにもなくて、ずっと真剣な眼差しで患者さんと向き合っていた。皆不安そうに部屋に入ってくるけど、処置が終われば緊張が解けたように笑って帰っていく。やっぱりエレナはすごいな。
 診察が終わった後の時間を使って、彼女から治癒の魔法について教えてもらっていた。私も簡単なものはできるけどちゃんと勉強はしたことないし、エレナの技術も学びたいし。説明も分かりやすくてすぐ理解できた。
「ありがとうね、忙しいのに」
「全然! アリスと会えてわたしも嬉しいですわ。わたしも、アリスのやる分解と再構築がとっても気になっていまして」
「ああ、これ」
 手元の紙を丸めて軽く握って横に振り、開いて中身を拡張させる。インクを吸い上げて書くことのできる簡単なペンを生成した。
「そう、それですわ。全く違う形になるのが不思議でしょうがないんです」
「でもそんなに難しいことではないわよ。元の素材の組成を考えて、手で覆って小さな箱を作って、ここで大事なのが──」
 私のふんわりとした認識でやっている魔法を説明するけど、なかなかうまく伝わらない。エレナも眉を寄せながら頷いてはいるけれど、ちゃんとは理解していなさそうだった。
「──というわけ。だから計算さえしちゃえば割と簡単にできるのよ」
「難しいですわ……」
 彼女も真似して何度かやってみるけど、ただ素材をゆすっただけで何も変化がなかった。
「まあ、これも慣れよ。私もいつの間にかできたし」
「頑張りますわ!」
 鼻息を荒くして意気込むエレナ。可愛らしいな。こういう子が近くにいてくれたら楽しく暮らせるだろうに。でも弟子にするには彼女は魔法使いとしての道できているし、なにより私に指導ができるとも思えない。さっきので結構心が折れた。一人前にするための弟子というよりは、片手間に魔法を教えるくらいのことなら私にもできるかな。そんな人がいるとも思えないけど。

 近況を書きつつ、でもそれだけだとあまり伸びなかったのでエレナのところに行きました。この街に来るまで結構無茶苦茶な魔法(分解と再構築、泳動、視界の切り替えなど)を使ったりしていたので、改めて変な魔法使いであることを示せるようにその話題も出しました。あと弟子についても。
 弟子については次のセクションで出す予定なので、その下準備としてここで言及しました。急に出てくるよりは、その話題を提示しておいて読む人のどこかに引っ掛けておけばスムーズかと思うので。
 それではお話を進めます。手帳にお爺さんから連絡が入り、いくつか候補を絞ります。

 しばらく談笑しているとポシェットが仄かに光った。びっくりして確認すると手帳が輝いている。エレナに聞いてみるけど、彼女もこの現象は知らないらしい。
 恐る恐る開いてみるとお爺さんのページが輝いていたようだった。すぐに光は治まり、文字が浮かび上がってくる。村についての情報だった。
「随分と派手ですわね」
「エレナのはこうならないの?」
「ならないですわ。新しい情報が来ても特段主張をしなくって、ふと見た時に更新されていることを知る、くらいなんです。新機能でしょうか」
「さあ……」
 情報を見逃さないという点ではいいかもしれないけど、あそこまで光られるとちょっと困る。あとで消せないか聞いてみよう。
 提示されたのは三つの村だった。一つ目は西に数百キロ離れていて森の中にあるところ。二つ目は南西に数キロ行ったところで街道沿い。三つ目は南に千キロほど行ったところで大きな湖がある場所だった。ちゃんと各方角ごとに調べてくれている。結構気が効くのね。
「近さで言えば南西のところですわよね」
「でも近いと環境が変わらないから遠いところがいいな」
 そうですわよね、と見るからに元気をなくしている。すぐ連絡できるから大丈夫だよと慰めて思考を再開した。
 距離で言えば西の村もいいだろうけど、森の中だといままでの環境とあまり変わらない。せっかく移住するなら全く知らない状況の方が楽しいから、行くなら南の村かな。遠いからちゃんと準備しないと。同じ過ちを繰り返したくない。

 手帳の通知方法について考えてなかったのですけど、光ったら面白そうなので光らせました。でもやっぱりびっくりするのでこれは後で無くします。今回は、話のきっかけとして何かしらの介入が欲しかったので光る通知は活用します。
 さて、新しい村の情報も出ました。南の方に1,000km行ったところなので距離的には最初に焼いた村と一緒ですね。移動時間もおそらく数週間かかるでしょう。いままでと違うのは湖があるところ。村の真ん中に、というよりはその裏手に、という感じなので、皆の生活用水として活用されています。いずれ焼くのですが、炎と一緒に水があったらいろいろギミックが作れそうなのでそうしました。楽しみですね。
 
 さて、これでおおよそ書きたいことは書けました。あとはこの街を出るところだけなので、サクサクと進めていきます。防衛手段の構築については返事に時間がかかると思うので、あらかじめ問いかけておいて移動中に確認するのがいいでしょう。

 場所が決まったので買い出しに行く。あまり資金はなかったけれど、前の村で分解した素材を売ってなんとか工面した。おそらく数週間はかかるからその食費と、この土地でしか入手できなさそうな物品を集めておく。お兄さんのいる魔導具屋でも追加でいくつか購入した。お爺さんの方にも寄り、手帳が光ったことを愚痴る。
「でもあの方が分かりやすいだろ?」
「そうだけど私には必要ないわ。どうやったら消せるの?」
 あまり乗り気ではなさそうだけれどやり方を教えてくれる。設計図が書かれたところに一節追加する。そんな簡単に調整できるものなのか。ちょっと気の毒だったからいい魔法紙を数枚買った。
 屋敷で荷物を整理する。トランクの中は溢れそうなくらいいっぱいになってしまったけど、素材が捌けた分荷台に余裕ができたのでそこに詰め込んだ。馬と御者のメンテナンスも行い、別段補強も要らなそうなのでそのまま使役する。小鳥もしばらくは活用しようかな。
 街を出る日、屋敷のお爺さんへと挨拶をしたくて家中探したけどどこにも見当たらなかった。初日に招き入れてもらってからほとんど会えていない。あまり好ましく思われてないんだろうな、と思いつつしばらく住まわせてもらったお礼に魔法用紙を一枚置いていく。そこに別れと感謝の挨拶を書いてピンで留めた。私の手帳と独自に連携させてあるから、もし追加で書きたいことがあってもいつでも追記できるし。お爺さんがこの仕組みに気づいてくれれば会話もできるはず。
 門の近くまでエレナは見送りに来てくれた。目もとに溢れそうなほど涙を蓄えている。でも連絡できるとは言えしばらく会えなくなるんだもんな。私も少し寂しくなって彼女を抱きしめると、エレナは堰を切ったように泣き出してしまった。頭を撫でて気持ちが落ち着くのを待つ。私も鼻の奥がつんとして痛い。
「それじゃあ、元気でね」
「アリスも気をつけてください」
 赤くなった目を擦ってエレナと別れる。車に乗って御者に合図を送り、馬車がゆっくりと走り出した。互いに見えなくなるまで手を振る。こんなにも別れが惜しくなるなんて。感情を素直に表現するエレナとしばらく一緒にいたからなのか、私も結構影響を受けてしまったのかもしれないな。
 しばらく窓の外を眺めてこの数日間のことを反芻する。新しい村への期待もあるけれど、今はその淋しさをしっかりと抱きしめた。

 と、いうことで【承】は終わりです。32,000文字と一番最初に想定していた物語全体の文字数と同じくらいになってしまいましたね。でも書いていて楽しかったです。
 この世界の全体像や[私]の立場・考え方を提示できたと思うので、これらを踏まえて新しい村での生活をスタートします。



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