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メイキング|村焼き(仮題) #14 執筆:転【3】

 ここからは湖から無機魔法の採取が可能かどうかを判定し、防衛魔法を構築していきます。自分の住まいに対してそれを試して問題ないことを確認し、その間に数日経過しているはずなので村へと戻っていきます。その過程で、弟子となる男の子との接点を作っておきましょう。

 軽装に着替えてテントの中へと入った。全てが簡易的ではあるけれど、ベッドと机、研究をするための魔法台、ゆったり腰掛けられる椅子を設置する。キャビンでの寝泊まりよりは格段に過ごしやすいはずだ。
 椅子を引っ張り出してタープの下へと移動させる。籠状に編み込んであるから座った時の包まれる感覚がとても良い。程よい陽の光と風の音、葉の匂いに満たされて目を閉じる。すぐにでも眠ってしまいそうだったけど、身体の感覚だけを遠ざけて休ませて、意識だけは輪郭をはっきりとさせた。大きな魔法を使う時のような、自然に溶けていくようなイメージで椅子に揺られる。
 ここは魔力の流れがとてもスムーズで魔法を使うのがとても楽だった。供給される量が多いから自分の手持ちを使わなくて済む、とも言い換えられる。きっとこれはあの村を含めた山全体の生命力によるものだろうな。植物たちがのびのびと繁殖できるから新鮮な空気と魔力が生成されて、それを糧にまた動物や魔獣が健やかに育って、それらを村の人間が食べて。循環するようなサイクルがきちんと成立しているから、とても過ごしやすい。
「(あとは村人たちとの距離感よね……)」
 いくら時間はあるとはいえ、あそこまで評価が低いと少しやりにくい。若者たちを使って私のことを知ってもらおうとも思ったけど、きっと大人はそれを素直には受け入れない。やっぱり私の方から関わりを持たないといけないかもな。治癒だけじゃなくてお仕事の手伝いもして少しでも利用価値があると認識してもらうしかないか。
 その後も、ゆったりと思考を繋げて時間を過ごす。いつのまにか意識すらも手放してすっかり寝てしまっていた。気づいた頃には辺りが暗く、少し肌寒い。今日は移動も長かったし考えることも多かったから、もう休んでしまおうかな。明日からいろいろ頑張ろう。

 ちょっと一息つかせようと思ったら寝ちゃいましたね。確かに、イベント盛りだくさんで1日の容量をかなり使っていたのでこの辺で区切っちゃっても良いかもしれないです。先程のやることリストは翌日にやりましょう。
 ちなみに、村焼きの原動力としてたくさん魔法を使ったことによる副生成物の蓄積と魔力の湖への流し込みを考えていましたが、それにプラスして(もしくは変更して)供給が間に合っているから自分の中に魔力が溜まっていく、という状況を作りました。そうすれば時間をかけずにある程度の量は確保できますもんね。

 天井からの柔らかな光で目が覚めた。時間をかけて少しずつ私自身が形を取り戻していく。昨日はベッドに横になるなりすぐに眠ってしまったのだった。よっぽど疲れていたのだろう。入り口を開けてて外に出でて、大きく伸びをして身体をほぐしたら顔を洗って、軽く朝食を摂ったら準備完了。湖を覗き込んでそこに映る私を眺める。
「(世界との境界に発生するという無機魔法。私の解釈が正しいとは限らないけど、もし合っているのなら湖から得られるはず)」
 視界を遮るようにして数度手を振って世界の彩度を下げた。きらきらと光が散ったあとに魔力の流れを視認する。環境のせいか全体的に濃く見えるけど、他とあまり変わりがない。淀みや変な動きをしているところを探してはみたもののあまり成果はなかった。
「(ここは境界としては判定されていないのかな……)」
 鏡のように何かを映すもの、その向こう側にこちらの情報を投影するものとして境界たり得るも思ったのだけど。本来ない場所に世界が一つあるように見えるわけだから、空間にまつわる魔法も発生していると考えたけど、違ったのか。
 振り出しに戻るのが嫌で、諦めきれずに湖の周りを歩く。少しの違いも見逃さないよう集中したけれど、やはり何も変わらず、波打つ水面も他の植物たちと同じ顔をしていた。
 視界を元に戻そうと意識的に瞬きをして、ふと目の端で捉えた光を逃すまいと振り返る。目を細めて周りの情報を削ぎ落としその方だけをじっと見つめると、少しだけ景色がずれているところがあった。ぼんやりと見るだけだったら大した違いもないけれど、よくよく観察してみるとその輪郭がちょっとずれている。複数の光で影がたくさんできて重なる感じに近い。私の視力に問題があるのかと思って角度を変えてみたけれど、やっぱりそれはずれたままだった。
 少しでも意識をずらすとどこかに行ってしまいそうだったから、視界の中心に入れたまま瞬きもせずにゆっくりと近づく。それは球体のようで、立方体のようで、湖から垂直方向に浮いていた。透明だからちゃんとした形は分からないけど、それを通した向こう側の景色が少しだけ重なって見えるからそこに何かがあることは分かる。
 両手で包み込むようにしてその輪郭をなぞる。濃い魔力に触れた時の皮膚がぱちぱちする感じがあるから、きっとここに魔法がある。視界の彩度を下げるために魔法を呟き、併せて涙を膜のように張らせて目を潤した。
「これが……」
 目の前に現れたのは正十二面体の塊だった。私の知っている魔力構成ではないから、おそらくこれが空間にまつわる魔法。表面が絶えず流動していて、きっとこれのせいで景色がずれて見えていたんだろうな。意識をして見ると、向こうのほうにもいくつか同じ形をしたものが浮いていた。なるほど、やっぱり私が認識できていなかっただけでそこにはあったのか。

 空間にまつわる魔法を見つけました。少し前にも『時間にまつわる魔法の時はたまたま魔力が濃く見えていたから気づけただけで、実際には至る所に存在しているのか? 私たちが普段認識できないだけ?』と考察している通り、[私]が認識できていないだけということにしました。時間は確かにその前後によって経過を感じられますが、空間はその変化がないですもんね。でもきっとそれは存在しているはずだから、注視すれば分かるはず。環境は限定されますが、その視覚のズレによって認識できると考えました。イメージとしては風船とかキノコみたいな感じです。境界面からひょっこり伸びてる感じ。あとはこれをどうやって活用するかですね。その根本を蜘蛛の巣にくくりつけましょうか。
 そういえば時間の方はその状態を変化させるものだった(反応性のあるものだった)から採取ができましたが、空間の方はただそこにあるだけのようなので採取できるんでしょうか。空間転移のノウハウを利用するにも、その機序がわからないのであればどうしようもないですね。掲示板の人にも聞けないですし。ちょっと探ってみます。

 このガラスのようなものがどうやって別の空間に繋がっているのかは分からないけど、それを調べるためにもまずは採取しなくてはならない。でもどうやってやれば良いんだろう。触っても良いのかな。
 魔力を込めた息を吹き、目の前のそれがどう反応するかを観察する。ふわふわと揺れてはいるけど、私の魔力がどこかに行ったりはしていないようだった。ということはこれだけでは転移が起こらない?
 たくさんあることが分かったので一度テントへと戻り、トランクから空の試薬瓶をいくつか取り出す。視界の彩度は元に戻して、その代わりに見える範囲を制限させて無機魔法を探した。今度はすぐに見つかる。風船がたくさん浮かんでいるみたいで綺麗だった。
「失礼しまーす……」
 そのうちの一つに手を伸ばす。
「おや?」
 表面に指を載せるとちゃんと触れた。魔力の集合体だからてっきり突き抜けるかと思ったのだけど。辺の部分は少し筋張っていて、ここが形を維持するために必要なところだということが分かる。でも面のところは薄い膜のようで、あと少し力を入れたらすぐに破れてしまいそうだった。
 今度は両手で触れてみる。浮いているから重さは全くなかったけど、持っている感覚もほとんどはなかった。上下左右に動かしてみるけど特に抵抗はないから、このまま部屋まで持って帰れるかな。でも肌がぴりぴりするからすぐ手を離してしまう。
「(こんなものなのか……?)」
 表面を流動しているのは確かに無機魔法みたいだけど、本当にそこにしかないのかな。もしそうなら、一つの立体から採取できる量はかなり少なくなってしまう。村全体を覆う防衛魔法を構築するとなると、一体どれだけの量を集めなくてはならないのだろう。計算もしたくないし、そもそもそんなにたくさんあるのかも分からない。ひとまずこれはもう少し詳しく調べたいな。使わなかった試薬瓶をテントに戻し、代わりにミトンを持って立体を挟んだ。壊さないように慎重に引き寄せて湖から陸地へと動かすけど、何も変化はなさそう。目の前が少しだけずれているのが変な感じ。魔法台の上に載せて手を離すと、ふわふわと登っていってしまった。全然止まる気配もないから、慌てて試薬瓶を再構築して大きな容器を作って上から被せる。屈折と視覚のずれのおかげで目がおかしくなってしまいそうだけど、これで落ち着いて調べられるな。

 と、いうことになりました。イメージとしては正十二面体の骨格に、駄菓子屋でよく売ってる風船玉なような薄い膜が張っている感じです。辺のおかげで持つことはできますけど、面を強く押したら破れてしまいます。その被膜部分にも空間にまつわる魔法は存在しますが、その内側にもたっぷり含まれているため、作中で絶望しているほど大変なことにはならなそうです。破るとドロリとした魔力が流れてきます。

 研究道具をいくつか取り出して並べた。まずはこの面のところから魔法を取れるかどうかだよな。でもそれよりも先に、もう少し見やすいように色をつけたい。さすがに透明なのではどう変わったかが分かりにくいもの。あと紐のようなもので固定したいな。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 容器を持ち上げて立体に触れる。そこから線を伸ばすように台へと指を動かして銀色の紐を生成した。糸を引っ張れば無機魔法も合わせて動くから、ちゃんと固定はされているみたい。今度はそれを通じて魔力を流し込む。青い光が登っていき、頂点から辺へと瞬く間に広がっていった。面のところは仄かに色づく程度ではっきりとは見えないけれど、輪郭が分かるだけでも全然違う。被せていた容器を外し、元の試薬瓶へと戻した。
 小さなナイフで辺に沿って刃を入れる。するり、と入ったかと思えば中から濃密な魔力が溢れ出してきた。果物を切った時みたいに、内包されていたものが沁みてくる。
「ああっ──」
 慌てて試薬瓶を置いてその滴を受け止めた。先程の魔力のせいか、ほんのりと青く着色されている。なかなか止まらなくて、あっという間に瓶がいっぱいになってしまった。まだ出てきそうだったけど、これ以上あっても今は困ってしまうから切り口を上にして再度固定する。中にこんなに入っていたなんて。容器を揺らしてみるけど、どろどろとしていてあまり動かない。上から覗き込めば台がかなり歪んで見えるから、確かにこれは別の空間に繋がっているような感じもある。空の向こう側はこんな感じなのかな。でもこれを纏うとなると、もう少し薄めないと肌が爛れてしまいそう。

 本来の空間にまつわる魔法を採取できましたね。この立体ひとつあたりの内包魔法量はどれも同じですが、これ自体がどの程度発現しているか(境界部分に浮いているか)は世界の状態に合わせて変化していきます。条件とすると月の満ち欠けや季節、周囲の魔力量などですね。別の空間へと繋がる詳しい原理については私も分からないので(おそらく物理方面の知識が必要)、「なんかやったらできちゃった」といった形で進めていこうと思います。
 次は採取した魔法をどうやって使うかを検討します。今回の目的は襲撃時の魔法を別の空間に転移させる(入出力を同じ場所にして見かけ上反射させる)ことなので、そもそもこの魔法によって転移が可能なのかどうかを調べます

 魔法をいくつかの試験管に分けてホルダーに立てる。そもそもこの魔法自体にそういった転移が本当に可能なのかを調べなくてはならない。せっかく集めたとしても機能しないのであれば意味がないし。テントの裏からいくつか木の実や小石を拾ってきた。試験管のうちの一つに木の実を落とす。沼に沈むようにゆっくりと下がっていき、真ん中くらいのところで滲んで見えなくなった。
「消えた……!」
 どこにいったのか辺りを見回してみるけど全く分からなかった。湖に浮かぶ別の無機魔法のところに行ったのかと思って見に行くも、それらしいものは確認できない。いったいどこに行ってしまったのだろう。全然関係のないところに飛ばされてしまったのだろうか。
 今度はマスキングした小石を落とそうと別の試験管を手に取ると、中で何かが揺れる。そこには先程落とした木の実があった。こんな近くに移動していたのか。
「(すごい……!)」
 再現性を確かめるために最初と同じところに別の木の実を入れる。それも同じようにある程度行ったところで消えてしまった。試験管の束を眺めて待っていると、先ほどとは違う容器の中に現れる。同じ場所というわけではないのか?
 今度は小石を入れてみるけど、出てきたのは一つ目の木の実と同じ場所だった。逆に、一つ目の木の実の試験管に小石を入れるけど、全く違う試験管の中へと移動する。なにこれ、全然法則性が分からない。
「どういうこと……?」
 無機魔法を通じて移動しているらしいことは分かったけど、出口がランダムに変化しているのだろうか。でも湖の方には移動した気配がないし、全て手元の試験管内での反応ではある。採取した大元の無機魔法の中で繋がっているのかと思って別の立体を持ってくるけど、上の方の面を切り取って小石を入れても何も反応はなかった。複数の容器へと分けても同様で、透明な魔法の中をゆっくりと沈んでいくだけ。
「(何が違うんだろう……?)」
 転移のきっかけが分からないことには活用のしようがない。最初に採ってきた無機魔法だけが特別だったのかも? たとえこれを薄めて身に纏ったとしても、転移せず貫通してしまうのであれば防衛の意味がない。魔力検知と組み合わせてもその仕組みだけで守れないのであれば──。
「…………魔力かな」
 一つ目と二つ目の違いは私の魔力で着色しているかどうかだった。同じ色同士で移動するということはあまり考えられないから、もしかしたら魔力の繋がりを手がかりに転移しているのかも……?
 これまでに採取していた無機魔法は一旦破棄した。二つ目の立体から新たに数本分の魔法を採取してそのうち二つに私の魔力を注ぎ込む。薄い青色に光ったところで木の実を落とすと、真ん中あたりで滲んで見えなくなった。もう一つの青い試験管を眺めていると、少し遅れて木の実が姿を現す。逆も同じで、お互いの試験管へと移動しているようだった。
「やっぱり」
 でもさっきは何で出てくる場所が固定ではなかったのだろう。その理由を考えてふと思いついた。一つ試験管に魔力を込めて合計三本の青い試験管を用意し、そこに連続してきのみを落とす。それらは別々の試験管へと姿を現したから、おそらく移動先は私の魔力が込められたいずれかの場所、ということなのだろう。最初の時は全てに魔力を込めていたから選択肢が無数にあって、あたかもランダムのように見えていたということか。

 転移の法則については解決できました。魔力の繋がりのため、[私]の魔力を通じて移動したと考えられます。自然の状態ではただそこにあるだけ(=空気と同じ)のためただ透過するだけでしたが、道ができればそれに沿って移動します。指定がなければランダムに選ばれるため、流れを決めて仕舞えば任意の場所に移動できるはずです。

「(それなら……)」
 私の魔力を足がかりにしているのであれば、その流れを指定してしまえば思う通りに移動させられるかもしれない。一度魔力の込められた試験管を空にして新たな無機魔法で満たす。そのうちの半分を着色して、さらにそのうちの二つを魔力で結んだ。液面同士をパイプのようなもので繋げるイメージだけど、実際はただの繊維みたいなものをかけているだけ。見かけ上はその繋がりは分からない。
 まず、連結した試験管の片方へと小石を落とす。これまでと同じ挙動を示したのち、私が指定した試験管へと移動した。素材を変え、位置を変えて実施しても同じ結果だった。今度は連結していない試験管に小石を入れてどう移動するかだけど、私の考えが正しければ繋がりのない試験管同士で移動が成立するはず。
「──やっぱり」
 予想通り、繋がりを持たせていない試験管の中を移動していた。数度繰り返しても同様で、複数ある未連結同士で転移しているらしい。
 これなら、外界からの脅威に対して任意の場所へと転移させることができる。その移動先は追々考えるとして、ルールがわかっただけでも大きな成果だった。
 気がつくともうすっかり夜になっていた。少し肌寒くてケープを羽織る。採取した立体たちは一度湖に返すことにした。こぼさないようにミトンではさみ、水の上へと載せる。砂糖が溶けるみたいにその輪郭を無くし、あっという間に消えてしまった。

 これで1日終わりです。あとは少し時間を進めて「距離に依存しない移動であること」「立体的な展開方法について」をサクッと紹介し、自分のテントで防衛魔法のチェックをします。その時に脅威の移動先を決めつつ、小さな男の子にこちらをのぞいてもらいます。

 その後数日かけて検証してみて分かったのは、この転移は距離に依存しないということ。湖の端と端でそれぞれ試験管を魔力で繋いでやってみたのだけれど、今までと同じような結果が得られた。また、物質だけじゃなくて魔法自体も転移できた。これなら、広く展開していざ攻撃された時も村を守ることができる。私の魔力を使って維持するものではないから、結界を張るのと比べ物にならないくらい負担が少ない。
「あとは、どうやって構築するかよね……」
 湖畔に腰掛けて足を水に入れる。ひんやりと冷たくて気持ちがいい。足元にある石には藻が生えているのか、もさもさした感触があってちょっと気持ち悪いけど、つい触っていたくなる変な魅力があった。
 空間にまつわる魔法を広域に展開するとして、それを維持しておくための構造が必要になる。湖に浮いているあの立体もそう。世界から溢れ出る無機魔法がこの環境の中で形を得るためにああなっているのだから、スケールを変えて同じようなことをしなくてはいけない。だけど、村全体をこの無機魔法で満たすのは無理だし、そもそも私ですら直接触れないのだから人間なんか即死してしまう。
「ん?」
 木漏れ日を遮るように手を翳してふと思う。傘みたいな骨格を作って、そこに薄く膜のように魔法を貼り付けたらどうなるのだろう。立体の元々ある骨格も再構築して利用できないかな。
 近くに浮いていた無機魔法を魔力を使って引き寄せた。痛いのは承知で面に穴を開けて中の魔法を湖へと流し込む。空っぽになった立体を両手で挟んで力を込めた。かなりの反発はあるけれど、圧縮して構造を単純化することはできそう。組成がわからないから正しく計算はできないけど、そこは感覚でカバーする。小さくなった外側を持ってテントの近くまで移動した。掌の中でそれを揺らし、枯れ木から伸びる細い枝を想像して両手を広げる。ぱき、ぱき、と何かが折れるような音がして、やがて痩せた星のような骨格が出来上がった。あとはこれに無機魔法を纏わせて私の魔力を込めたあと、テントの上に慎重に載せる。頂点から湖へと魔力の流れを指定して、傘の親骨にあたる部分の先端を摘んで伸ばせば完成。これでドーム状に無機魔法を展開することができた。
 透明だから分かりづらいけれど、ちゃんと維持できているようだった。目を凝らしてやっと膜が視認できるくらい。普通だったら気づけないな。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 小さな火の塊を指先から弾き出した。じゅっ、と鈍い音がした後に湖から煙が上がる。転移はちゃんとできているらしい。テントも燃えていないから、通過はせず表面に触れた時点で転移が完了したのだろう。これならいける。あとは村を覆えるくらい大規模な構造体を設計すればいい。
「あ、」
 でもこれ、どうやって膜を通り抜ければいいんだろう。触ったら痛いのに、全体をしっかり囲んでしまっては出入りができない。ある程度薄めても同じような効果は得られるかな。ちょっとその辺は考えなくては。
 ひとまずテントに被せた構造物を取り外し、分解して湖へと返す。椅子に座ってどうしようかと悩んでいると、視界の端で動きがあった。
「(動物かな……?)」
 そちらの方へと意識を向けてみると、小さな男の子が草陰に隠れてこちらを見ていた。村の子かな。もしかして山の中で迷子になってしまったのか?
「どうしたの?」
 声をかけると、彼は一目散に逃げ出してしまう。慌てて私もそれを追いかけるけど、ちゃんと村の方角へと走っていたから迷っていたわけではなさそう。安心してテントへと戻った。

 何も思いつかないままさらに数日が経ち、ついに村長さんが呼びに来てしまった。家が出来上がったしたそうなので引き上げる。テントを畳むのは大変だったけど、そこは力仕事が得意な護衛が頑張ってくれた。荷物も全部持ってくれる。
「あら、とても素敵ね」
 完成した家は私のイメージ通りだった。前の村と同じような構造にしてもらい、リビング、寝室、プラント、調剤室、倉庫と確認するけどどれも完璧だった。そのことを大工さんたちに伝えると満面の笑みで答える。
「あざっす! あの黒い人、めっちゃ便利っすね。いろいろお願いしちゃいました」
「役に立てたみたいでよかったわ。また必要だったら言ってね。新しく作ることもできるし」
「マジっすか! 助かります〜」
 談笑の裏で棟梁が複雑そうな顔をしていたけど、人形に対して文句を言うようなことはなかった。今度彼の要望を聞いた人形を作ってあげよう。日を改めて挨拶にも行かなきゃ。
 荷下ろしも若者たちが手伝ってくれた。とは言っても余りの素材だけだから、そんなに時間はかからなかったのだけれど。私が魔法を使うところをどうしても見たいと言うので、村長さんに了承をもらう。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 木材からベッドを再構築した。キャビンの中のクッションも、枕とマットレスへと変化させる。端材でちょっとした小物も作ってみた。
「おぉ〜!」
「すげぇ〜!」
 まるで子供みたいに目を輝かせていてとても可愛い。ちょっと奮発して魔力を使いすぎたからくらくらしてきた。彼らに礼を言って家から出てもらい、ベッドで一休みする。久しぶりの柔らかな感触に、私は一瞬で眠ってしまった。

 防衛魔法、うまく行かなかったですね。刺激が強いと言う設定が良くなかったかもしれません。なんとかしたいですね。
 何はともあれ家もできたので次のセクションへと移ります。村人たちとの交流も増え、あの男の子を弟子にとります。いよいよお話が動いていくので頑張りたいですね。


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