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メイキング|村焼き(仮題) #5 執筆:承【1】

2.2 承:新しい村

 前のセクションの流れを汲み、魔力が過剰になるまでを書いていきます。余剰魔力と村焼きについては【転】以降でやるのでできるだけ触れないようにします。それを踏まえてここで書くシーンは①引越準備(魔法の構築)、②新しい村へ(物語の発展)、③村人との生活(信頼関係の構築)、④弟子との生活(魔法についての理解を深める)を想定しています。【起】での宿題は①でほとんど片付けます。②は移動だけなのでそんなに時間はかからないはずです(でもそれだけだと面白くないので何かエピソードを一つ挟むかもしれません)。③では【転】以降の村焼きでより辛くなるように仲良くなっておきます。そして④の弟子との生活を通して魔法の細かな知識や【転】以降の村焼きに必要な情報を入れていきたいです。
 村を焼くための余剰魔力は溜まるのに数年はかかるため、【承】→【転】の切り替えのタイミングで時間を進めましょう。なのでそれまでの話をここで書いていきます。

2.2.1

 それでは続きを書いていきます。体力と魔力の回復には数日かかると思うので、それも踏まえて引越し準備を進めましょう。

 窓からの光で目が覚める。目を擦りながらベッドを降り、大きく伸びをした。久しぶりにちゃんと寝たから体が軽かった。まだ魔力は戻ってないから、もう数日は時間が必要だけど。それまでに昨日できなかったことを進めてしまおう。
 簡単に朝食を済ませ、普段着に着替えて書斎へ向かう。まずは使うレシピをまとめないとな。魔除けと人形の設計図はどこに書いてあったっけな。
 ぱらぱらとページを捲って魔法を探す。それにしても随分使える魔法が増えたな。そりゃこれだけ長い時間経ってるのだから当たり前か。まだページはあるけど、いつでも増やせるように紙のストックは増やしておいた方がいいかもしれない。

 ここで改めて補足ですが、魔導書は自分が使える魔法を書き記したものです。新しい魔法を構築したり学習したら書き留めて、自分だけの辞書を作っていきます。この厚さと密度が魔法使いの格を決めるのですが、[私]はあまりそこにこだわりはありません。自分が決めた紙さえあればいくらでもページ数は増やせるので、その分重たくなっていきます。どこかのタイミングで買いに行かないとですね。そういう資材が売ってるのは多分大きめの街じゃないとないと思うので、道すがら寄りますか。

「あった」
 しばらく進めたところに魔除けのレシピはあった。今までよく使っていたのは石に付与するものだったけど、結構転がってどこかに行ったり素材を準備するのが大変だったんだよな。糸状に張り巡らせるやり方もメモしてあったから、それを利用して蜘蛛の巣の形にすればいいだろう。見た目を真似するだけだし本物の蜘蛛を捕まえてくる必要はない。昨日乾かした植物から繊維を抽出すればいいかな。
 やり方をメモして自律人形の方も探す。今回想定しているのは荷車を引く馬と、大きな機械を運ぶ人の二種類。でもあんまり人の形をしたものを引き連れていたら流石に怖がられてしまうかな。煎じの機械もここに来て構築したものだし、前の引越しの時にはなかったからなぁ。せっかく作ったから手放すのも勿体無いし。
「うーん、どうしようかなぁ」
 まあここで薬草の抽出を始めたのは老人が多かったのが理由だし。それまでは葉の状態で渡して個人で淹れてもらっていたのだからそれで十分なんだよな。新しい村で活躍しなかったらただ狭くて暑くなるだけだし。よし、壊そう。
 でも時間をかけて構築したものだから、その記録はしっかりつけておこう。基幹となるシステムは取り外して保管する。あとは素材ごとに分けておけばいいか。また何かに使おう。

 中型〜大型のヒトが機械を担いで村を行き来するのは少し想像しづらかったので、持っていかない方向にしました。機械も設計図があればいつでも作れるので、新しいところで要望があれば再構築するようにしましょう。

 そしたら荷車を増やして馬を二頭、人は御者で二人、護衛で二人でいいかな。あと引越し用に大柄の人が二、三人欲しい。抽斗からペンを出して設計図と魔法を簡単にまとめて書き記す。魔力が篭ってしまうと誤作動を起こしてしまうかもしれないのでこれはアナログで。ペンは出しっぱなしにしておけばよかったな。机に置いておこう。
 必要なものが揃ったら持って調剤室へと移動する。機械の心臓部から箱状の基幹システムを取り出した。一応蓋を開けて中を確認する。金属や鉱石を薄く加工したものに、魔法を起動するための文字を書いてぎっしりと並べたもの。どれも焼き切れたり文字が薄れたりもしていないから問題なさそうだった。
「さて、頑張ろう」
 自分に喝を入れて、持ってきていた手袋をはめて袖をまくる。自分の背丈以上に大きい機械を上の方から順に解体する。魔法での分解と再構築は対象がシンプルなほど楽なので、素材ごとにまとめてからやるつもりだ。できるだけ魔力も温存しておきたいし。でもここ風通し悪いから起動してなくても暑いな。汗が止まらない。

 これで宿題のうちレシピ探しは終わりました。次は人形の作成をしつつ、並行して防衛魔法の構築をします。せっかく調剤室にきたので昨日採取した無機魔力の確認もしておきます。
 時間にまつわる魔力で周囲の時間の進行を速くするものでしたが、容器に入れておいても大丈夫だったのでしょうか。強酸のように容器を腐食したり、揮発性が高くて性状が変わっていたりしてもおかしくありません。ましてや専用の容器ではなかったのですから、状態はあまり良くないでしょう。具体的な変化については改めて考察するとして、ここで挙げた内容について思考を挟みます。
 

 一段落したところで改めて昨日採取した魔力を取り出す。ほんの少しだけ色合いが違うようにも思えるけど、ほとんど変化はなさそうだった。それにしてもこれはこの容器でよかったのだろうか。試薬類は物によってはガラスでないと溶けてしまったり、すぐ気体になってしまうものもあったけど。魔力も素となるものが違うだけで化学物質と変わりないのだから、特殊な取り扱いが必要だったかもしれないと今になって気づく。
「まあ、駄目になったらその時考えよう」
 主要な研究対象ではないし、気まぐれで採取したものだし。いつまでもその希少性に縋っていると碌なことにならないから、あまり期待しないでおこう。
 容器は元の場所に戻し、基幹システムはトランクに入れて書斎の荷物の山に重ねて置いた。倉庫から手押し車を持ち出し、分解した素材を載せて庭先に並べていく。一度にたくさんは運べないから何往復もしなくてはいけない。大きな部品は収まらないから、この場で簡単に崩壊させて手のひらくらいのサイズまで小さくする。山盛りになった素材をよろめきながら、途中でいくつか溢してしまったけれど、なんとか外へと運び出した。背中を伸ばすとまた折れたのではないかと誤認するくらい大きな音が出る。最後に倉庫に眠っていた麻袋を引っ張り出して必要な文字を書き、その上に部品を載せた。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 対象を絞って魔法を唱える。青い光に包まれて素材の山が崩れていく。構成する最小単位の成分へと分解されたそれは、私の魔法によって規則正しく整列しなおして新たな形を得た。ブロック状の塊と生まれ変わった素材を麻袋から下ろし、次の素材を上に載せる。それを何度か繰り返して、運搬しやすい形へと整理していった。

 ガラのままよりはレンガ状に積み上げた方が効率は上がりそうですよね。これで煎じの機械については終わりなので、元々の人形作りへと戻ります。せっかく外に出たので、手押し車もありますし、砂を集めて準備をしておきましょう。その後に設計図を清書し、乾かしておいた植物や動物由来の素材を包んで核として魔法を実行します。

「これでよし」
 機械についてはこれで全てを片付けられたので、本来の作業に戻る。人形の素体となる砂や土を家の周りから少しずつ借り、手押し車へと載せていった。生成したいものの大きさによって必要となる量も変わってくるので、馬と人では倍以上の差になる。ひとまず集めて庭に小さな山を作った。ちゃんと成形するのは魔法を使うときでいいだろう。
 太陽の光が強くなってきたので、休憩がてらお昼を食べることにした。あまり食材は残ってないから大したものはできないけど、体力と魔力を回復させるためにしっかり食べる。ついでにお茶も淹れて書斎でゆっくりすることにした。
「(このあとやらなきゃなのは……)」
 片付けは終わったので次は移動に必要な人形の作成。これは設計図を清書して魔法をかけるだけだからそんなに時間はかからない。あとは新しい拠点に移った後の防衛魔法の構築。魔除けが効かなかった時の次の手として村全体を魔法から守るための対策だけれど、これがなかなか決めきれない。今までにないやり方が望ましいけれど、それを実現させるための力が私にはなかった。たくさん魔法を知っているはずなのに。自分の無力さが嫌になる。
「そうだ」
 魔術書に使用する紙を買おうと思っていたんだった。こういう時じゃないと行かないから寄り道をしよう。ついでに食料や資材を調達しつつ、移住先の村について情報収集もしたい。道すがら大きめの街に行ってみようかな。
「(その時に防衛魔法のヒントも得られるかもしれない)」
 つい億劫になって遠出を避けていたから、久しぶりの買い物に胸が踊る。この村で暮らしていた十数年はそういうことをしていなかったから、だいぶ人々の様子も変わっているだろうな。服も新調してみようかしら。

 あまり引き伸ばすのも良くないとは思うのですが、実際魔法を使うにあたって必要な情報が何も手元にないので手詰まりです。無機魔法を使って反射機構を作ろうとは思っているので、どこかのタイミングでそれを入手できるように調整します。
 それからもう一つ気になっていたのが、[私]以外の魔法使いについて。前のセクションで『魔法使いの総数は多くない』と書いているのですが、それだと物語を進めるにあたって制限がかなり強くなってしまうので解消したいです。[私]自身村焼きの原因は他の魔法使いによるものと考えていますけど(本当は自分自身が焼いていますけど)、魔法使い同士の交流が少なければその考えを成立させるのが難しくなってしまいそうで。いくら自給自足ができるとはいえ魔法に使う資材類は何かしらで調達しなくてはいけませんが、結局それも『どうやってるの?』って感じなので、魔法にかかわる人々との交流は欲しいところ。
 その色々をまとめて片付ける策として、大きな街に寄ることにしました。あてもなく歩き回るわけにもいかないですし、この世界全体の雰囲気も提示しておいた方が説得力が増すでしょうし。その時に[私]が言っていたこと(魔法使いの総数や交流について)が古かったことを示せるように、しばらく村から出ていないことにしました。ただ、あまりにその期間が長いと次の余剰魔力の暴発までに時間がかかってしまうので、ほどほどの年数にしておきます。
 作中でも振り返りができたので、お話をどんどん進めておきます。人形の作成くらいはちゃんと描写しますが、その後の積み込みや道中はある程度省略してしまってもいいでしょう。

 そうと決まればどんどん進めよう。片付けてしまったトランクから用紙を数枚引っ張り出す。人形の構築に必要な設計図の下書きをペンで書いたあと、指を置いて魔力を流し込んだ。きらきらした青い光が花弁のように舞って広がる。線が青白く光って綺麗だった。ちゃんと書けていることを確認して脇に置く。残りの紙にも同じように魔力を込めて設計図を完成させた。同じ要領で荷車を作るための魔法も構築する。こちらについては魔力の流れを指示するだけだから一枚あればいい。人形のやつは素材と一緒に埋め込む必要があるから何回も書かなきゃいけないけど。
 私は紙を持ってリビングへと移動する。乾かしていた草や羽、磨いた石を選んで食卓の上に並べた。石には私の名前と使役の魔法を刻む。馬にする方ら動物の、御者にする方は植物の素材を使い、先ほどの石を文字が見えなくなるまでしっかり巻きつけた。球状になったそれを先ほどの設計図で包み、私の髪の毛で先を縛る。これで人形の心臓は完成。それらを大事にポシェットに仕舞って外へ出た。
 陽も傾いて涼しくなってきた。汗をかくような力仕事をするならこれぐらいの方がいい。日中に集めた土を改めて人形ごとに分配し、水をかけて泥状にして成形する。とはいってもこの時点ではまだ生き物の形にはしない。空気を抜いて密度を高めて、堅くなってきたら円錐状にする。表面の凹凸を削って滑らかにしたら完了。馬と人と二つずつ山を作ったら身体中どろどろになってしまった。爪の中に砂が入って気持ち悪い。乾いたら取りづらくなることは容易に想像できるけど、もうここまできたら最後までやってしまおう。ポシェットからそれぞれの心臓を取り出して該当する山の上に載せる。芯が通っているみたいにぴたりと止まった。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 人形を起動させるための魔法を唱える。私の声に呼応して頂点の球体が青く光り、蔓のようなものが幾つも立ち上った。ゆらゆらと揺れて何かを探したあと、急にその性質を硬変させて垂直方向に落ちていく。鈍い音と共に円錐の各面に突き立てられた枝の先端は、まるで動物の牙のようだった。泥の塊に魔力が注ぎ込まれて表面が泡立つ。やがてそれらに纏わりつくように泥が登っていき、心臓部分を飲み込んだ。ぷくぷくと音をたてながら形を変えて、ようやく生き物の姿になる。泥が主体の人形だから、表面は影みたいに黒くてざらざらしてる。でも強度は素体の影響は受けず、あくまでモデルとなった生き物と同じ。大きな衝撃があれば機能を失うけど、少しの刺激ですぐに崩れることはない。
 だいぶ魔力を持っていかれたような気がして眩暈がする。でも馬二頭と御者二人、護衛二人は問題なく生成できた。私が言葉で指示をしなくても、思考するだけでその通りに動く。大成功だった。使い魔ではないから視覚をはじめとした感覚の共有はないけど、単純な命令をするだけなら自律人形で十分だった。

 ようやく人形が作れました。使い魔との違いはまた必要があれば語るとして、これで引越し準備は完了です。汚れた身体を綺麗にして、明日には出発しましょう。

 人形たちには庭の隅に集まってもらう。荷物を積んで出発するのは明日だからあともう少しだけ待機だ。行儀よく並んでいる彼らを横目に私は倉庫へと向かう。年季の入った荷車と、リビングから破棄予定の植物を大量に集めて庭に戻った。機械から生成したブロックも一つ拝借する。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 古い荷車を解体して素材片にした後、植物と一緒に再構築する。そこに少しの金属を混ぜることによって強度を増した。荷物だけを載せる大きなものと、私の乗る席をつけたものの二種類作成する。あんまり豪華な装飾をつけると変に目をつけられるので、至ってシンプルに。乗り心地が良くないのはもう仕方がないので、寝具を利用してクッションを多めに置くしかない。
 これで引越しの準備は全て完了。シャワーを浴びて汚れを落とし、夕飯を食べてベッドに入る。街に行ける楽しみと、次の村を探さなくてはいけない面倒さと、もう焼かれたくないという不安とで胸の中がぐちゃぐちゃになる。考えても仕方ないけど、抑制したところで解決するものではないし。渦巻く気持ちを俯瞰しながら、私は眠りへと落ちていった。

 これでこのセクションはおしまいです。4,000文字ちょっととだいぶボリュームがありましたね。【起】から数えても17,000文字と想定文字数の倍以上のペースです。どうなるか私にもわかりません。もしかしたらここまでが【起】なのかもしれないです。
 次のセクションでは街に向けてこの村を出ます。やっと物語が動き始めますね。



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