![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/150494633/rectangle_large_type_2_c191b83449d5f8cdab080c963d7fb143.png?width=1200)
メイキング|村焼き(仮題) #19 執筆:結【1】
2.4 結:2回目の村焼き
このセクションで必ず描写したいのは「かつての村での嫌がらせは、実は自分がやっていたことだった」というのと「それを認識した上での村焼き」です。当初の構想では『子供(=ルカ)のアイデアによってそれを回避』となっていますが、『せっかくこの題材でお話を書いているのに平和に終わっていいものか』という考えもあり、みんな燃やすことにしました。
大まかな流れとすると、①過去の村焼きについて自覚、②2回目の村焼き、③その後の魔法使い、といった形になります。①と②はこれまで広げてきた話をまとめていくだけでいいのでそこまで深く考える必要はないのですが、それで終わってはあまりに投げっぱなしになってしまうので少しだけ付け加えます。でもここが一番重要ですよね。『良くないことを(自覚しながら)やってしまった人物をどうするか』によってその作品の印象が大きく変わりますし。
ここで事前考察としていくつかパターンを考えておきます。その通りにするか全く別の終わりにするかは、物語の進み方で決めましょう。
罪の意識に耐えきれず自死
→これは[私]の選択肢としては考えにくい。罪の意識はあったとしても、それを自分の命で帳消しにできるとは思っていないし、それで許されるとも思わない。そもそもそう簡単には死ねない。罪を抱えまたまま湖のほとりで一人暮らす
→[私]が生き続けることで(村に残ることで)その罪を償っていくという考え方はアリ。住人の村や山に対する愛着を知っているから、それを引き継ぐという動機づけも可能。ただ、今後お話を発展させるにはちょっと弱い?切り替えて別の村を探す
→流石にあっさりしすぎ。昔の自分ならそうしたかもしれないけど、エレナやルカと関わる中で人を大切にする感情は持っているはずだから、それを捨てさせることはできない(村焼きが辛いのも愛着がある人を自分が殺すからなので、この切り替えができる人はそもそも村が焼かれようとなんとも思わない)
いまのところ有力なのが村に残るパターンですかね。続編を書くかは別として、その土地にずっとい続けるのは余剰魔力や副生成物のことを考えてもあまり得策ではないです。そこを解決しないとこの案は採用できませんね。
2.4.1
ひとまずは、お話を進めていきましょう。一晩明けて住人は元気になったけど、なんだか[私]の体調が良くないということを書きます。
翌日、村の様子を見ると住人たちはすっかり元気になっていた。やはり魔力中毒だったのだろう。煎じ薬と合わせて昨日の魔法が効いているみたい。とはいえ湖の様子は変わりないから、その場しのぎでしかないのだけれど。
この村全体に蔓延する魔力をなんとかしないとまた同じような事が起こる。その度に解呪をしていたのでは大変だし、予防的な魔法もこまめにかけないといけない。ルカにあげたような魔除けのネックレスも、そう簡単に量産できないから現実的ではないし。
「(……考えたいんだけど)」
朝起きてから頭痛が酷かった。薬を飲んでベッドにいるけど全然良くならない。昨日魔力を使って集中したのが良くなかったかな。身体の怠さも酷くなるし、ちょっと気持ち悪い。腕輪を確認してもやっぱり機能はしてないし、想定以上に魔力が溢れている。私の目にもはっきり見えるほどに漏れ出ていた。これはもしかして。
「私も魔力中毒になったか……」
明らかに体調が悪いけど何もできず、魔法を使って治癒しようにもその魔力の流れでより気持ち悪くなってしまうからどうにもならない。エレナの使い魔も数日前から全く応答がないし、ルカにはまだ治癒のやり方をちゃんと教えてないから出来ないと思う。こうなってしまっては、時間が経って魔力が村の外に拡散するのを待つしかない。
体調不良についてはこれでOK。あとは「前の村焼きは自分が起こしたものかも」「この村を焼きたくないけど方法がない」というのを書きます。当初の予定では『目眩やふらつきが頻発するようになり活動を維持できなくなる』と書きましたが、もうあまり日を跨げないのでここはうまく誤魔化しましょう。
村を焼き始めるなら夜がいいですかね。昼のように明るくなったら異常さが際立つでしょうか。
「先生、辛そうですね」
近くでルカが世話をしてくれるけど、それ以上のことが出来ないことに無力さを感じているようだった。気にしなくていいんだよと伝えるも、腑に落ちないといった様子で頷く。
「────ッ」
いつの間にか寝ていたのか、気づいたら数時間が経っていた。熱っぽさと汗は改善したけど、自分の身体じゃないみたいに感覚が遠い。でも朝よりは動けそうだから起き上がった。せめて書斎に移動してこの魔力過多の状態を打開できるようにしないと。少しでもマシな状態にしたい。
朦朧としながらリビングを横切り書斎へと到達する。村の端から端まで歩いたときみたいに遠かった。距離感がおかしくなってる。途中何度もふらついて転びそうになるけど、椅子に掴まってなんとか踏みとどまった。後頭部がずきずきと痛い。視界を常に回されているかのように景色が安定しないから酷く気持ち悪い。ベッドで寝てた方が良かった。
椅子に座って一息つく。この浮動感が治ってから本棚は確認しよう。でもそんな都合のいい本なんか持ってたっけな。それにしても机が散らかってて汚い。昨日、色々調べたからな。一見すると全く関連性のない書籍と、乱雑に書かれたメモが積み重なっている。
「(あれ……、私、どこかで……?)」
頭の奥の方で何かが引っ掛かっているけど、それがなんなのか全然分からない。ぱち、ぱちと花火みたいに火花が散っている。この光景を、前にも見たことがある気がする。それはいつのことだっただろう。
何も思い出せなくて、頭も余計に痛くなって、薬を飲むために調剤室へと移動しようと思ったけどダメだった。もう気持ち悪いのはしょうがないからと溢れた魔力で薬と機材を絡め取って机へと持ってくる。攻撃以外でこんな魔力の塊を動かすなんて初めて。鳩尾の奥から何かが蠢いて上がってくる感じがあるけど、薬を飲んで落ち着ける。飲み込むのも辛いけど、なんとか流し込んで目を閉じた。薬が腹に落ちて身体に巡っていく想像をして、できるだけ余計なことは考えないようにして、効果が出てくるのを待つ。
何時間経っただろうか。もう窓の外は日が沈み始めて薄暗くなっている。ようやく身体の中の渦巻く感覚が治ってきた。怠さと手足の遠い感じはまだあるけど、思考するくらいの余裕は出てくる。
「(溢れてる魔力を村の外に流せばいいかな……)」
もう私自身は動けないから、ルカに無機魔法の採取と運搬をしてもらって、私が魔力を込めたら山の麓へと設置してもらって。きっとその場所も魔力が過剰になってしまうだろうけど、この場所から魔力が抜けて私が活動できるようになればいくらでも対応できる。よし、そうしようかな。
方針が決まったおかげか少しだけ力が湧いてきた。ルカに説明をするために立ち上がる。
「────」
足がもつれて転びそうになってしまったけど、机のお陰でなんとか倒れずに済んだ。積み上がった本や紙が音を立てて床に落ちる。
「あっ…………」
ふと頭の奥の方で記憶が繋がった。この書斎の散らかり具合、無関係な本とメモ、蓋が開きっぱなしの試薬瓶。前の村でも同じようなことがあった。その時はなんとも思わなかったけど、もしかして──。
ばちっ、と大きな音と共に右手に痛みが走る。
指先から青い火花が絶えず弾けていた。
「…………だめ」
火をを消すために浴室へと走る。
なぜだか身体が軽かった。さっきまでの不調が嘘のよう。
シャワーで流して発火は抑えられたけど、指先は焼け焦げて指紋がなくなっていた。それでも手のひら全体にむずむずする感じがあるから、きっとまた同じ発火は起きてしまう。その皮膚の粟立つ感覚は全身に広がって、周囲の魔力を敏感に感じ取っていた。ちょっと衝撃を加えれば暴発してしまいそうな均衡状態にある。
どうにかしなくちゃいけないのに、それ以上に私の心を乱していたのは前の村のことだった。
「私が、あの村を……」
燃やしたんだ。
きっと同じようなことがあったのだろう。私の身体から産生される魔力と、私が魔法を使ったことによる副生成物の蓄積が住人たちの魔力中毒を引き起こし、その解毒や治療、その土地にまつわる世界の変化を調べようとしたに違いない。その時はまだ私の魔力生成量が多いことは知らないし無機魔法を使った防衛も行なっていないから状況は異なるけど。
「ここから離れなきゃ」
私がいるから村が焼かれてしまう。それは他所の魔法使いからの嫌がらせではなく、私自身の魔力の暴発が原因。それなら、私がここから遠いところに行けばここの人たちは助かる。幸い身体の調子は良くなったからすぐに移動できるだろう。空を飛んだっていい。この村のケアはルカに任せればそれで──。
「(いや、ダメだ)」
その住人の体調不良を引き起こした湖の魔力を解決しなくちゃいけない。無機魔法を採ってそのままどこかに行けばいいか? でも魔力が減るまで時間はかかるし私の魔力と繋がっているのならいずれその火はここまで届く。たとえ私が自死しようとも、土地に根付いた魔力は消えないから炎は燃え続ける。
どうしよう。
どうしたらいい。
私は、人を殺したくない。
「……先生?」
ふと、ルカが不安そうな顔でこちらを見ていた。その手にはバケツとタオルがあるから、私の汗を拭くための水を替えに来てくれたのだろう。看護する対象が歩き回っている上に憔悴しているのだから、困るのも分かる。
「大丈──」
「来ないで!」
一歩踏み出したルカを片手で静止する。身体の内側から魔力が溢れて飛び出してしまった。流星のような煌めきの炎が一直線に走りルカに直撃する。雷のような音と共に煙が立って周りが見えなくなるけど、また暴発する前にシャワーを腕にかけた。水が冷たくてひりひりする。こんなことをするつもりはなかったのに。
「ルカ……」
程なくして煙が晴れると、ルカはその場に立ち尽くしていた。胸元のペンダントが淡く光り、目の前に突き出した両手のひらには何枚もの魔力の壁が広がっている。
「──ルカ!」
「大、丈夫、です。先生、強すぎ」
防衛魔法が崩れるのと同時にルカもよろけてしまうけど、両手を膝について踏みとどまった。大きく呼吸をして魔力の流れを整えている。いつの間にそんなことができるようになっていたの。
また身体を這い上がってくる感覚があった。流石にもう一回は防げないだろう。ルカもその魔力に気付いたのか、顔を上げて私を見た。
「ルカ、お願い。村の人たちを集めて、今すぐ山を降りて。村長さんには、ごめんなさいと、謝って」
何かを発言しようとして口を開くけど、ぐっと飲み込んで頷いた。その瞳は涙で溢れそうになっていたけど、なんとか堪えて走り出す。窓からルカが遠くなったことを確認して、私も家を出た。湖の、祠がある方へと向かう。
溢れる魔力は自力で湖に流し込んで火が出ないように抑え込んだ。でももう髪から火花が散るのを止められないから、周囲に漂う魔力が反応して炎が広がってしまう。湖から水を引き上げようと思ったけど、それはもう魔力の塊だから悪化させてしまうだろう。
一旦ここで切ります。気付いてから魔力の暴発は早かったですね。ここから離れられない理由もちゃんと書けました。そんな中でも村の人たちを守るために何ができるかを考えて被害を最小限にするために対策します。ルカに任せて住人を集めて避難させようとしますが、もちろん逃げきれません。彼らを焼くためにやり方を考えます。
もう既に[私]の周囲は燃え始めています。その火は程なくして湖に到達するでしょう。ただ湖が燃えるだけならいいですが、防衛魔法と繋がっているため炎がそちらに伝播してしまいます。パスを繋げれば双方向に転移は成立するので、「防衛魔法→湖」を想定して設置したとしても「湖→防衛魔法」は起こり得ます。ただ接続先が多いため、どこに火が落ちるか分かりません。ランダムに山中に火が回るので、運悪く住人たちの逃げ場は無くなってしまいます。そのシーンを書きましょう。
せめてルカたちが下山するまでの時間を稼がなくては行けない。集落から遠いところにいればしばらくは大丈夫だと思うえど、もう既に湖の淵は燃えていた。紙にインクが染み込むように、じわじわと村の方へ進んでいく。物質としての水の作用はどこへ行ってしまったのか、炎は湖面を覆うようにして広がっていた。
「(……どうにかしてこれを消さないと)」
できることなら村を火の手から守りたい。でも魔法を使ってしまっては余計に反応性が増してしまうから、それを考慮して精密な操作をしなくてはならないけど。指先がこんなではどうすることもできない。頭の中も、脳が乾燥して萎縮しているみたい感覚が遠かった。うまく思考がまとまらないのも多分そのせい。
対岸へと到達してその場に座り込んだ。今朝のような頭痛や吐き気はないけど、どこか自分の身体じゃないみたいな変な感じがある。夢を見ている時の状態に近いかもしれない。そこにいるのは確かに自分なのに、操作する権限を持っていない、みたいな。
「──ッ!」
火花を散らしていた髪の毛がついに燃え始めた。でも焼けるというよりは炎を纏っているようで、頭皮がひりひりする感覚はあれど熱さはなかった。
それはやがて全身を飲み込むように広がり、腕や手のひら、爪先まで炎が到達する。火に接する皮膚は焦げているようだけど、これは物理的な現象というよりは身体から溢れ出る魔力が悪さをしているようだった。無機魔法の時と同じ、酸が身体を障害している感じ。
もう日は落ちて夜になったけど、炎のせいで昼間みたいに明るかった。火は湖の中ほどまで進行している。後ろの森にも燃え広がってしまった。ぱち、ぱち、と木が焼けて倒れる。捲き上る火の粉がまた別の葉や幹に移り、あっという間に山が炎で包まれてしまった。
その瞬間、ガラスが割れる音と同時に湖の一部から火柱が上がった。それも一回だけではなく至る所から同じような現象が起こる。私は魔法を使ってない。ただの魔力反応があんな激しく突沸することも考えにくい。
「もしかして──」
振り返って森の方を見ると、設置していたはずの防衛魔法が起動していた。さっきの破壊音は、魔力検知と合わせて外殻が割れた時の音だ。私の炎は魔力の塊だから、確かに認識するだろう。
でも、そうやって魔力の転移が起こるということは。
遠くの方でも似たような甲高い音が聞こえる。向こう岸の至る所から炎の水が溢れて森に降りかかっていた。
「私がパスを繋げたから──」
魔力の繋がりがある無機魔法同士で転移は起こる。そもそも湖のキャパが超えることは想定してなかったから、外部からの攻撃をこっちに吸収することしか考えてなかったけど。こちらが溢れたならあちら側へ転移するのは当然のことだ。
「(……ルカたちが危ない)」
防衛魔法の全ての転移を湖に設定してるから、その逆流が起こるとなるとどの地点で炎が上がるか予測ができない。ランダムに起動してしまうだろうし、何より時間もあったから山の至る所に防衛魔法を仕掛けてる。住人が下山している道も例外ではない。
湖の上を走って渡る。私が行って解決できるわけではないけど、せめて魔力の流れをコントロールして彼らを守ってあげなくては。
防衛魔法の想定外の機動も書けました。ルカたちの方にいく動機づけもできて、ルカたちも引き返してきているはずなのでどこかで鉢合わせます。
ちなみに今の[私]は炎の精霊みたいな姿をしています。全身が炎に包まれつつも焼けてはいないのは、身体から常に魔力が溢れて薄い膜のようになっているから。表面が反応して燃えるけど、そのすぐ下層から魔力が出てきてそれがさらに燃えるので、皮膚まで到達しません。
さて、ここからは実際に村人たちを燃やしていきましょう。[私]としては助けるためだけど、もう身体が言うことを聞かないので炎がどんどん広がってしまいます。
出来るだけ村には触れないようにして進む。道を歩いては木に燃え広がってしまうから、上空からその状況を確認した。でもそうか。私が今ここで防衛魔法を起動させれば湖に転移するのだから、森はこれ以上焼かれずに済むのか。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
振り返って山全体へと手を向ける。普段と変わらない詠唱も今の魔力では何倍もの規模に拡張されてしまう。空から炎の雨が降り注ぎ、森中からガラスの割れる音が響いた。耳が破片で切り裂かれているよう。炎の燃える音でもうあんまり聞こえてないけど、それでも鋭い音だった。
私の想定通り湖の方へと炎は転移する。湖面のあらゆる場所から炎の粒が湧き上がるけど、重力には逆らえないからすぐに落ちる。一部起動済みの部分にはそのまま着火してしまったけど、ランダムに転移するよりは遥かに規模が小さい。
それでも山の至る所に炎はあったから、きっとルカたちは進めずにいるだろうな。それを探さないと。ルカに私の意図を伝えて炎の少ない場所を通って下山してもらいたい。
いつもの飛行とはまた違う浮遊感で足がむずむずする。進むための踏み込みはちゃんと返ってくるから変な感じ。少し彷徨って、ちょっと進んだところで人だかりを見つけた。その周囲は炎に包まれている。
『ルカ!』
ルカの名前を呼ぶ。でもうまく声にならなくて、代わりに出たのは炎の塊だった。
慌ててそれを打ち消そうとするけど身体が全然言うことを聞かない。魔力の流れを変えたかったのに、腕を振るたびに火の玉が落ちていく。ルカはそれに気づいて防衛魔法を展開するけど、それでも間に合わずに何人かに当たってしまった。叫び声と共に走り回るけど、近くに水はないから消すことはできない。やがてその場に崩れ落ちて動かなくなってしまう。
「───────!」
そこからは酷かった。住人たちは混乱して山の中に散ってしまう。あんまり広がってしまっては火に飲まれてしまうから危ない。私はそれを止めるために森の中に入る。
『待って!』
走る女性の背中が見えたので引き止めるように腕を伸ばす。その手が触れるかどうかのところで突然手のひらから火花が散った。目の前に雷が落ちたかのように、高濃度の魔力が立ち上る。
『ヴィオラさん……』
そこにいたのは若頭の奥さんのようだった。全身が焦げてしまっているから定かではないけど、背格好で近いのはヴィオラさんしかいない。簡単な祈りを捧げて他に逃げている人がいないか探す。辺りを見回して振り返ると若頭がいた。
「お前、よくも……!」
手には農具を持っている。ルカがどう伝えたかは分からないけど、護衛のためのものは持ってきたいたようだった。
『違う、私よ! 敵じゃない! 焼くつもりはなかったの!』
弁明のために口を開くけどやっぱり言葉にならなかった。背中の方から蜘蛛の糸のような魔力が周囲に張り巡らされる。それはさらに分岐して、若頭の身体を狙うように飛んでいった。持っていた鎌のようなもので応戦するけど魔法に適うわけがない。両手足とお腹を刺され、手に持っていたものを落としてしまう。
「なんで……こんな……酷いことを……」
私を睨んで声を絞り出す。それは酷い憎しみと、戸惑いに満ちていた。その場から去りたかったけど、後ろに張られた魔力の糸のせいで身動きが取れない。
「お前はいったい誰なんだ!」
若頭が声を荒らげたその刹那、糸に火の粉が付着した。炎ら瞬く間に広がり、彼の身体にも燃え移る。身動きが取れないのは向こうも同じで、叫び声を上げながら全身を少しずつ焼かれていた。
『ごめんなさい……!』
私はそれを止められず、見ることしかできない。
人形のように黒くなったそれは崩れて無くなってしまった。糸も燃え尽き、私の身体も自由になる。
みんなを助けたいのに、身体が言うことを聞かない。喋りたいのにちゃんと言葉が出てこないのは何故なのか。私の喉が焼けてしまっているのか、耳が炎の音でおかしくなっているのか、もう分からない。でも何かしらで意思疎通を図れるようにしないと二の舞になってしまう。
若頭夫婦を焼きました。こんな感じで棟梁夫婦と、移住者と、ルカに会いにいきます。その途中で名前のない住人たちも焼いていきましょう。また、自分の姿が大きく変わっていることに対してまだ気づけていないので、その部分にも言及したいですね。
ちなみにこのセクション中『』で囲われたセリフは[私]は喋ってるつもりなのに魔法になってしまっているところです。言葉による意思疎通が難しいのであれば、別の方法でアプローチするしかないですね。道を狭めて誘導してみましょうか。
喉に魔力を送って異常がないかを探るけどなんともなかった。と言うことは私はちゃんと喋っているのにそれが言葉として出力されていないと言うことなのだろう。もしくはそれが魔法に変換されてしまっている。口元を拭ってみるけど何も変わらない。原因は分からないけど、そのために試行錯誤するくらいなら喋らずに外に誘導したほうがいいだろうか。
小道を挟んで向こう側を探す。こっち側にも逃げ込んだ人がいたと思うんだけどな。炎に呑まれる前に外に連れて行かないと。
「────!」
林の中で悲鳴と何かが倒れる音がした。慌ててそちらに向かうと、男性が転んで蹲っている。その隣には女性が寄り添って肩を貸していた。あれは移住者夫婦かな。熱で視界が霞んでよく見えないけど、あんまり見覚えのない雰囲気だから多分そう。でも娘のスペスちゃんが見当たらない。もしかして、もう焼いてしまったのだろうか。
口は開かないようにして後ろから二人を追う。漂う魔力を通じて火が回っていない場所を確認し、両手を地面につけて炎の壁を作った。そのまま炎に当たらず進んでくれれば山かられ出られる。そのはずなんだけど。
「きゃあ!」
「なんだこれ!」
夫婦は炎に挟まれて足を止めてしまった。違う、そうじゃないの。そのまま前に行ってほしいのに。私の後ろにも炎が迫ってるから、このままでは呑まれてしまう。
『走って!』
気づいた時には叫んでいた。もちろんそれは彼らには伝わらず、魔法が増強されるだけ。両側に立ち上がる炎の壁が少しずつ厚くなって二人の歩ける道がどんどん狭まってしまう。さすがにまずいと感じ取ったのかようやく走り始めたけど、あっという間に膨張した炎に押し潰されてしまった。叫び声も燃え盛る炎にかき消されてしまう。やがて壁は薄くなって消えて、二人がいた場所には黒いシミみたいなものだけが残っていた。
私の示した通りに進んでくれればよかったのに。でも壁を作るのは危ないな。なかなか意図を理解してくれないから思わぬ形で焼いてしまう。
「……お母さん?」
後ろからか細い声が聞こえた。振り返ればスペスちゃんが立ち竦んでいる。よかった、まだ燃やしていなかった。少し遅れて両親を追いかけていたのだろう。私の後ろの方を見て、そしてまた私へと視線を戻した。
「お母さんはどこ……?」
今にも泣き出しそうな声で呟く。現に瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。でも私はそれを伝える術を持たないし、話せたとしても私が焼き殺したとは言えない。ここで何か行動を起こせば彼女のことも焼いてしまう。それだけは避けたかった。
私はその場で浮遊し、何も言わずに上空へと飛び去った。下の方からスペスちゃんの泣く声が聞こえる。心の中で何度も謝って、私は他の人の捜索へと戻った。
移住者2人も燃やしました。スペスちゃんには「嘘つき!」と言わせたいので生かしておきます。村人の機転により大部分が村に戻っているでしょうから、その途中でスペスちゃんも拾ってもらいましょう。[私]もそれに気づいて村へと戻ります。
上空から森の様子を見てみると、もう大部分に炎が回っていた。こうならないように防衛魔法を無理やり作動させたんだけどな。でも火を消すことはしていなかったから時間の問題か。水を使って消したかったけど、もう湖は魔力の塊だから下手に動かせないし、そもそも炎が乗っているから使い物にならない。
「(あっ、でも)」
村の手前にある湖なら。あそこは転移魔法の実験をしたとはいえ魔力のパスは繋げてないから純粋な水として残ってるはず。
一直線でその湖へと降下した。辺りに立って湖の様子をチェックする。魔力は普通、量も変わりない。これならちゃんと使えるだろう。
大気中の魔力を操作して湖の水全てを浮かび上がらせた。私がやる以上どうしても炎が触れてしまうけど、村の湖ほどの魔力はないから燃え移らない。逆に、水の中に含まれる元々の魔力を利用して私の魔力を水の性質へと変化させた。ぶくぶくと膨らんで倍近い大きさまで成長する。後はこれを空から降らせるだけ。
上空まで飛んだところで、その水面に私の姿が映っているのが見えた。
青い炎が全身に纏わりついていて、かろうじて人の形はしているけどおおよそ生物といえるような見た目はしていなかった。両手足は膨張して太くなっていて、指先も獣の爪みたいに尖っている。顔も炎で覆われていて面影なんて一つもなかった。これはどちらかというと──。
「(精霊みたい……)」
文献上でしかみたことはないけどまさにその通りだった。若頭が私のことを分からなかったのもそのせいだろう。
でもこんなことで惚けてる場合ではなかった。大きな水の塊を引き裂くようにして破壊する。私を中心にして各方向へ大量の水が落ちていき、山の火はおおよそ収まってくれた。さすがに村の方まではカバーしきれなかったけど、ひとまず住人が避難できる場所は作っておかないといけない。
自分の姿がを再認識するシーンはこれでいいでしょう。村以外の山の部分(最初に逃げていたルート)の火は消せたので、この場所で軽く再捜索してから残った住人たちの様子を探ります。残っているのはルカ、村長、棟梁夫婦、スペス、モブ村人の6人です。
ぐるっと見回して誰かいないか探すけど、もう動いている人はいなかった。スペスちゃんの姿も見当たらない。さすがに全員は焼いていないはずだから、まだどこかに残っているはず。ちゃんと逃げられていればいいけど。
ふと村の方角で何かが動いたのが見えた。集団が村長の家の前に固まっている。六人くらいだろうか。その中にはルカもいた。遠くてちゃんとは識別できないけど、おそらく村長と棟梁と何かを話している。端の方ではスペスちゃんが女性に抱かれて宥められている。あともう一人は誰か分からないけど、燃え盛る湖を呆然と眺めていた。
「(なんで……!?)」
どうして危険なところに戻ってしまったのだろう。まだ集落には火が届いていないとはいえ、湖もその周囲の森も燃えているのだから時間の問題だろうに。
降りて行きたいけど私がいると混乱させてしまうかもしれないから眺めることしかできない。でもいざとなったら彼らを追いかけるようにして消火された方に誘導する。もう少しうまく方角を指定してあげれば抜け出せるだろうし。出来ることならルカとその相談をしたいけど、私から呼びかけることはできないし。
ルカが湖に向かって立ち、その後ろに男二人が控えている。手元に持っているのは……バケツ?
「──────!」
何かを叫んで手を左右に流す。すると湖の上の炎が少しだけ無くなった。すかさず二人が水を汲み取って足元に置き、また新たなバケツを沈めては引き上げていた。でも火はだんだんと近づいてきてしまう。隙間が完全に埋まる前に三人はバケツを抱えて広場へと戻った。少し休んでまた同じように水を掬っている。
「(そんなことをしても……)」
その湖は私の魔力で満たされているから魔力による炎は消せないし、むしろ悪化させるだけなのに。ルカも見ればわかると思うんだけどな。
もう一度水を集めようとしていたのでさすがに私は村に降りた。せめてルカにはその水が使えないことと今なら山の火が弱まっているから下りられることを伝えたい。
ルカたちの動きや心情、セリフはこの視点では書けないのでどうしても不自由になってしまいます。意味のないような行動をしてしまうこともありますけど、混乱した状態で、訓練していない人が、効率的に命が助かる行動を取れるとは思えないので仕方ないですよね。
次へ→
←前へ