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メイキング|村焼き(仮題) #18 執筆:転【7】

2.3.4

 いよいよこのセクションも最後です。実際の村焼きシーンは【結】に回すので、ここではそこに至るまでのシーンを書きます。だんだんと盛り上げて、村を焼いていきましょう。
 まずはルカとの会話を通して魔力の許容量について言及します。空間にまつわる魔法と腕輪を使って湖に過剰に生成された魔力を流し込んでいましたが、ついにその許容量を超えて溢れるようになってしまいます(だからこそ村中に魔力が拡散して魔力中毒になる人が出てきたのですが)。それに伴い転移されなくなった魔力は[私]に蓄積するため体内の魔力量が増えますが、今まで転移により適正量(以前に比べたら格段に少ない量)で維持していたところに過量の魔力が流れてくるのだから中毒にも似た状態になります。村焼きのきっかけとなる、自身にコントロールできないほどの魔力の上昇ですね。これによりルカにも視認できるほどの魔力を帯び、頭痛や嘔気などの症状が出てきます。
 流れとしては[私]の魔力上昇(ちょっとだけ体調不良)→村人たちの体調不良再び(明らかに魔力量が多い)→解毒をしつつ湖の様子を確認する(各種本を参照する)→[私]自身の体調も悪くなる(以前の村焼きの状態に近づく)

 簡単に昼食を摂ってから山へと出かけた。薬草の説明をしたとはいえそれを一から集めてくるのは大変だろうし、今日のところはゆっくり休んでいてほしいし。薬草の本から効能別にいくつか候補を見繕い、必要なものを探す。
「(結構葉っぱが大きいわね。艶もあるし、魔力も少し多い?)」
 心なしか立派に育っているものが多い気がする。治療に使う全ての植物がそうであるわけではないとはいえ、薬草の本に記述されているものの多くは魔力を含んでいる。鮮度とともに魔力量によっても効果に差は出るけど、それは魔力によって効果が増強されていると言うよりは、魔力がその植物の発育を促すことで薬用成分が多く作られているからなのだろう。
「(これなら書いてある量より少なくてもいいかもな)」
 期待される効果になるよう微調整するのが私の仕事。頭の中でどの程度減らすべきかを計算しながら素材を集めていく。腕に下げたバスケットが色とりどりの植物で満たされたところで切り上げた。
「ふう」
 そんなにたくさん歩き回ったわけではないのに疲れてしまった。休息もとっているし食事量も十分だろうから、これはもしかしたら年齢のせいかもしれないな。平均寿命の折り返しくらいまではきているのだから、身体が対応しきれなくなっても不思議ではない。あまり自覚はしたくないものね。
 木陰で休んで村へと戻る。道すがら皆の家をまわり、集めた薬草を分配していった。また体調が悪くなってしまったときようにストックしておいてもらい、必要時に煮出してもらう。かつての村の時のように事前にパックしてしまうとあまり長期間保存ができないから、材料の段階で保管しておいてもらった方が都合が良かった。お茶のおかげか皆体調は回復傾向とのことでひとまず胸を撫で下ろす。会食をするときは衛生面に注意した方がよさそうだな。
「先生、おかえりなさい」
「ええ、ただいま」
 家に戻るとルカが出迎えてくれた。療養している住人たちの代わりに仕事をやっていたはずだけど、今日の分はもう終わったのかしら。状況を聞いてみると、魔法の勉強があるから早く切り上げてきたのだそうだ。さすがに大変だろうからと、少しだけ休憩させてから書斎で講義を始める。
「今日は簡単な防衛について。その後は、今日みたいなことがあっても対応できるように薬草の勉強をしましょうか」
「よろしくお願いします!」
 ルカは元気よく返事をして背筋を伸ばした。魔導書を膝に乗せて該当するページを開く。
「防衛については魔力の凝集によるものと流れを変えるものとに大別されていて、一番シンプルで分かりやすいのは凝集ね。大気中の魔力を一手に集めてその繋がりを強くして、薄い板のようにする。これを展開すれば相手の魔力を止めることはできるけど、威力が強かったり物理的な干渉があると簡単に崩れちゃうから注意が必要。流れを変えるのは持続的に魔力による曝露があったときに有効なことが多いわね。反射や転移はまた別の魔法が必要だけど、ひとまずは左右に流せれば上々かな」
 ゆっくり話したつもりだけど、ルカの頭の上にはいくつかはてなマークが浮かんでいた。これは実際に見てもらったほうがいいか。
「じゃあ、外で試してみましょうか」
 最近整備した裏庭へと移動した。少し離れて向き合って、説明を続ける。

 ちょっと別の話が始まりそうですが、この魔法/魔力の話から光ってる話に繋げていきたいので必要なパートです。訓練のパートを使って少し時間を経過させたのち、魔力過剰について指摘しましょう。

「防御の前に簡単な攻撃方法も伝えとくわね。とは言っても今までルカに教えたことがある魔法なんだけど、魔力を集めて体外に放出するやつ覚えてる?」
「はい。エレナさんが教えてくれたやつですよね」
「そうそう。魔力を体外に放出することができれば何かしらの形で相手を攻撃できるから。やってみて」
 互いに口頭で手順を確認しながら魔力を集めて解き放った。それは白い稲妻のようで、一本の太い光とそこから分岐する細い枝がこちらへと凄まじいスピードで迫ってくる。それに合わせる形で私は手元の魔力を凝集させて透明な魔力の壁を作った。ルカが放った光は衝突と同時に霧散する。威力としてはまだまだだけど、人間や害獣が相手なら十分対処できるレベルだった。
「で、私が今やったみたいに魔力を集めて壁を作れば魔法の攻撃は防げるからね。こうやって──」
 再び手元の魔力を集めて正面へと移動させる。今回はその流れをわかりやすくするために青く着色してあるけど。濃度が高まったところで指を滑らせてその形を指定した。
「──固めれば大丈夫。できそう?」
「……やってみます」
 ルカは手元の魔力を手のひらでかき集めて纏めている。もともとその操作は得意だったからこの手順は問題なさそうだな。その後の流れの指定もうまく出来ている。両手で拒絶するように手を差し出すと、目の前に魔力の塊ができていた。その強度を確かめるために弱い魔法を放つ。
「あっ」
「痛ッ──!」
 壁はとても薄かったようで、容易く破られてしまった。ルカは手を振って痛みを逃がそうとしている。魔法の出力を魔道具と同じくらいに設定しておいて良かった。危うくルカの腕を飛ばしてしまうところだった。
「まあ、初めはこんなものよ。魔力の操作はうまくいってるから、後は壁の形にできれば大丈夫。イメージとしては──」
 隣に並んで魔法のイメージを伝えた。私の考えていることをそのまま話してもうまく理解してもらえないことはもう分かっているので、いくつか候補を挙げながらルカがピンとくるものを探ってそのイメージを深めていくことにしている。これが結構うまくいって、飲み込みの早さも相まってあっという間に使えるようになってしまった。まだ目の前に一枚だけがせいぜいだけど、これが多面的に展開できればもう怖いものはない。上達してきたら結界の話もしていいかな。
 順番で魔法を撃ってそれを防いでを繰り返す。慣れてきたところで魔力の受け流しの話もするけど、これは一回説明しただけで出来てしまった。最初にこっちを話せば良かったかな。
「僕、こっちの方が得意かもしれないです」
「そうね、あなたは魔力の流れを変えるのが上手だもの」
 私の言葉に少し照れて身体を捻らせていた。これまでも何度か褒めてると思うんだけどな。そんな子供らしさを垣間見て少しだけ安心する。
 林の始まりに拵えた椅子に二人並んで座って休息する。そんなにハードな魔法は使ってないはずなんだけど、疲れが酷かった。今までこんなことなかったんだけどな。全身に何かが纏わりついているような違和感もある。
「そういえば先生、最近キラキラしてますね」
 集落の方を眺めていたルカがふとこちらを向いて呟いた。いつの間にそんなことを言えるようになったのかしら。でもこんな年増の、ましてや身内の異性に言うようなことではないと思うんだけど。
「あら、ついにお世辞を言うようになったのね。でもそれはスペスちゃんのために取っておいたら? あの子、ルカと同じくらいの歳でしょ」
「いや、そういうのじゃなくて。ここ一週間くらい、昼間でも先生の周りが光って見えるんです。魔力が多いから?」
「そうなの?」
 二人して首を傾げて見つめ合うけど何も分からなかった。自分の中の魔力量がどのくらい増えてるかあんまり意識したことなかったな。鏡で自分の姿を映しても魔力がどの程度あるかまでは確認しないし。というかそもそも、私の魔力の大部分は湖に流し込んでいるはずだから周囲にある訳がないんだけど。転移量と生成量のバランスが崩れて魔力が多くなったらさすが身体に影響が出るはず。目眩が出たりふらついたり、疲れる感じがあったり──。
「……先生?」
 身につけている腕輪を確認する。魔法の起動状態をチェックするけど、転移は起こらず止まってしまっていた。むしろそこを起点に魔力が漏れ出ているような流れもある。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 不具合かと思って中に記述した魔法を再実行する。確かに起動した感触はあったけど転移は起こらなかった。無機魔法が転移能力を喪失することは考えにくい。あれは世界がもたらすものだから、私たちの干渉によってその原理が変わることはないはず。でもその世界が周期的な何かによって変化して、その魔法の効力が変わることもあるのだろうか。
「ごめんなさい、この続きはまた後日ね」
「わ、分かりました」
 何が起きているか理解できていないルカを裏庭に置いて書斎へと籠る。本棚の奥からこれまでの気候や魔力量、世界の歴史、精霊の目撃情報などを記録した本を手当たり次第に集めて机に広げた。それぞれの情報を繋ぎ合わせながら、なにか私の知らない事が起きていないかを確認する。世界の変化と魔力や精霊の発現頻度をメモしながら見比べてみるけど、あまり相関性はなさそうだった。もう少しちゃんと詰めて考えれば何か分かるかもしれないけど、今はそこまでしていられない。
 昼間に感じた疲れはもしかしたら私の中の魔力量が増えたからなのかもしれない。生成量は変わっていないだろうから昔の状態に戻っただけとも言えるのだけど、ここ数年は魔力を外部に流して低めの量で推移していたから相対的にはかなり過剰になっているはず。それならば確かに軽めの魔力中毒みたいな症状が出てもおかしくない。
「(でもいま湖はどういう状況なの……?)」
 空間にまつわる魔法が世界の変化に伴って変性したわけではなく、腕輪の魔法も正しく実行されていて、私の魔力生成量に大きな差がないのなら。異常が出ているのは湖しかない。急いで家を出て湖畔の道へと走る。すぐに疲れて体が悲鳴を上げるけど、なんとか食いしばって目的地へ急いだ。
「なに、これ……」
 湖面からは巨大な無機魔法の殻がいくつも浮き上がっていた。湯気のように魔力が立ち昇り、向こう側の景色が蜃気楼のように揺らめいている。間違いない、湖の魔力許容量を超えたんだ。だから私の身体で作られた魔力は出ていかず、逆にこちらへ流入してきて、収まりきらない魔力を吸い取って無機魔法が巨大化した。
「あっ──」
 もしかして、村人たちの体調不良の原因って魔力中毒だったりするのだろうか。そもそも私がこの村で数え切れないほど魔法を使っているから副生成物も発生しているだろうし、この湖からの魔力に当てられて不調を来していても不思議ではない。私やルカは魔力に対する耐性みたいなものがあるけど、人間たちはそういうわけにもいかないから、長期間魔力に曝露すればいずれ身体に影響が出る。
「(だからスペスちゃんたちはなんともなかったのか)」
 ずっと村にいる人たちだけが体調不良なのは魔力の蓄積があったからで、ちょっとの期間だけ魔力を浴びたからといってすぐに何かが起こるわけではない。だからこそ移住者たちは元気なままだった。
 それであれば、昼間に配ったお茶もあくまで一時凌ぎでしかない。体内に留まっている魔力をどうにかしてあげないと根本的な解決にはならないだろう。

 いよいよ魔力が溢れているかも、というところに辿り着きました。関連のないいろんな本を想定より多めに出せたので良かったですね。このあと家に帰って解呪の本も出すので、それで一通りOKです。一晩経過させて住人が元気になって良かったね、で一区切りさせましょう。
 その後、逆に自分の体調がおかしくなっていきます。その体調と書斎の状況からかつての村での惨状に思い至る、という流れがいいですかね。

 家に戻って本棚からまじないの本を取り出す。原因としては魔力過剰による体調不良だろうけど、いまの状態はどちらかというと穢れや呪いに近いはず。それであれば下手に魔力を取り出したりするより解呪や解毒を行ったほうがたぶん早い。
「どれが確実だ……?」
 症状が落ち着いているであろうこのタイミングで処置できたほうが住人たちの負担も少ない。あんまり時間に余裕がないから急ぎたいけど、読み飛ばして間違えてもいけないから集中する。多くなった魔力を頭に回し、少し視界を狭めて脳を活性化させた。
 素早くできて、人間にも使えて、かつ大人数に効率的にできる魔法。探してみるけどその三つを兼ね備えているものがなかった。仕方がないからその中でもデメリットが少ないものをいくつか選んで魔法用紙に書き写す。裏庭で防衛の自主練をしていたルカを呼び出して紙を渡した。
「いい、ルカ。村の人が体調を崩したのはたぶん、この村全体の魔力がちょっと多くなったからだと思う。私たちからしたらなんともなくても、人間にしたら結構きついはずだから」
「分かりました。僕はどうすればいいですか?」
「指先に魔力を集めて文字をなぞって、その通り発声して。最後の文章まで読んだらその指先を手首の内側に当てて、そうすれば悪さをしている魔力を打ち消す事ができるから。相手の魔力が多ければこれ、少なければこっち、なんともなさそうなら予防的にこれを使って。ルカは北側を、私は南側をまわります」
「はい!」
 極力分かりやすくと思ったけど、脳の回転がいつもより速いせいで早口になってしまった。それでもルカはちゃんと聞いて今やるべきことを汲み取ってくれる。走り出した背中を追いかけるようにして私も準備した。魔導書は重たいからこの魔法用紙数枚と緊急用の解毒剤をポシェットに入れて肩からかけて集落へと向かう。
「ローザさん、体調はいかがですか?」
「なんとか。でも夫がなかなか良くならなくて」
「分かりました」
 最初に訪れたのはローザさんの家。いつも元気だった棟梁が寝込んでいると流石に心配になる。改めて魔力をチェックすると確かに少し多かった。しっかり効く方を選んで魔法を実行する。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 脈を測るように手首に指を添え、浄化の魔法で魔力を打ち消した。少し苦しそうに呻き声を上げるけど、程なくして大きく息を吐く。汗が大量に出てきたので後ろに控えていたローザさんにタオルを持ってきてもらって額と首を拭った。呼吸も落ち着いて顔色も良くなる。
「たぶんこれで大丈夫。ローザさんもそこ座って」
「え、えぇ」
 何が起きているか分からないといった様子だけど、こちらの指示には従ってくれる。説明する時間も惜しいし少し強引になってしまうのは許してほしい。魔力量はそこまで多くなさそうだから中和する魔法を使った。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 さっきの魔法ほど即効性はないけど、身体の中を抗体のようなものが駆け巡って魔力を見つけ次第無力化してくれるから効果はちゃんと出るはず。
「どう?」
「少し楽になった……気がする?」
「たぶんもうちょっとしたら幾分かマシになると思うから。それまでは安静しててね」
 二人の状態を再度確認して問題なさそうだったので手荷物をまとめる。家を出るために扉に手をかけたところで呼び止められてしまった。
「分かったけど、私たちに何をしたの? 何が起きてるの?」
 早く次に行きたいんだけどな。でも全てを説明する時間の余裕はないし、かといって無視することもできないし。魔力の話をしても理解できないだろうから端折ってしまおう。
「ちょっと自然が悪さをしてて、それを解毒してあげたの。他の人も辛いだろうから、ごめんなさい。また落ち着いたらちゃんとみんなに話すから」
 嘘はついていないけど本当のことも言っていない。ほとんど言い訳みたいになってしまって心苦しいけど、でもまずは住人全員に処置するのが先。ローザさんにはもう一度謝って家を出た。
 その後も若頭や村長さんのところに顔を出して魔法を実行する。最後にスペスちゃんのところに行き、三人には簡易的な魔力避けを施した。そんなに長期間効果が持続するわけではないけどひとまずの応急処置としては十分だろう。両親は少し申し訳なさそうな顔をしてきた。まあ、タイミングとしては二人が参加した会食の後だもんな。何も症状がないから、きっと自分達に原因があったと思っているのだろう。ここで時間を割いて二人のケアをしなくても後で村人を集めて説明をするから今は黙っておく。
 また来る旨を伝えて家を出ると、ちょうどルカも反対の家から出てくるところだった。
「先生、終わりました!」
「お疲れ様。大丈夫だった?」
「多分……。こういう魔法はやった事がないので自信はないんですけど、言われた通りにやって、みんな楽になってるみたいだったので」
「それならよかった」
 自宅に戻ると流石に怠かった。私の中の魔力が増えているのもあるだろうけど、普通に走り回って魔法をたくさん使ったのだからこれは正当な疲労だろうな。シャワーを浴びて必要最小限の栄養補給だけして、その日は寝た。

 さて、これでおおよそやりたいことはできましたかね。あとはもう魔力中毒を自覚して、これまでのことを思い出して、どうにもならなくなって魔力が暴走し、村を焼きます。
 ここまでの文字数は、【転】だけで約51,000文字、全体で96,000文字です。もうそろそろ終わりにしても良さそうですね。一夜明けてからの村焼きは次のセクションに引き継ぎましょう。

2.3.5 仮推敲

 これまで通り仮推敲をしようとも思いましたが、量が多いのとあとちょっとでお話も終わるので今回はスキップします。



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