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メイキング|村焼き(仮題) #2 執筆:起【1】

第2章 執筆

2.1 起:1回目の村焼き

 ここで想定されるシーンは①1回目の村焼き(主題提示)、②村の整備(他人との距離感)、③魔法使いについて(自己紹介)、④新しい村へ(物語の発展)のおおよそ4つ。魔法についてのおおまかな知識は軽く触れる程度に抑えて、[私]がどんな人であるのかの輪郭を示しつつ、お話の雰囲気を伝えられるようにする。①は1ページ程度に収めるので、各セクションは2,000文字前後。

2.1.1

 従来の通り、まずお話を始める前にざっくりとした全体像/シーンの提示をします。今回でいえば1回目の村焼きですが、それを読んだ時点では[私]が引き起こしたものということが分からないようにしたいです。凄惨な状況をどこか夢のように輪郭をぼやかして書きます。でもこれは[私]がやっていることなので、読んでいる中で冒頭を振り返り「これってもしかして……?」と思ってもらえるような書き方にしたいです。

 ぱちぱち、と目の前で火の粉が舞った。露出した肌は燃え盛る炎を浴びて熱を帯びている。喉を通る空気が粘膜を焼いた。指先から溢れ出るエネルギーは容赦なく土地を飲み込む。向こうの方で建物が崩れた。叫び声と共に走る音が聞こえる。炎は蛇のように地面を這ってその人を丸呑みにした。火柱が上がって声は止み、やがて黒い塊が地面に落ちる。
 おおよそ現実とは思えないような光景が目の前に広がっていた。
 誰も助からない。誰も助けられない。
 暗い夜の中でひときわ輝く赤い光がゆらめいたとき。
 その村は命を終えた。

 もう少しやりようはありそうですが、まだこのお話に慣れていないのでこのくらいにしておきます。推敲の際に手を入れることにしましょう。

2.1.2

 ここでは視点を[私]に固定し、焼かれた村とその整備を通して[私]の人物像と他人との距離感を提示します。流れとしては①眠りからの覚醒と過去数日の曖昧な記憶について、②村の惨状とその原因追及について、③村人の墓を建てて土地を整備するところ、といった順番に書けばいいでしょうか。

2.1.2.1

 びくり、と跳ねた脚が机に当たって目が覚めた。まるで自分の顔面を膝蹴りしたかのような衝撃に目の前がぐるぐる回る。どうやら突っ伏して寝ていたらしい。重たい頭を支えて起き上がり、椅子に座ったまま伸びをする。
「いてて」
 背骨からは心配になる程しっかりとした音が響いてきた。肩と腕はぱきぱきと軽快なリズムでいつもの通り。縮こまった筋肉を解しながら深呼吸をして、今に至るまでの時間に思いを馳せる。

 伸びをした時の音については「重たい音」「軽い音」の2つを対比させたかったのですが、とても近い距離で「音」が重なるのがどうしてもすっきりしないので表現が停滞してる気がします。音の言い換えの幅を広くしたいですね。
 この調子で状況確認と、今後するであろう魔法や魔法使いの説明に使えるように環境描写をしていきます。

 天窓から差し込む光からして、いまは昼前といったところだろうか。お腹はあまり空いていないから最後の食事からはあまり時間が経っていないような気がするけど、でも何かに集中すると食べるのを忘れることなんてよくあるし、これはあまり判断基準にはなり得ないな。忘れよう。
 椅子を倒して隣の部屋のプラントの様子を見る。循環水も一定のリズムで流れており、育てている植物の葉も艶があって問題なさそうだった。少しだけ周りの魔力濃度が薄そうではあったけど、誤差みたいなものだろう。しばらくしてからもう一度確認してみようか。
 メモを取るために手元に意識を向ける。紙の上に指を置き、ゆっくりと魔力を流し込んだ。細かな青い光が紙面を拡散していき、一定のところで綺麗に整列する。数時間後に魔力測定をする旨の指示して指を離した。すると、まるで命が消えるように輪郭が薄れてただの黒い文字だけが残る。
「あとは……」
 机の上に広がった試薬と書籍、資料を眺める。何かを作っていたような形跡があるけれど、それがどんなものだったか思い出せない。いろんな分野の書類が無造作に置いてあるからよっぽど天才的な閃きをしたのか、もしくは相当切羽詰まっていたのか。
「私は何をしてたんだろうね」
 机で寝てしまうほどに疲れていたということはなんとなく推測できるけど、そこに至る過程が全く分からなかった。よくよく思い返してみればここ数日の記憶が曖昧で、誰と会ったかも覚えていない。

 外に出て、とか、窓を開けて、というような外界の状態を元に推測することができない(窓を開けたら焼け野原なのをすぐに描写しなくてはいけなくなる)のでちょっと苦労しました。まぁもともと他人にあまり興味がなさそうですし、過去の自分に対しても「同じ形をした他人」くらいにしか思ってないのかもしれません。
 机周りの描写はもう少し手厚くしたいので、「〜〜もしくは相当切羽詰まっていたのか。」の後ろに少し文章を加えます。

 ひとまず試薬の瓶は蓋を閉めて性質ごとに、書籍はしおりだけ挟んでシリーズにまとめて、資料はもう分かんないからざっくりと一つに集める。片付けながらおおよそ目を通したけど、関連性もなければ応用できる内容でもなさそうだし、ますます分からない。

 これで「私は何をしてたんだろうね」に繋げればいいでしょう。これで自分の家のことと目覚めるところまでは書けたので、焼かれた村にたどり着くように村人たちへと思いを馳せます。

 誰かと言えば。
 いつも朝に稼働するように設定している煎じの機械はどうなっているだろう。村に住む老人に向けて薬草を見繕って一日分の薬を作り、朝になったらそれを取りに来てくれることになっているのだけど。私が寝過ごしたからまだ渡せてないよな。
 プラントとは反対側の部屋にその機械はあるのだけど、蒸気がすごいからあんまり入りたくないんだよな。今度誰かに換気用の小窓をつけてもらおう。そんなことをぼんやり考えつつ意を決し、調剤室の扉を開けた。湿気と咽せ返るほどの魔力が一度に流れ込んできて眩暈がする。ごうごう、と大きな音を立てて振動している機械は健在のようだった。足元に設置してある受け皿には抽出された薬のパックがいくつも積まれている。ああ、やっぱり今朝の分は渡せてない。
「それにしても多いな」
 システムの構築と稼働、それから水分の調達は私の魔力を大気中の各種成分に反応させて賄っているのだけど、こんなに余剰分の魔力が生成されてるとは思わなかった。害のない成分とはいえ、副生物の量に驚く。なんでこんなことになってるんだろう。

 今回のお話を書くにあたって薬草や漢方のことを調べていたのですが、世の中にはまだ生薬からその人に合わせて調合して作る漢方があるんですね。刻まれた根や葉を専用のティーバッグに入れて、家でそのお茶薬を抽出できるようにしているのだとか。その煎じるところも薬局でやって、できた漢方茶を渡すところもあるんですって。すごいですね。一度やってみてもらいたいです。
 話が逸れましたが、[私]は周辺で採れる薬草と手持ちの薬草を掛け合わせてその人に合った薬を作って渡しています。機械に数日分の薬草をセットしておいて、朝にその機械が稼働して一日分の漢方茶を作り、それを一日かけて飲むようにと訪問してきた老人に渡すのが日課です。ルーチンなのであまり詳しく説明しすぎてもうるさくなりそうなのでさらっと行きたいのですが、その過程で余剰の魔力についても触れてしまいましたね。「数日間開けていなくて空気がこもっている」ということを表現したかったのですが、ちょっと話を先取りしすぎでしょうか。
 ひとまず話は続けます。このあとはその生成されているお茶の性質から数日経ってしまっているかもしれないこと、老人の様子が気になることを踏まえて外に意識を当ててもらいます。

 誰の分が残っているのかを確認するために各レーンを確認すると、一番上に載っているものはただの水だった。グラデーションのように下にいくにつれて濃くなっていくから、おそらくずっと稼働していて抽出しきってしまったために、水だけが流れて梱包されてしまったということなのだろうけど。その推測が正しければ、ここ数日は渡していないし薬草の交換も出来ていないことになる。
「(そんなことがあり得る……?)」
 ざわざわとした違和感が胸の辺りを埋めていく。年老いていたから死ぬことはあるだろうけど、それにしてもここまで溜まっているのもおかしい。ましてや一人分ではなく数人分なのだから、一斉に死なない限りは起こり得ないのだけど。もしそんなことがあったとしたら、村の誰かがそのことを私に伝えに来るはずだ。そういう会話をできる程度には友好的に接してきたつもりなんだけどな。
 その考えを裏付けるものがもう一つだけある。室内の魔力濃度とその成分についてだ。その量と状態から推測するに、数日間は誰からも干渉されずにずっと稼働しているとしか思えない。いくらズボラな私でも、標榜している薬屋としての働きはちゃんとやっているつもりだ。薬草の交換とその微調整、システムのメンテナンスを蔑ろにすることは無いと思うんだけど。
「ちょっと様子を見に行ったほうがいいかもな」
 奥にある十分に抽出されたバッグを数人分持ち出し、玄関にかけておいたケープを羽織って扉を開けた。

 この辺りの推理はちょっとくどいかもしれないですね。似たような文末になっていますし、あまりスマートな感じもしないです。ただ、[私]が他人をあまり大事にしていない様子(人の生き死にと必要最小限の関係性構築)は書いておきたいので、大幅に改善するというよりは微調整程度に収めておきたい気持ちもあります。
 ここまでで約2,000文字。2.1.2全体でこの文字数を想定していたのですが結構オーバーしていますね。まだ家から出てないのでこの倍くらいになってしまいそうです。とはいえ調整する余裕は割とありそうなので、このまま書き進めてしまいましょう。

2.1.2.2

「あぁ、またやられてしまった」
 眼前に広がる光景を見て全てを察した。
 私が暮らしていた村が、焼け野原になっていた。家も、畑も、人も、全て焼かれて炭になっている。焦げ臭いにおいと一緒に鼻を刺激するのは濃厚な魔力の残滓だった。さっきの調剤室の比ではない。そのおかげでこれが科学技術によるものではなく、魔法によるものだと分かる。
「(ちゃんと対策したつもりだったんだけど)」
 こういったことは時折あった。他の魔法使いからの嫌がらせなのか、ある程度長く一つの村に滞在していると焼かれてしまう。私自身、そんな面倒な感情を向けられるほど突出した才能はないんだけどな。いい加減引っ越すのも面倒だったから簡単な魔除けと外部の魔法を検出できる仕組みを作って村の各方に設置しておいたのに。ちゃんと機能してなかった?
 薬はひとまず部屋に置いて、焼け跡を確認しに家を出た。

 もう少し感情的にこの惨状を見てもらおうと思ったのですが、ここまで結構ドライですしこの後控えている村の整備のことを考えると、「こんなもんか」くらいの距離感で書いた方が良さそうなのでサクサクいきます。実際に村が焼かれた原因は[私]ですが、記載の通り他の魔法使いの仕業だと勝手に思っています。それが続いて何もしない人ではないと思うので、対策についても言及しました。次の村に行くときはもう少し強固なもの(結界など)にしたいので、ここでは魔除けに留めておきます。魔法使いだけをこの土地から遠ざけるための魔法ですね。
 あとは各家を巡りながらその住人たちのことを振り返り、魔除けと感知システムの状態を確認していきます。

村の中心だった道を歩く。あの人の畑で作る野菜は美味しかったな。あそこが飼っていた鶏の卵も濃厚でそれだけで食事の主役だった。お婆さんが丁寧に織っていたあの布も綺麗だった。お爺さんは手先が器用で、大工仕事がないときは端材で可愛らしい小物を作っていた。そのどれもが燃え、灰になっている。たまに吹く風で脆くなった柱が折れて、向こう側の焼け残りが崩れた。黒っぽい粉が舞って虫みたい。
 外れの方まで来たので魔法の状態を確認する。強い魔力に当てられたのか、魔除けが打ち消されてしまっていた。やっぱり直接何かに付与するか、ちゃんとした結界を張らないと守れないのか。ただ、外界との隔たりを作ってしまうと魔力の流れが澱んでしまうし、物質に魔法をかけてもそれが動いてしまったらあまり意味がない。この辺はもう少し考えないとな。
「(防御するだけではなくて、状況に応じて跳ね返すようにしてもいいのか……?)」
 村の周囲をぐるっと回りながら次の魔法を考える。そこそこ大きな規模になるだろうから、できるだけロスが少なくて手間のかからないものがいいのだけど。複雑なものだと途中で何かがキャンセルされた時に最初からやり直すのが面倒くさそうだし。かといって完全に守るだけに振り切るとさっきの自然さが失われるし、常に魔力を取られるから疲れそうだし。

書いている途中ですが、一つ気になったので一旦切ります。魔法について考えているときの独白は、このブロックの最後に動かしてもいいかもしれませんね。「考える」という単語が重ならないように工夫します。

 続きを書きましょう。

 鏡のように、こちらに向けられた魔法をそのまま反射するのはどうだろう。常時展開するにしてもそこまで負担はかからなそうだし、今度試してみようかな。 次にやることを整理しているうちに家に着いた。散らかした玄関を片付けてから着替えと道具を準備する。まずはこの村を弔わなければならない。

 ひとまず村の状況を見て魔法のことも考えながら家に帰ってこれましたね。後やることといえば村の整備をして自然に返すことくらいです。魔法使いとしてしっかりと仕事をします。

2.1.2.3

 身体を清めて正装を身に纏う。黒いフレアのワンピースと襟に銀の刺繍が入ったケープを合わせ、魔法の効率を上げるための手袋もはめる。帽子については風も強いし魔力に触れる髪の面積を増やしたいから今日はかぶらない。重たくなってきた自分の魔導書を抱えて準備が整ったので、村の中心部へと向かった。ぐるりと見回して改めてその全容を確かめる。焼け焦げた家と灰になった人々が混ざってしまっているから、まずはその分離から始めよう。

 いかにも魔女らしい服装との違いについて「いわゆる魔女の帽子」みたいな書き方をすると少しメタっぽいのでやめました。服装についてはもう少しディテールを細かくできそうなので、推敲の時に流れを見ながら加筆しましょう。
 このあと実際にやるのは住人の弔いと街の整備です。自然な状態に還して新たな命が育めるようにリセットします。ただ、「村ができる前に戻す」というよりは「村があったことを踏まえて初期化する」といった方向で進めていきます。

「■■■■■■■■■■■■■■■」
 ページをめくり、文字を指でなぞりながらその文章を読み上げる。ちか、ちか、と紙面から火花のように光が立ち、全身にいつもと違う何かが流れ込んでくる。さながら普段使わない筋肉を動かしているようだった。自分の身体の輪郭がはっきりとする。体内の魔力と大気中の魔力が肉体を隔てて干渉する。ある程度増幅したその光を人差し指で掬い取って一口舐める。ちゃんと想定した通りの魔法構成になっているようだった。
 私は瞼を閉じて身体のイメージを一旦無くす。自然に溶け込んでいるような、自分がここに存在していないような意識で魔力の流れを認識する。さっきまでせめぎ合っていた二つの勢いが混ざり合い、本を通じて増幅していった。やがてそれは大きな光になって、宙へ浮く。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 目を開いて次の言葉を紡ぐ。穏やかに鼓動してその光はいくつもの小さな光へと分割し、村中へと飛んでいった。ゆっくりと、私が指定したものを探して漂っている。瓦礫の中や、ある大きな炭の塊の間に入り込んで優しく光る。私は全てが止まったことを確認してからそこへ向かった。
 村を焼いた魔法の残滓から考えるに、有機物を燃やすことはできてもそれ以上までは温度が上がっていなさそうだったから、おそらく骨は残っているはず。住人たちを探すなら、闇雲に歩き回るよりは魔法で印をつけたほうが早い。その成分と反応しやすい魔法物を設計して合成したのがさっきの光。大気中の魔力に運ばれて皆の元へと辿り着く。

 人とそうでないものを分離する、とは言ったもののお手軽にマッピングするわけにもいかないので、実験室で行われているようなやり方を採用しました。骨に含まれているCa2+に結合しやすい魔法物とそれを標識できる蛍光性の魔法物を合成し、大気中の魔力の流れに任せることで空間全体に分布し、該当する物質があればそこに配位して光が止まることによって場所を確認します(実際にこのようなやり方があるかどうかは分かりませんが)。参考にした考え方は分析化学領域のキレート滴定(EDTAによる金属イオンの検出)、分子生物学領域の蛍光タンパク質(GFP標識による目的とするタンパク質の可視化)とゲル電気泳動(目的とするタンパク質の生成・分離)です。

 光を頼りに焼け跡を崩す。彼らが壊れないようにそっと瓦礫を取り除き、淡く発光するそれを掬い取った。どの部分かは分からないけど、誰かの体の一部だったもの。灰を優しく拭き取って仕舞う。その奥にあった焼け残った布の破片は、あのお婆さんが気に入って着ていたものだった。
「……ごめんなさい」
 私がこの村に来てしまったばっかりに。こんな死に方をする人ではなかっただろう。謝罪が届くことはないけれど、せてもの償いのために骨を拾って集めていく。光が見えなくなったところで次の場所へと移動した。
 点在する光のほとんどを確認し、家やその周辺で燃えてしまった人たちはおおよそ回収できた。あとは村の奥の方、一際光が集まっているところだけ。
「(みんなそこに集まったのね)」
 火の手から逃れるために隠れたのだろう。炎を操るのも魔法使いだから、隠れてしまえば標的となることもない。そう考えたのだろうけど、最後には見つかってしまったのか、それとも村の全てが火に飲み込まれて逃げ場がなくなってしまったのか。今となってはその時のことを窺い知ることはできない。
 混ざり合った骨を手に取る。個別に埋葬することはもうできないけど、できるだけ残っているものは回収しておきたい。指先で炭を拭い綺麗な状態へと戻した。これで一通り集められたかな。

 同じ動作の繰り返しなので、似た単語ができるだけ近くに配置されないように工夫したいですね。それしか表現方法がないものは仕方ありませんが、できるだけ別の言い方を考えていきます。
 さて、人の分離と骨の回収ができたので、あとは埋葬と土地の整備ですね。自然に返すほうが大規模で大雑把になるはずなので、先にそちらをやってしまいましょう。その後にお墓を作ってここを去ればいいですかね。

 骨を置きに一旦家へと戻る。玄関の、準備しておいた容器の中に集めた彼らをそっと入れた。汚れてしまった手袋は新しいものに変えて、次は杖も一緒に持っていく。地面に線を書ければなんでもいいのだけど、やはり正しい手順でやっておいたほうがうまくいく気がするし。適当にやったのではあの人たちに顔向けできない。
 魔導書は脇に抱え、杖は肩に担ぎ、汗だくになりながら中心部へと進んだ。陽が翳ってきたから、少し急がないといけない。
 一旦道具を全て置いて座る。使いたい魔法があるページを探しながら、地面を均すための箒を忘れたことを思い出して家へと走った。急いで一番状態がいいものを選んで戻る。もう少し段取り良く進めたい。灰や小石を一通り掃いた後、杖を使って魔法に必要な陣を描く。先端に魔力を込めて、小さな川を作るようなイメージで。線が繋がると、ぼんやりと光が溢れてくる。それが消えないうちに細部を書き込み、指定通りに書き終わったらその中心へと立った。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 魔法を起動するために魔力の流れを指定する。私という容器を無くしたエネルギーは外界と溶けて、線に沿って地面へと展開した。波立つ海のように各方へと魔法が広がり、村全体を包み込んでいく。その末端まで到達したことを確認してから足に力を入れた。呼応するように魔力がたちのぼり、私を軸とした中心部へと集まってくる。ドーム状の結界が出来上がったところで一呼吸つき、ページをひとつめくった。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 私の言葉によって内包された魔力が活性化される。燃えがらが解けて崩れていった。村に残る全ての物質がその形を無くして均一になる。この時ばかりは私も同化してしまわないよう、輪郭をしっかりと意識しなくてはならない。予防策としての魔法も仕込んではいるけれど、発動したとしてもある程度の影響は残ってしまうし。意識がぶれないように地面を踏みしめた。
「■■■■■■■■■■■■■■■」
 おおよそ混和したところで最後の指示を読み上げる。含まれる全ての分子と魔力を理想状態になるように配分する。ほとんど自動化しているその計算も、かなり膨大な量になるから頭が痛い。耳の奥がざわざわする。息がうまく吸えない。身体の深部から魔力が引き抜かれるような感覚と大気に擦り潰されるような圧力になんとか耐えながら、魔法が完了するのを待つ。
「────っ!」
 意識が途切れそうになった時、ふっと体が軽くなった。周囲を蠢いていたエネルギーの塊も鎮まり、結界の天蓋部分が崩れて雨のように結晶が降ってくる。やっと終わった。なんとか耐えられた。
 私はその場に座り込み、大きく深呼吸する。酸欠と魔力不足でくらくらする。息を整えて動悸がおさまってから周りを確認した。

 村の整備はかなり大規模な魔法ですね。これも参考にしているのは分子生物学領域のタンパク質精製です。一つの細胞から目的のタンパク質を取り出すときに、まず細胞を壊して中身を均一にしてから試薬を入れたり遠心分離をして不要な物質と目的物を分けるそうです。結界を一つの細胞として見做した後、内容物を全て混ぜ合わせて一番簡単な形(分子や魔力)にしてから再構築します。流石に動植物を再現することはできませんが、理論上一番安定するであろう分子・魔力構成にして待機中に固定します。あくまで比率の話なので、余計なもの(副生成物)が発生することはありません。
 ここまでで約6,000文字とかなりオーバーしてしまっています。あくまで想定文字数なので超えても全然いいのですが、さすがにお話を進めていきたいので弔いはこの辺にしておきます。ことあとは魔法使いについての簡単な自己紹介をするのですが、帰宅〜休息〜引越準備の順番でいきましょうか。お墓づくり〜旅立ちはそのあとでやります。



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