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第4部 新しい市場機会
生成AIでスタートアップをやっている株式会社フラクトライト代表の中川優志です。広告シリーズ第4部の最後の回になりました。第1部を公開したのが2024年9月6日で、約4ヶ月の間に1ヶ月1本のペースで公開してきました。
大部分の内容は2023年12月頃までにまとめていたやつを記事用に切り出したり加工したり加筆修正して公開してきました。
広告シリーズ4部作
第1部 世界(米国)の広告市場外観(記事)
第2部 アドテク市場の歴史(記事)
第3部 日本と米国の広告市場の違いと参入機会(記事)
第4部 新しい市場機会(今回のテーマ)
今回の概要
今回は、アドテク(広告テクノロジー)『第4部 新しい市場機会』です。アドテク領域での新しい市場機会について、世の中でよく言われている話というのは取り上げてもつまらないと思うので、独自の視点で紹介していきたいと思います。
1.欲求の充足度でコンバージョン計測
従来の方法
これまで広告テクノロジーは、購買地点にコンバージョンポイントを置いて購買確率の高いユーザーに対して自動入札を行い顧客獲得コストを最適化してきました。そして購買後にユーザーがどの程度リピート購入を行うのか、RFM分析などCRMデータを分析して顧客の階層化を行い、LTVの高い優良顧客の獲得できる施策を特定して施策への予算投下量を配分するようなオペレーションを行ってきました。「購買」地点を起点として、「購買」前後で業務オペレーションが分断されていました。
日本では、新規獲得向けの施策体系と、既存顧客分析は分割して行われてきましたが、顧客データ側の精緻な分析と集客施策側の連動性がとれるほど事業ROIの高い集客を実現することができました。色々なツールはあっても、全体をまとめて分析&最適化するとなるとなんだかんだ人力でやる必要がありました。
米国では、少し進んでいて、自社のデータを用いたRTB入札を内製化することで、既存顧客の分析と新規獲得向けの施策の整合性をシステマチックに高め、かつ自社データによる競争優位性を構築してきました。
いずれにしても、LTVの高い顧客を獲得するほどマーケティングROIが高くなる点は共通しており、大きな目で見れば購買地点のコンバージョンはKPIになります。
新しい方法
私はここに対して技術的観点で新しいアプローチ方法を作れるのではないかと考えています。それは、AIで生活者の欲求の充足度を観測してコンバージョンポイントにすることです。集客の自動入札へ利用し、またCRM分析への予測モデルの実装ができるようになります。
重要なのは使ってどうだったか
消費者は、商品やサービスの価値を、買ってみたけど使ってみたら微妙だった。買う前は半身半疑だったけど使ってみたらとてもよくて満足した。とうように、使用することで判断することができます。(時として、マーケティングがうますぎて買ってみた(実質的には買わされた)けど全く使っていない、といったことがあるかもしれませんが)
この使用体験で感じる商品やサービスに対する充足度を、いまやデバイスやAIの力を使って定量的に計測できるはずです。(人々は欲求を満たすために商品・サービスを利用し、利用すると欲求が充足する、という観点から「充足度」という呼び方を勝手にしています)
価値認識は個人の主観
さらに、商品やサービスの価値は購入した消費者の判断能力によって主観的に認識されています。本当はその人にとってよいものだったのに価値を理解できていない、あるいは、逆に効果ないのに価値があったんだと思い込んでいる(信じたい)といったことがあるかもしれません。効果があったなかったかに対する認識は、色々な理由でぶれてしまいます。
認識を補う技術が増加
私は、体重管理アプリ(Renpho)と睡眠管理アプリ(Sleep Cycle)を利用して体調管理をしています。体調の良し悪しを、アプリで計測した数字を参考にすることで自己判断の精度が上がっているように感じています。もっと単純なところでは、食事をはかりで量を計測して冷凍保存して解凍して食べています。そうすることでより正確なカロリー収支の管理ができます。
メジャーリーグでは、ピッチャーが投球したボールの回転状況を分析してフィードバックするツールやバットの軌道を分析するツールが利用されており、選手の主観的な状況把握に加えて数字化された情報を利用することで課題分析の精度を上げています。
いま人間のあらゆる活動は、少しずつ何らかの形でモニタリング&データ化されて分析可能になってきており、人間自身が活動を観測し評価する能力を強化しています。それらデータを利用するのが難しい人にとっては、AIが、あなたはこういう状態なんですよと教えてあげることすらできるようになっていると思います。
生成AI技術で加速
生成AIの登場で、マルチモーダルで世界の情報を処理できるようになりました。事例として未来の姿を想像してみます(プライバシーの問題を抜きにして)。ある飲食店に来店したお客さんの会話の内容をメニューとして設置されているタブレットで取得&解析して、初来店なのか常連客なのか、どういう経路で店のことを知って、どうやって予約したのか、なぜこの店を選んだのか、どういう期待があるのか、などを知ることができます。また、お客さんの顔の表情から料理の見た目にどういう反応をしているのか、料理に満足しているかどうか、食べた後にどのような表情をしているのかを解析することができます。食事中や食事後の会話の内容から、リピートしたいかどうか、何がどう美味しかったのか、他の人に紹介したい意向があるかどうか、解析できます。さらに、アップルウォッチやヘルスケアデバイスの情報から、血糖値の上昇度合いや体がどう反応したのか、アレルギー反応はどうだったのか、食後によく眠れたのかどうか、解析することができます。これらの情報を総合すると、来店したお客さんの欲求の充足度を判定することができそうです。生成AI技術によって、これらの情報取得&処理のハードルが一気に下がりました。
さらに、人間の状況を観測するテクノロジーは徐々に増え続け、精度は上がり続けているため、それらのデータを用いて欲求充足度の観測精度は上がりそうです。
自動入札を強化
使用体験における欲求の充足度を観測しシグナルとしてWEB広告集客施策の最適化を行えば、満足度の高い顧客に対する入札や広告表示頻度を自動で調整・最適化できるようになります。自社と顧客の双方の満足度の高い取引を実現するための自動入札を実現できるかもしれません。
CRM分析からアクションにつながるスピードを短期化
また、この欲求の充足度が高ければ、リピする確率が高いことが考えられます。こんなケースを想像してみてください。フェスやライブイベントやダンスクラブにいるお客さんを映像解析して、①ぴょんぴょんはねて歌っている人、②しずかに音楽にのって楽しそうにしている人、③すみっこで無表情でスマホをみている人、分類することができたら、①の人はリピート率が高そうですよね。私の勝手な想像ですが。
CRM分析は一定期間の取引実績やリピート購入する顧客の存在があってはじめて精度の高い分析を行うことができますが、初回利用時点で欲求充足度をもとにリピ確率を予測できれば、待たずとも重要なチャネル判定を行い最適化を開始したり、リピ誘導施策などの施策につなげることができます。
吊橋効果でものを売りつける
このように、商品やサービスの利用体験をデバイスやAIを用いて観測し、欲求充足度を判定することで、新しいアドテクノロジーを構築することができるかもしれません。新規獲得施策やCRM施策と連動すればさらにさらにマーケティングROIの高い施策となりそうです。
元グーグルの新卒同期にこの話をしたら、「なにそれ、吊り橋効果でもの売りつけるってこと?」と返されました(笑) 確かに悪用したら顧客の心理状態を観測して買いたくないものを自動的に売りつける手法になるのかもなと気付かされました。
この技術に着目している理由は、今のアドテクはコンバージョン設定を行い自動入札最適化する方法が基本所作として定着しており、これにより予算が少ない広告主から大予算の広告主までオンライン広告を出稿できるスケーラビリティが生まれているため、よりベターなコンバージョン計測技術を優位性をもって生み出すことができれば、インパクトが大きいと考えたからです。
2.ペイドとオーガニックの区分をなくした最適化ソリューション(デマンドサイド)
ペイドとオーガニックという区分が徐々になくなり、チャンスが生まれる話です。
サイトへのオーガニック流入と、その流入を増やすために行われる施策は、なんだかんだ企業活動によって生まれています。誰かの何らかの活動がウェブを含めた世の中で資産化されて、自然発生的に流入や顧客獲得が生まれていく仕組みです。人件費や制作費など、企業活動の費用がどこかで発生していますが、資産化された状態から結果が生まれるので見えにくくなっています。一方で、ペイド施策は、お金を払った分だけ流入や顧客が入るP/L型の広告施策です。
人材不足の日本では、最低限必要なオーガニック流入を増やす施策すら手がまわらずやっていない会社すらありますが、AIが登場して様々な施策の自動化が進んでいます。生成AIをベースとしたサービスが、ウェブサイトやLPをつくって、SNSに投稿して、SEO記事を書いて、YouTubeやTIKTOKに動画を投稿するなど、人手がいらずとも自動で処理してくれます。これらのツールがどんどんアップデートされており、より高度・高品質なツールが出現し続けていますが、基本的には有料で従量課金になります。
AIサービスプロバイダにお金を払って働いてもらい、働いてもらった分だけ結果が出るという状況は、もはやペイド施策です。例えば、月に集客に利用できる予算が5,000円の会社にとって、AIにお金を払ってSNSコンテンツ投稿やってもらうのか、グーグル広告にお金を払ってリスティング広告を出すのか、結論ペイすれば何でもよいで、もともとあった区分の意味がなくなります。
そうすると次は、ペイド・オーガニック含めて様々な施策を総合的に管理・予算配分できるAIツールで一元管理できたらとても楽になります。このAIツールに相談して予算計画を立てて、実行までやってもらえれば、とくに人手不足で予算の少ない中小企業はとても助かります。なぜここに着目しているかというと、ペイド・オーガニックの区分を廃した統合的なプログラマティックツールという位置づけはデマンドサイドで最上流(広告主に最も近い)に位置できる可能性があるからです。プログラマティックの商流のなかでデマンドサイドで最上流にあるサービスというのは最も取り扱い高が大きくなり、要するに儲かります。
広告業界ではブーツストラップな事業展開が一般的であることを考えると、一定のキャッシュが生まれやすい領域から参入した企業が徐々に業態変化して大きくなってデマンドサイド最上流の位置づけをとりにいく道筋は色々考えられるので、そういう可能性はあるかもしれません。
3.サプライサイドでの新しいテクノロジー
第2部 アドテク(広告テクノロジー)の歴史で度々登場したアドテク業界のゴッドファーザー Brian O'Kelley は、米国アドテクインフルエンサーが運営しているポッドキャストで、司会者にAIのアドテク市場への影響についてきかれたとき、サプライサイド(メディア側)で何らかの新しいテクノロジーが生まれるのは間違いないと思ってるが、具体的にそれが何かはわからないと発言していました。
生成AIによって消費者のメディアの利用行動が変化し始めています。まだマジョリティには至らず、ごく一部の人々にとどまっているので、まだその様相がみえにくいのかもしれません。私はすでにグーグル検索よりもChatGPTを利用する時間や回数のほうが多くなっています。
グーグルを利用するのは「確定検索」をする場合のみです。確定検索というのは私が勝手につくった言葉ですが、あらかじめわかっている検索結果をすぐに表示したいときに検索する検索行動のことです。例えば、食べログを利用するために「食べログ」と検索します。あるいはAmazonであったり、よくいく飲食店であったり。(辞書検索って呼んだほうがいいのかな)それ以外の情報は、ChatGPTで聞いたり、TikTok、YouTube、Instagram、などを使い分けます。最近だと年末年始に江戸時代のことについて調べていました。YouTubeで江戸時代について解説するチャンネルをみながら、ChatGPTに気になったことを質問したりディスカッションしていました。
そんなことを考えていたら、グーグルが、こんな検索もできるよっていうマーケティングをやっているCMがでてきて面白かったです。「確定検索」以外のユースケース(「思ったまま検索!」と呼ばれている)を広げてユースケース想起させるためのマーケティングをやっていました(こういう動画)
第1部 世界(米国)の広告市場外観、でご紹介した通り、広告自体は、企業と消費者をつなぐ手段であり、企業にとっても消費者にとっても必要なものです。広告の手段は、社会の変化、技術の変化、人間の行動の変化により、手を返しなお変えるように新しい手法が生まれています。
消費者のAI利用が増えていくほど、その新しいユーザー体験に対して最適な広告デリバリーの仕組みが出現するのは間違いないです。具体的にどういうものなのかは、そこに未来をつくりたい人達がチャレンジして実現するものなのかもしれません。それが現在のディスプレイ広告のような形ではなくても、例えば、ChatGPTの情報取得経路と処理構造が解明されたら、どうすればAIへのクエリに対して自社情報を優先的にもっともらしくレコメンドしてくれるようになるのか?という観点で、SEO最適化のLLM向けバージョンのようなものがでてくるのも容易に想像できます。
アドテク領域において、小規模〜中規模の新市場領域は色々ありますが、やるなら特大ホームラン、ということで業界に大きな波をもたらす可能性のある3つをご紹介しました。
以上、結構前にまとめた内容なので自分の中では新しくなくて、記事を書いてて新しさを感じる内容ほしいなと思って、すこしそれますが、日本にいて感じる社会の変化が、アドテクより広い意味で、広告やマーケティングにどのような影響を及ぼすのか、こちらも私の独自の視点で気になる点をピックアップしていきたいと思います。
4.気になっている社会の変化
推しエコノミー
昔はアイドルなどごく一部の領域でのみみられた「推し活」によって生まれる経済圏が、様々な業界に広がっています。アイドル界隈では借金してでも推しに会うためにお金をかける人がいるようですが、とんでもないお金が動いているようです。この構造が他の商材へ広がることで起きる変化や注力ポイントが気になりました。
基本的に推しエコノミーにおけるビジネスのキモは、太客を捕まえるゲームに勝つことです。例えば、ライブ配信の投げ銭、アイドル、キャバクラ、などイメージしやすいと思います。
自分が購入する商品やサービスを、①どうでもいいもの(トイレットペーパーなど)、②こだわりたいもの、の2つに分けたとき前者はコスパ重視です。後者は推し消費が行われます。後者の全領域・界隈に推しエコノミーが広がっていくとしたら、領域別に相対的な大小の差はあれど、事業をやるには界隈に存在する一定数の太客の獲得が重要になります。
現在のマーケティングパラダイムはそこまで偏った消費行動=推し消費に対応できていないのではないか?というのが私の考えです。アドテクしかり。
太客はある意味どんな手を使ってでも捕まえたほうがよいです。広告投資額を引き上げて何度も広告表示したり、特殊なインセンをはったり、特別なイベントをやったりなどなど。顧客獲得コストで言えば、太客には顧客獲得コスト30万使うけど、それ以外の客には3,000円で対応する、といったイメージです。しかし、現在のマーケティング手法や、アドテクのアルゴリズムは、ある意味あらゆるユーザーを均一に見すぎているため、そこにギャップが存在している気がします。ここに新しいマーケティングの仕組みや技術を実装する余地が生まれるかもしれません。
推し消費的な活動は、太客向けは特別な体験機会の創出、それ以外にはインフルエンサーマーケティングの相性は良さそうです。
締め付けの厳しくなる社会体制
日本では政府を主体とした中央集権的な統制が厳しくなっていると感じています。統治の観点では、税収を上げたり、社会秩序をもたらすために、制度やルールの効果を上げるうえで、人や企業が自由に活動できる範囲を制限することは効率的なので有効です。しかしながら、内需減少傾向の今、制度も租税も厳しすぎると、ちょっとした変化に対して市場シェアの低い限界生産者が崩れていきます。逆に、市場シェアトップの企業や利権で守られている企業が生き残りやすいです。
この状況は、市場経済と競争原理とは逆行した動きだと考えています。マーケティング・広告は自由な経済と競争環境と相性がよく拡大しやすいです。逆に、極端に考えればわかりやすいですが、ものやサービスが政府によって規制されて販売される区画や量が計画的にコントロールされたら、マーケティングの必要性は減って縮小します。例えばNHKの徴収のように、サービスの利用有無に関わらず、テレビを置いたらNHKと契約必須です、徴収します、と国によって制度が定められ、それに基づいて一方的に徴収活動が行われます。マーケティング、広告、アドテク、いりません。
現在と今後の日本では、自由な経済と競争原理に基づいたマーケティングそのものが衰退して、全く別のマーケティングのゲームに変化する可能性があるかもしれません。そうなったときにアドテクノロジーも然り、変化する社会の中で生まれる需要にあわせた仕組みの設計が必要になります。
企業の顧客単価の低下
日本では事業主と中間産業(コンサルや広告代理店)の関係性が歪んできていると考えています。新卒や事業主で優秀な人達は辞めてコンサルや代理店へ流れます。中間産業は競争することにより、能力や付加価値がインフレしていますが、企業の支払い可能な単価が下がっている(上がらない)ため、ここにギャップが生まていきます(構造が歪んでいる)。下がっているというよりは、競争によって上がり続ける付加価値に対して適正な市場価格を支払えないというのが適切かもしれません。
そうすると、顧客の支払い可能な単価にあわせた付加価値・コスト構造をつくる企業が成長しやすくなります。あるいはごく一部の優良顧客を過激なゼロサムゲームに勝ち続ける企業が残ります。また一部では取引先が硬直化しているかもしれません。
そういう状況で、国内で優秀な人達の活躍の場が少なくなってきているんじゃないかと妄想しています。こういった人達がいて増え続けるとしたら、その中から海外展開(越境系事業)をチャレンジする人達が増えていくと世の中面白くなると思います。いま、アドテクノロジーに加えてECプラットフォームなど、世界共通基盤的なITプラットフォームが増えており、広告クリエイティブのローカライズは生成AIで作れるので、実は昔と比べて徐々に海外展開のハードルは下がってきました。これは事業主にとっても、中間産業でくすぶっている人達にとっても大きなチャンスとなります。今後10年単位でこの領域にチャレンジする人は増えてほしい領域でもあります。
増え続ける社保
厚生労働省の統計によると、日本の人口減少&少子高齢化は続き、2070年には総人口8700万人、高齢化率38.7%になると予想されています。今年2025年から2070年までの45年間、高齢化率は上がり続け、労働人口に対する高齢者人口の比率は上がり続けます。つまり最悪のケースとしては、現役世代による税金と社保負担はこれから45年間上がり続けます。現行の非効率的かつ腐敗の進んだ政治体制が続いた場合、現実的ですらあります。
そうなると、今後45年間の間、企業が正社員を雇用するコストは増え続けます。一方で正社員の手取りは増えない&減り続けるかもしれません。企業にとって正社員雇用の負荷が高くなり、バイト、派遣、業務委託などで対処するようになります。高齢者や外国人を安く働かせる人達もさらに増えそうです。
税金と人件費に圧迫されて企業の利益率が下がり続けることが予想される場合、事業ポートフォリオの構築だけでなく、そもそも現在のビジネスモデル(収益構造)そのものを変革する必要があります。この状況に対応できる手段としてAIの重要性は上がりそうです。
マーケティングや広告活動は、ほぼ広告代理店に丸投げ外注している状況となっていますが、前述の歪んだ業界構造の観点から業界が変わっていくと思います。そして徐々に中間産業の能力値の動きが逆転してデフレを続けて、人間の実力と比較してAIの実力のが高くなったときに、業界がひっくり返り始めるのではと考えています。AIマーケターによるマーケティングの時代の幕開けです。
都市圏に集中する若者
日本全体で人口は減少していますが、都道府県別にみると東京都の人口だけは増加し続けています。総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告で引っ越し動向を見ると東京都へ引っ越しする人口が多いのがわかります。
それで、前述した推しエコノミーが進行する場合、「特別な体験」に対する需要が都心部で局所的に大きくなることが考えられます。例えばわかりやすいところで言えば、首都圏開催の人気アイドルのチケット倍率が高くなったりです。そうすると、新しい市場余地が生まれるのではと考えています。
それは横に染み出す推しエコノミーにおける「特別な体験」の座席(参加枠)を巡る需要、そして「特別な体験」を経験したいけどできないというギャップの解消という仕組みの部分です。逆に「特別な体験」機会が少ない地方では、代わりにコンテンツ消費とグッズ消費が増えています。ここにもチャンスが広がるかもしれません。さらには、グローバルスケールで考えたときにマンガ・アニメファンは世界中で爆増しているので、世界規模で考えた推しエコノミー施策もチャンスがありそうです。
世界中にいる膨大な数のアニメファン
コロナ禍でお家でネットフリックス等のコンテンツ配信サービスを利用することで世界中にアニメファンが増えたと言われています。私は2023年10-11月頃にアメリカにいましたが、ちょうどアニメ進撃の巨人の最終回がやっていてTIKTOKやSNSでリアクション動画が大バズリしていました。2024年はディズニープラスで配信された日本のドラマSHOGUNが話題になっていました。日本ではピンとこないくらい、世界中でバズリちらかしていました。2024年秋のアニメではダンダダンやアオノハコがアニメ化されて世界で話題になりました。日本の学園ものや部活恋愛がなぜ世界で受け入れられるのかもはや謎すぎますが、もう世界中の人々が日本のコンテンツを咀嚼して楽しめる状況になってしまいました。その状況を肌で感じて、私は世界のマンガ・アニメ市場規模は現在の数字の10倍はありそうだと感じました。世界中に日本のマンガとアニメの推し活ユーザーがいます。ここに大きなチャンスがありそうです。
強引に韓国のKPOPと比べてみたら、BTSファンよりポケモンファンのが多いんじゃないでしょうか。KPOPアイドルはワールド・ツアーをやっています。アニメもワールドツアーやったら良いのではないでしょうか。
ネットフリックスのコンテンツのマーケティング事例をみてみます。話題作のストレンジャー・シングスやイカゲームの公開時は、世界中でPR施策のワールドツアーをやっています(「ストレンジャー・シングス 未知の世界 4」のゲートが世界各地のランドマークを乗っ取り、裏側の世界が到来)(韓国をはじめ世界各地に出現!Netflix「イカゲーム2」サプライズパフォーマンスで大々的なPR)
その他、KPOPのアイドルグループは韓国出身のメンバーだけでなく、日本、中国、タイ、ベトナム出身のメンバーを加えて各国でのファンダム拡大を実現しています。これは米国でスポーツ球団が選手を獲得する際に、地元の人種属性から何人を入れるとファンダムを拡大できるか考えているやり方や、政治のキャンペーンで人種構成を考慮した施策を打ち出すのと同じです。
それを参考にしたら、もちろん日本ぽいのが面白いんだというのもありますが、日本のアニメやマンガが世界でのファンダムを拡大するうえで、参考にできる部分はあるかもしれません。
これからのマーケティングの重要トピックのひとつは、「SNSにより文化情勢される時代のファンダムマーケティング」だと感じています。世界はすでに日本のアニメを待っているので、世界的に多数存在するマンガ・アニメの推し活需要に対して施策を打ち出したいですね。推し需要やファンダムに対する海外展開事例は多数存在するので、世界中の海外展開の事例を調査して類型化・パターン抽出して打ち手を考える活動が増えれば、再現性のある海外進出が増えそうです。さあ、コンサルタントの出番です。フェラーリやハイブランド等の販売手法、TOPPSの野球カード等のコレクターズアイテムの販売手法は参考になるかもしれません。おとなり韓国や中国もがんがん海外展開しているので身近なところに参考になるやり方が転がっていそうです。
例えばポケットモンスターの限定版を作って20個のみ販売します。販売価格は1個10億円です。売上は10億✕20個で200億です。YouTuberのMr.Beastなんかが購入してゲームの実況配信をしたら世界中のポケモンファンが視聴しそうです。
マス向けエンタメの質感の変化
私はSNSや動画投稿サービスの集合知を増強する力に着目しています。これについては、生成AIに関わるので別途紹介します。端的には、これまでは好き勝手に行われていた投稿活動が(拡散局面)、投稿者のリテラシ向上により一定の方向を向き始めており(収束局面)視聴者についても投稿内容に対する反応やコメント欄でみずしらずの人達とディスカッションするなどして知恵の獲得と更新スピードが上がっているのではという話です。(ネット全体が2チャンネル化して、いい部分を切り取ればいい作用が起こってる)
これに加えて、日本が高齢化しておりマス層の年齢層が高くなっていることや、マス層の構成要素が家族世帯から単身世帯の比率が上がっていること、そして推しエコノミーの発達により、マス向けエンタメコンテンツの質感が変わってきているのではないかと考えています。従来の受動的かつ最大公約数的なコンテンツから変化しているということです。
いま、受動的なコンテンツのど真ん中はTIKTOKやツイッターです。永遠とスワイプし続けて、あるいはタイムラインを眺め続けて何も考えずに暇つぶしすることができます。昔はテレビがど真ん中でした。受け身型コンテンツがアルゴリズムでターゲティングされながらTIKTOKで永遠と流れてきて可処分時間を食ってるなか、かつては受動的コンテンツだったテレビのような従来向けマスコンテンツに対しては、ターゲティングされていない分つまらなく感じてしまうようになり、逆に能動性の高いコンテンツへとシフトを迫られているのではという感じです。
さらに、自分の興味領域について詳しい人が増えてるので、求められるコンテンツの質感は、無思考型というよりは、大乱闘スマッシュブラザーズ的な、あるいはKPOPアイドルが他アイドルの楽曲をカバーして歌うような、異なる領域同士が縦にも横にもからみあってお互いの良さが引き立ったり気づきを与えるようなものが、みんなが楽しめる面白いものになってるのかなと感じました。それはある意味SNSでシェアされて各々に詳しい人達がコメントしあうことが大前提になっているんですね。
私はテレビをみないので、SNSで流れてきたテレビの切り抜き情報ベースですが、紅白でKPOPアイドルがでたり、日本の歌手が洋楽をカバーする企画や、異なる世代同士で歌をデュエットしたり、などといった企画が最近増えていますが、テレビ番組企画する方々による、そういう観点での新しいチャレンジなのかなと思ったりします。個人的には、さんまのまんまという番組にパク・ソジュンが出演した回がとても面白かったのですが、さんまさんの芸人力も引き立って再認識させられたし、パク・ソジュンの面白しろかったので、そういうのはまたみたいなーと思いました。テレビに関わらず、サービスの提供対象者が多いものは同じような感じなのかな。
秩序の乱れ
訪日観光客数がコロナ前の水準を超えて増加しはじめました。政府は2030年までに年間の訪日外国人旅行者数6,000万人を目標として掲げていて、需要が高いのでさらに増えることが予想されます。また、日本に住む外国人数も増加し続けています。
これまでは、日本は安全だ、キレイだ、海外のような危険なことが起こらない、とされてきましたが、異なる価値観の違う人達が入り交ざることで、日本人にとっては当たり前だったことが当たり前ではなくなるケースが出現します。これを「秩序の乱れ」と呼びます(また私が勝手に)。悪化していくと、移民を増やした国をみれば何が起こるのか想像できます。盗難や暴行などの犯罪が増える、商取引などにおいてトラブルが増える、そしてそれらはルールや制度で制限できないです。
移民は増えるほどネットワーク効果を発揮します。特定人種が増えるとその人種内で商売をやったりシェアをしたりすやすくなります。例えば、スマホやクラウドソーシング系のアカウントを管理者が100個や1000個作って、自国の人達を呼び寄せて、それらのアカウントを貸し出すことで不法労働を行わせるビジネスが増えるかもしれません。そういう事業者はアカウント貸しで手数料を20〜40%ほど抜いて稼ぐかもしれません。
私が米国へいったとき、アメリカの南西部のUBERドライバーにどうやって入国したのか聞いたところ、彼はメキシコ出身でしたが、連絡したら入国&労働させてくれる業者がいると言っていました。怪しい匂いがしました(笑)
さらに、そういった業者にアカウント貸しを行う日本人(個人や事業者)も出てくるかもしれません。何もしなくてもアカウント作って貸すだけで手数料収入が毎月数万入ってくる、となったらやる人はいそうですよね。例えば、自分は使わないサービスで、アカウントを作ってくれと頼まれて、メルカリや、クラウドワークスや、UBEREats、タイミーなど、働いてお金がもらえるアカウントを作ります。いくらなら貸しますか?(笑) 月5万〜10万だったら貸す人けっこういそうですよね。
そういう活動は同じ国籍の移民数が増えるほど組織的にやりやすくなるので、その意味でネットワーク効果が発生すると考えています。まだまだこれからです。「治安がよくて住みやすい」場所であった日本は過去の遺物になるかもしれません。未来の日本では、フランスやイタリアのように都心部ではスリが多発したり、影で犯罪が多数行われている国になるかもしれません。
大阪IR(カジノ)
万博後、2030年を目処に大阪にカジノが作られる予定です。これが実現されると、周辺需要が生まれます。カジノのメディア(YouTubeチャンネル等)はもちろん、カジノで一攫千金を狙う人への金貸し、カジノで儲かった金額を上手に手元に残すためのソリューションがそうそうに生まれそうです。カジノの広告案件で広告市場はちょっと盛り上がりそうです(広告業界の人達は早めにネットワーキングしたらよいかも)
個人的に、カジノは季節系イベントと相性がよいと思っています。ホテルに宿泊して、カンファレンスなり、ライブ音楽イベントなりが同一施設内であって、暇な時間にカジノするといった形です。あるいは、都内私立のお金持ちの大学生たちがグループで遊びにいってカジノとダンスクラブで遊んで帰る、といった形です。毎日のようにホテルに宿泊してカジノへ行く人がいるとしたら中毒症状ですよね(笑)でかいキャパの宿泊施設つきのカジノをつくるなら、宿泊施設のキャパを一気に埋めれるイベントが季節的にあったほうがよくて、そこに来る人達が海外旅行をするときのように、めったにこないからといって普段使わない額のお金を落としてくれるのがよいです。
もちろん、超お金持ちのVIP太客の商売があるのは大前提ですが、それ以外の人達の収益最大化しようと思ったら、前述の季節イベントとの組み合わせは効率がよいです。そしたら、開催されるイベントの集客だけでなくて、来場者の属性や需要によって色々な事業機会が生まれていきます。
以上になります。
読んで頂いてありがとうございました。
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