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日本人がリーダーを嫌いな理由:「フォロワーシップ」を発揮するために身につけるべきこと
生成AIをはじめとしたテクノロジーによって、多くの組織で変革が迫られているのはご存知の通り。でも、その変革を先導する「リーダー」とは具体的にどのような人物を指すのでしょうか?また、自分自身がリーダーシップを発揮するには、何をすればよいでしょうか?
今回は国際比較データで明らかになっている「リーダーが極端に嫌いな日本人の国民性」に基づいて考察してみたいと思います。というのは、ここに日本企業がブレークスルーを生み出すためのヒントがあると思うからです。
「リーダーが尊敬される社会はよいと思いますか?」
と外国人に聞かれたとき、自分ならなんと答えるかを考えてから、本稿を読読んでいただくのがおすすめです。
「信長、秀吉、家康」リーダーシップ論を超えて
リーダーシップ論といえば、昔からある「信長、秀吉、家康」のような過去に成功したリーダーの共通項を導き出してカテゴリー化するような古典的なリーダー論から、状況によってスタイルを変えるシチュエーショナルリーダーシップ論(SLII)のようなものまでいろいろあります。その中でも、特に面白い調査があるのでご紹介します。
ミシガン大学が中心となり、5年ごとに世界約80カ国を対象に実施されている「世界価値観調査(WVS: World Values Survey)」という学術研究があります。調査結果はインターネット上で無料公開されており、興味深いデータを多く発見できます。(実際のサイトにアクセスし、左メニューから「Data & Documentation」>「Online Analysis」を選ぶと、国別の比較データを閲覧できます。)
たとえば、リーダーシップに関連する質問の一つに、次のようなものがあります。ぜひ、直感的に答えてみてください。
Q.45 権威(≒リーダー)が尊敬される社会はよいことであると思う(Greater Respect for authority)
回答選択肢
・そう思う(Good thing)
・気にしない(Don’t mind)
・悪いことだ(Bad things)
・知らない(Don’t know)
・無回答(No Answer)
皆さんの回答はどれでしょうか。世界価値観調査の最新調査結果を見ると、国別比較は下記にようになります。
![](https://assets.st-note.com/img/1738921311-95kht2JHuVCa8rXUnEFymZis.png?width=1200)
この質問に対する世界価値観調査の最新の結果を、6カ国(中国、台湾、ドイツ、インド、日本、アメリカ)で比較してみます。「Good thing」と回答した割合は以下の通りです。
中国: 61%
アメリカ: 58%
ドイツ: 57%
インド: 46%
台湾: 19%
日本: 1.8%
どうでしょう?この結果は、皆さんの直感と一致していますか?もちろん、数値が高いから良い、低いから悪いというわけではありませんが、この結果をどのように受け止めるべきでしょうか?
この結果をどう解釈すればよいか?
日本の数値がダントツに低い理由(たった1.8%)についてネットで検索してみると、歴史的背景、集団主義、和の精神、謙遜、Authority(権威者)の言葉の解釈の違いなど、いろいろな考察がヒットします。中には
「日本は農耕社会で、西洋は狩猟社会だったから」
といったまことしやかな解説もありますが、ちょっと調べてみれば、ヨーロッパのほうが農耕社会であった時代は長いことは明白で、そういう誤った解説には要注意です。(この点、ChatGPTのほうが、よほどまともな解説をしてくれます。)
イノベーターを支えるフォロワーの重要性
この調査結果の「リーダー」を「イノベーター」と読みかえてみましょう。HONDA創業者の本田宗一郎でも、Apple創業者のスティーブ・ジョブズでも同じですが、彼らは偉大なリーダーであり、常識をブレークスルーするイノベーター(=変人)でした。
ただ多くの場合、イノベーターのアイデアは尖りすぎていて、なかなか周りの人に理解されません(もちろんお金もついてきません)。
そして、彼らのような「ファーストペンギン」をイノベーターにしたのは、その本質的価値を早くから理解し、献身的に支えたフォロアー=「セカンドペンギン」の存在でした。HONDAの場合は藤沢武夫、Appleではウォズニアックがそのような存在だったのです。彼らがいなかったらとっくに潰れていたのは間違いありません。
私の実感だと、研修などで日本企業で働く社員と話していて、イノベーティブなアイデアが枯渇しているようには到底見えません。それにもかかわらず、なかなかイノベーションが生まれない原因の一つは、イノベーションの価値を組織的に見極めて支えるフォロワーシップの力が弱いからなのではないか、そしてこの世界価値調査の結果は、それをデータで示しているような気がするのです。
変人を支持するリスク
イノベーターというのは、大体尖っている「変人」です。もちろん変人だからといってイノベーターなわけではありません。そんな、変わり者で、成功するか、狂人扱いされるかわからないイノベーターに対して「フォロワーシップ」を発揮するのは、相当程度のリスクを伴います。自分に「選球眼」がなければ批判されたり、変人もろもと失敗したりするので、マジョリティーが良いと言っているものをフォローしたほうが明らかに低リスクです。
そもそもイノベーターがイノベーターたるゆえんは、過去の常識を否定してているからです。みんなが「いいですねえー」なんて言うものは、多くの場合、本当はイノベーティブではないし、本当にイノベーティブなら必ず「敵」を作ります。そのイノベーターを支持するのですから、自分にも批判の矛先が向くリスクを甘受する必要があるのです。
みんな過去の自分を否定されたくない
事務職でも、イラストレーターでも、過去に自分がやってきたことを「あなたがやってきたことは、90%がAIで置き換えられます」と言われたとき、いきなり白旗をあげて「AIを活用しよう」と思える人は稀でしょう。
過去の自分を否定された気分になりますし、会社だったら、AIに代替されてリストラされる確率が高まる人が一定数いるからです。
野球で言えばメジャーでの大谷翔平の活躍が目覚ましいですが、海外プロスポーツで活躍した日本人の先駆者だった伊達公子でも、野茂でも、三浦カズでも、最初は「重鎮」と呼ばれるエライ方々に「喝っ」とか言われて批判されまくっていました。芸術家の岡本太郎も、日本に凱旋帰国したばかりのときは、国内の有名批評家にこき下ろされていたのは有名な話です。(彼らを批判した人々は、過去の自分の輝かしい実績を否定されたと感じたのです)
それがだんだんと変わってきたのは、もちろんその本人自体がすごかったいうのは大前提として、その本当の価値を見抜いて周りに伝えたフォロワーの存在も大きいはずなのです。
イチローに関しては、2025年1月に日本の野球殿堂博物館が殿堂入りメンバーを投票で選びましたが、有効投票349票中323票を獲得したものの、史上初の満票には26票届かなかったそうです。関連の取材記事を見ると、いまでも彼を「日本野球界の裏切者」呼ばわりして、快く思っていない関係者が相当程度いるとのことでした。
フォロワーに求められるもの
リスクを取って、しなやかに自分を変えられる人はどちらかといえばレアな存在であり、マジョリティーは「変わりたくない人(今の自分を変えたくない人)」です。
そしていま急速に衰退している日本社会で求められているのは、イノベーターの価値を見抜いて勇気を持ってフォローし、「変わりたくない相手のリスクを下げて、うまく未来へとトランジションさせるフォロワー」ではないでしょうか?
結論として、まずは私を含めた「典型的な日本人」は、なぜ前述の質問にネガティブな回答をしてしまうのかを考えるところから始めるのが良いのではないかと思うのです。
Q.45 権威(≒リーダー)が尊敬される社会はよいことであると思う(Greater Respect for authority)
回答選択肢
・そう思う(Good thing)
・気にしない(Don’t mind)
・悪いことだ(Bad things)
・知らない(Don’t know)
・無回答(No Answer)