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乳がん治療の記録④:術後病理診断の結果に混乱する

手術日からおよそ1か月後の1月15日、術後病理診断の結果を聞きに行った。1か月間があいたのは、年末年始が入ったので、診断のための期間を多めにとったから。

ステージⅢC、術前の病理診断(針生検)よりも、少し数値が悪くなっていた。

・浸潤性乳がん(充実型)
・ホルモン受容体(ER/PR)陽性(中等度)
・HER2 陰性

・腫瘍の大きさ 11×10mm
・核グレード、組織学的グレードともに3 いわゆる「顔つきが悪いタイプ」(悪性度が強い)
・Ki-67は43%(増殖能が高い)

・リンパ節へはセンチネルリンパ節とあわせ、切除した22個中、11個に転移が見られた。
 センチネル 1/1
 レベル1 6/17
 レベル2 4/4


不思議なのは腫瘍の大きさが11×10mmと小さかったことだ。術前の診断では15mmで、それよりも小さかった。普通に考えたら、初期がん、ステージⅠの大きさだ。

そこまで原発のがんが小さいのに、リンパ節への転移がレベル2まで進んでいるというのは、転移するスピードが早すぎじゃないか?もっと大きな腫瘍の人で、リンパ節への転移がない人はたくさんいるじゃないか。

そう思ったら、先生に対して、思わずいろんな質問が口をついて出た。

「そんなに腫瘍が小さいのに、そこまで転移が進むことって、あり得ることなんですか?」

「がん細胞の悪性度は、生活習慣を変えればおとなしくなるものなんですか?それとも、もともと自分の持っている細胞の性質なんですか?がん細胞の悪性度は、何によって決まるんですか?」

「それだけ悪性度が高く、転移が早いのだとしたら、抗がん剤の治療をしてもまたすぐに再発するんじゃないですか?」

「抗がん剤治療をしても、本当に効くのかどうか判断する指標がないなかで、すぐに再発したら心が折れそうで、どうやって抗がん剤治療を乗り切ったらいいかわからないです。どうやってほかの人は折り合いをつけているんですか?」

「髪が抜けるとか気持ち悪いとかの副作用はもちろんいやだけど、一番恐ろしいのは、そういう思いをした後の再発です。なんのために抗がん剤をやったのかってなりそうで。何か、抗がん剤がこんな風に効果を上げるのだということが納得できるような資料はありませんか?」


自分のなかでも混乱していて、情報も不十分だったので、先生もいろいろぶつけられて困っただろうと思うが、ひとまず説明をしてくれたのはこんな感じの内容だった(興奮していて、記憶が飛び飛びなので覚えているところだけ)。


「たしかにこの腫瘍の大きさでそこまで進行するというのはレアなケースと言えると思います。化学療法(抗がん剤治療)については、現状は手術で腫瘍を取っており、腫瘍マーカーも正常の範囲内なので、効いたかどうか判断するすべはありません。ただし、大前さんのがんのタイプの場合、化学療法をすれば、過去のデータから予後が改善するということが明らかになっています。(資料を見せながら)化学療法を選択する基準としていくつか指標があり、この中の1つでも当てはまれば、化学療法の実施を積極的に考慮するとされています」。

私の場合は、組織学的グレードが3であり、Ki-67が、基準の14%に対して43%と高い。リンパ節転移は、4個以上の基準に対して11個あった。

「もう少し数値が低く、化学療法を受けたほうがよいか微妙な方の場合は、抗がん剤が効くかどうかを調べるオンコタイプDXという検査を勧めますが、大前さんの場合は、抗がん剤をやらないという選択肢は、私の立場からするとないですね」

先生の説明を聞いても、まだもやもやしていた。ただ、ここで私が堂々巡りの質問をしても、いたずらに時間がかかるだけだ。もう一回自分の気持ちを整理して、知りたいことを明確にしてから再度先生に質問した方がいい。

「たしかに予後が改善するというのは、本で読みました。抗がん剤の治療を受けることも、自分では決めています。ただ、私自身が、本当にそのことに納得していた方が、抗がん剤の薬自体も効くと思うんです。すみません、自分でももう少し調べてみます」

「こちらでももう少し詳しい資料をお渡しできるように調べておきます」

そんな感じで、実際の治療や入院の説明に移っていった。


後から振り返ると、そのときの自分のなかに突如起こった混乱の理由はいまだによくわからない。おそらく「がん細胞の悪性度が高い」ことが、自分の「身体の質が悪い」と否定されているような気がしたのだろう。

そして、上にも書いた通り、抗がん剤治療を乗り切って、生活習慣にもあれこれ気をつけて過ごしたとしても、すぐに再発したらもう「手の打ちようがない」と心が折れそうで、それが怖かったのだと思う。

要するに、起こってもいないことや妄想で、勝手に不安になっていたということだ。

その後、自分なりにも、いくつかの本を読んでだいぶ納得をした。次にあったときに先生からも資料のコピーをいただいて、納得をしてから抗がん剤治療に入ったので、これはこれで必要なプロセスだったのだろう。


乳がんは比較的生存率の高いがんだ。

国立がん研究センターの最新(2020年3月)のデータによると、乳がんステージⅢの私の場合、

5年生存率はおよそ80%
10年生存率はおよそ60%

このなかには再発している人数も含まれているが、それでもそこまで不安にかられる数字ではない。

もしも、抗がん剤が効かず、思った以上に進行が早くて死を迎えたとしても、それはそこが自分の寿命ということだ。どれだけ長く生きられるかと考えがちだが、そこにこだわるより、生きている時間をよりよきものにするということにこだわりたい。それは自分のなかでたしかに思っていることだ。


☆ここまで読んでくださった方へ

乳がんはステージⅠでは100%の5年生存率。ステージIIでは96.1%、ステージIIIでは80.0%、ステージIVでは40.0%と漸減していきます。なので、早期発見・早期治療が非常に重要だということが繰り返し呼びかけられています。

もしこのnoteを読んでくださっている女性の方でまだ乳がん検診を受けていない方は、どうか念のため、検診を受けてくださいね。また、毎年検診を受けている方でも、マンモグラフィーだけで「所見なし」や「嚢胞はあるものの、悪性の所見は見られない」と言われても、がんが進行している場合があります。

私の場合、がんが発覚した際のマンモグラフィーは「所見なし」でした。エコーで腫瘍が映っていたからよかったものの、もしあと1~2年発見が遅れていたら、気づいたときにはステージⅣという可能性もありました。ですので、できれば超音波(エコー)の検診も同時に、または別の機会でも、受けることをお勧めします。

読んでくださった男性の方は、お母さま、ご姉妹、奥様、彼女、大事な友人の方がもし検診を受けていなかったら、勧めてあげてくださいね。

いまや乳がんは女性の9人に1人がかかると言われています。若年層の罹患率も増えています。「知り合いがさ~、乳がんになってさ~」と何気なく話題にするだけでも違うかもしれません。芸能人の方が公表するのも、少しでも多くの方の早期発見につながればという意味でされていると思います。

私自身も、自分がまさか乳がんになるとは1㎜も思ってもいないながらも、検診を受けていてよかったなあと思っています。



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大前みどり
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