とても近い遠さ
ICCマニュアル2024 ”とても近い遠さ” の感想です。
今回も会期ギリギリに滑り込んでしまいました。
後回しは、わたしの悪い癖です。
シアター
映し出されるモノクロの映像、低気圧のようだった。音階もわからない風の音のような、リズムを刻んで締め付けるような、気圧による頭痛が起こった時の頭の中と同じ音。
遠い山々と露出した岩肌、綿毛のような花と針葉樹、地面に蔓延るシダ、どこかで見た事あるようでないような映像が流れていって、遠い昔の記憶のようにも思えるし近くの山に行ったら撮れる気もする、これが遠くて近い?いや、なんかタイトルへのこじつけかもなと考える。
リアルな作り物で気持ち悪いと思った。
フィクションが好きかノンフィクションが好きか、わたしは圧倒的にノンフィクション、生身の人間の心の動きがたまらなく好きだから。
斜め前に座っている眼鏡をかけた白いワンピースの女性は、ふかふかの椅子に背中を一切つけることなく背筋を伸ばして、というか前のめりで、胸に両手を当ててこの映像に見惚れている。こんなわかりやすいことあるんだ。
わたしもこの映像になんか心打たれてそのきもちをもったままでいれたらいいのに、と横目でその女性を見る。
フィクション映像を通して鑑賞者の心の動きというノンフィクションを見る、というコンセプトだったらかなり成功しているなと思ったけど、受け取る側に依存しすぎだしわたしの都合に良すぎると思って席を立った。
メイン展示室
海の動きの断面を切り取ったみたいな映像。
じんわり、じんわりと移ろいゆく映像は、決して本当の波の動きとは違うものだった。 立ち止まってゆっくり見ているとたしかにうねって引いて満ちているのに、目を動かさないと端から端までを捉えられないパネルの大きさと波は青いものだという先入観でうまく脳が認識しない。
これは海。これは波。これは海。これは波。
なんども唱えて、だんだんとゲシュタルト崩壊してしまって、一旦見るのをやめた。
時間を空けてみると、あの海はさっきの記憶よりたしかに黒ずんで大きくなっていた。弟みたいだ、と思った。
実家で暮らして毎日顔を合わせている時よりも、実家を出て半年に1回会うようになってからの方が毎回成長を感じて「大きくなったね…」と言う。
なんだ、これじゃあ親せきのおばさんみたいだな、
ああ、親せきのおばさんもこういう気持ちだったんだ。
この作品は最初から最後までの映像をじっと目を凝らして見る体で作られたものではなく、時間経過と共に鑑賞者それぞれのタイミングの一点で変化を感じさせるものなのだろう。大人の余裕だ。
わたしだったら自分の作品を最初から最後まで目を離さずに見て欲しいし、そうさせるような作品になるよう目指すと思う。
まだガキだ。
まだ生き急いでいる。
無響室はサウナ室
縦に並んだ無数の小さなスピーカー達に繋がる無数のケーブル、延命治療された背中みたいだった。
そのスピーカーから、一切響かない部屋で聴くいろんなボレロ。
体調悪くないのに倒れたくなる時と同じ気持ちになった。自分の体のことなのにわからない。平衡感覚が失われそうで、4畳程度の無響室にさみしく置かれたベンチに座った。
目を閉じてたら、空じゃなくてブラックホールとかそういう類の場所に吸い込まれそうだった。骨も筋肉も細胞もなんか全部見える気がしてきて、目を開けるのが怖かった。
あ、これ、整いといっしょだね。
たかが音、されど音、いかにいつもの生活で音は反響して、それがなくなると違和感を覚えるのかを身に染みた。長くは居られない。 これ、近いし遠い。
映像たち
ずっと青い、急に赤くなる、支配、崇拝、誰のこと、なんの事だと続きを見る、そしてどんどん黄色になってピンクになって、海の底から春を目掛けて泳いだ時の映像みたいだった。でもそれは、羊たちの話らしい。あれー
わたしの言語は喪失した。
ずっとずっと、また頭痛みたいな音楽なってる。
羊の群れが赤く染った。どんどん群れが化け物の顔みたいになる。 なんで、こうなってしまうんだろう。人が羊を家畜とするからか。
黒幕
ニモにUSBを挿したあと、カンフー習得。
バグって消えた白いマスクの司会者。
見て盗め、テニハショク。
CG映像、人間らしきものリアルさがない、ぬらりひょんみたいに動く。
なのにカメラの動きだけ妙にリアルでさあ
メタヒューマンの舌だけ同じテクスチャ。
同じ筋が入るからすぐわかるんだよ。ほら(人の口の断面図を見せる)
ね? わかりやすいでしょ。
タバコに火がついたまま、メタヒューマンの腕にあたる。
「心配しなくて大丈夫。これ全部CGだから。」
20分くらいのCG映像。
サイケめいた人型のキャラクターがペラペラと喋り倒す。
現代のCG技術のこととか、テクノロジーの進化とか、中身のある話をしているなのにとりとめない単語を挟んだりするから飛ばし読みしてる感覚。全体的に据えた匂いがするホラーゲーム質感。全然話してる内容が頭に入ってこなかった。
見慣れないものへの恐怖感、視覚情報が脳みその8割を占めてしまう人間の構造がうごいていた。
わからなすぎて2周みた。わからなかった。
全体通して、フライヤーの奥まっているようにも飛び出しているようにも見える四角形が、どの作品にも当てはまるのがよかった。
変にリアルな森も、海の変容も、無響室のボレロも、遊牧民たちも、消える文字たちも、アニメの素材も、言葉のメカ神社も、床にある東京も、ポイント・ネモも、全部あの四角形みたいに技術の発展が良くも悪くも手が届きそうで届かない、近くて遠い、一線ひきたい。
終わり