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#10 “CZECH EDEN” MATTHEW MONTEITH
“CZECH EDEN” MATTHEW MONTEITH
伊藤 明日香
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もう一度、最初から始めよう。
初めてみた海外の景色はなんだったろう。日本に産まれて育った自分には”海外”という言葉の感覚が染み付いている。最近ではなんだかそれに違和感を感じるようになったが、自分から離れることは未だ叶わない。
そういえば、内と外の概念とは一体いつ生まれたのだろう。知らぬ間に自分に植え着いた、外があるという感覚。その想起が私をここからどこかへと歩ませたくなるきっかけとなっているに違いないが、一度外側に出てしまえばさっきまで私がいた内側がいつの間にか外側になっていた。禅問答のよう。だがそうして考えていくと、”私”という意識が移動してその感覚をつくりだしていることに気づく。内側も外側も最初からないのかもしれない。
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さて、この写真集の話に移っていこう。
2001年〜2002年のチェコ、プラハを中心として撮影された写真からこの本は構成されている。この時期に撮影されたということは2004年にEUへ加盟する以前であることから、国内で揺れていたであろう世論や、うつろいこれから変化していくであろう世界を見越して現代と向き合おうという理由があったのだろうか。(制作意図を読んでしまうと思わぬ発見を見逃してしまう可能性があるので、今回はあえてそこには触れないで考察しようと思う。)
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時代背景的には1968年 ソ連軍によるプラハ侵攻、プラハの春 圧殺、そして市民の抵抗を撮影したJosef Koudelkaの記録から40年近く時間が流れた土地で撮影されたということになる。
私にとってチェコという国にはゆかりがなく、予備知識もないどころか本のタイトルが何語なのかも知らずにこの写真集を手にとった。街の景色や建築物はヨーロッパ圏で見かける傾向に近いが装飾的には比較的控えめにみえる印象だ。写真家が映し出した人物にはどことなくウィアードな印象を残しているところになぜか、人間らしさが強く光っているように私にはみえる。1枚のプリントを評してみても綿密なロケーションハンティングがあり、構図、撮影時期、そこに至るまでのタイミングを見計らっていたであろうことが伺えるような、作品としてクオリティーの高い写真が並ぶ本だ。
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この写真集ができてからまもなくの時代にチェコで暮らしていた経験がある友人にこの本に写る風景について尋ねてみることにした。建物の内側まではわからないが、おそらく壁は薄いことや郊外の終着地点のような駅、高架下のスケートリンクのように広がる空き地や人々が集まる小高い丘が有名なこと、団地の無機質なビルと並ぶ三角の、デティールに宿る暖かな配色。言葉にはならなかったがもしかしたらそこに流れる温度や匂いも友人は感じていたかもしれない。私がそこから感じ取れる以上のことを。MATTHEW MONTEITHはアメリカのミシガン州の生まれであり、チェコに移動し奨学生として滞在していたことから、もしかしたら彼も私と同じように外からの人間としてこの街をみていたのかもしれない。彼の視線が批評的でありながら私的な旅を描いたようなストーリーを感じさせるのはそうした意識が働いていたからだろうか。
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チェコを訪れたことがない私にもこの写真集にはノスタルジーを感じる部分があるが、それが私のものではないという突き放した感覚も抱く。なぜだろう。ここで2017-2018 MoMAで行われたStephen Shore展のインタビューで彼(Stephen Shore)がRetrospectiveについて語った部分について触れておきたい。
“私の写真をノスタルジックだと観る人は評するが、写真は撮影した時点から変化をしていない。写真自体がノスタルジックなのではなく見る側がノスタルジーを感じているのだ。”
と彼は述べている。なるほど。冒頭で触れたような話だ。私たちは案外、自分が中心となってこの世界をみているということに自覚的ではない。あたかも写真自体が印象を変えたような言い方を鑑賞者はするが、変化しているのは写真の方ではなく私達自身であるということだ。そして、そのうつろいに自覚的であるということが記録を残すということなのだろうか。それは見られるということが大前提であり、時代が変化しながらも、それぞれの読み手が主体性を持ってこの本に向かうであろうことを作者は見通した上で私たちに提示しているということだ。
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彼はこの土地に赴き、その見通しを持って景色を切り取った。写真には否応なしに写ってしまう時代感があり、それは撮影者の意図を超えることがある。土地への知識がなければそれはなおさらのことだ。そして、撮影した当時は現代的な物であってもその写真を観る人は確実に移り変わっていく。そうしたエイジングのような体験が記録をみる上では楽しいが、この本の中にある景色はなぜか、すでに失われてしまったような気もするし、今もどこかに存在しているような気もさせてくれる。タイトルの”EDEN”が示すのはそんな刹那的日常だろうかと私には思える。写実的でありながらそのリアリズムを感じさせない神秘的でシュールな対象がそのような感覚を助長させ、ページをめくる旅に言葉にはならない美しさを添えている。
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Czech Eden | Matthew Monteith
チェコ・エデン マシュー・モンティス
アメリカの写真家マシュー・モンティス(Matthew Monteith)の写真集。フルブライト奨学生として滞在したチェコ共和国で撮影された、風景・ポートレイトなど、カラー写真図版58点を収録。ニューヨーク・タイムズ、ル・モンド、リベラションなどの紙面で取り上げられ、マーティン・パーによる紹介記事によっても知られる。
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執筆者
伊藤 明日香
言葉が好きです。写真も好きです。
instagram @asukait
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