![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84556733/rectangle_large_type_2_a6b17a8c2f4d6ac6c6adac97b21963e4.jpeg?width=1200)
NOT TOO LATE #1
文:Jumpei Sakairi
Trent Parke: CUE THE SUN
Title designed by Shingo Yamada
![](https://assets.st-note.com/img/1657756633145-NnwcFaYgI4.jpg?width=1200)
Trent Parke(トレント・パーク)が北インドをひたすらバスで高速移動する中、その車窓から見える景色や人々の写真と、日常で撮り溜めた空の写真に添えられた詩によって構成された作品。
またそのスピード感や変化の流れが蛇腹綴じの装丁からも感じられる。
![](https://assets.st-note.com/img/1657756691551-MuBmVlkaq2.jpg?width=1200)
もともとパークは、北インドに作品を撮るためではなく別の目的があって訪れた。
25年程前、パークは自国オーストラリアのクリケットチームが、インドで開かれるワールドカップに参加するにあたり撮影として同行した。
そして今回の訪問の目的は、同行していた当時のクリケットチームのキャプテン、スティーブ・ウォウ(現在は写真家)が「The Spirit of Cricket」という写真集を作る手伝いだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1657756804253-v1Io3puka7.jpg?width=1200)
毎日8時間以上バスに揺られる中で、パークは窓から見える景色に驚いた。25年前に訪れた時とは大きな変化が起きていたからだ。
以前の訪問では、物珍しさからどの地域に行っても地元の人々の注目の的になった。パークは今回もそうした反応があると思っていたが、その予想とは大きく異なった。
こうした人々に対する驚きや街の変化が作品を作るきっかけとなった。
![](https://assets.st-note.com/img/1657756766573-jY9vwXtTrK.jpg?width=1200)
ではインドはなぜ変わったのか。
パークはスマートフォンが変化の原因だとしている。
本作の中でも、iPhone11の大きな広告や朽ちた建物の中でスマホをいじる若者の姿が載せられている。
どれだけ田舎でも貧乏でもスマホさえあれば情報は誰でも同じように手に入る。
セキュリティもクソもないボロボロの家に住むことや、荷台付きの軽トラックに沢山の家族や友人を乗せて走ること。
これまで疑問を持たず当たり前のように暮らしていた彼らにとって、スマホの登場は衝撃だったはずだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1657756827131-BPZruxofb8.jpg?width=1200)
社会のキラキラした一部分のイメージがネット上には溢れている。
こんな生活している人がいるのか。羨ましい。そんな気持ちを彼らが抱くのはごく自然なこと。私たちとなんら変わりはない。
スマホを通し、キラキラした一部分のイメージを見ることで芽生えた彼らの未来への希望を、パークは作中の「Are you ready to enter a picture perfect world?」という詩や、街中の広告看板の撮影という形で表現している。
車、バイク、安全で快適な家、新型のスマホ、プロテインなど日本となにも変わらない内容の広告が街中にデカデカと、そしてひたすらに立ち並ぶ様子が作品から分かる。
![](https://assets.st-note.com/img/1657756873928-rQprhE1XzQ.jpg?width=1200)
広告は資本主義の核と言える存在。
「あの人みたいにいい暮らししたいですよね!?あなたもこれを買えばいい暮らしができます!」
こうした煽り文句で、少し無理してでも買わせる。そして誰かが富を手にし、一方は幸せを目に見える「形」として手に入れる。実情とは関係なく、周囲から見ればその形は幸せに見えるだろう。
それをみた人々は負けじとその形を手に入れようと躍起になる。
そして経済は回りだし、街は急速に発展していく。
こうした北インドの人々の、明日への希望とそれによる発展(THE SUN)の合図(CUE)を表現した作品といえるだろう。
![](https://assets.st-note.com/img/1657757208372-4vUOHJsWHT.jpg?width=1200)
資本主義の波に飲まれると、どこに行っても同じ看板を見るようになるし、生活も似てしまう。
「インドに行けば人生観変わります」という文言を見かけなくなる日もそう遠くはないのかもしれない。
そういった意味でも過渡期のインドを撮影した本作品は貴重な記録になるはずだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1657757022186-WTVl5JLVQH.jpg?width=1200)
本作品はとにかく一度手にとってみて欲しい。
パーク本人が、「1枚の写真そのものには興味がない。映画を作るように写真集を作っている。」という言葉を残しているように、本作品は1枚の写真をじっくり見るよりも流れとして見て感じることがある。蛇腹綴じの装丁にもその強い意図があると思う。
実際に手に取ることでしか体験できないものがこの作品には確実にある。
だから是非、実際に見て欲しい。
![](https://assets.st-note.com/img/1657757032966-wVSElTvnvy.jpg?width=1200)
参考文献
Magnum photo
https://www.magnumphotos.com/arts-culture/travel/india-street-life-from-bus-window-trent-parke/
執筆者
Jumpei Sakairi
早稲田大学法学部卒
フリーライター
写真、ファッションについて。
編集の仕事がしたいです。
Contact: nomosjp@gmail.com
いいなと思ったら応援しよう!
![flotsambooks](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/87691921/profile_0ef98a02b5432f5592be99f5aad2bf35.jpg?width=600&crop=1:1,smart)