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NOT TOO LATE #8: Ruba Abu-Nimah

文:Jumpei Sakairi
Ruba Abu-Nimah

Title designed by Shingo Yamada


これは私たちの「イメージを見る力」を養う、ある意味ではトレーニング書のような作品だ。

まずは作者のRuba Abu-Nimah(ルバ・アブ=ニマ)自身の経歴や仕事について触れていきたい。彼女はこれまでELLEの編集長、レブロンや資生堂のクリエイティブ・ディレクターなどを務めてきた。いずれもブランド自体が大きな変革を目指す重要なタイミングでの就任だった。そしてつい先日までは、ティファニーのクリエイティブ・ディレクターを務めていた。

ティファニーは2021年頃、LVMHに買収され、ルバはその同年に上記ポストに就任した。これまでと同様にブランドが改革を迎えるタイミングだった。彼女はしばらくニューヨークを拠点にしているが、以前はフランスなどヨーロッパにも在住していた。その双方の地において様々なカルチャーに対する深い理解や人望、そして改革の実績もある彼女はLVMHがニューヨークブランドであるティファニーを運営していくにあたって最適な人物だったと言えるだろう。 


彼女の過去の仕事からは、それまで交わることのなかったようなものをひとつのイメージの中で「並置」させる特徴が見られる。例えば、レブロンのマスカラのキャンペーン動画を見て欲しい。広くとらえればダンスという共通点はあるが、曲も含めて一見ミスマッチにさえ思える。

Mette Towley and David Hallberg Lash Loudly | Revlon

パワフルなダンスを踊る人物はメット・トーレイといい、N.E.R.D&Rihanna:LemonのMVに出演したことで有名だ。そのMV中では、冒頭の「The truth will set you free」という言葉の直後、リアーナがメットの頭を坊主に刈り上げるシーンからスタートする。メットはいわゆる女性らしさや男性らしさという概念から解放されたかのように、パワフルでセクシーなダンスをひとり踊り始める。

N.E.R.D & Rihanna - Lemon

もう一人のバレエダンサーはデヴィッド・ホールバーグ。現在はオーストラリア・バレエ団の芸術監督を務めている。デヴィッドは、自身がゲイでありながら男性のリードダンサーとしてステージに上がることについて過去にインタビュー(1)で語っている。バレエはステージに上がる際の見た目に関する伝統的な制約が多く、その姿は自分自身ではないとさえ感じることもあるという。しかし、ステージにいようがいまいが自分の人生であることに変わりはなく、制約の中でも常に自分を表現したいと考えているようだ。

このように、自分自身であり続けようとするデヴィッドや、それをMV中で表現しているメットには重なりがあるようにも感じる。HIPHOP×バレエのように一見ミスマッチな組み合わせでも、その背景には共通点のようなものが見つかった。このように、ルバはひとつのイメージの中で何かを「並置」する。そして、それについて私たちがどう捉えるべきなのか考え、議論することを促しているのだ。彼女は改革のタイミングにおいて、ブランド側からの一方通行ではなく、イメージを通した消費者とのコミュニケーションが重要だと考えてきたのだろう。


買収、そして彼女の就任以降のTiffanyでは、JAY-Zとビヨンセのキャンペーン起用、supremeとのコラボ、最新の情報ではNike とのコラボが発表されるなど、これまで見なかったような大胆な動きが立て続けに行われている。このNikeとのコラボについても、すでにネット上では賛否両論が巻き起こっている。PRの段階でこれほど話題に上がっている時点でLVMH的にはコラボ大成功だろう。そして、そのイメージを通して伝わるブランドの未来への姿勢とメッセージを受け、私たちがこれほど議論をしている時点でルバの思惑通りなのかもしれない。



 彼女は、これまでイメージを通して私たちに様々なことを投げかけてきた。しかし、それは私たちのイメージを見る力があってこそ成立する方法なのだ。この作品は私たちが並置されたイメージを見て、考え、そこから新たな物語を紡ぐよう促す。彼女のインスタグラムでも5年以上に渡って一貫して行われてきた方法だ。そして、作品中のイメージは彼女自身の思考プロセスそのものでもある。この作品をじっくりと読み解けば、世の中にあふれるイメージについてもこれまでとは違った見方ができるようになるかもしれない。

作品中には、絵画やスニーカー、彼女自身が撮影したと思われる写真など様々なイメージが混在する。好きなイメージの寄せ集めという点では何となくピンタレストを彷彿とさせる。しかし、ポイントはイメージそのものではなく、見開きページに「並置」された2つのイメージを比較しながら見るところにある。その2つのイメージは全く関係がないようにも見えるが、どことなく配色が似ているなど思わず比較したくなる巧妙な配置がされている。これは、先述したレブロンのキャンペーン動画にも同様の印象を受けた。

ひとつ作品中から例を挙げてみる。
ジョーダン4のスニーカーとサイドボディにMPowerと記された自動車のイメージが並置されている。どちらのイメージもホワイトとブラックで構成されていてソリッドな印象を受ける。そこからもう一歩踏み込んで考えてみたい。


ジョーダン4はメッシュ素材やTPUを用い、機能性とビジュアル双方においてハイテク化が進んだモデルだ。前モデルの3は、数々の名作を生み出したティンカー・ハットフィールド氏が初めてデザインしたもので、革新的ではあったが販売自体は振るわなかったようだ。しかし、4は上記のような振り切ったハイテク化により、売り上げが爆発的に伸びたという。ジョーダンシリーズが今日まで愛されているのはこのモデルの存在も大きいのかもしれない。

M PowerというのはBMWの最高峰のエンジンのこと。そもそもBMWにはMモデルという「走り」に特化した、一般のBMW車とは異なる専用の設計がされたシリーズがある。モータースポーツで培った技術を駆使して作られており高性能が売りだ。技術といえばBMWともいわれるが、まさにそれを体現するブランドの中でも特別なシリーズといえる。

このようにジョーダン4とM powerは、それぞれブランドの中で重要な位置づけであり、そのシリーズの中においても特に機能性に特化したものである。そして、双方の機能性というメリットを最大限に美しく強調して見せるために、ルバはあえてホワイト&ブラックのイメージを選択したのではないかと考えられる。

  以上のような共通点を見つけて欲しいとルバが意図していたのかは分からない。もしかしたら見当違いのことを言っているかもしれない。しかし、このように並置されたイメージから自分なりの考えを導き出そうと悩んだこと自体に価値がある。これを繰り返すことがイメージを見る力を養うということだと感じた。そして、その過程を楽しむことこそが本作品における1番の魅力なのではないか。

ここまで力をつけるための本などと書いてきたが、もちろん単純に美しいイメージ集として楽しむこともできる。気軽に写真集やインスタをチェックしてみて欲しい。

参考

Ruba Abu-Nimah
Instagram : @ruba

https://silver-mag.jp/fashion/daily-necessities/

David Hallberg
(1)
https://intothegloss.com/2018/11/david-hallberg-revlon/

BMW
https://www.bmw.co.jp/ja/topics/brand-and-technology/bmw_brand/mmodels/mpower.html

https://www.totobmw.com/column/column50/#BMW_M

Jordan
https://www.atmos-tokyo.com/lp/air-jordan-4-retro-history

執筆者
Jumpei Sakairi
早稲田大学法学部卒
フリーライター
写真、ファッションについて。
編集の仕事がしたいです。
Contact: nomosjp@gmail.com


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