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#18 Sergei Pavlov インタビュー

Sergei Pavlov

interview & text Sayaka Ide

それぞれの人生は違うかもしれないけど、同じような感情の人に出会うとその繋がりはとても強くなる気がするんだ。

——セルゲイくんが撮った写真を見て、とても素敵だと思いました。セルゲイくんがそこにいないように感じたんです。もっとセルゲイくんのことを知りたいなと。このインタビューでどんな人か知れたらいいなと思っています。ざっくばらんにお話しできたらいいな。

それはよかった。いいね。

——出身はどこ?

お母さんはソビエト連邦出身で、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国からロシアに移住したんだ。僕はロシアで生まれて、その後お母さんが再婚してフィンランドに移ったよ。だから自分ではフィンランド人だと思ってるけど、時々ロシアとのハーフって言うかな。育ったのはフィンランドのとっても小さな村。300人くらいしか住んでいないところなんだ。

——写真に触れるようになったのはいつ?きっかけとかある?

多分、13か14歳の時だと思う。初めは些細なものとかすごくきれいなものを撮ってた。例えば花とかね。ただ美しいものから始めたんだ。僕は単純なものが好きだから。そこから1年か2年くらい写真を撮り続けて、16歳の時に写真の学校に行き始めたよ。21歳までひたすら撮り続けたと思う。それで21歳の時にもう少し真剣になって、でも自分のスタイルを見つけるまでの5〜7年間はずっと写真を撮ってたから楽しかったね。その後アシスタントとして長く働いて、ヘルシンキで5、6年たくさんのことを学んだんだ。自分にとって大きな転機になったのは、Marina Abramovićの「The Artist Is Present」というドキュメンタリーを見た時。20歳の時だったかな。人間がめっちゃ面白いと思ったんだ。そこから今までポートレートを撮り続けてきたよ。

——初めは花やものを撮ってたけど、そのドキュメンタリーに出会ってから人間に興味を持つようになったんだね。

そうだね、特に顔かな。

Sergei Pavlov

——人間の何に惹かれるの?

まず、Abramovićは人間の存在に関心があると感じたんだ。そこから僕は意識というものに興味を持つようになったよ。意識といっても、空っぽのものというか。精神とか心みたいな。それからはもっと主観的な感情に惹かれていった。そして今はいわゆる、より自伝的な作品に興味があるよ。僕の写真を見ると、最近の写真ともっと前に撮ったものがすごく似ているように感じるかもしれないけど、僕にとっては常に変化し続けているんだよね。あと、このZINEを作ってからもう少しディコンストラクション(脱構築)に心惹かれるようになったんだ。

——ディコンストラクション?

そう。それは僕自身のフォームを通して見せることができる。このZINEを見たら分かると思うけど、つまりクローズアップの写真だね。背中のクローズアップもあれば、顔のクローズアップもある。今はもっと極端に近づいて撮ることに興味があるよ。

——だから今回のZINEでは被写体に寄った写真がたくさんあるんだね。

数は少ないけど、作品を作るときはいつもシリーズを作る感じだね。何かに興味を持って、作品を作る。本当にいいと思うものを見つけたら、それを使って次の作品を作るんだ。ジュースみたいにね。小さくして小さくして、もっと小さくして⋯⋯。

——フルーツジュースのジュース?

そう!煮詰めていく感じというか、つまり濃縮するってこと。うん、そういうことだと思う。でもそうしていると時々とても疲れて、どこかに行きたくなるんだ。今回はバックパックとカメラを持って日本に来たけど、泊まるところもなくてカプセルホテルを予約したよ。それから通りで人の写真を撮ったり、バーではしゃいだりして。そういうコントラストを大事にしてるかもね。

——日本に興味を持ったのはいつ?

僕はもともと日本に興味なんてなかったんだ。ここに来たのは仏教に関心があったから。仏教に出会ってから日本に行きたいと思って、それで来てみたらすごく惹かれるものがあった。日本の生活はフィンランドの生活とどこか近いように感じたよ。生活と精神が。他にも恥ずかしがり屋で静かなところも似ているし、それから礼儀正しい。あとは少し人と距離をとるところもね。そして家にいるような心地よさを感じた。すごく面白いなと思ったよ。日本に来てほかに印象的だったのは、豊洲で見た大きなビル。それまでそんなに大きなものを見たことがなかったから、本当に衝撃を受けたんだ。フィンランドはパンケーキみたいに平らな国だからね。でも同時に心が開けたような気もして、狭い空間をとてもいいように感じることもできた。日本では自分の存在を消すことができるし、その理想を気に入っているよ。

——存在を消せる?

写真を撮っているとたまに自分がカメラのように思えることがあるんだ。でもちょっとだけ鏡みたいな。よく分からないけど、透明で隔たりがないように感じるんだ。写真を撮るときは時々とても緊張する。人との距離が近いからね。それから不思議で、怖くて、苦しい。写真を撮ることは時々奇妙で、恐ろしくて、苦痛に感じることもあるんだ。

——どうしてそう感じるの?

誰かのポートレートを撮ることは簡単なことではないと感じてる。撮影している瞬間や撮影したイメージを見た時に、撮影した人物や、その人物に関わる自分の意外な一面が見えてくることがあるんだ。これは時に痛みを伴うんだよ。僕たちはとても長い間お互い顔を見合わせる時に、自分自身や他人がどのように見えるのかいつも分かっているわけではないから。

——どうして人間を撮るのかもっと詳しく教えてくれる?

僕の答えはずっと変わり続けると思うけど、受け入れるべき何かがある気がするんだ。受け入れるべき何かというのは承認みたいなもの。承認と愛が関係していると思う。誰かと親しくなるためには、承認される必要があるはず。これは誰もが必要としていることだと思うんだけど、僕の場合は理由がいくつかあって、とても強いと思うんだ⋯⋯なんて言えばいいんだろう。それから、自分が何を感じているのか発見するために整理しようとしている気がする。多分発見とまではいかないかもしれないけれど、意味を見出そうとするんだ。普遍的なことではなくて、僕は生きるとは何かを写真を通して理解しようと努めていると思うんだ。靴紐を“ひらく”ことを日本語でどう言う?

——ほどく?

ほどくじゃないか。なんて言うんだろう⋯⋯。村上春樹の『ノルウェイの森』だったかな?ちゃんと覚えていないけど、本の中で何か特別なことが起こっているわけではなくて。本を通してそういったことを理解するのは、僕がさっき言った、写真を通して生きるとは何かを理解することに似ていると思うんだ。

——私はアートブックのお店で働いていて本や写真が好きなんだけど、それは目の前のものが何かを完全には理解できないから。何かを感じたり考える余白がそこにはあると思っていて。セルゲイくんのZINEもそんな雰囲気が漂っていたし、特に最初の詩のページにそれを強く感じた。金子みすゞの詩の一部分だけを引用していたけど、どうしてその詩を選んだの?

展示を作った時、キュレーターの人が見つけてきてくれたんだ。どうして彼女がその詩を選んだのかはわからないけど。その詩はとても⋯⋯どう言えばいいんだろう。また主観についての話になるけど、すごく興味深いなと感じるのは、主観的になればなるほど、時に普遍的になるということ。失恋した時、愛する人が死んでしまった時、怒った時、感情のベースはとても似ているよね。それぞれの人生は違うかもしれないけど、同じような感情の人に出会うとその繋がりはとても強くなる気がするんだ。少なくとも僕にとってはいつも興味深いことなんだけど、同じ悩みを抱えている人と繋がることは簡単だと感じることがある。おそらく感情というものは僕たちをとても開放してくれるものだと思うし、それは主観に反するようなものだと思う。自分がechoを作っていると分かっているからこそ、その時自分の声が反響してechoが生まれるんだ。主観が普遍的なものに変わる瞬間みたいにね。echoは日本語で何だっけ?忘れちゃった。

——こだま。この詩についての記事を読んだんだけど、2011年の東日本大震災の時にCMでこの詩が使われていたらしくて。セルゲイくんが引用した前のパートの言葉はわかる?

見たけど、忘れてる。

——その記事で言ってたのは、いいことでも悪いことでも、相手と同じ目線に立つことで寄り添うことができて、そこには優しい愛情が生まれるということ。さっきセルゲイくんが言ってた、主観は普遍的なものになるという話になんだか近い気がした。

どう言えばいいのかわからないけど、僕は写真を撮ってる!それが僕が今していること。僕にとって最高の写真は謙虚さから生まれると思っているんだ。だけど社会で生きていくには何事も「わかった」つもりでいないといけなくて、謙虚でいることはとても難しいと感じるな。だから「知らない」というようなスペースはほとんどない気がするんだ。

——人の温かさや優しさ、思いやりを感じたエピソードはある?

うん、もちろんあるよ。感情に関して言うと、ある日は泣いて喜んだり、次の日は怒ったり。僕の感情はめっちゃ強いんだ。時々トゥーマッチだしね。

——突然湧き出てくるの?

たまにね。僕はすごくドラマチックな人間なんだ。ドラマチックで感傷的で、それに傲慢。

——そんな風には見えないね。

僕の頭の中にあるからね。自分自身をよく知っているから、鏡を見てもそんなに優しそうだと思わないし。写真を撮るときは自分が鏡になって、自分自身のことは見えない。でもめっちゃピース。とっても平和なんだ。だから僕は写真を撮るのが好き。自分が存在しているという感覚を抱きながらも、自分の周りにいるのは他人だけで、でも彼らのことは何もわからない。

——私はセルゲイくんがそこにいないように感じたけど、セルゲイくんは写真を撮っている時、自分の存在をちゃんと認識しているんだね。
——以前の展示の写真はとても大きかったよね。私はその場に行っていないけど、展示方法が素晴らしいなと思った。どうして大きい写真を展示しようと思ったの?

人が人の間に入って、写真が互いを見ている状態にしたかったんだ。というのも、写真の中にはとても強い繋がりのあるものがいくつかあって、イメージとイメージの関係性を強調したくて。もっと言えば、何か新しいことをやってみたいという気持ちがあるからかな。僕はいつも今までにないことをやりたいと思っているよ。今回巨大な写真にしたから、次の展覧会ではすごく小さな写真を展示するかもしれない。

——いつ帰国するかは決めてるの?

ううん。僕のプランは変わったしね。小林さんは知ってるけど、flotsam booksに初めて来た時、札幌と福岡まで歩いて行こうと思ってた。今は新しい家を見つけたから、それは目標になったかな。僕の精神と色は毎日違うよ。

——毎日新しい自分?

たぶん、ちょっとずつね。

Sergei Pavlov

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interview & text 
井手沙耶果
1999年生まれ 関西学院大学国際学部卒
編集アシスタント
人に興味があります
インタビューするのが好きです
アートを勉強していきたいです
雑誌をつくるのが夢です
contact:sayakaide0@gmail.com
IG:___s.y.c.___
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