「御手の中で」〜とある老司祭の生涯‥3
〈今日で3回目の連載小説です。2011年3月の終わり、あの大震災の少し後に、西日本のとある市で一人“孤独死”を遂げていた実在した老司祭の生きた証を基にイメージしたフィクションです。司祭自身の回顧部分とフィクションを交互に織り成していく構成ですが、3回目からはフィクション部分が多くなることをお断りしています。なお1回目は無料で全部読めますのでよければ読んでみられてください→後からよく読むと重複していたところもあり、随時推敲して書き直しています;; ではきょうはここからが本編です〉
Ⅱ章 聖母の導き
++司祭の回想2 母の祈り
いつから司祭になると決めたのだろう。父はペンキ塗り職人だった。赤煉瓦の小さな家に居るときはいつもパイプをくわえ、暖炉の傍で、家中で最も時代がかった椅子に腰掛け、新聞を大きく広げて読んでいた。私の中でいちばん古い、父の姿だ。八つ年上の兄を筆頭に二人の姉、二人の弟に三人の妹の九人きょうだい。暖炉の上には幼子を抱いた石膏のマリア像がすっくと立って、一人一人に温かく、慈愛に満ちたまなざしを向けていた。
《めでたし聖寵満ちみてるマリア。主は御身と共におられます。御身は女のうちにて祝せられ、御胎内の御子イエズスも祝せられたもう。天主の御母聖マリア、罪人なるわれらのために今も臨終の時も祈りたまえ》
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