
ドラゴンクエストIII HD-2D感想
前提
ストーリーのネタバレあり
ゾーマを倒してスタッフロールを見たところまでプレイ

DQ3の魅力
DQ3の最大の魅力は、想像の余地が大きいことだと思っている。自由に選べる仲間たち、自由に進められるフィールド。仲間たちはどうして冒険者になったのか、どんな会話をし、どんな風に戦ったのか。想像することでその冒険はプレイヤーひとり一人違ったもの、オリジナルのものとなる。 今の技術を使えばリアルにしようと思えば出来る中、リアルにしすぎると想像の余地が減ってしまう。そのバランス調整は難しい舵取りだったと思うけれども、個人的にはいい感じだった。
よかったところ
美しい世界とその見せ方
世界の広さを感じさせる美しいフィールドや街。デフォルメされたキャラクターに合わせたサイズ感。見たそのままではなく、実際は広大で鬱蒼とした森なのだろう、とか、高い崖なのだろうなどと想像することが出来てよかった。
絵の綺麗さだけでなく、その見せ方も良かった。 例えば山など高いところに登れば少しだけ遠くが見えるようになるようになっていて、主人公たちもここから遠くを眺め、行くべき先を決めたのではないか、などと想像した。「高いところに登ればちょっと遠くまで見える」というささやかな工夫だけれども、こうした小さな工夫が想像を促していた。
フィールドを移動するとき、もっと遠くを見たい、と思うこともあったけれど、主人公たちからは見えない。のでプレイヤーにも見えないようになっている。遠くまで見えすぎると世界を狭く感じてしまう。かといって見える範囲が狭すぎるとゲームとして移動しづらくなる。遠くまで見えた方が移動しやすいけれど主人公たちが実際に見える範囲、予測できる範囲までしか見せない、というバランス。
そしてだからこそ、ラーミアに乗った時の感動が増す。遠くまで、水平線、地平線まで見え、高さと、自由と、大空を感じることができる。ラーミアに乗ったときの移動は遅いように見えるけれども、それも高さがあるから、と思える。実際飛行機に乗ったとき、窓から見える大地はゆっくりと流れていくけれども速度はとても速い。今回のラーミアは、あの感じが出ていてよかった。
美しく描かれた世界と、高さや見える範囲の微調整など、想像させる工夫。DQ3らしさが出ていてとても良かった。

音楽・効果音
改めて、音楽がすばらしかった。特にフィールドの音楽(『冒険の旅』)とラーミアに乗ったときの曲(『おおぞらをとぶ』)は、今回初めて聞いたとき鳥肌が立ち、涙が出るほどだった。ずっと聞いていたくて立ち止まることも多かった。
フィールドの音楽は、前奏から入るところも良かった。どこまで続いているのかわからない広大な草原、吹きすさぶ風、人のいない寂しさ、安全な地から一歩を踏み出すときの不安、という前奏から、それでも行かなければという使命感と、勇気の表れた主題へ。 主人公たちの世界には、風や水など自然物の音、自分たちの話し声や足音、モンスターや動物たちの立てる音などしかなく、BGMはない。だからこれらの音楽は主人公たちの気持ちを表している。洞窟では不安を、モンスターとの戦いは高揚を。ゾーマ戦以外では同じ戦闘曲なのだけど全く飽きることなく聞いていた。本当にすばらしい音楽。コンサートに行きたくなった。
また、今回から追加された街やフィールドの効果音もよかった。水辺のそばでは水の流れる音、木々のざわめきや毒の沼地のボコボコした音。さりげない効果音は、想像をかき立て、世界の手触りを感じさせていた。
モンスターの声もよかった。特にダメージを受けたときの声や音。岩系なら岩っぽい音がして、質感を感じる。 本当はもっとしっかり聞いて欲しいだろうに少しずつ静かに聞こえる効果音。ここでもまた、バランス調整が大変。
声の追加
戦闘中に呪文や気合いの声、ダメージを食らった悲鳴が追加されていた。たまにモンスターバトルロードを遊ぶと声がなく、なんとなく寂しく思うようになっていた。
声が付くことで勇者や仲間の実在感が高まって良かった。性格の違いとかね。
物語に厚みを加える要素
拾えるキラキラは他の冒険者のもの
あちこちにあるキラキラから拾えるアイテムは、その地で力尽きた冒険者の物、という設定が加えられたのも物語に厚みを加えていた。このアイテムたちは魔法使いだったに違いない、これは旅する途中で商人の船が沈んだのか、のように、拾えたものからひとり一人の冒険者に思いを馳せる。
実用的な装備もあったけれど、この終盤でこのアイテムは要らないな、という配置もあって、これは明らかに他の冒険者を意識させるための配置なんだ、と感心した。そこで果てた冒険者たちを偲んだし、ここで亡くなったのはこういう冒険者、という設定を一つひとつ考えて配置した制作者の丁寧さも感じられてよかった。

オルテガの足跡
今回、オルテガの足跡が追加されたのも良かった。キラキラもそうだけど、主人公たちが唯一無二の勇者ではなく、多くの冒険者から思いを受け継いで今の主人公がいる。という流れの先に、今回の勇者の冒険もきっと後代に受け継がれる、そしてそれはDQ1・2に、という予感がある。
オルテガの気持ちを知ることで主人公の悲しみを想像するし、ふたりとも帰ってこなかったお母さんの気持ちも想像して悲しくなる。悲しいけれど、物語の奥深さは増している。
オルテガとキングヒドラの戦いを、対岸から眺めている演出も良かった。これまでだと戦闘を見ているだけだったので、「加勢しなよ!」と思っていたけれど今回は、対岸で戦っているのが見え、加勢するために急ぐけれども多数の敵に囲まれて阻まれる、という流れとなっていた。キングヒドラがワープして逃げていたのも、オルテガを倒した後どこへ行ったのか、の説明が付く。

このほか魔物がつぶやくからバラモスの名前を知ったこととか、エンディングのスタッフロール中、DQ1に繋がる場面を描いていることとか、物語に奥深さを加える、しかしやりすぎていない感じが良かった。
残念だったところ
簡単になっている
苦労してお金を貯めて、やっと買ったはがねのつるぎを装備したときの「強くなった!」という実感。MPのやりくりを考えて進むダンジョン。ああもう駄目だ倒せない、全滅する! というときギリギリで倒せたあの喜び。こうした戦闘バランスを感じられなかったのは残念。これは職業や特技の追加、潤沢なゴールド、拾える装備、MP回復アイテムの追加などにより、簡単になったことによるもの。
差し引いて考える部分
しかしこれには差し引いて考えたほうがよい部分もあるように思う。それはプレイヤー側の、プレイスタイルの変化。
ゲーム全体のボリュームアップ
最近のゲームはボリュームが増え、100時間を超えるようなゲームも増えている。クリア後の裏ボスは当たり前のようにあるし、やりこみ要素もたくさんある。コンプリート欲の刺激
パソコン版(Steam版)やPS系列にはプレイ実績に伴うトロフィーが用意されていて、隅から隅まで味わい尽くすプレイスタイルを後押ししている。攻略サイトの充実
丁寧に解説する攻略サイトが充実し、少し調べるだけで普通にプレイしただけではわからないような細かい情報まで知ることが出来る。大人になったプレイヤー
ゲームは1日1時間まで、という鎖を解かれ、いくらでも自由にゲームできる大人になった。
これらの要素により、長時間、隅々まで遊ぶことになり、レベルも上がりやすく、結果として敵が弱く、簡単に感じられるようになった部分があるのかもしれない、と思う。
例えば以前プレイしたとき、レベル20は遠かった。気軽に転職できないし、だからせいぜい転職は一回、魔法使いが賢者になるくらいだった。けれども今作は長時間プレイのせいなのか簡単にレベルが上がるから簡単に転職し、強くなりやすいと感じた。
もし、子供のころと同じようにプレイしていたら、果たしてバランスはどう感じられたのだろう?
古典としてのDQ
こんなに何度もリメイクされるゲームは多くない。これは文学作品の古典に似ている、と思う。
古典とされている文学作品は、時々新装版が出る。文字が大きくなり、装丁が変わり、解説が増えたり紙質が良くなったりする。外国作品や古文の作品は新しく訳され直すことも多い。
書かれた時代から長い年月が過ぎ、当時の感覚や文化が変化し、今読むと古く感じる部分も多い。けれども変わらない魅力があるから何度も新装版・新訳版が出版されている。
DQの1~3あたりはこうした古典になりかけているのではないか。文学作品が読みやすい大きな文字になるように、今の言葉遣いで現代語訳されるのと同じように、DQもまた、見た目を美しく、遊びやすいシステムに改め、今の感覚に合わせた表現に作り直されている。時代が変わっても変わらない魅力を伝えるために。
ではDQ3の魅力は何か? と考えたとき出てきた答えが冒頭や前回の記事で書いた、想像の余地の大きい自由な冒険、だった。今回簡単になっていることに不満を言うのは「旧訳の方が格調高くてよい、今の現代語訳は軽すぎて情緒がない」と言っているようなもので、やっぱり新訳の方が読みやすいし、旧訳だと読まないけど新訳なら読むという人がいる。
制作者が、変わらないDQ3の魅力を伝えることを優先し、戦闘バランスや遊びやすさは一新する、という考えならそれを大いに尊重する。って書くと偉そうだけど何が言いたいかというと、戦闘は簡単になったけれどもやっぱりDQ3はおもしろいなぁ、と思ったのでした。
改善を望む点
だから戦闘が簡単になったことそのものに対して、これはこれで、と思うけれど、それ以外にこうだったらいいのにな、と思ったところ。
天候の変化が欲しい
寒い地域では雪が降るくらいで後は大きな天候の変化はなかった。朝~夜の変化以外に雨になったり風が強く吹いたりする変化があればより主人公たちの冒険の困難さや年月が想像がしやすくなるな、と思った。
旧作バランスモードを追加して欲しい
現代語訳された物語でも、古文が併記されていることがある。同じように、見た目などはHD-2Dのまま、戦闘のバランスや職業、数値などをファミコン版と同じにしたモードがあったら比較できておもしろいと思う。 特技無し、追加職無し、キラキラ無し、種の拾いやすさもレベルアップ時のHP・MP回復無しの「いにしえの冒険」モードがあったら――多分新しい方がいいなって思う人が多そうだけど、そうそう昔はこんなだったな、と楽しむ人も結構いそう。
あと、Wii版1・2・3は、ファミコン版とスーパーファミコン版の両方が遊べるようになっていた。今回も、ファミコン版・スーパーファミコン版が同梱されていて欲しかった! これさえあればDQ3はバッチリ、と思えるように。
あぶない水着
ドット絵くらい、あぶない水着はそのままでよかったのでは!?
終わりに
DQ1・2も楽しみ!
おしまい
↓ これは前回書いた、DQ3の魅力について。