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The Bug『Absent Riddim』

2021年を象徴するアルバムの一つであったThe Bug『FIRE』の発売から早くも一年が経過。その後リリースされたSleaford ModsのJason Williamsonをフィーチャーしたシングル『Treetop』や、G36名義でのJK Fleshとのスプリット『Disintegration Dubs』でも衝撃的なサウンドを我々に叩きつけてくれた。

そして、先日のBandcamp Fridayに合わせてThe Bugが初となるワンウェイ・アルバム『Absent Riddim』を発表。一つのリディム(トラック)に16人のボーカル/MCが参加しており、ダンスホール・レゲエのワンウェイ・アルバムへの深い愛情が込められている。The Bugのオルタナティブな姿勢と視点が反映された挑戦的なアルバムだ。

Nazamba、Logan、Roger Robinson、Moor Motherといった『FIRE』にも参加しているお馴染みの面々からMark Stewart、Nicholas Bullenなどのレジェンド、Nosaj、Dälek、Dis Fig、Ethan Lee McCarthy、Justin K Broadrickとジャンルを超えた超豪華な面子が参加している。

このアルバムで使われている「Absent Riddim」は、Scott Kelly(NEUROSIS)とMathieu Vandekerckhove(Amenra)、Igor Cavalera(Sepultura)によるスラッジ・メタル・バンドAbsent In Bodyの為に作られた未発表のリミックスが母体となっている為、いつものThe Bugのリディムよりもポスト・メタル的なフィーリングが漂っている。

沼にゆっくりと沈められていくようなベースの空気圧、ハンマーで強打されるようなビート、抽象的なアンビエント/ドローンの音色が重なった「Absent Riddim」からは、The Bugが新たなフェーズに突入していったのを感じさせる。「Absent Riddim」の背景にスラッジ・メタルが関係しているのもあり、Nicholas Bullen(ex Scorn/Napalm Death)やEthan Lee McCarthy (Primitive Man)というグラインドコア勢の参加も頷ける。

さらに、Justin K Broadrick(JK Flesh)がThe Bugの曲でアグレッシブなボーカルを披露するのは2016年のThe Bug vs Earth『Concrete Desert』以来となり、ここも一部の好き者達には嬉しい要素だ。そういえば、かなり昔になるがThe BugのリディムにJustin K BroadrickがGodfleshスタイルのボーカルを乗せるというのを本人のTwitterで見たが、あれはどうなったのだろうか?是非ともこの方向性を二人には追求して貰いたい。(「Swarm Riddm」は来日公演で配布された『Demolition Dub』に収録されている。)

ダンスホール・レゲエでは一つのリディムで複数のディージェイ/シンガーが合わさるのは普通であるが、他のジャンルではこういったことは中々起きない。ダンスホール・レゲエがルーツの一つとしてあるグライムにはリディム・カルチャーが強く残っており、ヒップホップではミックステープという形式の中でヒットした曲のトラックを使うという手法はある。

リディムのワンウェイ・アルバムの最大の魅力は、参加しているアーティスト達の個性とスキルが分りやすく表れているのと、エンジニア/プロデューサーによるリディムの再構築/編集力があると思う。ダンスホール・レゲエだけではなく、他のジャンルでもワンウェイ・スタイルが行われれば、相当興味深い作品が生まれるのではないだろうかと考えていたが、遂に『Absent Riddim』がそれを証明してくれた。

それぞれのアーティストに合うようにリディムを作り変えているが、そこにはThe Bugのダブとジャズのバックグラウンドが活かされたエンジニア/編曲家としての力量も表れている。『Absent Riddim』は、ダブ的な手法が随所に表れており、今作をダブ・アルバムとして解釈することも可能なのではないかと思う。

ポスト・メタル界隈との繋がりを深めているThe Bugであるが、主軸となっているダンスホール・レゲエ/ダブの要素も年々強くなっているのが今作で感じられた。
今後どのような展開へと進んでいき、どういった表現方法に辿り着くのか、ファンとして楽しみでならない。

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