Gypsycore(ジプシーコア)
先日のPRSPCT radioでのMurder Channel Showにて、ノルウェーのArs DadaとベルギーのAudiotistのミックスを放送した。Ars Dadaは新作からの曲を中心としたベースメタル/メタリック・ブレイクコアなセットでBong-RaやDJ Skull Vomitに並ぶ強烈なサウンドを披露してくれた。Audiotistにはこちらのリクエストを引き受けて貰い、ジプシーコアを中心としたセットを提供して頂いた。
両者共に素晴らしいセットなので、PRSPCT radioのアプリでアーカイブが公開されたら是非チェックして欲しい。
Murder Channel Showに提供してくれたAudiotistのミックスを聴けば、底抜けにアッパーで楽し気なジプシーコアに魅了されるはずだ。アーカイブが公開される前にジプシーコアについて、過去に行ったインタビューからの引用を交えて纏めてみよう。
代表的なアーティスト/レーベル
まず、ジプシーコアはブレイクコア、ジャングル、ハードコアのトラックにチョチェク、タラバ、チフテテリ、ポップフォーク、ポルカフォークといったロマ音楽をミックスしたスタイルとされる。
通常のブレイクコアよりもダンスミュージックとしての機能性が強く、アヴァンギャルドな側面が少なく聴きやすい曲調なので、ブレイクコアが苦手だとしてもジプシーコアは好きという人もいるかもしれない。
ジプシーコアという単語が使われ始めたのは2010年代からで、Ringe Raja Recordsが代表的なレーベルの一つであり、同レーベルを運営しているFexomatはジプシーコアをサブジャンルとして確立させたアーティストの一人である。
Ringe Raja Recordsのカタログは全て無料公開されており、現在もダウンロードが可能となっている。Ringe Raja Recordsにアクセスすればジプシーコアについて大体は知れるだろう。
Ringe Raja RecordsからリリースされたWan Bushi、E-Coli、Batard Troniqueのジプシーコアがヨーロッパのブレイクコアやジャングルテック周辺で人気を集め、AudiotistやKatch Pyroといったアーティストが合流し、ジプシーコアのシーン/コミュニティが出来上がる。Erisian、Jigsore Record、Otherman Recordsなどのレーベルもジプシーコアの作品を展開していき、イギリスのBalter Festivalでジプシーコアがフィーチャーされ、イギリス/ベルギー/ドイツを中心に広がっていった。
2010年代中頃になるとジプシーコアの表現方法が広がる。
AudiotistとWan Bushiはジプシーコア・ユニットCircus Brekovicとしての活動をスタートさせ、2016年にErisianからEPを発表。E-ColiはEd CoxとのコラボレーションEP『La Alchemista』を2017年にUndergroundteknoからリリースし、楽器演奏を全面に押し出したライブパフォーマンスも人気を集める。
Circus BrekovicとE-Coli & Ed Coxの作品はジプシーコアというスタイルをアップデートさせたが、この頃からハードテックとの繋がりが強くなり、ジプシーコアは徐々に本来の姿から形を変えていった。
ルーツ
ジプシーコアのルーツには明確な記録がないので、ここでは自分が見てきた時代の流れを大まかに記録する。
ジプシーコアの大本のルーツとされるFreddy FrogsはTekno/Tribeのトラックにトラディショナルなサンプルやオールディーズなサンプルを組み合わせたジプシーコア/バルカンテックの起源となるようなレコードを2000年中頃に残している。Freddy FrogsのレーベルFrogsからはLife4LandのEd CoxとStivsが参加しており、ブレイクコア・シーンとの関わりもあった。
日本のMilch Of Sourceもジプシーコアと言える曲を2000年代に残しており、アルバム『In Beach, Side Ill-Spot』は多国籍なサウンドの中にブレイクコアの要素も入っている。
その他にも、Doormouseの『I♥』シリーズでポルカをテーマにした『I ♥ Polka』や、Snares Man!(Venetian Snares)の「Clearance Bin」など、ジプシーコアに繋がるトラディショナルな素材を使ったブレイクコアは2000年代に幾つか存在している。
だが、ジプシーコアの誕生に最も影響を与えたのがイギリスのEd Coxによるクラウンコアだろう。
ブレイクコアやハードコアのトラックの上でアコーディオンを演奏するEd Coxのクラウンコア・スタイルはジプシーコアそのものであり、2007年に発表された1stアルバム『Clowncore』はジプシーコア並びに、バルカンテックの誕生にも深く関わっていると思われる。2014年に発表された2ndアルバム『Without The Hyena The Lion Cannot Be King Of The Jungle』では、プロダクションのレベルが格段と上がり作曲家としての深みも表れ、自身のクラウンコア・スタイルを大きく進化させた。
Ed Coxはイギリスのアンダーグラウンド・レーベル/コレクティブLife4Landの一員として活動し、StivsとのユニットThe DSCとしてはラガ・ジャングルをメインに制作。個人的にも付き合いがあり、2016年に発表したドロヘドロのオフィシャル・サウンドトラックに参加して貰い、去年はMurder Channel Showにミックスを提供して貰った。
バルカンテックの到来
2010年代中頃になるとジプシーコアとハードテックが融合していき、バルカンテックというサブジャンルが誕生。元々、アンダーグラウンドのRaveやフリーパーティー・シーンでジプシーコアは支持され、ジャングルテック勢とも活動を共にしていたのでハードテックとの融合は必然であった。
E-ColiはDr. PeacockとRaggatek Live Bandにリミックスを提供し、Tanukichiとのコラボレーション作を発表。E-Coliはバルカンテック・スタイルに変化していき、ハードテック・ファンからも人気を得た。
近年はジプシーコアよりバルカンテックの勢いが目立つが、2020年にリリースされたBatard Troniqueのアルバム『Turbo Gypsycore』とAudiotist & Wan Bushiのスプリット・レコード『Melos Ovilus』で伝統的なジプシーコアを披露している。
全盛期に比べるとジプシーコアのリリースは減っているが、今も一部で熱狂的な人気があり、多くの可能性を秘めている。Murder Channelとして今後もジプシーコアには出来る限り関与していきたいと思う。