Michael Wellsの偉大なる偉業の一部
Murder Channelから2011年に発表したDieTRAXとFFFのスプリットCD『Hiroshima vs Rotterdam』の10周年記念盤を今月リリースします。
この10周年記念盤はCDはそのままに、ジャケットをMountain Graphicsさんに描き下ろして貰い、とある問題が起きて泣く泣くお蔵入りとなった『広島死闘篇~Hiroshima Deathmatch~』を付け足した2枚組仕様で復活させました。
さらに、DieTRAXとFFFのコラボレーション曲をTechnohead、CycheoutsG、FFFがリミックスした『広島死闘篇~Hiroshima Deathmatch~ Remix EP』のDLコードも封入された超豪華版。受注生産のみの限定セットも3月14日まで受け付けています。かなりレアなアイテムになると思うので、気になった方はチェックして頂けたら幸いです。
今回は『広島死闘篇~Hiroshima Deathmatch~ Remix EP』に参加してくれたTechnoheadことMichael Wellsについての記事。Michael Wellsはイギリス生まれの電子音楽家であり、80年代のインダストリアル・ミュージック・シーンから活躍し、サンプリングミュージックの可能性を大きく広げ、ハードコア・テクノにも多大な影響を与えた凄すぎる人物。彼のあまりにも大きな功績の一部を振り返ろう。
インダストリアル・ファンク、またはインダストリアル・ダンスのパイオニアとしてのGreater Than One
Michael Wellsは1985年に妻のLee Newmanと共にユニットGreater Than Oneを結成。同年、自主製作によるアルバム『Kill The Pedagogue』を発表し、キャリアをスタートさせる。その後、1987年にSPKのメンバーが主宰していたSide Effectsからアルバム『All The Masters Licked Me』を発表。
『Kill The Pedagogue』や『All The Masters Licked Me』は呪術的なインダストリアル・ミュージックを軸とした実験的な作風であったが、1988年に発表されたシングル『Now Is The Time』から、ハウスやヒップホップといったダンスミュージック的な要素が強まる。そして、1989年にアメリカのWax Trax! Recordsから発表されたアルバム『London』では世界中に存在するありとあらゆる音楽を素材にした芸術的なサンプリング・ミュージックを完成させた。
もし、これを読んでくれている方でサンプリングミュージックに少しでも関心があるのであれば、『London』は必聴である。技術が発展した現代でも、あそこまでのサンプリングミュージックを作れるアーティストは少ない。
『London』はサンプリングミュージックの歴史において、アルバム単位という意味ではDJ Shadowの『Endtroducing.....』と同等の重要性があるが、その価値に対する評価と認識は低く、もっと多くの人々にこのアルバムとGreater Than Oneの功績は知られるべきだろう。
Greater Than Oneはアメリカとヨーロッパで展開されていたハウスとヒップホップに、イギリスのレゲエやパンク/ニューウェーブの流れも持ち込み、Meat Beat ManifestやTackhead/On-U関連やRevolting Cocks/Ministryとも違ったインダストリアル・ファンク/ダンスを開拓。Greater Than Oneは彼等よりもハウスとヒップホップへの探求心が強い印象があり、その結果として、本人の意思とは別かもしれないが、インダストリアル・ミュージックのダンスミュージック化をお進める動きに大きく加担したと思われる。
サンプリングミュージックを更新し続ける日本のサイケアウツはGreater Than Oneからの影響も感じられる部分があり、実際に幾つかGreater Than Oneからサンプリングした曲もある。サイケアウツの大橋アキラ氏もインダストリアルやノイズの文脈からダンスミュージックに参入されているので、その部分でもGreater Than Oneとの共通点がある。
Raveシーンへの参入/ハードコア期
90年代に入るとテクノやハウス、トランスにフォーカスを当てた活動をスタートさせ、John + Julie、Tricky Disco、GTO名義で XL Recordings、Warp、 Go Bang! Recordsといったレーベルからシングルをリリースし、Maydayなどの大型パーティーにも出演。この時期に彼等が発表したシングルはRaveクラシックとして今も根強い人気があり、何度も再発されているので聴いたことがある人も多いはずだ。Tricky Discoとしてはブリープ・テクノのクラシックを、GTOとしてはテクノ/トランスのクラシックを生み出し、90年代のRaveシーンの記録を読み進めると彼等の名前は幾度も出てくる。
同時期にハードコア・テクノ/ガバにフォーカスを当てたChurch Of Extacy名義もスタート。The Killout Squadなどの名義も含め、数枚のハードコア・テクノのレコードを発表した後、1993年にTechnohead名義で『The Passion EP』を発表。収録曲の「The Passion」は元々Church Of Extacyとしてリリースしていた曲であり、ハードコア・テクノというジャンルを形成する全ての要素を持っているといっても過言ではない歴史的な曲である。
1994年からはオランダのハードコア・レーベルMokum Recordsを拠点にTechnoheadはシングルをリリースしていき、1995年にリリースした『I Wanna Be A Hippy』が大ヒット。コメディ映画好きにはお馴染みの俳優Cheech Marinが出演した映画『Rude Awakening』内でのDavid Peel「I Like Marijuana」を引用した「I Wanna Be a Hippy」は、1995年にMokum Recordsからリリースされた12"レコード『Mary Jane』のB面に最初は収録され、後にThe Speed Freak、Ilsa Gold、Carl Cox、Flamman & Abraxas、DJ Dano & No Sweatなどのリミックスを収録して再リリースされた。どちらかというと、原曲よりもミュージック・ビデオも作られたFlamman & Abraxasのリミックスの方が広く知られているだろう。
「I Wanna Be a Hippy」はオランダ、ドイツ、オーストリア、ベルギーのチャートで1位に輝き、Technoheadはイギリスの人気番組Top of the Popsに2度出演。ドイツでは25万枚、イギリスでは20万枚の売上を記録。当時、Mokum Recordsの日本盤を出していたRoadrunner Recordsから日本向けに編集されたCDも作られており、国内でもハードコア・テクノ/ガバに詳しくなくても、この曲は聴いた事がある人がいる程、広範囲に渡ってヒットした曲であった。
そんな中、1995年8月に残念な事にLee Newmanが癌により亡くなってしまう。その後はMichael WellsがTechnoheadを引き継ぎ、ハードコア・シーンに燦然と輝く名盤アルバム『Headsex』を完成させた。その後も『Banana-na-na - DumB DiddY DumB』と『Happy Birthday』というヒット・シングルも発表。この前後の作風によって、ハッピーハードコアの歴史にもTechnoheadは関わる事になる。
Technoheadと並行しながらMichael WellsはThe Man、Signs Of Chaosなどのプロジェクトでも作品を発表していった。2000年代にはいってからも不定期ではあったがTechnohead名義での作品を発表し、2005年には『The Number One Contender』というハードコア・クラシックも残している。ちなみに、The Outside Agencyによるリミックスも原曲と並ぶ素晴らしい内容だ。
2010年代に入るとMichael WellsはS.O.L.O.名義などでハードコア・テクノとは離れた活動をしていたが、2019年から急遽Technoheadとしての活動を再開させ、凄まじい勢いでハードコア・トラックを連発。GTO名義までも復活させ、勢力的に作品を作り続けてくれている。
この記事では触れていないが、Michael Wellsは90年代に多くの名義を使い、様々なスタイルの作品を発表しており、特に初期テクノ・シーンに対しての影響は大きい。さらに、Lee Newmanが制作していたハードコア・テクノのコンピレーション・シリーズの功績も計り知れない。ドイツのPCP、アメリカのISR、オランダのRotterdam Recordsなどの音源をバランスよくまとめ、ハードコア・テクノ/ガバの魅力をパッケージングして世界に届けていた。彼女が制作したコンピレーションの影響については、近々また触れる予定だ。
ここでピックアップしたものは全て氷山の一角であり、これ以上にもっともっと多くの素晴らしい作品をMichael Wellsは残している。現在は各種ストリーミング・サービスでMichael Wells関連の作品は楽しめるので、まずは気になったものから探してチェックして欲しい。
これだけ凄い功績と素晴らしい実力を持った超重鎮にリミックスを提供して貰えて本当に光栄だ。Technoheadが自分のレーベルに参加してくれるとは本当に夢にも思わなかった。。
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